竜のもうひとつの瞳
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第三十五話
毛利の居城に滞在している間、ずっと気になっていた情報をいろいろと知ることが出来た。
まず、織田信長に戦を仕掛けた伊達は、政宗様と幸村君の共闘でどうにか織田を討って奥州に引き上げたらしい。
ちなみにあの変態は伊達の軍師が討ったと聞いたから小十郎は無事だったんだろう。
あの変態にとっ掴まって性的な拷問でもかけられていたらどうしようかと思ったけど、
政宗様が助けに来てくれたのならば良かった。嫁を貰う前に汚されるわけにはいかないからね。
で、安芸に入った途端に間者と間違われたわけだけど、長曾我部ってのは四国を束ねてる人らしくて、
国主であると同時に海賊家業にも力を入れてるらしい。水軍じゃなくて海賊ってのが何か凄い。
BASARAって型に嵌らないというか、設定が滅茶苦茶だというか、
早い話がどっから突っ込んでいいのか分からない的なところはあるけどもさ、海賊さんってのはなかなかなもんだよ。
この長曾我部と最近ちょっと不仲らしくて、いつ戦が起こってもおかしくないような状況らしい。
そこで敵の間者が安芸に入って来ないようにと警戒を強めていたところに私が入ってきて、間者だと決め付けられたそうだ。
私をとっ捕まえた奴に一言文句言ってやろうと思ったんだけど、誤解が解けてから姿見てないんだよねぇ……何処に行ったんだろ。
責任問われて僻地にでも飛ばされたのかしらね。
ほいで、長曾我部への警戒を強めつつ毛利が頭を悩ませているザビー教、
安芸限定かと思ってたら実は全国レベルにまで浸透してる新興宗教らしくて、全然気付かなかったけど奥州にまで信者がいるらしい。
でもやっぱり教祖がこの近くにいるから、西国を中心に活動してるらしいんだけど……
安芸に限らずザビー教による被害は何処も頭を悩ませているらしくて、どっかの国じゃ国主がザビー教に
どっぷり嵌っちゃったとかで国教にされそうな勢いになってると聞いた。
……宗教って怖いね。本当。そんな妙な宗教国境にするってどうなのよ、一体。
とりあえず町の様子を見つつ、こっちの情報を少しでも伝えておくために文をしたためて奥州に送って貰うように頼む。
ちなみに内容はぱっと見近況報告と世間話なんだけども、これでも竜の右目(その二)だからきちんと中に暗号として情報を練り込んでます。
子供の頃に小十郎と二人で作った秘密の暗号を元に作ってるから、きっと小十郎なら分かってくれる……はず。
あの子が忘れてなければ、の話だけれどね。
奥州にいると何となくのんびりした気分になっちゃうけど、西国は国が密集してるせいか随分と忙しなく感じる。
戦も絶え間なく起こってるって感じがして、いや、奥州だってそうだけどもさ、何だろうかな~……
あっちは内乱が絶えないっていうの? 奥州ってちょっと特殊なのかもしれないね。
何かほとぼりが冷めるまで、なんて思ってたけど……この状況を見てるといつ何が起こってもおかしくなさそう。
ザビー教の件が片付いたら一旦戻ろう。
「……何をしておる」
ぼんやりと城の窓から空を眺めていたところで、唐突に毛利に話しかけられた。
「毛利様……雲の流れを見ていたんです」
「……雲の流れ、か」
毛利が空を見上げて、軽く鼻で笑っている。
その態度にむっとしたけど、見てみろと言われて空を見上げてみれば空には雲ひとつ無い。
……こりゃ、鼻で笑われても仕方が無いか。
観念して私は考えてたことを話す事にした。
「妙にこちらの動きが緊迫しているものですから、故郷にまで戦火が飛び火しないかと考えていたのです」
「現状では奥州まで戦火が広がることは無かろう。
今は織田が倒れた直後ということもあり、不穏な空気こそ流れておるが、大戦を懸念して各国とも牽制し合う状態ぞ。
この状態では戦なぞまず起こるものではない。均衡を崩すものが現れぬ限りな」
「それなら安心……って、私、奥州の出だと言いましたっけ?」
「奥州に向けて文を出していたであろうが」
……ああ、一応検分したわけね。
そりゃそうか、いくら使者で協力者とはいえ敵国のスパイだって疑いも拭えないしね。
まぁ、当然っちゃ当然か。気分が良いものではないけど。
「そなた、天下は奥州が取ると思うておるか」
唐突に何を言い出すのかと思えば、毛利は嫌に真剣な顔で聞いてくる。
