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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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GGO編
  第203話 闇を封じる光

 
前書き
~一言~

 
 投稿が遅れてしまってすみません……。
 でも、何とか1話分完成させる事が出来ましたので、投稿します! いよいよGGO編も終盤です!!

 今回の話で、ちょこちょこ出てくる行動やネタ! 元ネタがなんなのかは……。多分! 知っている人には判るかと思います! どうか、温かい目で、よろしくお願いしますっ!

 
 最後に、この二次小説を見てくださって、ありがとうございます! これからも頑張ります!


                                     じーくw 

 




――……そう、あの世界は死と隣り合わせだった。


 それはソードアート・オンラインの話。

 人類は、完全なる仮想世界を実現した。それは、1人の天才によってだ。……公にはそうなっている。天才の夢見た世界を実現する事が出来たのは、まだあどけなさが残るもう1人の天才のおかげ、と本人も言っていた。

 そう、あの世界に憧れて、万と言う人間が飛び込み、そして 悪夢へと変わった。

 《ゲームオーバー=死》と言う世界に変わったのだ。

 
 そして、その世界に憧れた少年。彼はデジタル世界に夢を抱いていた。……現実世界を闇とし、デジタルの世界に光を見たのだ。幼き日経験が、彼の感性の全てを変えた、と言っていい。

 それは、デス・ゲームと化してしまった世界となっても、その本質は変わる事は無かった。光の世界だと。如何に 死と隣り合わせだとしても、自らがいるべき世界とまで想っていたのだから。
 そして、そんな世界で 誰かが死ぬなどとは考えたくなかった。誰かが この世界で恐怖し、苦しみ、絶望の中、消滅し 現実世界で 脳を焼かれて死ぬ。そんな事を考えたくなかった。

 故に、彼が真っ先に示した行動方針は、様々な情報の配信だった。

 一通りは、自らの脚で動き、頭を使い、考え……、そして この世界は現実へと還れない、と言う理不尽を除けば、それ以外は、全て公平(フェア)だと言う事が判った。難易度は以前までの世界とは比べるべくもないが、それでも。

 だからこそ、誰も……、誰も死なない様に。死なない様に、いつの日か、この世界をクリアし無事に帰られる様に。

 そう考える様にプレイをしていたんだ。

 勿論、彼自身にも恐怖はあった。……死を意識する事、それが無かった訳じゃないから。でも、それ以上に怖い事を、恐ろしい事を知っているからこそ、経験をしてきたからこそ、それを乗り越える事が出来たんだ。


 そんな彼と対局の存在。

 
 それが、犯罪者(レッド)の存在だ。


 ここで、過去の一旦を記そう。

 第1層BOSS攻略の際。
 リーダーの死。そこからの不協和音。……負の感情を巧みに操り、争いを誘発しようとした者がいた、そんな気配がしたのだ。リーダーが死んだ事、その悲しみの部分が大きかったからこそ、その先導者の言葉は、脳裏に 隙間に容易く食い込んでいったのだ。
 そこで取った彼の行動。いや、彼らの行動。《ビーター》と言う名を生んだ事で、非難の的を絞る事で、瓦解する事を何とか防ぐ事が出来たんだ。

 そして、第2層でもそれはあった。……誘発しようとしている者の存在、それが決定的なモノになった、と言える。

 ゲーム内における、詐欺事件が発生した。
 それは、強化詐欺と呼ばれるモノ。第2層から、始めてプレイヤーの鍛冶屋が生まれた。そして、フロントランナー達の当時のハイレベルの武器が、その鍛冶職人の手で、強化をして貰う際に、武器が消滅してしまうと言うモノだ。
 その真相は 鍛冶屋がだまし取っている、と言うモノ。SAOでの強化に置いて、武器破壊と言う罰則(ペナルティ)は存在しない。だが、そこには例外がある。武器には、強化回数に上限があり、それを超えてまで、強化をしようとすれば……、その武器は破壊されるのだ。故に、強化直前に、そのエンド品とすり替え、フロントランナー達のレア武器が破壊された、と錯覚させると言う手口。

