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ローゼンリッター回想録 ~血塗られた薔薇と青春~

作者:akamine0806
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第7章 第5次イセルローン攻略戦へ 前哨戦 後編 

 宇宙歴792年 4月21日 2100時 ハイネセン記念ダンスホール
ワルツの中で私の好きな曲「短くも美しく燃え」を踊る。
人類が地球にいた時からの名曲だ。
人は何時も戦争状態にあっても、明日死ぬかもしれないという時も愛する人とダンスをし、この名曲を踊る。
ダンスをしながらそんなことを考えていた。
ニコールがじっとこっちを見つめている。
「ねえ。どうしたの?
考え事?」
ニコールが話しかける。
私は
「なんでもない。
ただ…」
口ごもる
ニコールは
「ただ…」
私は
「不安なんだ。
俺はこの手で何人もの帝国人を殺してきた。それなのに、今こうして君とダンスをしている。
矛盾じゃないか?
いつ、死ぬかもしれないのにここで整然と生きている。
よくわからないんだ。」
ワルツの曲が終わった。
時刻は2130時
ニコールが
「いいのよ。この世の中は矛盾だらけじゃない。
でも、私はここにいてあなたもここにいる。それが重要なのよ。
私はあなたを愛してる。それで十分よ。
だから、私もあなたも次の出兵で生きて帰るのよ。」
トマホークで殴られたくらいの衝撃だった。
私は
「まさか…
イゼルローンに行くのか?」
ニコールは
「軍医士官学校の中で50名が自己推薦選抜で実戦部隊に配属されるの。
全員、繰り上げ昇進で准尉になるわ。
私、あなただけだけが生死をかけているのに耐えられないの。
衛生兵として戦ったのに、今はハイネセンで教科書と臨床をやってるだけ。
アルテミスの首飾りと2個艦隊もの首都防衛部隊に守られて。
だから戦いたいの。
ヘンシェルでは手も足も出ないひよこだった。
でも、今は違うの。もう十分に戦える。」
私は彼女の頬に手を当て
「君がそうしたいなら俺に止める理由はない。
ただ、必ず生きて生きて帰ってくる。
そう約束してくれ。」
ニコールは微笑みながら
「当然よ。あなたもね。」
と言って、私の口をふさぐ
私は
「配属先は?」
ニコールが
「第2艦隊旗艦パドロクロスの医務課外科班よ。」
第2艦隊は並行追撃作戦時の先鋒艦隊だ。
敵の反撃を最も受けやすい位置にいる。
しかし、そのことは彼女には言えないし、一般の人にも言えないことだ。
私はただ、がんばれよ と、しか彼女に言えなかった。

宇宙歴792年 4月30日
自由惑星同盟軍の4個艦隊はイゼルローン要塞攻略へ向けて出発した。
イゼルローン要塞までは時と場合にもよるが10日から最短でも7日はかかる。
その間わが中隊ではイゼルローン要塞の攻略の最終シュミレーションをおこなっていた。
ローゼンリッター連隊はイゼルローン要塞周辺の敵前進基地をたたく。
そのため、今回は小型強襲機による攻撃とパラシュート降下作戦の組み合わせを行うようである。
ブルームハルト大尉(4月29日昇進)は小型強襲機によるミサイル基地の制圧にかかるそうで、本人いわく
「ただの1個中隊じゃ下されない命令がローゼンリッターになると下されるってありかよ。
俺たちだって不死身じゃないんだぜ。」
と笑いながら話していた。
本当は自信がみなぎってるくせに…なんて思ってしまう。
ただ、ローゼンリッターがかなり無茶な作戦に無理やり従事させられているのは事実である。
かなり前の戦闘ではある衛星を制圧するのにローゼンリッター連隊だけで行かされ、結果連隊の4割が戦死する大損害を受けるも、その衛星に駐留していた艦隊を地上で補足、砲撃で撃滅したそうである。
