雲は遠くて
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95章 詩織の信也への一途な思い
95章 詩織の信也への一途な思い
10月18日、日曜日。午後の3時を過ぎたころ。
晴れわたる青空で、夏のような陽ざしである。
信也の運転する、トヨタのスポーツタイプ、ホワイトパールのハリアーが、
助手席には詩織を乗せて、大沢工務店の駐車場に止まる。
駐車場には、詩織の姉の彩香が、笑顔で出迎えた。
「お二人は、ほんとに、美男美女で、ほんとにお似合いだわ!」
ハリアーから降りたった信也と詩織の、お似合いの姿に、
心を奪われて、うっとりしながら、彩香が微笑んだ。
ジーパンにTシャツの、信也は身長175センチ。
フレアスカートとカットソープルオーバーの、詩織は身長163センチ。
ベーシックワンピースの、彩香は身長164センチ。
「やあだぁ!お姉さんたら。身内で褒めてくれても、何も出ないわよ。ぁっはは」
「彩香さんこそ、いつもお美しいから、ぼくなんか、胸がドキドキしますよ。あっはは」
信也が、マジで、照れながら、そう言って笑った。
詩織の姉の彩香は、大沢工務店のCS課(顧客担当)課長で、
一級建築士でもあり、代表取締役の父からの信頼も厚い。
1989年4月5日生まれの26歳で、妹の詩織とは、とても仲がよかった。
「きょうは、しんちゃんに、ぜひ1度、うちのショールームを見ていただきたいと思って!」
大沢家の住まいと、大沢工務店社屋の隣には、
リビングやキッチンや浴室などの実物展示のショールームが、2010年からオープンしていた。
「あっはは。おれが、マイホームを持てるなんて、ちょっと考えられないっすけどね」
「大丈夫よ。しんちゃんは、堅実で、収入だって、すごいんですから。豪邸も夢じゃないわ。
ねえ、詩織ちゃん!詩織ちゃんも、大学生なのに、グレイスガールで、がんばっているんだし。
マイホームの夢なんて、あなたたち二人なら、実現はすぐそこよぉ!」
「まあ、まあ、お姉さん、でもやっぱり、そんなマイホームなんて、
遠い夢のような気がするけれど。実現したときには、どうぞ、よろしくね!
彩香ちゃん。うっふふ」
・・・わたしと、しんちゃんは、それは今は、誰もが羨むほど、
いつも、熱くって、超仲いいわ。毎日が幸せ感じる日々だわよ。
でもね、お姉さん、それだからこそ、ふっと、今が幸せすぎるから・・・、
ふっと、不安がよぎることもあるのよ。
幸せって、壊れやすいものっていう気が、ふと沸き起こるのよ。
お姉さんだって、これまで楽しく付き合っていた彼氏と、
最近はうまくいってないのよって言っているじゃない。
だから、やっぱりね、世の中で、幸せのままであり続けるって、きっと難しいのよ。
だから、ふっと、今は最高に幸せなんだけど、不安な気持ちがよぎるの。
でもね、でもね、わたし、しんちゃんの優しさには、不安も何もかも、忘れられるの!
だから、今は、しんちゃんが、わたしのすべてなの!・・・
そんな思いに、そっと胸を熱くして、澄んだ眼差しで、少しうつむくと、
21歳、早瀬田大学3年の詩織は、ショートボブの髪と首筋を、指先で触れた。
ショールームのエントランスの前で、詩織は、ちょっと信也の横顔を見た。
詩織のやわらかな小さい手が、信也のがっちりとした大きい手を、強く握りしめた。
≪つづく≫ --- 95章 おわり ---
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