 天才的な、この詐欺。……それを発案したのが、奴ら(・・)だった。

 勿論 破壊された彼らも黙っていなかった。その全ての真相が明らかにされたのは、第2層のBOSS攻略した時だ。詐欺の主犯達を公開PKをさせようとした。……殺しを助長しようとしたのだ。一度、殺しの前例を作ってしまえば、SAOが殺し合いのゲームになってしまうだろう。……それを誘発させようとした。

 その件については、()の根回しが効いたおかげもあり、何とか回避する事が出来たが……、そこから自然と、目を付ける事になったと言っていいだろう。




――犯罪者(レッド)と―― 




 あの世界で、その魔の手に掛かり 苦しみ、悲しんだ人たちを見た。……何度も見た。
 あの世界で、大切な仲間を失った。……数少ない心を許せると言っていい仲間を失ったのだ。



――……もう、二度と。

 

 現在。あの世界が終わっても。……世界が変わっても、再び奴らの魔の手が迫ろうとしている。また奴らが誰かの命を奪おうとしている。

 ……自分の震えを止めてくれた人を狙っている。同じ様に闇を背負い続け、そんな中でも必死に前を向いて生きようとしている人を。


――……失ってたまるか!


 彼の中には、その想いで一杯だった。対峙するその前から、ずっと……。
















 渚の運転する車が目的地へと到着、停車した後 素早く 車のドアを開き、飛び降りる結城玲奈。

 この家には 何度も来ている。……自分が愛する人の家を知りたいと思うのは 当然であり、彼の家族。始めて好きと言うベクトルを向けた親代わりの人。綺堂 源治 とも会いたかった。
 実際に会ってみての感想は、本当に優しい人だ、と言う事が 会って直ぐに判った。そして その笑顔は 本当に安心出来る、と。彼が慕う理由が本当に判る。
 そして、その笑顔を自分にも向けてくれたんだ。

 
 車から飛び降りた先にある、もう左右に開かれた大きな家の門をくぐり抜けた。そして、自分の家の倍はあろうかと思える 屋敷の玄関口に 直立不動で 待ち続けている人がいた。

「……いらっしゃいませ。玲奈お嬢様。この度はありがとうございます。坊ちゃんの為に」
「い、いえ! それで、隼人君はっ!?」

 源治は そう言い す、っと頭を下げる。
 玲奈は 直ぐに隼人の事を訊いていた。

 いつもであれば玲奈は恐縮してしまうだろう。玲奈自身の家柄も確かに、所謂上級家庭だと思えるが、ここまで の扱いはされた事が無い。そう言う目線自体は玲奈は好むところでは 無かった、と言う事もある。でも、実際に 体験してみたら、嫌だ、と言うより 何処か恥ずかしいかった、と言うのが 玲奈の感想だった。

 だが、今はそんな場合じゃない。ここに来たのは 彼に。……隼人に会う為だから。傍にいる為だから。


 玲奈は逸る気持ちを必死に抑えようとするが、どうしても 無理だった。

 あの時、ALOに姉が捕らわれ、そして 隼人の行方が判らなかったあの時。もしも、隼人の場所が、居場所が判っていたら? もし 判ったら?