まあ、このときの連隊長はかの有名なカール・フォン・シュトックハウゼン大佐(退役時少将)で、あの人は今でこそ温和なおじいさんという感じだが、現役時代は普通に将官に向かって暴言を吐くし、喧嘩をするし、で上からの睨めつけられ方は尋常じゃなかったそうである。
しかし、当時少尉だったシェーンコップ中佐や当時大尉だったヴァーンシェッフェ大佐曰く
「無茶を無茶とも言わない指揮官だったが、最高の白兵戦技の持ち主で必ず危険が伴う作戦には自らトマホークを持って前線に行っていた。」そうだ。
それでも、連隊の4割が戦死するような戦いはそもそもの作戦がまずかった。
それは連隊規模のものではなく将官たちの間で立案されるレベルでのまずさ だ。
もしかしたら、ほかの部隊の弾除けにされてるんじゃないかとか、上層部は我々をただの政治宣伝部隊にしてるのではないか?(まあ、事実そうであったが)
などの疑問、不安が我々を今日まで強くしてきたといってもよかった。
リンツ大尉は敵の駐留艦隊基地本体をたたきに行くそうである。
「久々のパラシュート降下だ。楽しみだ。」
何とも楽しそうだった。
一方でシェーンコップ中佐は全然乗り気ではなかったが。
というのも中佐は連隊本部で敵の駐留即応艦隊を牽制または撃破するために前線にいる砲撃観測小隊の報告から敵艦隊に砲撃指揮を行わなくてはいけなかった。
「久々の大規模地上戦なのに、面白みに欠ける。」
と終始顔をしかめていた。
まあ、とにもかくにもローゼンリッター連隊内は活気付いていた。

一方、わが第3中隊は緊張感が作戦前だからであろうか中隊全体を覆っている。
第1小隊長 ユースフ・シュタイン少尉も毎日のように自分のトマホークを研いでる。いつもなら、しないことを人間は緊張してるとしてしまう。
単純な生き物である。
そんな単純な生き物が複雑極まりない兵器を操り、殺しあうっていうのもなかなかおかしな話である。
ベテラン下士官のコール・シューベルト軍曹は最後の突入訓練でライフル射撃でドロップアウトを食らったことでずーとライフル射撃への切り替えし方法を考えている。
彼はその年で29歳の若手と言われれば若手、古参兵と言われれば古参兵の強者である。ローゼンリッター連隊特に第3中隊は30歳未満の隊員が8割を占める。残りの2割も35にはいっていない隊員だ。
といっても私自身まだ19歳の若造であったが。


イゼルローン回廊侵入2日前
哨戒飛行に出ていた第9艦隊の第100空母打撃群第1偵察小隊がイゼルローン回廊入口手前A-22ブロック宙域で消息を絶った。
1個小隊丸ごとの消滅であった。
この報告を受けた攻略軍総司令部は第9艦隊に周囲への索敵行動を命じた。
同時に陸戦隊特に我々総司令部に所属する部隊に以下のような命令が下った
「敵艦艇発見の場合は、それを拿捕せよ。」
実は帝国軍の艦艇は撃沈されると、簡易ながら短調で長距離まで届き、さらにその艦艇独自の信号を発するため帝国軍に、今ここで敵艦艇を撃沈すれば同盟軍接近を知らせるも同然になってしまうのだ。
せっかく先鋒の第2艦隊の第10特殊電子戦任務隊が行っている妨害電波工作作戦と偽装工作がすべて水泡に帰すため、これは絶対条件であった。
ただ、彼らのおかげで帝国軍の救難信号や複雑な暗号命令文、通常会話はすべて遮断されもし仮にその艦艇が発信してもイゼルローン要塞はそれを受信できない。警戒衛星群も同様である。しかし、その帝国軍艦艇が撃沈されたときに発する信号は遮断することができないという欠点があったのも事実であった。
かくして、第9艦隊から20にも及ぶ空戦飛行小隊や偵察飛行小隊が索敵行動に出た。
そして、ローゼンリッター連隊第3中隊と特殊作戦コマンド、第125特殊強襲揚陸白兵戦連隊第4中隊はいつ出撃命令が下ってもいいようにそれぞれ付属する強襲揚陸群の艦艇へ移動した。
今回我々ローゼンリッター連隊は連隊指揮下の第442強襲揚陸隊(ローゼンリッター連隊拡張時に改編、改名)の艦艇ではなく、攻略軍直轄部隊の一つの第1強襲揚陸隊の強襲揚陸艦「ケベック3号」に乗船した。
