パラソル
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第四章
「場所もね」
「日本橋だね」
「あそこで会ったんだね」
「あそこはかなり人通りが多いけれどね」
「その人のことは覚えたんだね」
「覚えたよ、だからね」
それでともだ、彼は言った。
「今日も日本橋に行くよ」
「昨日その人と会った時間」
「その時にだね」
「三時半位だったね」
擦れ違った時間も覚えていた、もっとも時間についてはおおよそであったが。
「その時に行くよ」
「そうか、それじゃあね」
「今日も日本橋に行くんだね」
「そうするんだね」
「出会えたらいいね」
心からだ、伊達は友人達に言った。
「神様にお願いして行くよ」
「じゃあ教会にかい」
「あそこにも行くんかい?」
「教会にも行っているけれどね」
東京に来てからだ、神社仏閣だけでなくキリスト教の場所にも行って礼拝堂やステンドガラスも観て単身でいたのだ。
「けれど今回はね」
「その人に会いたい」
「そう思うからだね」
「そちらの神様にもお願いしようかな」
こう言うのだった、そしてだった。
彼はこの日の午後も日本橋に向かった、何気なく少なくとも日本橋にいる彼以外の人間から見ればそうとしか思えない顔でだった。
彼は日本橋に来てそうしてその人を探した、すると。
その人は今日もだった、向かい側から歩いて来た。和服にパラソル、そして奇麗な足袋と草履を身に着けたうえで。
楚々としたそれでいて何処かすました様な顔で歩いている、その人を観てだった。
伊達はこれまで以上に何気なくを装ってだ、そうして。
美女のところに行って無言で擦れ違った、この日もこれだけだった。
だがそのこれだけのことが最高に幸せに感じてだ、彼は次の日も大学で友人達に話した。
「昨日も会えたよ」
「日本橋でだね」
「そのパラソルの人とだね」
「会えたんだね」
「うん、擦れ違うことが出来たよ」
それが出来たことを心から笑って言うのだった。
「本当によかったよ」
「ただ擦れ違うだけでも」
「それでも幸せなんだね」
「今の君は」
「そうだよ、もう会えただけでね」
擦れ違うことが出来た、それだけでというのだ。
「幸せだよ」
「やれやれ、恋だね」
「恋を楽しんでるだね」
「今の君は」
「そうだね、だから今日もね」
惚れ込んだその目でだ、伊達は目を輝かせて言った。
「日本橋に行くよ」
「そうしてだね」
「会ってそして」
「恋愛を楽しんでくる」
「そうするんだね」
「そうするよ」
まさにというのだ、そしてだった。
彼はこの日も日本橋に行って擦れ違った、そしてその次の日もだ。他の楽しみも味わっているがこの日本橋の擦れ違いが彼の一番の楽しみになっていた。
その中でだ、友人の一人が鰻屋においてだ、彼に言った。
「もういい頃じゃないかな」
「いい頃って?」
「だからあれだよ」
「あれじゃあわからないけれどね」
「告白だよ」
鰻を待ちつつの言葉だった。
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