 きっと、抑える事なんて出来ない。

「判ってます。玲奈お嬢様。……本当に」

 源治は、肩に手をかけた。
 そして、穏やかな眼を 玲奈に向ける。

「坊ちゃんを、愛してくれて、ありがとうございます」

 源治の言葉は、玲奈の脳裏にあの世界での記憶を呼び起こす事になる。

 リュウキが、最後に言った言葉だった。彼が消えてしまう前に、言った言葉。

「っ…… わ、わたし、わたしは……」
「大丈夫です。坊ちゃんは、大丈夫。……さぁ 傍へ」

 玲奈の事がよく判った綺堂は、手を差し出した。隼人の愛する人の手を取るのは、些か、ヤキモチを妬かれてしまうだろう、と思えるが 今は致し方ないだろう。

「は、はいっ……!!」

 玲奈は 手をとって 屋敷の中へと入っていった。そして、左手には携帯端末がある。
 姉の明日奈に通じており、彼女も病院へと到着した様だった。

 そして、互いの携帯端末には あの子にも通じている。

『ママ、お姉さん。きっと、大丈夫です!』

 玲奈は 端末から訊こえてくる幼い声に反応して、ぎゅっと 端末を握り締めた。

 彼女は、AIであるユイだ。そのコアプログラム自体は、和人の自室に設置された据え置き機の中に有り、必要に応じてALOにナビゲーション・ピクシーとして、ダイブしたり、こうして、現実世界でも 端末越しに会話もできる。
 以前までは、バッテリー容量に限界がある、と言う問題点があったのだが、そこは隼人の効率化プログラム、そして 機材の増設を図った事で 問題点は皆無となっている。殆ど現実世界で共に行動をできる程になっている。
 今はまだ 声だけになっているが、その先はもう時間の問題だろう。

『パパとお兄さんは大丈夫、なんです。どんな強い敵が来たとしても、負けませんっ! だって、だって……』

 ユイは、ゆっくりと、そして力強く宣言した。これ以上ない理由を。

『パパとお兄さんですからっ!!』

 ユイの言葉に、頷くのは玲奈、そして 病院側にいる明日奈だ。

「「うん、そうだよね」」

 端末のマイクに唇を付けるようにして、そう囁き返す。
 姉妹の声が、其々を通して伝わる。ユイにとって大好きなママと姉の声。2人の姉妹にとって 大好きなユイの声。
 訊こえるだけで、力になる。……安心、できるんだ。

「……本当に、ありがとうございます。坊ちゃんと、出会ってくれて」

 綺堂の眼には、うっすらと浮かぶ物があった。

 これまで、隼人と共に今までを過ごしてきた。

 力の限り、彼の為を想って、愛情を注ぐ様に。……今は亡き 両親の代わりに、ずっと 見守り続けた。だけど、それでも できる事には限界があった。
 
 隼人が経験してしまった悪夢。心的障害(トラウマ)。それを拭い去る事は出来なかった。

 そんな隼人を助けてくれたのが、彼女達、そして 皆だったから。



 そして、2人は隼人が眠る部屋へと到着した。その身体には沢山の装置が取り付けられており、心電図も耐えずに記録をし続けている。
 隼人は、ただ眠っている様に思える程 澄んだ表情をしていたのだが、時折 息が荒くなっているのにも気づいた。そして、額には若干だが汗も滲んでいる。
 
 それは、あまり見ない光景だった。だが 見た事はある。……SAOの世界で、見た事はある。

 つまり、もう見る事のないであろう表情だ。

「りゅ、……隼人君は、今はどうしてるんですか!?」
「あちらを、ご覧下さい」

 綺堂が小型の端末に手を伸ばし、操作したと同時に、モニターが表示され、映像が映し出された。

 表示された映像はALO内で皆と観ていた中継と全く同じものだった。

 上部左に、ガンゲイル・オンラインの無骨なロゴ。その隣には、細長く『第三回バレット・オブ・ばれっつ本戦バトルロイヤル! 独占生中継中!』の文字だ。

 ここまでは、ALO世界での映像と全く同じだった。だが 違うのは この飛ばされている映像は、マルチ視点の多元中継画面ではなく、個人を大きく映している。
 
 二分割のみされており、映し出されているのは、両方とも夜の砂漠。そして、4人のプレイヤー。

 1人は、全身を闇より深い黒の戦闘服に身を包み、長く黒い髪を風になびかせている小柄なアバター。そして、そのアバターと対峙しているぼろぼろのマントに身を包んだ赤い眼のアバターだ。

 玲奈はあのアバターは見覚えがある。何故なら、つい先ほど あのアバターの者が あの(・・)セリフを吐き出し、プレイヤーの1人を消し去ってしまったのだから。
 その内の1人、なのだから。

 そして、もう1人。

 あの黒い髪のアバターにも負けないであろう長さの髪を後ろで束ねている姿。夜の闇の中にも瞬く美しい銀色の髪のアバター。そして、その前にいるのは 同じくぼろぼろのマントで身を包んだアバター、だった。

 それぞれのプレイヤーの下には、小さなフォントで名前が表示されている。

 予想通り、髪の黒い方が《kirito》で銀色の髪の方が《RYUKI》だった。

「キリト、くん。……それに これが リュウキ、くん……」

 恐らくは、姉も自分と同じ感想だろう。
 そのアバターの印象は、SAO時代の《白銀の剣士》《黒の剣士》とは到底おもえず、更にALO内部で使用している 《ウンディーネ》《スプリガン》ともかけ離れている。

