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禁じられた舞台

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6部分:第六章


第六章

「事故って!?」
「交通事故よ。昨日の夜ね」
「ああ」
「酔って歩道に出てそれでトラックに当たって」
「マジか」
 思わず妹に問うた。
「それは。本当の話か?」
「何で嘘言う必要あるのよ」
 妹はその紅い唇を尖らせて兄に言い返してきた。上に向けた視線も顰めさせて。
「学校行く前にわざわざここに来て嘘言う必要ある?」
「それはないよな」
「そうよ。じゃあ本当のことだってわかるわよね」
「事故か」
「重傷らしいわよ」
 妹はまた彼に言ってきた。
「すぐ病院に担ぎ込まれてね。大変みたいよ」
「死ぬのか?」
「そこまでは書いていないけれど」
 妹もそこまでは知らないらしい。とりあえず新聞に載っていることだけではわからない。新聞は全てを書くとは限らないものである。
「けれど。重傷なんだって」
「重傷か」
「朝のニュースでもやってたし」
 テレビでもだという。
「とにかく。大変なことにはなってるわよ」
「そうだな」
 ここまで聞かなくても大変なのはわかることだった。何しろ事故だ。しかも彼にとってはこの事故はただの事故ではなかった。しかしこれは妹にはわからない。
「そういうこと。休みの時で悪いけれどね」
「いや、それはいいさ」
 このことはいいとしたのだった。とりあえず話を聞いているうちに酒は抜けてきた。彼にとってはそれだけ衝撃的な話であったのだ。
「それはな」
「そういうことよ。それじゃあね」
「何処に行くんだ?」
 扉の前から消えようとする妹に対して尋ねた。
「今から」
「学校に決まってるじゃない」
 これが彼女の返答だった。何を言っているだ、と自分の顔に出しながら。
「制服着て他に何処に行くのよ」
「それもそうか」
「そうよ。それじゃあね」
「ああ。車に気をつけてな」
「行って来ます」
 こうして妹は学校に向かった。部屋に一人になった若田部はぽつりと、だが愕然とするものを感じながら呟くのだった。
「結局こうなったんだな」
 これが何か。彼にはわかった。やはり何かが起こった。そう思いながら今は一人このことを考えるのだった。
 休みだった次の日。仕事が終わると舞台のスタッフは皆集まった。そうして高山の見舞いに向かったのだった。高山は重傷でありあちこち派手に骨折していたがそれでも命に別状はなく意識もはっきりとしていた。それで皆見舞いに出たのである。
 見舞いに行くと彼は個室にいた。白い一人が使うにしてはいささか広い部屋の中央にベッドを置きその中で横たわっていた。頭には包帯が巻かれ右手と両足がギプスだ。随分と無残な姿である。
「大変でしたね」
「気付いたらここにいたんだよ」
 スタッフの一人の声に忌々しげに返す。スタッフ達は彼の横たわっているベッドの右手に集まりそこから彼と話をしているのである。
「もうな。あと一歩で死ぬところだったらしい」
「あと一歩でですか」
「けれど助かった」
 彼は言った。
「何とかな。この通り頭だってはっきりしてるさ」
「それは何よりですね」
「何よりはものか。見ろ」
 ただ一つ自由な左手を振り回しながらスタッフ達に言ってきた。
「利き腕はこれで両足もこれだよ」
 特に両足は酷いものでギプスのうえに上から吊られている。そのせいで彼の今の姿は余計に無残なものに見える。まるでそこから今にも逆さづりになりそうな程である。
 
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