いや、普段おちゃらけてるってわけじゃなくて、真剣だって分かる表情をしてるのが珍しくて。
基本的に無表情だし、この人。
「無理じゃないですか? 政宗様に獲れるとは到底」
さらっと言ってやれば、その鉄面皮が酷く驚いた顔に変わる。
「そなたの主であろう、奥州の独眼竜は」
ああ、やっぱりそこまで調べが付いてましたか。んじゃ、私が奥州で何やってたのかってのも分かってるわけね。
よく流れは分からないけど、織田が天下統一に王手を掛けた状態で没してるってことは、当然この次に豊臣が出てくるってわけで。
豊臣の軍師である竹中さんを手中に収めている以上、十分にフラグは立ってるし天下を獲るのは豊臣だろう。
で、この豊臣の後に続くのは徳川家康だ。徳川が天下人になったらもう覆すのは難しい。
この先に続くのは長い泰平の世だから。つか、これが歴史だし。
政宗様が戦を起こす理由は、戦を終わらせて民が笑って暮らせる世を齎すため。
理由としては良いんだけど、そこに自分が天下を獲って幕府を築いて……という明確なビジョンがまだ曖昧なような気がするのよね。
ここはBASARAの世界だから実際の歴史通りに話は進まないかもしれないけど、
ここがしっかりと固まらないと仮に天下を獲ったとしても三日天下で終わっちゃいそうな気さえする。
つかね、政宗様のスタンスは他と同盟組んだりして仲良くやろうって感じじゃないから、
信頼を集めるのは難しそうなんだよね。民からじゃなくて各地の武将から。
あの人結構捻くれてるから、理解されるのも難しいと思うし、この人なら自分の身を任せてもいいと万人に妥協させられるだけの力がない。
カリスマ性ってのは人を惹き付ける半面、強い拒絶を齎すこともある。
あの人はカリスマ性が高い上に捻くれてるからその分だけ敵を作りやすい。
それで天下人にさせても内部から瓦解するのは目に見えている。
「今のあの人に天下獲らせても泰平の世は来ないでしょう。下手したら力で抑えつけるような政治をするかもしれませんし。
あと十年遅くチャンスが来てれば、見込みはあったかもしれませんが」
あんまりよく知ってるわけじゃないけど、何十年もかけて、って展開はないと思う。
だって、キャラ重視のゲームの世界だしさ、あんまりおっさんになっちゃうと魅力なくなるでしょ。
だから下手すれば一年くらいで徳川幕府が開かれちゃうかもしれない。
十年くらいあれば人として落ち着いてくると思うけど、今のあの人にそれを求めるのは難しい。
だって、好きな女を手篭めにしてモノにしようとしたんだよ?
十九とはいえ、まだまだ子供なんだよね。あの人は。
……まぁ、そうなるように育てられなかったのは私や小十郎の責任もあるんだけども。
「……そなたは正しく見ておるのだな」
「正しく……まぁ、少なくとも自分の主が天下を獲れると盲信することはないですね」
「ならば問う。この天下は誰が納めると見る」
おー、直球で来ましたね。まぁ、その問いに答えるとするならば。
「三河の徳川家康公、私はそう踏んでおります」
これしかないでしょう。だって史実で徳川幕府築いた人だし。
「何故そう見る」
「人望に厚く、人心を裏切らない。ゆえに信奉者が多いと聞きます。
誰が天下を獲っても不満は起こるでしょう。
しかし、この人が獲るのならばそれも仕方がないかと思わせるくらいの人物でなければ、天下は纏まりません。
時には力を誇示することも必要でしょうが、そればかりでは人は離れていきます」
「……なるほど」
納得したようなしてないような、よく分からないけれど毛利はまた無表情に戻った。
「そなたのような者が我の元におればな……」
意味深なその言葉を、私は軽く聞き流すことにした。
必要とされるのはまぁ、嬉しくないわけじゃない。
けれど、どうにもこの毛利さん、何となくだけど気が許せないというか何というか。
笑ってても本心が見えないのよね、この人。何か、表情の裏に分厚い壁があるように見えて、どうにも信用が出来ない。
この人は天下獲りに興味ないみたいだけど、私もこの人では天下は獲れないと思う。
安芸は過ごしやすい国だと言うけれど、おそらくこの人の下に付く人間がいなくなると思う。
この人もある種のカリスマ性はあるけど、各国の武将を引きつけるだけの魅力に乏しい。
つまり……私に側近のような役割を求められても困る。
ザビー教潰したらとっとと安芸を出よう。私はそう考えていた。
ページ上へ戻る