 リュウキのウンディーネに関しては、当時の、初期化する前の《フェンリル》と言う種族が、ウンディーネと言う種族に吸収される形で、今のアバターを形成しているから、ウンディーネ族のMale そのアバターよりは、やや小柄であり、髪の色もウンディーネ特有の青~白、と言うよりは銀色で形成されているから、本来の種族を忘れてしまいそうだが、それでも 今の身体、アバターのサイズは それよりもかけ離れている。

 言うならば、華奢な少女、としか思えない。

 だけど、はっきりと判った。今 身に包んでいる 画面越しの自分にも伝わってくる気迫、そしてその構えは 紛れもない2人のものだ。

「今、坊ちゃんが、和人様が 戦いを始めた所です。……1人の少女を護る為に」
「……え?」
「死銃の標的、と言えば判りやすいかもしれません。……坊ちゃんと和人様は大丈夫です。ですが…… 彼女はそうはいきません」
「私達の捜査が、もっともっとしっかりしていれば……、この様な事にはならなかったのに……。申し訳ありません」

 共に来ていた渚も、頭を下げた。
 今 確かにリュウキやキリトの身体には心配はないのかもしれない。だけど、その心には確実に傷を作る事になってしまうだろう。

 あの世界の様に、目の前で誰かを失ってしまう様な事が会ったら……。

「ちょ、ちょっと待ってください。死銃は、あの死神が どうやって、どうやって、PKをしているのか、それが判ったんですか??」

 玲奈は慌てて そう言っていた。

 それを訊いた2人はゆっくりと頷いた。

 隼人と和人が結論をつけた事。

 2人も、その結論に達していたのだ。死銃が現実にもいる、と言う事実を知った事。実際に源治もあの世界へと赴き、確認をした、と言う事を踏まえて。

 渚が その推察を 玲奈に伝えている時に、綺堂は撮された映像を再び見た。
 今は、伏射姿勢を取っている故に、モニターには映っていなかった彼女(・・)の姿も映し出されている。

「……あの少女を狙う、とは」

 険しい表情のままに、呟いた。

 仮想世界、GGOの世界ででも、言える事だが、現実世界でも できる事は、多くはない。このGGOと言う世界は アメリカのメーカーであり、金銭の還元システムを搭載している故にか、そのセキュリティの厳重さは言うまでもない。日本サーバーだとしても、それは同じ事だ。

 アメリカと隼人との繋がりは 勿論ある。その才能を技能を世界的に認める切欠になった始まりが、その国から、だったからだ。

 隼人の生み出したプログラムを独自に改良し、セキュリティを万全の物にしようと進化させ続けてきたのだから、手強くて当然であり、そして、それは当然そうでなければならないだろう。

 信頼を失う訳にはいかないのは、どの国でも同じ事だから。

 だが、それでも 現実ででも、侵入を試みている。
 欲しい内容なそれ程多くはない。……今のアバターを動かしているのは、()なのか。契約プロバイダに紹介し、何処からダイブしているのかを調べ続けている。

 勿論、これは違法捜査と言っていい。渚もそれは承知の内だ。

 だが、ここまで大きくなり、死者も出ている状況。上の承認を待っていたら、全てが手遅れになってしまうかもしれないのだ。

 いつか、昔の映画でも言っていた言葉。

『事件は現場で起きている』と言う言葉。

 職場の机で、承認の印(許可書)をもらっている暇などないのだ。

 現場での迅速な対応が、防げるかもしれないから。……これからも続くかも知れない凶行を止められるかもしれないから。

 
 
 玲奈は、全てを訊いて、再びモニターを見た。
 源治の言う通り、まるで倒れている少女(厳密には伏射姿勢)の前に立つリュウキの名前を持つアバターがいる。今命の危険に晒されている少女を守ろうとしている。