特殊作戦コマンド、第125特殊強襲揚陸白兵戦連隊も第1強襲揚陸隊の艦艇にそれぞれ乗船した。
ケベック3号には私と士官学校同期のナセル・ガルシア中尉が航宙長を務めていた。
ナセル中尉とは士官学校で親友であり、ステファンとの共通の友人でもある。
艦橋に入ったときナセルが
「おう!久しぶりだな。
何を間違ったか、航宙長になっちまったぜ。」
と笑いながら迎えてくれた。
そう、彼は実は士官学校在籍時の主専攻は航宙科ではなく後方支援科であった。
私は士官学校では白兵陸戦科であったが、副専攻でとっていた後方支援科で彼と知り合った。
後方支援科の授業で「宇宙艦艇への補給計画立案」の授業を受け持っていた少佐が適当な人で
「こことここを読めばテストの点数は大丈夫だから。 じゃ。」
と、後方支援科を副専攻でとっていた我々にものすごく適当なことをやってのけたので、それを聞いたナセルは教官室に殴り込みに行き、士官学校の教務主任教官であった、チェン・ウー・チェン准将に
「直訴状」
を突き付けて、准将と5時間にも及ぶあまりにも静かすぎる審議でその少佐を停職処分に持ち込ませるなど、思いっきりの良さはあった。
しかし、戦技や艦隊運営は中の上くらいであった。
成績は後方支援科ではトップ。全体では何とか上の下までくらいついて卒業していたので、後方支援科ではシンクレア・セレブレッゼ中将、アレックス・キャゼルヌ大佐の後任になりうるのではないか、と後方支援科では期待をかけられた後方支援将校であった。
最初の任地は、いきなり第9方面軍の補給任務を担当する第9方面軍後方支援集団司令官(当時 マルクス・モートン少将)の副官であった。
第9方面軍はイゼルローン方面に面した方面軍のひとつで、最も後方支援業務では高度なレベルを扱うところであった。
このマルクス・モートン少将はシンクレア・セレブレッゼ中将の師匠ともいえる凄腕の後方支援士官であったが、士官学校を卒業しておらず自力でそこまで後方支援一筋で生きてきた生え抜きである。
しかし、赴任からわずか半年後。
前線の補給状況視察のためにイゼルローン要塞と最前線基地になっていたカッシート3-3にあった「V-33前進警戒基地」に帝国軍1個混成群が攻撃を仕掛けてきたのだ。
その基地には警戒基地である上に前進基地という簡易基地であったために駐留戦力も1個駆逐隊と1個ミサイル艇隊で構成された任務混成群が駐留しているだけであった。
もはや風前の灯と同盟軍からも思われていたときだった。
彼は天体観測が趣味で恒星であったカッシートが周期的に恒星表面上で大規模な爆発を起こすことを知っており、これを利用して敵の後背から迎撃する作戦を立案、司令部はこれを承認し、この任務群の司令であったマシュー・ベケット大佐はこれに賭けた。
作戦は結果として成功。
のちに、ヤン・ウェンリー元帥が中将 第13艦隊司令官であったときアムリツァ会戦でミッターマイヤー艦隊に行ったようにカッシートの表層爆発周期を測定、爆発と同時に水爆を投下、その爆発によるエネルギーで一気に敵の後背を付いて、3連斉射を行い、離脱。敵の10%に損害を与え、味方艦艇の損害ゼロでこれをやってのけたのであった。
これを注目した上層部とマシュー大佐の推薦で彼は第1艦隊に転属になり今回引き抜かれて「ケベック3号」の航宙長に任命されている。
強襲揚陸艦は隠匿航行を行って敵艦の死角に飛び込むので彼のようなユニークで、優秀で、注意深く、観察力に優れた航宙長がいるのはとてもありがたいことだ。

出撃待機命令発令からその命令が「出撃命令」に変わったのは私がケベック3号に乗艦してから21時間後であった。
第9艦隊の第102空母打撃群宇宙空母「カッサンドロス」から発進した第2偵察飛行小隊のスパルタニアンが
「我、W-11宙域にて敵空戦飛行隊と交戦せり。
尚、該当宙域に敵空母1隻を視認す。
至急来援を求む。」
という、通信が入った。
