ソードアート・オンライン~ニ人目の双剣使い~
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戦火の足音
その血臭に釣られて敵が集まってくることを危惧して、俺達は移動を開始した……のだが、数が一匹増えていた。
「それで……それはどうするんだ?」
俺が視線を向けた先にいるのは、ユウキにおとなしく手綱を引かれている竜。そう、竜騎士(故)の騎竜である。ユウキと戦っていたはずなのにいつの間にか主人をユウキにくら替えした竜だ。……この場合、ユウキのムツゴロウさん度を褒めるべきか、竜騎士の人望の無さを歎くべきか、竜の薄情さに呆れるべきか。
まあ、どちらにせよ。あの竜騎士には同情するな。許す気は毛頭なかったが。
「えっ……リューちゃんのこと?」
「リューちゃん!?」
まさかの名付けまで済ませていたユウキに思わず耳を疑う俺。同じく予想外だったレアが素っ頓狂な声をあげた。
「竜だからリューちゃん。いい名前でしょ?」
元騎竜……もといリューちゃんは心なしか悲しんでいるように見える。というかユウキにはネーミングセンスはないんだな。スリーピング・ナイツを名付けたというユウキのお姉さんのセンスは妹にはなかったということか。
だが、まあ……呼びやすいという点では評価できるだろう。
「え、えっと……そ、そうだね……」
顔が引き攣ってるぞ、レア。まあ、確かに捻りが全くないが、悪くはないと思うが。
「……サイズ的に見て三人乗れるようには見えないが……」
三人乗れれば一気にゴールに近づくだろうが、明らかに一人用。無理したとしても二人程度が限界だろう。
「それに餌はどうなんだ?量が多いなら養うのは難しいぞ?」
今はまだ保存食の在庫は多少ある。……だがそれは人間三人の食事量から言えることだ。それでも消費しないように道中で動物を狩らなければ三日程度で消える。人間より遥かに体躯の大きい竜がメンバーに加わることによるエンゲル係数の増加は考えるだに恐ろしい。
「あー……」
考えてなかったという表情のユウキは、しばらく悩んだ上で竜をちらりと見た。
……方法が思いつかなかったんだな。
その視線を受けて竜は自分の翼を広げてバサバサと動かすと、何かを啄むようなジェスチャーをした。
「リューちゃんが自分で取ってくるって! その……ダメ、かな?」
不安げに斜め下からこちらを見上げてくるユウキに一つため息をつく。……我ながら甘いよな、と。
「……ちゃんと面倒を見ろよ?あと斥候もしてもらうからそのつもりでな」
ユウキの頭を軽く叩きながら許可を出す。まあ、何の目印もなしにウロウロするわけにはいかないだろう……ということにしておく。方角を失う程方向音痴でもないし、竜の巨体で敵に見つかる可能性も増えるのだが……まあ、いいだろう。
「うん! 早速行ってくるね!」
そう言うが早いかユウキは竜に跳び乗ると、大空に向かって飛び出して行く。
あのはやとちりというか、言えば即実行な性格は後でなんか言わないといけないだろう。……大丈夫だろうか?まあ、ユウキはALOで飛行経験もあるから大丈夫だろうが……。
「……え?」
そんな速さにまだ慣れていないのかレアはぽかんとユウキの飛び去って行った空を見上げていた。
「レア、足が止まってるぞ」
「え、あ、う、うん……じゃなくて! なんでそんなに平常運行なの? いきなりどこか行っちゃって……」
パニックになるレア。まだユウキの突拍子のない行動には慣れないのか。
慌てるのはいいが足は動かして欲しいのが本音だ。
「慣れだな。だいたい一緒に行動してるから……」
俺の所持している電子機器内に意識が存在しているからな。ユウキが話し好きなこともあって手隙の時間はだいたいコミュニケーションを取っている。……まあ、大抵はユウキが一方的に喋っているのだが。
登下校の際はイヤホンを通して声を聴いているから、こちらから喋るとただの変人にしか見えないから注意が必要である。
「まあ、慣れろ……とは言わんが、固まらずに行動できるくらいにはなれ。一々止まっていたら遅くなって仕方がない。さっきの騎士のような連中も次、いつ出てくるかわからんし、早く着くに越したことはないだろうからな」
キリトを初め、あの面々はやたらと慣れるのが早かったが。ユウキの突拍子もない行動も、もっと濃い連中が居たというのが原因だとは思う。
頭上を旋回するユウキの乗った竜を見る。楽しいのか、なにも見つけていないのか、全く降りて来る気配がない。
自前の翼で飛ぶのとはまた別物なのだろうか。トンキーは空間が広すぎたからなのか全くわからなかったが、竜程度ならなにか変わりそうだ。
「そういえばリン達ってどの辺りに住んでいたの?何だかんだ言ってて話したことなかったよね」