 その為に、今現実の彼の身体に 兆候が現れたのだろう。

 一歩間違えれば、失われてしまうかもしれない。……その怖さはよく知っている。玲奈と明日奈、そして あの世界で過ごしてきた者であれば、誰もが知っている事だ。

 その緊張感が、不安がリュウキの身体に現われているんだ。

「これは、死神。この異形な剣、(シックル)を使って……。……。それに、キリトくんの方は、 刺剣(エストック)……? あ……あっ……」
『幹部の中に、いた。刺剣(エストック)の、達人が……』

 玲奈の呟き、そして 端末から聴こえてくる明日奈の声。

 2人ともが、見覚えが、あったのだ。記憶の底から、邪悪が蠢く様に湧き出してきたのだ。
 そして、吸い寄せられる様に そのアバターの名前を見た。

「すて……、スティー……ベン? Steven(スティーブン)のスペルミス……?」
『うん……。他にあんな綴りは……。え? 違うんですか……??』

 明日奈は声を上げた。
 その端末の向こう側、キリトの身体の傍にいる 安岐ナースが説明をしているのだ。

 そして、マルチスピーカーから聞こえていくるもう1つの声、ユイの声も響く。

『あれは、違います。ママ。お姉さん』
「え……?」

 ユイの答えと同時に、画面を見つめていた渚も否定する。

「あれは、ドイツ語です。日本で主に扱われているのは医療機関でです。……読み方は、《ステルベン》」
「意味は、死の事です。……ステル、と略称されて使われる事が多く、患者さんが亡くなった時に使う言葉です」

 渚だけでなく、源治も表情がいっそう険しくなる。
 何を思ってそう言うアバターの名にしたのか。……想像するのは容易い。何故、知っているのかは 置いといたとしてもだ。……大体の人は、玲奈の様にスペルミスではないか、と思うだろう。影身のになり、且つ 己のアバターにふさわしい名前をつけたのだろう。

「リュウキくん……」

 玲奈は、リュウキの手をとった。
 確かに、彼の身体は心配ないのかもしれない。だけど、怖くて堪らなかったのだ。

「っ……。あっ……」

 手をぎゅっ と握り締めた所で、 玲奈は もう1つ、もう1人の事を思い出した。

 キリトが対峙している相手の事は、判った。 ならばもう1人。リュウキが対峙している死神の名は?

 あの世界では一切判らなかった。
 無論、あの世界、SAOと同じ名前を使っているとは思えないが、それでも確認しなければならない、と玲奈は感じた。

「あ、赤……羊?」

 そこに表示されているのは、意外な事に日本語だった。死神は マルチリンガル。多言語を操るのはPoHと同じだった。主に使用していたのは英語、だったと記憶している。故に 名前も英語的な名前だと思っていたのだが。

「赤い、羊…… いったい、どう言う意味が……?」

 リュウキの手をぎゅっと握りながら、玲奈は呟く。
 
 この名前についても、結論が出ている源治と渚だった。

 だが、その名前の真意を、恐らくとは言え 伝えて良いものだろうか? と躊躇をしてしまったのだ。今 心配でたまらない彼女に、不安をこれ以上与えてしまう結果になってしまうのが、好ましくなかった。

