エースナンバー
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第四章
彼についてもよかった、しかし。
ここでだ、川上は難しい顔で彼の名前を出した。
「ですが川崎憲次郎さんは」
「あの人は」
住職も彼については苦笑いで言った。
「あれでしたね」
「折角フリーエージェントで獲得したのに」
それでもだったのだ。
「あの人はずっと怪我で」
「活躍してくれませんでしたね」
「巨人に強いから期待していたんですが」
「私もですよ」
「それが、でしたね」
川上は苦笑いのまま焼酎を飲んだ。二人共名古屋コーチンの焼き鳥を楽しんでいるが飲んでいる酒はそちらだ。
「ずっとそれで」
「開幕でやっと、でしたね」
「はい、投げてくれて」
「それで終わりでしたね」
「そうでしたね」
「けれど今思うと」
少し遠い、達観した宗教者に相応しい顔になってだった。そのうえで川上に対してこうしたことを言ったのだった。
「あれが落合采配というか」
「そのはじまりでしたね」
「少なくともヤクルトでは実績のあった人ですし」
「開幕で投げてもですね」
「よかった人ですから」
実績を見る限りはだ。
「最後に二十番に相応しい仕事をしてくれました」
「あのシーズンは優勝出来ましたし」
「それならです」
「よかったですね」
「終わりよければ」
住職は笑顔に戻ってこうも言った。
「全てよしです」
「そうなりますか」
「はい、優勝のはじまりにもなりましたし」
「それでよかったですね」
「そういうことにしましょう、ですが」
「中田さんですね」
「中田賢一投手はソフトバンクに行きましたから」
それで、という言葉だった。
「ある意味川崎投手以上に残念ですね」
「ええ、コントロールは悪いですが」
「そこは現在系ですね」
「ソフトバンクでも、ですから」
中田はとかくコントロールが悪いというのだ。
「そこが困りますが」
「それでもですね」
「はい、活躍はです」
それ自体はというのだ。
「してくれましたね」
「やっぱり二十番に相応しい人でした」
「そうでしたね」
「コントロールがいい時は頼りになりました」
「そうした意味でいいピッチャーですね」
彼についても話された、そして。
住職はここでだ、こう川上に言った。
「今は」
「野村亮介投手ですね」
「あの人に期待しましょう」
「そうですね、未来の中日のエース」
「これからどうなっていくのか」
「見させてもらいましょう」
「それじゃあ後は」
ここでだ、二人共焼酎を飲み終えた。それでだった。
川上は住職にだ、笑ってこう言った。
「般若湯を代えますか」
「地酒ですね」
「ええ、こっちのお酒を飲みましょう」
「いいですね、じゃあ愛する中日ドラゴンズと野村投手の未来を祝って」
「それで最後の乾杯といきましょう」
二人で笑って言うのだった、そしてこのシーズンの中日ドラゴンズの応援歌燃えよドラゴンズを歌いながらだった。二人は意気揚々として店を出て次の日からまたドラゴンズを応援するのだった。その二十番に想いを馳せながら。
エースナンバー 完
2015・7・13
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