戦国異伝
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第二百二十七話 荒木謀反その十三
「よいな」
「はい、では」
「さすれば」
幸村と兼続も応える、そしてだった。
信長も自ら兵を攻めさせた、だが。
降る者はおらずだ、捕らえられてもだった。
その者は皆舌を噛んで死んでいく、そして。
夜になるとだ、その闇に紛れてだった。
何時の間にか皆消えていた、そうしてだった。
戦は終わったがだ、信長は本陣に荒木を呼んで言った。
「誰もか」
「はい、一人としてです」
荒木も憮然とした顔で答える。
「捕らえられず」
「夜になってじゃな」
「何処かに逃げ去りました」
「抜け道があったのか」
「どうやら、いえ」
「いえ、か」
「この城はそれがしが築いた城、隅から隅まで知っておりまする」
まさにそうした城だというのだ。
「無論抜け穴の類も」
「それも調べておるな」
「はい、しかしです」
「どの抜け穴を使ったのか」
「まだわかっておりませぬ」
「討ち取った者は多い」
信長は言った。
「そしてじゃ」
「捕らえた者も」
「多いことは多いが」
「しかしですな」
「皆舌を切った」
そうした捕らえた者はというのだ。
「皆な」
「それもおかしいですな」
「浪人がその様なことをするか」
信長は荒木に問うた。
「わしは捕らえた者は召し抱える」
「浪人ならば特にですな」
「それはあの者達にも告げたがな」
戦の中でだ、そうしたのだ。
「しかしじゃ」
「誰一人として」
「それを聞かずにな」
「捕まれば自害した」
「このこともおかしい」
信長はまた指摘した。
「そうじゃな」
「浪人は仕官を許されれば仕えます」
「自害なぞせぬ、仕えずとも逃げる」
戦の場からだ。
「ましてわしは戦で捕らえた浪人の首を切ったことなぞまずない」
「その者が罪を犯してさえいなければ」
「決してな、考えれば考える程じゃ」
「わからぬことばかりですな」
「全くじゃ、あの浪人共は果たしてまことに浪人だったのか」
こうも言う信長だった。
「わからぬな」
「殿、そのことですが」
ここで滝川が信長に言って来た。
「兵達から一つ報がありまして」
「どういったものじゃ」
「敵の中に石川、楯岡、音羽の三人がいたとか」
「あの伊賀の忍達か」
「百地三太夫の下にいたという」
伊賀で服部とは別に棟梁を務めていた者だ、信長もこの名を知っていた。
「あの者達もか」
「いたとか」
「その者達はどうなった」
「姿が見えませぬ」
滝川は信長にこのことも答えた。
「残念ですが」
「左様か、やはりな」
「どう思われますか」
「伊賀か」
信長は腕を組んで言った。
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