 だけど、それを見越したかの様に 玲奈の視線が2人の方を向いた。

――……今 何があっても、何を知っても、彼の傍から離れない。だから教えて。

 その目には、そう言っているかの様に伝わってきた。

 それを見て、源治はゆっくりと声で告げた。

「赤羊は、《アナグラム》です。……死神、と呼ばれる者の性質は 私共も確認を、認識をしております。そこから、導き出された答え、です」

 綺堂は、目を瞑り……そして開いた。

「赤羊を英語にすると《レッドラム》。綴りは《REDRUM》。そして、それを逆さにして読めば……」

 源治の言葉を訊いて、玲奈は頭の中で、その綴りを読み直した。
 ゆっくりと、そして確実にローマ文字が動き 真実へと紡いでいく。

「《MURDER》。……殺、人」

 その綴りを、意味を言葉にしたその瞬間に、玲奈は両腕から背筋まで一気に総毛立った。

 《死》を意味する名を持つ者と《殺人》を意味する名を持つ者。

 その2人が、大切な人達に襲いかかっていると言うのだから。

「リュウ、キ……くん」

 玲奈の零れた声は 自分のものとは思えないほど震えていた。

 もう、姉の明日奈のことを、考えてられなくなってしまっていたのだ。

 それは、明日奈も同様であり、ユイも 言葉がそのデジタルの喉から、出てこなかったのだった。




















 場面は、少しだけ 時を遡り、GGOの世界へと戻る。

 だぁん と言う乾いた音が、夜の砂丘に木霊していた。

 漆黒、ぼろぼろのマントを纏い 不吉な蒼の瞳を持ち、その表情は髑髏の仮面に覆われており、見る事は出来ない。ただ、判るのは その表情、仮面に隠された表情の奥は笑っているであろう事。
 その引き金を引けば どうなるのか 知った上で 笑っているのだ。……人を殺す事が好きで好きでたまらない。 そんな狂気。

 撃たれる瞬間まで、シノンはそれを感じていた。

 心臓を握りつぶされる様な 感覚に見舞われ、動く事も出来なかった。再び弱い自分が出てしまった事に、最後の最後に、また 弱くなってしまった事に 悔いだけが残ってしまう。

 だが、それ(・・)は訪れなかった。

 銃撃や打撃、そして斬撃。様々な攻撃手段のある世界だが、一貫しているのは、攻撃を受ければ大なり小なり、ノックバックが発生すると言う事だ。如何に他の銃に比べたら口径の小さく威力も弱い《黒星(ヘイシン)》と言えど、それは例外じゃない。


 なのに、来なかった。……シノンは、この感覚を覚えている。そう、あの時(・・・)も……同じだったから。


「……言っただろ。オレの背中を、任せたんだ。そして キリトも救った。……シノンの背中は、オレに任せろ。オレが、守る」

 声が聞こえてきた。
 そう、心地よい声。始めて仲間を信じる事が出来た切欠でもあった、云わば自分の中の時計の針が進んだ始まりの声。

「鬼。くく、やはり 来たか。速度の領域でキリトに拝する? どこがだ。まるで、見えなかったぜ。お前が現れたその瞬間から」

 死神は、手首を曲げ黒星(ヘイシン)を軽く上げつつ、そう言う。
 
 死神が言う様に リュウキは突然現れた様に見えた。気づいたら、シノンと死神の間に、割り込んでいた。圧倒的な速度で、そして その銃の軌道も変えられた。

「だがな。甘いところは相変わらずだ」

 死神は、銃の引き金部分に人差し指のみを差し込むと 器用にくるくると銃を回転させた。ガンプレイである。

「オレとその女の間に割り込む位余裕があるというのなら、さっさとオレを撃てば良かったんじゃないか? 態々銃口をご丁寧に 弾いて 反らすくらいなら、よ? この世界の力は、あの世界のそれとは少し違う」

 くく、と笑いながら続ける。

「あの世界では、即死攻撃なんて 事は オレ達には出来なかった。まぁ、それはそれで良かったがな。苦痛に歪む顔を見る事が出来たからよ? ……だが、この世界では違う。たった1発の弾丸が 女の命を奪うんだ。これだけの超高速の飛び道具。投剣スキルとは比べ物にならない程の速度の攻撃。……いつまで、お前は守れるんだ? たった1発でも喰らえば、お陀仏なんだぜ」

 そう言いながら、右手にはあの黒い銃(ヘイシン)を、そして左手には ククリ・ナイフを構えた。

 戦いの最中におしゃべりとは余裕だな、と 並みの相手であれば 相手が呑気に話をしている間に 斬り伏せる、或いは撃ち抜く等をして 終わらせられるのだが、この相手は違う。流暢に話す中には 罠が必ず潜んでいる。動きの全てが罠であり、常に死を狙っているとさえ言われ、畏れられた存在なのだから。


「……あの世界のお前が戻ってきたな。妙な口調はもうやめたか。まぁ それはどうでもいい」


 リュウキは、ゆっくりとした動きで 死神の目を見据えた。


 勿論 死神が言う様に後ろから決着を付ける。と言う方法もあった。シノンの安全を考えれば、早く仕留めるのが当然だ。

 だが、この男の……いや あの地獄の世界をくぐり抜けてきた男達の力を リュウキは誰よりも侮ってはいなかった。例え、HPを全損させる一撃を与えたとしても、執念で、いや 怨念で この男の指先を動かし、シノンの命を奪いうる弾丸を打ち放つかも知れない。……キリトが、そして自分が、相手の殺気を読む事が出来る様に、この男にも それを読む事は出来るだろう。
 敵意をむきだしにし、後ろから攻撃し様とすれば 気づかれ、……タイミングをずらしてシノンを撃っていたかも知れない。