我々、ケベック3号と護衛の駆逐艦3隻は急行した。
それは、20分もかからなかった。
第2偵察飛行小隊は全滅したようである。
我々の護衛には第9艦隊最強と言われた第99空戦飛行隊の1個中隊が直援機として敵空母拿捕作戦へ向かった。
敵は宇宙空母1隻を主とし、それの護衛のために4隻の駆逐艦が付随した哨戒隊のようであった。
駆逐艦はスパルタニアン・駆逐艦に任せれるが、帝国軍の宇宙空母は戦艦を改造して作ったものがほとんどで、同盟軍のように初めから宇宙空母を想定されて作られたものはない。
そのため、スパルタニアンや駆逐艦では宇宙空母は撃沈できないし、今回は拿捕が目的だ。
ケベック3号の艦長で、我々の緊急編成部隊の長あったナターシャ・リン少佐と相談して駆逐艦とスパルタニアンを敵正面から攻撃させて、我々は敵宇宙空母の死角となる左舷または右舷後ろ(ここはワルキューレの発着場になるため、警戒レーダーも対空砲もない)から仕掛けることになった。
宇宙空母に強襲揚陸したことはないが、作りは戦艦とほぼ同じであったので大体覚えているため正直なところ楽勝であった。
しかし、当時我々はイゼルローン要塞攻略の先鋒として参加するという、未開の経験をする前でその緊張がその時まで続いていたのも事実で、その時の私も気が気ではなかった。今考えればまだ、人間としても指揮官としても幼かったな。と思ってしまう。
まあ、とにかく即席の作戦でその強襲揚陸作戦は実行された。
付近の小惑星群中を航行しながら宇宙空母が孤立する瞬間を待ち構えた。
ナターシャ少佐は強襲揚陸艦の照準を宇宙空母に合わせ、機会を見て突入する。
スパルタニアンは敵の直援機の突出を誘い、ワルキューレを撃墜する。(ワルキューレには撃墜時に信号が発せられることはない)
駆逐艦は敵艦を撃沈しないくらいの距離を保ち、徐々に宇宙空母から引き離していく。
そして、戦闘開始から30分後。
護衛の駆逐艦を時間距離で1時間程度の距離まで引き離すことに成功した。
それを待ってましたと言わんばかりにナターシャ少佐は
「最大船速!目標正面の敵空母!突入!」
ケベック3号は駆逐艦を上回る速度で突入していく。
突入待機室にいる我々は今か今かとばかりに突入の瞬間の衝撃を待ち受ける。
トマホークを握る手に力が入る。
少佐が
「突入まであと1分!」
と通告する声が聞こえる。
私は、部下たちにに向かって
「これはあくまでも、序章だからな。
こんな、簡単なところで死んでたまるか。
必ず、任務を遂行する。そして、イゼルローン攻略戦をローゼンリッターの手で勝利に導こう。
Go for broke!(当たって砕けろ!)」
この「Go for broke!」はまだ人類が地球にいて、地球というちっぽけな中で戦争をしていたときに我々のような政治的にも人種的にもしいたげられた「日系2世」の人たちで作られた「第442連隊戦闘団」という古代アメリカの部隊で作られた用語だ。
当時は、肌の色で差別があったらしく彼らは第2次世界大戦という大規模な戦争が起きたとき、人種差別と敵性国民(当時第2次世界大戦という戦争では日本という国とアメリカは戦っていたため)として強制収容所に入れられていたらしい。
そんな彼らが、自らの立場を確立するために自ら志願し、自ら戦地に立ち、自ら殊勲をあげた。しかし、戦死率は尋常じゃなくらい高く、何度も戦力として崩壊しそうになったらしい。
それでも、彼らは自分の子孫の繁栄を願ってひたすら戦い続けその甲斐あって日系人たちはアメリカ社会でその立場を確立した。
まさに、ローゼンリッター連隊はその血筋を受け継いでいた。
「敵性国民」、「差別」そんな虚構を拭い去るために我々は戦っている。
そういったこともあって連隊設立当初は別の連隊ナンバーであったローゼンリッター連隊は「442」を自らの連隊ナンバーにし、その宿命を自らに課した。
ナターシャ少佐が
「突入まであと10秒!」
衝撃に備える。
少佐は「突入!」
ゴン!