「……まあ、遠いところだな。この近辺ではないことは確かだ」
現実のことをどう説明していいのかわからない。とりあえず間違いではないが、レアが勝手にいろいろと想像できるようにわざと暈かして伝える。
……詐欺師とか占い師の手法だな。わざと迂遠な言い方をして相手から情報を引き出す。
「あー……そうだろうね。リン達って肌白いし、伝承の、理想郷(アルカディア)出身のイウム?」
「理想郷?」
「あれ?違った?山脈にある門の向こう側の出身だと思ったんだけど……」
俺達が目指している門のことだろうが……。
「村から出たことないにしてはよく知ってるな」
とりあえずおだてればさらに情報が引き出せるだろうか。
「え、そう?えへへ……えっとね、村に伝わる言い伝えがあってね」
曰く
昔、この世界には二柱の神が居た。その名前は創世神ステイシアに暗黒神ベクタ。それぞれが担当する世界に住まう生物を作った。ステイシアは慈愛をもって争いのない肥沃な世界を作ったのに対し、ベクタは寛厳をもって争いの蔓延る痩せた世界になったという。
さらにステイシアは自身の作った世界とベクタの作った世界を隔てる壁を作り隔絶されたものとした。
やがて二柱の神はこの世界を去る。最後に暗黒神ベスタは言った。長い時はかかるが壁の一部は崩壊するよう細工した、と。
「こんな感じだけど……」
計画通り。成る程。こちらの世界の人間であるあの竜騎士が俺のような白っぽい人間を狙ったのは、肥沃な土地で住んでいるという嫉妬と神の違いによる確執か。正直なところお門違いではあるが、あちらからすればどちらも一緒なのだろう。
「壁があるということは俺達は戻れなくないか?」
「白イウムなリンとユウキは大丈夫だと思う。私は……崩壊したら合流しようかな?」
のほほんと暢気そうな顔でとんでもないことを言い始めるレア。自分の言ったことの重大さに気づいていないらしい。
「何故崩壊がもうすぐあると予測できる?」
「そこら辺にある石を使えばわかるけど?ほら、これ」
レアは砂の中に半ば埋没していた握りこぶしよりも小さな石を拾ってきて渡してきた。俺はその石を受け取ると手の中で転がしながら様子を見る。……が俺からは何の変哲もない石に見えた。
「これがどうかしたのか?」
「その壁と同調してるみたいでね。少し調べればわかるよ?」
その少し、の方法が知りたいのだが……。
「……それがどうしたの?」
少し考えこんでいたからなのか、レアが心配そうに話しかけてくる。
「レア、その壁の崩壊によってなにが起こると思う?」
「えっ?えっと、こっちの世界とあっちの世界の交流じゃないの?ほら、こっちの世界はちょっと大変だし、それで少しはよくなるといいね」
そんな世界でこんな性格、思考をできる方がレアなんだが……。その考え方をしている、脳内お花畑な連中はこちらの世界にも棲息している。
だが、そんな幻想はこの世のどこにもあるはしない。
「壁が取り払われることで起こるのは戦争だな。あちらの世界の資源その他を求めて奪い合う、な。しかもこの世界は良くも悪くも隔たれていた。どちらも真の意味で戦いを知らないのならば始まるのは泥沼の争いだ」
生物は痛みから学ぶ生き物だ。戦争の悲惨さ、恐怖。そして戦争後のリスクすら知らないのならば止める理由はない。片方が完全に壊滅するまで続くだろう。
戦争はある意味では商売である。どれだけの被害を使ってどれだけの利益を得るか、できなければ衰退していく。
「せ、戦争!?」
「ああ。暴力が一番わかりやすいからな」
なにせ相手を力で屈服させてばすべてが手に入るのだから。交渉や駆け引きなど意味をなさない原始的なもの。
「それって止められないの?」
「無理だな」
戦争の痛みを知ってなお、地球では未だに紛争という名前の戦争はおさまっていないのだから、痛みを知らないであろうこちらの世界の住人が止まれるはずがない。
「リン!」
風切り音とともにユウキが会話をぶった切るように降りてきて、変事を告げる。
「竜が三匹飛んできたよ!」
後書き
間章
来るべき最終負荷実験に向けてどんな楔を打ち込むのか、見ていてくださいと思う蕾姫です。
相変わらずユウキは動かしやすい。死の恐怖から解き放たれたユウキは天真爛漫さが増し、周りを引っかき回せるので。まあ、リンは動じないのでレアが割りを食ってますが(笑)
やっぱりユウキは天真爛漫であるべきなんだよ!竜騎士にジョブチェンジしてしまったけれど大丈夫かな?そろそろ礫先生に怒られそうなんだけど……。
シノン登場まではもうしばらく舞っててください……。
感想その他、お待ちしていますね。
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