 故に様々な不確定要素が リュウキをこの行動へと導いた。確実に、銃弾を防ぐ方法へと。

 そして、理由は まだ(・・)あった。もう1つの重要な理由が。

「……他人の()に、土足で踏み入ってるんじゃねぇよ」

 リュウキは、この一瞬で目を、血の様に赤くさせた。

 その赤い瞳を 死神へと向けた。


――……その眼を見た死神は、一瞬だけ……あの世界での事を思い出す。


 仲間を殺され、そして 憎悪に燃えた赤い瞳。まさに一瞬で殺されゆくラフコフのメンバー達。……そして、敗れ去る自分自身の姿を。

 そのコンマ数秒の意識のズレ。刹那の時間帯。意識の隙間。リュウキの動きの方が早かった。

 相手の銃身を素早く掴んだのだ。


――この銃が、シノンの闇。


 それは、シノンの昔の話を訊いたその瞬間から、判った事、だった。故に銃を見た瞬間に、闇が自分自身を覆い尽くそうとしたんだ。
 その気持ちは、リュウキにも判る。

 曾ての闇と対峙した自分だからこそ、判る。

 あの時は、仲間がいたから。……愛する人が傍にいたから、乗り越える事が出来た。1人じゃなかったから、乗り越える事が出来たんだ。
 
 だけど、シノンはずっと1人で戦い続けてきたんだ。孤独を噛み締め、それでも自分を押し殺す様にし続けてきた。

 そんな彼女が 自分の震えを止めてくれた。曾ての闇を思い出し、そして相対したその時、震えてしまった自分を。

 そして、この手をとってくれた。だからこそ、答えなければならない。彼女に。

「シノン」

 リュウキは、シノンの方に振り返る事なく、呟いた。

 死神は、空いた方の手に握られているククリナイフでリュウキを攻撃しようとするが、それは、リュウキ自身が持つコンバットナイフで受け流され、ダメージを受ける事は無い。

 

 シノンは、まだ 僅かに震えていた。リュウキが約束通り、守ってくれて。そして名前を呼ばれた時に、その震えは弱まる。シノンは、リュウキの方を見た。死神と対峙しているから、こちらを向いていない。

 だけど、その表情がシノンには判った気がした。優しく、笑っている様な気がしたんだ。


「お前の闇は。……オレが」


 リュウキは、死神の持つ銃のスライドを思い切り押し込む。撃鉄(ハンマー)が引かれたままの状態になり、そのままの勢いで更に真横に荷重を掛ける。がちっ と言う金属音がしたその瞬間だ。


「封じよう」


 リュウキがそういった瞬間に、あの黒銃(ヘイシン)のスライド部分が銃身、スライドの直ぐ下にあるテイクダウンレバーより分かれた。完全に2つに分かれた《黒星》。

 さしの死神も、この一瞬で 銃を分解してしまうなどとは思ってもいなかった故に、再び隙が生まれる。 

 その間に、リュウキの伸ばした手は、マガジンキャッチに触れる。強引に押し込むと、弾倉(マガジン)が グリップ部分から引き抜かれ、落下。その落下している弾倉(マガジン)をリュウキが蹴り上げると、この場所から完全に離れていった。既に装填されていた1発の弾丸も、既に外へと弾き出されている。