ウィーンと突入口を開くために超高温溶解棒が敵艦の壁を打ち破る。
突入口がレッドからグリーンになり
少佐から
「幸運を祈る。」
と言われる。
私は立ち上がり
「行こう!」
突入用扉を思いっきりあける。

侵入したのはE-22ブロック。
艦橋まではE→F→Gの3ブロックを突破することになる。
私は
「第2,3小隊はFブロックまでの制圧と撤退路の確保、維持。第1、機関銃小隊はFブロックの制圧、維持およびFからGブロック攻撃時の敵部隊の陽動。第4,5小隊はGブロックおよび艦橋の制圧。
出撃前のブリーティングの通りだ!いくぞ!」
小隊長たちは
「了解!」
と元気よく返事をして前進を開始する。
敵艦内では帝国語で警報が叫ばれ、アラームが鳴り響き緊張状態になっていた。
我々は攻撃型縦陣形で突入する。私はその先端で突っ走る。
Eブロックが終わる直前で目の前にバリケードが見える。
そのバリケード越しに帝国軍の乗組員がライフルを連射してくる。
しかし、彼らが持っていたのは小口径ビームライフルだったので我々が着用している装甲服は貫通できない。
バリケードまであと2mのところでステップを踏んでライフルをやみくもに乱射する帝国軍の軍曹を左肩から下に向けて思いっきり切り落とす。
血しぶき
その速力を生かして左右にいたまだあどけなさの残る少年兵2人をそれぞれ腹部、頭部をトマホークで裂く。
敵は蜘蛛の子を散らしたように撤退するが、その背中に第2,3小隊員の強烈かつ容赦ないトマホークが降り注ぐ。
私も、トマホークを振りかざす敵の中尉とつばぜり合いになる。
この中尉はそこそこ強かったが、最後は得意の胴フェイントで頭部を仕留める。
後ろからトマホークが振りかざされる時の「ビュン」という音が聞こえる。
横に、転がって避ける。
その敵は私にさらなる攻撃を仕掛けようとするが、胸部ががら空きであった。
槍の一突きで胸部をそのまま突き刺す。
立ち上がって、次の目標とやりあう。
練成度が低い。
面を打ってくるが、抜き胴で仕留める。
もはや、攻撃ではなく虐殺であった。
短いが地で装甲服が染められそうなくらいの血を流しに流したEブロックを守備していた帝国軍は全滅した。
予定通り第2,3小隊に現状維持と撤退路の確保を行わせる。
私は残りの4個小隊を率いてまた突っ走る。
Fブロックではさすがに帝国軍も頭を使ったらしく、2本の通路から機関銃を使って我々に2正面作戦を強いてきた。
しかし、ここでもやはり陸戦経験が豊富なほうがそれを制する。
私は機関銃、第1小隊に敵の機関銃に向けて撃たせながら牽制射撃を行わせ、
その間に第4,5小隊を率いて迂回側面攻撃でまず、右側通路のに陣取る忌々しい帝国軍の機関銃部隊をやっつけることにした。
第5小隊長のニール・グスタフ少尉に
「ニール少尉。
貴官が先頭だ!行け!」
すると、少尉は
「了解!」と元気よく突撃していく。
第4小隊には援護射撃をさせ、第5小隊は突入する。
ニール少尉の第5小隊は30秒もかかることなくそこに陣取っていた機関銃部隊を敗走させた。
そのまま第5小隊に援護射撃をさせ、今度は第4小隊長のコール・ハルトマン少尉に突入を命じる。
コール少尉も飛び跳ねるように突撃する。
両少尉とも初陣ながらなかなか大胆で果敢な攻撃と指揮を行う。
と、関心したものだった。
結果として、またしても損害なしで敵のFブロックを完全制圧した。
標的はもう、目と鼻の先。
