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真田十勇士

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巻の十七 古都その九

「だからな」
「戦のことはですね」
「あと暫くの辛抱になろう」
「夫の様な者はですね」
「もうすぐいなくなる」
「そうなって欲しいです」
 心からだ、尼は言った。
「夫がなくなり私は」
「出家したか」
「世の無常を感じ。しかし」
「御主の様な者がいなくなれば」
「そう思っております」
 悲しい顔になり目を伏せての言葉だった。
「まことに」
「そうじゃな。戦で得をする者はおらぬ」
「お武家様もそう思われますか」
「ないに越したことはない」
「早くそうした世になって欲しいものです」
「全くじゃ」
 こうしたことを話すのだった、幸村は尼と話した後寺の中であるものを馳走になった。それは素麺であった。
 無論主従も一緒だ、十一人で桶の中にある麺を箸ですくい取ってそれからそれぞれの手にある碗、つゆのその中に入れて食べる。そこで。
 清海は幸村にだ、少し怪訝な顔になって尋ねた。
「先程のお話ですが」
「尼殿とのだな」
「はい、きいておりましたが」
「戦のことか」
「殿は戦がお嫌いですな」
「ないに限ると思う」
 実際にというのだ。
「血が流れることはな」
「そうなのですか」
「やはり泰平が一番じゃ」
「しかし武士は」
 今度は海野が言った。
「戦が務めですな」
「その通りじゃ」
「では戦になれば」
「戦う」
 迷いはなかった、幸村の返事には。
「そうなればな」
「そうされますか」
「うむ、そうしてな」
 そのうえでというのだ。
「全力を尽くす」
「そうされますか」
「戦は最後の最後まで避ける努力をするが」
 それでもというのだ。
「いざ戦になればな」
「死力を尽くす」
「戦われますか」
「そのつもりじゃ」
「それが武士なのですな」
 猿飛は話を聞いて素麺を食べつつ述べた。
「戦は出来るだけしないが」
「戦になればな」
「戦うものですな」
「拙者はそう考えている」
 こう言うのだった、
「武士はそうあるものとな」
「ですか」
「武士は戦を求めるものとです」
 伊佐の言葉だ。
「思っていましたが」
「戦うのが仕事だからじゃな」
「はい、しかし殿はそうではありませんか」
「せぬに限る」
 やはりこう言うのだった。
「民を守ることじゃ」
「民の為にもですか」
「戦はないに限る」
 幸村の言葉は変わらない、そして。
 彼もまた素麺を食べてだ、こう言ったのだった。 
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