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ホウエン地方LOVEな俺がゲームの中に吸い込まれちゃった

作者:トキS
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キノガッサという男

 熱せられた皮膚が焼け爛れ、灼熱の火炎が臓器を破壊するそんな熱暴走(オーバーヒート)。ポケモンの間でも大ダメージを受けるソレが人間を巻き込めばどうなるかは目に見えている。例えば人間が宇宙空間に行ったら死ぬという結果。そんな当たり前な常識としてこの世界では存在するのだ。ポケモンの技を人間が受ければ死ぬ。そんな常識が。
 だからこそフラダリは驚いた。ポケモンを庇ってトレーナーが前に出るなど……どう考えても正気の沙汰ではない。ポケモンなら最悪キズぐすりやポケモンセンターで回復する手段がとれる。しかし人間はそうはいかないのだ。耐久力的にも、回復手段的にもポケモン以上に上回るものはないのだから。
 ただ、今回はそれだけじゃない。

「何故だ」

 ポケモンを庇ったトレーナーを、

「ポケモンが庇うだなんて」

 キノガッサを包み込むようにユウキが。
 そして、

 ーーユウキを包み込むようにボスゴドラがオーバーヒートをその身で受けていた。



***



「なんで……」

 キノガッサは純粋に疑問を抱いていた。
 自分を庇ったユウキに。
 そして、ボスゴドラに。

 そんな疑問を打ち砕くようにボスゴドラが口を開く。

「アンタの為じゃないよ。アンタを庇ったユウキの為だ」

 ポケモンが主人を守るのは確かに当然だ。だがそんなことはキノガッサもわかっている。
 しかし明らかに間に合うタイミングではなかった。
 ユウキがキノガッサを庇いオーバーヒートが直撃するまでに猶予などほぼ存在していなかった。その刹那にモンスターボールから出ることが出来るかと言われれば答えはNOだ。
 そんなキノガッサの疑問を感じ取ったのかボスゴドラは口を開く。

「いや……」

 ふっと笑って微笑みながら、

「アタシはアンタの心意気ってやつを尊重したかったのさ」

 キノガッサの覚悟は伝わっていた。同時に引き際を心得ない男特有のいさぎの悪さも女であるボスゴドラは知っていた。だからこそ動いたのだ。
 動き出しはユウキとほぼ同時だった。結果としてユウキをかばう形になったというわけだ。
 気恥ずかしさからか口を閉ざしたボスゴドラは、

「ほら、ユウキからも言いたいこと……あるみたいよ?」

 そう言ってボスゴドラはユウキの背を押した。
 そして、
 ユウキは──。





「ポケモンの為にトレーナーが動くのは当然だろ?」

 クエスチョンマークを浮かべる兄貴に俺はそう答えた。

前の俺(ユウキ)がどんな奴だったかはわからないけど、もし俺とユウキが似てるってんなら迷わずこうしたはずだぜ」

 トレーナーとしちゃ二流なのかも知れない。
 でもボロボロになったまま立ち尽くすキノガッサを黙って見てられなかった。身体も動き出そうとしてたし、ユウキなら反射的にでもこうするんだろう。
 だけど、

今の俺(ユウキ)だって兄貴やボスゴドラ姉貴、みんなのこと大切に思ってるんだ」

 俺の意志は一瞬だが身体の反射神経を上回った。だからこそ、キノガッサを思う気持ちは負けてないはずだ。

「だから兄貴のトレーナーとして命令する」

 こればっかりはユウキでもどうするかはわからない。だからこれは俺のわがままだ。

「『頼んだぞ』」







「ガッサ」

 ユウキの言葉に含まれた全てを察して、キノガッサも一声鳴いた。
 これは『命令』という形でキノガッサに託された。つまりこれは今までの自己満足の戦いではない。真にユウキのための戦いだ。

「実に面白い。それがポケモンとの《絆》と呼ばれるものか」

 フラダリもまた察する。
 これがチャンピオンと呼ばれる者の強さなのだと。

「カエンジシ、お前も覚悟を決めろ。奴らの力には全力でもまだ足りない。私とお前の全てをぶつけるんだ」

 フレア団ボス・フラダリとしてではなく、
 挑戦者フラダリとしてその全てをぶつけると誓った。

「未完成だが……いけるな、カエンジシ」

 カエンジシもフラダリの意志を悟った。全力で駄目なら全力以上で挑む。そこで出した結論が未完成の切り札だったのだ。
 ここでその選択を取れるフラダリはやはり一流のトレーナー。ならば自分も主人を信じよう。そうカエンジシは誓った。