 この一瞬で、死銃は《死んだ》のだ。

 
 そう、他にもある理由。それがこの行動だった。

 自分自身の震えを止めてくれた事のリュウキのシノンに対する礼、だった。

「ぁ……ぁぁ……」

 シノンは、この時へカートを持つ事も忘れて、思わず両手を顔に当てた。

 バラバラに分解される黒星(ヘイシン)。それは、過去から続く悪夢の象徴だ。だけど、この瞬間に、それは粉々に破壊された。


――お前の闇は、オレが封じよう。


 その言葉の通り。自らを縛り続けてきた闇を、封じる。いや、壊してくれた。リュウキと言う光が、自身の中の闇を払ってくれた。

 銃を見れば、銃を撃つ真似事でもされれば、あの男(・・・)あの銃(・・・)現れる。目の前が真っ暗になり、息もできずに、呑まれてしまい地獄の苦しみが続く。

 だが、その幻想の、悪夢の男と共に、目の前の彼が、リュウキが全てを壊してくれたんだ。 それを理解した瞬間、感情が抑えきれなかった。シノンの両の目から 大粒の涙がこぼれ落ちてしまっていた。

 あの《サイレント・アサシン》を破壊した時の様な感情は一切無い。

 ただただ、自分自身の悪夢を打ち払ってくれた事に対しての、言葉にならない。涙でしか表現する事が出来ない感謝しか……。



「なっ………!!」

 黒星(ヘイシン)、死銃が3つ程に分かれた瞬間に、漸く気を取り戻す事が出来た死神。驚きの表情をし続ける死神をみて、滑稽だと笑うのはリュウキだ。


――死神が鬼に負ける? 再び?


 それは、男の中ではあってはならない事。苦しみに、苦しませてから、絶望を味あわせる。それこそが、至高の喜びだったのだから。

「巫山戯るなぁ!」
「……どっちがだ!」

 素早くマントの内側に隠し持っていた短機関銃(スミオKP/-31)を取り出し、銃撃しようとするが、近接戦闘の間合い、この範囲内では、部が悪いのは、死神だ。
 リュウキは、向けられた銃身をナイフで弾き、その銃口の軌道を完全に反らせつつ、死神を羽交い締めにした。

「ここは場所が悪い。……場所を変えるぞ」
「っっ!!」

 羽交い締めにしたまま、後方へと跳躍。
 その先は崖、と言っていい。地上、地面にまで10m程の高さがあるのだ。


「ぁっ!」

 目の前から消え去る2人をみて、シノンは慌てて 飛び出した。

 空中で、藻掻く死神と、それを冷ややかに見つめているリュウキ。
 
「今更だが思った。……お前、そんな大した実力がある男か?」
「っっ!!」

 空中に飛び出した為に、落下は止められない。この高さであれば、VIT(生命力)がある程度無ければ、即ゲームオーバーになってもおかしくない高さだ。故に シノンは危険性ありだと判断したのだから。

 だが、それはあくまで無防備に落下し、激突する事で、だ。

 現実世界ででも、頭から落下するのと、足から落下するのとで、受けるダメージが違うのと同様に、落下しゆくその間に、体勢を整え、最小限度の被害で済むように着地する。即ち、受身の技術。それさえ、しっかりとしていれば、衝撃の強い部分にダメージが分散される為、そこまでHPは減らないのだ。
 そして、その技術は 別にゲーム内で使える技能(スキル)と言う訳ではない。

 仮想世界での自らの身体を、何処まで(・・・・)動かせるか。それに尽きる。
 
 違和感なく、己の身体を自由自在に動かせる力。世間では《フルダイブ慣れ》と言われている。淀み無く、そして自然に。今回の場合では危機回避として、咄嗟に身体を反応させられる力、だ。

 ソードアート・オンラインの世界を生き延びてきたプレイヤー達であれば 納得と言えばそうだ。

「……受身は見事だ。無数にあったからな? あの世界でも、この程度の高低差は」

 地上に着地したリュウキと死神。
 激突する寸前に、2人の身体は離れた。……そして、それぞれが最小限で済む体勢で着地したのだ。
 死神は、着地はしたものの、まだ俯いたまま、だった。

「……あの世界でも、そしてこの世界ででも 後ろから。……或いは誰かに頼らないと、攻撃が出来ない。手段の常套句が闇討ち。それが貴様のパターンだ。正面から来られねえ、三下が、息巻いてんじゃねぇよ」

 鋭い眼力のままに、死神を睨みつけるリュウキ。

 そして、離れた所では、刺剣(エストック)の一撃を受けても尚、体勢を整え、反撃するキリト。


 今、最終決戦が始まろうとしたのだった。





 
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