第1、機関銃小隊長のユースフ少尉とクレメンツ少尉に敵のGブロックにつながるG-4-1通路に侵入、攻撃、前進を命じた。
もちろん予定通り、陽動として。
主攻は私が直接率いる第4,5小隊である。
私たちはG-4-4通路を通って艦橋まで一気に駆け上がる。
といっても、直接この通路ではいけない。
もちろん敵も、艦橋入り口には爆薬か何かを仕掛けてるに違いなかったので我々は敵艦の航路制御設備のある第3艦橋設備室から侵入し、オペレータたちの座っている座席の後ろの換気設備口から侵入した。
換気設備口は修理用の通路にもなっているので横幅、縦幅ともに2人の大人の人間が入っても十分な広さがあったものの装甲服を着用しているため少し狭かったが、先頭を行くコール少尉が出口につくと冷静に
「フラッシュパン行きます。」
と言ってきたので
「行け!」
と命令すると、少尉はフラッシュパンを合計3発艦橋に投げ込んだ。
爆発と同時に、一気に穴倉から出る。
出た瞬間が一番危険だ。
第4小隊が出るまでに10秒もかからなかった。
私が出るころには第4小隊が艦橋での強烈ながら短時間の白兵戦を制して敵の艦長を捕虜にした直後であった。
私はコール少尉によって後ろ手にされ縛られたまだ30代前半そうなの艦長に帝国語で
「あなたは、捕虜だ。
ここから先は、我々の指示に従っていただきたい。」
その艦長は
「黙れ、反乱軍。貴様らの指示なんかに従うか。」
私はすかさず
「いや、従っていただこう。
もし、ここで貴官が逆らっても、かなう相手ではない。
我々はローゼンリッターだ。
どんなことでもさせていただく。
それでもよろしいなら、何とでもおっしゃいなさい。」
艦長の顔面が蒼白になる。
ここで、帝国軍のローゼンリッターの誹謗宣伝が裏目に出た。
というのも、帝国軍はローゼンリッターを裏切り者集団として糾弾し、さらにはローゼンリッターによる虐殺事件などありもしない事件をでっち上げては我々を誹謗中傷し、ローゼンリッターの捕虜になれば虐殺・虐待が待っていると宣伝することで、帝国軍兵士がローゼンリッターを見ても降伏の道を閉ざし、死ぬまで戦わせようとしていたのであった。
しかし、目の前にいる艦長は手を縛られ抵抗も、逃亡も何もできない状態だ。
彼は我々の態度を見て虐殺が嘘であるということに賭けたのであろうか、それとも自暴自棄になったのかわからないが、「降伏する。」
と一言つぶやき頭を垂れた。
そして、私はナターシャ少佐に任務完了を報告し、周囲でいまだにあの損害を双方に出させないように戦っていた駆逐艦やスパルタニアン等の戦闘部隊を集結させた。
私はこの艦長にこの帝国軍哨戒隊の全体降伏を命令させた。
彼はそれを実行し、我々は結果として敵の宇宙空母1隻、駆逐艦4隻をほぼ無傷の状態で拿捕した。
攻略軍総司令部に任務完了と現状を伝えたところ総司令部第2部(情報部)が士官捕虜を全員連れてくるように言われた。
その後、拿捕した艦艇を回収しに同盟軍の工作艦5隻がやってきてそれらを回収して去って行った。
私たちも、行と同じように「ケベック3号」に士官捕虜を随伴して攻略軍と合流するために帰途に就いた。
私はその途中で一人の士官の尋問を担当した。尋問といっても、ちょっとした世間話を交えながらの話であったが。
というのも、尋問術は相手に真意を探られた時点で負けであるので、当然世間話はカモフラージュであるが。
私が担当した士官の名は