「ォォォォォオオオン」

 カエンジシが吠えながら力を抜くと、炎がカエンジシの周りで渦を巻いた。同時にあふれんばかりの力を足に集約していく。
 ニトロチャージ。
 本来ならそのまま突撃する技なのだが、臨界点を超えてもなおカエンジシは力を維持しつつける。
 間違いない全力の技が来る。キノガッサは察するとすぐさま構えをとった。
 全力以上の攻撃にはこちらもそれなりの覚悟で挑まねばなるまい。それならばちょうどいい技をキノガッサは持っていた。
 左手を前に突き出し前屈立ち。右手をゆっくりと腰に据え、息を吐く。
 きあいパンチ。
 十分な準備と超級の気合いを拳にかけ、込める力の限りを相手にぶつける技。しかし、満身創痍どころかHP1で無理やり耐えているようなキノガッサにかけられる気合いなど残っていない。ならば今集約されている力の源は何か。
 あるじゃないか。キノガッサにぴったりなものが。そう、
 ーー覚悟が。
 あの日ユウキに誓った覚悟を支えにキノガッサは拳を握っているのだ。まさに全力以上を相手にするにふさわしい技といえるだろう。

 互いに言葉は無い。

 変わりにカエンジシが口内に体内のエネルギーを凝縮していた。これは先ほども使った技、オーバーヒートだ。使うと特殊攻撃力が下がり二度目の威力は減少するはずだが、何をするつもりなのか。
 そしてついに状況は動いた。苦しそうに溜めていた口のエネルギーが暴発したのだ。
 未完成と言っていた。失敗してしまったのか。しかしそんなキノガッサの心配は一瞬にして無に帰される。
 暴発したエネルギーをカエンジシは被った。自分の技を浴びたのだ。勿論ダメージは入っているはず。しかし、ダメージを受けつつもそのオーバーヒートの塊は徐々にニトロチャージの炎に吸収されていく。黄色の炎を濃縮された紅に変わった時、それは技の完成を意味した。

「出せる炎に限界があるなら複数の技を組み合わせて合体させればいい。理屈ではわかっていても厳しかったテクニックだが、うまくいったようだな」

 成功した訳、つまりはフラダリに答えたカエンジシの覚悟もまたすごいものだったということだ。

「カエンジシ……行くぞ。ニトロチャージ!!」
「グォオオオォォォオン!!」

 百獣の王の咆哮をあげ、足に集中していた筋力を解き放った。
 これまでにない凄まじい勢いにまとった紫炎の威力。似た技にフレアドライブというものがあるが、それに勝るとも劣らない見事な威力だった。
 それを前にキノガッサは揺るがない。きあいパンチは集中が途切れれば一瞬で威力が霧散する。わかっているからこそ、冷静に目で一挙一動を捉えていた。

 ーーここだ。

 残り数メートル。
 誰もが早いと思った。
 早計すぎると悟った。
 明らかに命中する距離ではない。

 ただその拳は全ての者がとらえきれないスピードで振りぬかれた。

 音はない。置き去りにしていたからだ。
 ただ唯一感じ取ったのは一陣の風。あまりにもゆっくりと感じられたその刹那、スローモーションに流れる視界の中でカエンジシだけは悟っていた。
 自分の身体が空中に投げ出されていることに。

 数メートルの距離なんて無かったかのような圧力がカエンジシを貫いたのだ……とフラダリが悟るころには、大規模な破壊がキノガッサの前方に起こっていた。
 天井が吹き飛び、壁に穴が開く。到底右手一本では起きえないはずの天変地異。
 以前ユウキが使うのをやめようと決心した技に『はかいこうせん』がある。その威力はゲーム換算で150。そしてきあいパンチの威力もまた150だ。つまりそのはかいこうせんと同等の威力を持った拳。
 振りぬけばその威力は無秩序に前方へ放出される。空気を押し込み周囲を崩壊させるのだ。

「くっハハハ!これほどとはな」

 あまりの風圧に後ろに吹き飛ばされながらフラダリはその恐ろしさを確認した。野望の最大の障害になるユウキとそのポケモンの強さを。
 そして、次は組織の全てでもって挑むと。そう心に誓ったのだった。 
 

 
後書き
というわけで更新がしばらく、もしくは永続的に止まります。おそらく。多分。
どうやらランキングにも顔出していたみたいで……感謝の限りです。見てくださった方、今後暁で続けるかはわかりませんがありがとうございました! 
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