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逢魔ヶ刻

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第五章

「出たよ」
「そうなのね」
「色々とね」
「無事でよかったわ」
 運転しつつだ、母は息子に真剣な顔で答えた。
「お母さんの言った通りでしょ」
「うん、夕方から夜になる」
「まさにその時間はね」
「出るんだね」
「逢魔ヶ刻はね」
 まさにその時はというのだ。
「出るのよ」
「本当にそうだったね」
「だからお母さんずっと言ってたのよ」
「暗くなる前にだね」
「帰るべきだってね」
「僕も暗くなる前に帰ってたけれど」 
 それもとだ、達也は見たものを思い出しつつ話した。
「それでもね」
「夜になると変な人が出ると思ってでしょ」
「そう思っていたよ、かなりね」
「そうだったのね、けれどね」
「実際にあの時間は出るんだね」
「ひいお祖母ちゃん嘘を言う人じゃなかったからね」
 母にとっては祖母にあたるその人はというのだ、このことを話してくれたその人がだ。
「だから私も信じてたけれど」
「それで僕にも話してくれて」
「本当のことなのよ」
「そうなんだね、けれど」
「けれど?」
「何で逢魔ヶ刻に出るのかな」
 首を傾げさせてだ、達也は母に問うた。
「夜はわかるけれど」
「ああ、それね」
 母は息子の問いにすぐに答えた、夜の道の中を運転して進みながら。
「時間がそうなのよ」
「逢魔ヶ刻っていう時間が?」
「夕方はお昼と夜の時間にあるわよね」
「うん」
「それで逢魔ヶ刻はその夕方からまさに夜になろうとしている」
 母は達也に真剣な顔で話した。
「その時間、まさにね」
「そうした時間だから」
 それでというのだ。
「夕方はお昼と夜のはざかい、二つの世界の間にある世界で」
 昼と夜のだ。
「そしてその夕方と夜の更に間にある時間」
「そうした微妙な時間だから」
「その間にある時間だから」
「妖怪が出るんだ」
「はっきりした二つの世界の間にある世界ははっきりしていなくて」
 それでというのだ。
「そこに妖怪は出るものって言われててね」
「それで妖怪が出て来る」
「そう言われてるわ」
「何か不思議な話だね」
「そうでしょ、それで夜はね」
 今はというと。 
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