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竜のもうひとつの瞳

作者:夜霧
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第八章~アニキと私と野郎共の恋の詩~
  第三十八話

 アニキの仲介もあって、三河まで海賊船で送ってくれることになったわけだけど……。

 「野郎共! 鬼の名を言ってみろ!!」

 「モ・ト・チ・カーーーー!!!」

 「野郎共!」

 「アニキー!!!」

 ……何このデジャ・ヴ。アニキと野郎共の様子を見てると何かすんごく懐かしくなってくるわ。
Are you ready? Yeah!! ……みたいなノリ。

 「どうした、小夜」

 「何か、懐かしいなぁって思って」

 考えてみれば、伊達もこんなノリだったんだよねぇ。
政宗様が皆を引っ張って、その補佐に私達が付いて。
アニキと野郎共みたいに力でねじ伏せる間柄じゃなくて、ちゃんと信頼関係が出来上がって皆に慕われてて……
何か、政宗様と気が合いそうだなぁ、アニキは。

 「ところでアニキ、三河へは何しに行くの?」

 そう訪ねると、アニキは少し嬉しそうな顔をしてダチに会いに行くのだと話をしてくれた。
ダチ、ねぇ……アニキが嬉しそうな顔をする辺り、余程信頼している友達ってことなのかしら。

 「家康とはな、昔武田攻めをやった時にちっと縁が出来てよぉ。それから仲良くやってるってわけさ。
こっちも落ち着いてるし、たまには顔を見せに行こうかと思ってな」

 まぁ、織田も倒れたところだし、情勢的には安定しているのかもしれない。不穏な動きはあるけれども。
てか、家康って。あの徳川家康と友達なわけ? ということは、アニキはこの先関ヶ原の戦いが起こったら東軍に下るってこと?
いやでも、長曾我部なんて武将、聞いたことが無いよ。

 「ザビーの奴もぶっ潰したし、これで心置きなく船出が出来るってもんよ!」

 思わぬ発言に、私は目を丸くしてアニキを見ていた。
ザビー教のこと、どうしてアニキが……ってことは、あの攻撃は。

 「え、もしかして、あの攻撃はアニキが?」

 「おうよ!……って、何でアンタがそれ知ってんだ?」

 そりゃ、知ってるも何も、囚われてたんだもん。知ってますよ。その場にいた人間ですからね。

 軽く事情を説明して、ここに来る前は毛利のところで成り行きで協力をさせられていたって話をして、
酷く同情された目で見られたのが気になったけれども、どうもアニキの話じゃ四国でもザビー教の被害は酷かったらしくて、
野郎共も洗脳されて連れて行かれたと言っていた。
最初は自分の器量が足りなかったのかと思っていたらしいんだけど、
どうやらそういうわけではなくて自分の意思とは関係なく連れて行かれたことを知り、連れ戻しに動いたのだとか。
で、派手に攻撃をして見事ザビー教を撃退したと。

 「ありがとう、アニキ! アニキがいてくれなかったら、今頃私どうなってたか……」

 アニキの両手を掴んで目を潤ませながらそんなことを言えば、ほんのりを顔を赤くして、おう、とだけ言っている。

 ……アニキ、もしかしてあんまり女慣れしてない? ファーストコンタクトの時から思ってたんだけども。
やっぱりこの人、海賊やってるわりに初心なのかしら。
でも、幸村君よりかは免疫ありそうな感じはするけども……。

 「し、しかし、アンタも大変だったな。毛利の奴に捨て駒にされかけた挙句、囚われの身になっちまうってのも」

 「……そうよ、あの毛利が爽やかな笑みで愛とか語りだしたのを想像してみてよ。
マジ怖いから。この世の終わりが来たのかって思っちゃうから」

 「……確かに怖ぇ。あの鉄面皮が奴さんだしなぁ」

 同意される毛利も可哀想だと思うけど、洗脳される前までは表情が崩れたところとかほとんど見たこと無かったし。
寂しい人だとか独りぼっちとか言われてキレたのは流石にビビッたけど。

 「でも、あんなに胡散臭い愛に騙される辺り、実はそういうのが人一倍欲しいのかもね」

 「毛利が? そんなもんかねぇ……」

 「愛などいらぬ! ……とか言っちゃう人ほど、実はそういうのが欲しいんだと思うよー?
私も結構えげつないことやって来てるけどもさ、そういうことやった後ほど人の温かさが恋しくなるし、誰かの支えが欲しくなる時だってあるもん。
言葉で慰めてもらうんじゃなくて、心の拠り所みたいなものがあれば人って案外強くいられるもんでしょ?」

 多分、あの鉄面皮のオクラであってもそこら辺は変わらないんじゃないのかって思うけども。
あの人が一体何を考えてるのかは読めないけどもさ、少なくとも周りの反応見てる限りじゃそういうのは一切無さそうだし。

 「……そう、かもしれねぇなぁ」

 何か思い当たる節でもあったのか、アニキが空を見上げながら何か考えている。

 「いやな、二年くらい前に毛利とぶつかったことがあったんだけどもよ、
あの野郎兵を捨て駒扱いして何とも思わないって顔するもんだから、ついガツンと言っちまったんだけどもよぉ……
そしたら“家のため”とか“安芸の安寧のため”とかでそれ以外はいらねぇって言うからさ、
つい寂しい奴だなって言っちまったんだよな」

 ああ、ザビーと同じようなこと言ったわけね。

 「そしたらもの凄い勢いでキレちまってよ。今思えば、あの野郎も寂しかったのかもしれねぇなぁ……」

 なんて零して考えているアニキは結構いい人だ。富嶽盗まれてるのに。
ま、それは流石に言わなかったけれども。

 「性格だって全然違うし、アイツは何考えてんのか分からねぇけど、何か気になっちまってさ。
酒を飲もうって誘ったり何だりって付き合いはあるんだよなぁ。誘えば都合が悪くなけりゃ来るしよ」

 「へぇ~……友達いたんだ、あの人」

 「友達ぃ~? ……あ、言われてみりゃそうか。やってるこたぁ、ダチとつるんでんのとそう変わらねぇもんなぁ」

 何だ、独りぼっちじゃないんじゃん。毛利って。
ま、あのオクラのことだから、友達だなんて思わないでアニキも捨て駒とか利用価値の一人とか思ってんだろうけども。

 アニキを友達と思えれば、毛利はザビー教に取り入れられることは無かったような気もするけれど、どうなのかしらねぇ?
我に友などいらぬ! ……とか言いそう、あの人は。

 「今頃、あのオクラ……じゃなかった、毛利は何やってんのかなぁ~」

 あの調子じゃ、洗脳が解けなくて未だに愛とか語っちゃってるような気がしなくも無いけど。
我はサンデー毛利! とか言っちゃってたら少し笑えるかも。

 「さぁな、案外正気に戻って残ったザビー教信者を根絶やしにしようとか考えてんじゃねぇのか?」

 「……有り得る」

 それもかなり怒り狂ってと見た。
まぁ……もう、どうせ西国から離れるからいいけどもさぁ……。
当分は、ザビー教にも毛利にも関わりたくないなぁと思う。ついでに毛利にも……。
だって、爽やかな笑みで愛を語りだして私の世話を甲斐甲斐しくする毛利なんて、トラウマ以外の何者でもないもん……。 
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