戦国異伝
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第二百二十九話 隠されていたものその一
第二百二十九話 隠されていたもの
伊勢神宮、比叡山、高野山、都、伊賀、そして大和とだ。信長は人をやり調べさせていた。表向き追い出した者達も含めて。
それは一向宗、つまり本願寺も同じだ。本願寺においてだ。
顕如は寺の実務のかなりの部分を受け持っている本間家から話を聞いていた。その話は彼にとっては信じられないものだった。
「何っ、我等が開祖のか」
「はい、親鸞上人がです」
「まつろわぬ者達とその法力で戦われていたのです」
「浄土宗の法然上人、法華宗の日蓮上人等当世の高僧の方々ともお力を合わされ」
「そのうえで、です」
「そのお力を使われ」
「その者達を退けられていたとのことです」
こう話すのだった。
「そしてその者達は、です」
「まだその全てがはっきりしていませぬが」
「当寺の書物をかなり調べましたが」
「それでもです」
全てははっきりとしていないというのだ。
だがそれでもとだ、本間家の者達は話すのだった。
「わかっている限りはです」
「親鸞上人、当時の高僧の方々がです」
「そうした者達と争っていた」
「このことは間違いありませぬ」
「そうしたことがあったとはな」
顕如も驚きを隠せずに言う。
「相当に大きな争いであったのじゃな」
「左様です」
「天下の秩序を賭けるまでにです」
「それは大きな争いだったとのことです」
「そしてそれに何とか勝たれてです」
「天下はまつろわぬ者達のものにならずに済んだとのことです」
「左様か。まつろわぬ者達はというと」
その者達にはだ、顕如は瞑目してから言った。
「朝廷に追いやられていた鬼や土蜘蛛か」
「はい。そうした者達です」
「古事記や日本書紀にも出てきますな」
「あの異形の者達とです」
「親鸞上人は戦っておられました」
「そして退きはされたのですが」
「しかしか」
また言った顕如だった。
「封じることも滅ぼすこともな」
「出来なかったとのことです」
「それは、です」
「退けただけで」
「まつろわぬ者達は残っていた」
「そう書いてありました」
「では残っておるな」
顕如の声が険しいものになった、そのうえでの言葉だった。
「その者達は」
「はい、そしてです」
「後に加賀でも戦になったとのことです」
「我等本願寺と」
「ふむ、だから加賀で先人の方々があそこまで力を入れられたか」
また瞑目してだ、顕如は述べた。
「成程のう」
「そしてどうやら」
「その者達はです」
「天下に深く入り込んでいます」
「闇から」
本間家の者達は顕如にこのことも話した。
「後でその書を法主にお渡しします」
「是非ご自身でお確かめ下さい」
「恐ろしきことが書かれています」
「何かと」
「わかった」
顕如は彼等の言葉に頷いた、そしてだった。
そのうえでだ、彼もその書を読んでだ。読み終わってから周りの者達に強張った顔でこう言うのだった。
「安土に行きたい」
「信長公とですか」
「会われてですか」
「わしが読んだことをお話したい」
だからこそというのだ。
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