Sword Art Online 月に閃く魔剣士の刃
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
17 テストプレイ
「…………!」
外界と隔絶されたどこか。
そこに響くのはポリゴンの弾ける音。
剣の風切り音。
地を踏みしめ飛び込む脚さばきの音。
そして、何より――――
蹂躙されていく魔物達の断末魔だった。
全神経を、あらゆる思考回路を、全身の感覚の一片すらも余すこと無く、ただひたすらに避け、受け、弾き、流し、そして斬るために使う。
影の如く身を捌き、迫り来る刃を縫うように掻い潜り、あらゆる姿勢から繰り出される一撃。その剣が描く弧は刀身の蒼さと相まってまるで蒼い三日月の如き残光を残していた。
そしてその軌道上にいる如何なるものもそれを止めることは叶わず、間合いを許した刹那に切り裂かれる様子は儚さすら感じさせる。
同時に、散りゆくライトエフェクトと蒼い残光、そしてはためくマントと相まってまるで舞を思わせる美しさを持っていた。
「……ある程度は予測していたが、これは確かに想定が甘かったか」
そことは別の何処かからモニター越しに剣舞のような戦いを見ていた男が静かに呟く。
「さて、何処まで伸びるか……」
別のモニターに表示されている何かのデータと戦いの様子を映しているモニターを交互に見ながら、男はデータを取っていく。その口元がほんの少し、喜色で釣り上がっていたのを知るものは居ないだろう。
男が満足気に口元を綻ばせたその時、モニター越しの剣士の動きが止まった。
――――そろそろ、ヤバ……い……
体が少しづつ動かなくなっていくのを感じる。
剣が重い。
視界がやけに揺れる。
敵を断ち切る瞬間の感触も徐々に響いてきている。
そして何より、思考が上手く回せなくなってきていた。
目の前で獲物を振りかぶったリザードマンを二体まとめて斬り捨てた所で、大きく後方へと飛び退き距離を取る。着地の衝撃がズシンと下半身に響くのを感じながら、剣を地面に突き立てて杖代わりに身を預けた。
肩で息をしながら前を見やると、時折霞みかける視界にバラエティ豊かな敵が映った。
「ッ! まだ、か」
アイツの説明から推測すれば、まだまだ半分といった所か。負荷テストか耐久テストだろうし、覚悟はしていたが流石にキツい。
だが、こちらもこちらでタダで戻るわけにはいかないし、何よりも、
「諦めるなんて性に合わない、しなっ!」
突き立てた剣を抜いて正眼に構え直す。
ぎりっと奥歯を噛み締めて意識を戦闘へ集中する。
突っ込むために体を少し沈める。同時に相対していたリザードマンも得物を振りかぶると、両者示し合わせたように同時に飛び込んだ。
地を這う様に突っ込んで、間合いに入った瞬間に跳躍しつつ反転するように回転しながら剣を振り抜いた。
その一撃がリザードマンを捉え、剣を振りかぶったままの姿勢で両断した。
滞空している間に体勢を立て直し、接地した瞬間に全力のバックステップで接近し体ごと回転して左から剣を薙ぎ払う。3体を一気に薙ぎ払った瞬間に背中からさっきのリザードマンのポリゴンが砕け散る音が聞こえた。
更に右からの横切りで目の前にいたコボルドセンチネルも仕留め、漸く来た反撃のスラントをサイドステップを切って躱し、反撃のをバーチカル――
「なっ!?」
数えるのが笑えるくらいの回数感じてきたシステムアシストとは違う感触に思わず声を上がる。
僅かに上を見て振りかぶった剣を見ると、その刀身が纏っているライトエフェクトはオレンジ。
「どうなって、やがるん、だ!」
元から添えようとした左手も柄を握り、両手で全力の上段振り下ろしをさっきスラントを出してきたコボルドに叩き込む。戸惑いからか、相手が一瞬早く剣を構えて防御の姿勢を取ったが――――
オレンジ色の光を纏った一撃はその直剣諸共コボルドをポリゴンへと還した。
そしていつも使っているどのスキルよりも強烈なディレイがかかる。
それは直剣はおろか、片手武器の比ではなく……。
一旦大きくバックステップで距離を取って、シュンは手にしていた剣を見て苦笑した。
「今の、両手剣スキルだよな……」
オレンジのエフェクト、バーチカルに似た始動モーション、そしてあの強烈な一撃とディレイ。恐らく両手剣スキルのブラストだろう。
「これ、両手剣スキルも対応してんのか? だとしたら……」
ある事を思いついて、シュンは普段取ることのないモーションを取った。それは現時点で確認されているどの片手用直剣スキルにも似ていない、剣を両手持って大上段に構える形。
すると、思った通りソードスキルが起動した。自分の記憶通りなら――
「ビンゴッ」
そして剣を後ろに引き、敵目掛けて突進する。そして間合いに捉えた瞬間に突進の勢いを乗せた単発斬り下ろしを叩き込んだ。これは両手剣の重単発突進技、アバランシュだ。
そしてさっきよりもう少し長いディレイから復帰、今度は片手でホリゾンタルを使い周りの敵を切り飛ばしてから手当たり次第に敵を斬り捨てていく。
「なるほどね、片手半剣ってのは当たりだったのか」
周りに粉砕されたポリゴンの嵐を作りつつ、シュンは口元を釣り上げた。
そのまま十数分。そこには先程までこれでもかとポップしていたモンスターは影も形もなく、蒼い剣を携えた剣士がただ一人立っていた。
背中に釣られた剣はさながら蒼い月のようで、持ち主である少年はまるで刃のような鋭い眼光を放っていた。
「おめでとう。君の勝ちだ」
どこからとも無く聞こえる声に苦笑いしながら少年は再び妙な浮遊感を感じる。
「データは十分に収集出来た。これより、君のナーヴギアをアップデートし、リミッターを解除出来るようにする。申し訳ないが、これにはかなりの時間と作業量を要する事だ。なので君には暫く眠ってもらう事になる。了承してくれ」
言い終わるが早いか、意識が急激に遠のいていくのを感じた。
「それでは、暫しの休息を楽しんでくれ。"魔剣士"よ」
何か含みのある声を最後に聞いてシュンは瞼を閉じた。
ページ上へ戻る