「マークス・フォン・シュナイダー大尉」
と本人は名乗った。
彼は最後まで敵宇宙空母のなかで抵抗を続けていた機関室の兵士たちを説得し、拿捕した艦艇の中では唯一の無血開城をやってくれた士官であった。
マークス大尉はワルキューレのパイロットで空戦飛行中隊長を務めていた。
私が何よりも彼について注目したのが彼の名字である。
「フォン・シュナイダー」
これはシュナイダー伯爵家出身のものしか名乗ることが許されない名字であり、私の名字はまさにこれだ。
彼には規定尋問が終わったのち、彼が入っている独房でシュナイダー家のことを根掘り葉掘りいろいろと聞いた。ちなみに、彼は私の祖父(見たこともあったこともないが)である、コンラート・フォン・シュナイダー帝国軍大将の3男(私の父は二男)のウォルフ・フォン・シュナイダー少将(宇宙歴782年 エントリッサ星域会戦で戦死。戦死後大将に昇進)の息子。つまり奇遇にも私の また従兄弟ということになる。
彼曰く
「エルビィン・フォン・シュナイダー准将が反逆罪をかけられたのは単純に彼の武勲が抜き出ていただけなんです。
それだけで、彼の士官学校同期で統帥本部人事課にいた将校が情報部と結託して彼は嵌められたのです。そのおかげで、シュナイダー家は廃絶になるところを皇帝フリードリヒ4世が止めに入り、廃絶しなかったんですね。
フリードリヒ4世の侍従武官付をしていたのが祖父だったっていうのがあったのと、その時にはエルビィン准将の疑いも晴れて、彼をはめた士官たちは一斉検挙、死刑になりました。」
と語ってくれた。
私は、彼に自分の本名を明かさなかったのになぜここまで根掘り葉掘り聞くのかと疑われたかもしれないが、そこは聞かれずに済んだ。
父のいまだにしれぬ本当の実像が徐々にわかってきたところであった。
しかし、彼も私の生き別れた兄のことは知らなかった。
それでも少し視界が開けたような気がした。
こうして、私の第5次イゼルローン要塞攻略戦の序章は幕を閉じた。

そして、イゼルローン回廊侵入。
完全に不意を突かれた帝国軍大慌てでがイゼルローン要塞から出撃してくる。
トールハンマーの射程外で同盟軍は完全な迎撃艦隊編成で迎え撃つ。
私は初めてイゼルローン要塞を見たとき暗闇に浮かぶ一つの美しい銀の球体にしか見えなかったが、どことなくため息が出るくらい美しかった。
我々、陸戦隊は出撃待機態勢でイゼルローンへの出撃を待ち構える。
先の実戦で勢いのついた我々はどこの部隊にも勝てる。と思っていた。
あんな、地獄を見るまでは。
敵駐留艦隊がトールハンマーの射程境界線少しと手前で迎撃態勢を整えようとしているが、同盟軍にそれを待っている義理はなかった。
シドニー・シトレ大将の右手が上がる。
そしてあの、図太い声が艦橋に、攻略軍全体に響く。
「中・長距離砲狙点陣地編成中の敵艦隊中央に固定。射撃用意!」
少し間が置かれる。
砲撃手たちのレーザー砲発射ボタンに指が乗っかっているだろう。戦術スクリーンに敵艦隊が陣地構築の際に合わさる瞬間が現れた瞬間だった。
大将が
「撃て!」
その瞬間、無数のレーザー砲の射線が帝国軍の混雑した艦隊線に飛び込んでいった。
こうして、私の今日でも忘れえぬ第5次イゼルローン攻略戦の火ぶたが切って落とされた。
宇宙歴792年5月7日 0100時のことである。 
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