ホウエン地方LOVEな俺がゲームの中に吸い込まれちゃった
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真実
エニシダさんから聞いた今でも整理がついていない。
しかし真実がどうであるかは最初からはっきりしていた。俺が認めたくないだけ。俺の中にわだかまる確かな違和感がその最たる証拠となってしまっている。
希望的観測に縋るな。1%の可能性にかけるなんて馬鹿な真似はするな。
ただそうでなくては俺の方がどうにかなりそうだった。
この世界はゲーム。大衆はプログラムで設定された行動しか出来ないはずなんだが、どうやら俺という『人間』は完全に例外らしい。
あろうことか感情移入してしまっているんだ。
RSEの主人公としてか、1プレイヤーとしての気持ちかはわからないが、この数日は楽しかったし、もう友達だと認識してしまっている。
例え彼女が偽物だとしても。
「あっこんなところにいたんですねユウキさん」
ハルカ……いや、もう俺はそうは呼べない。
そのナニカは俺に話しかけてきた。あろうことか笑顔でだ。
「びっくりしましたよ。訳がわからないうちに逸れちゃったんですから」
「おい」
「本当に心配したんですからね」
「おい」
「こんな狭い部屋で……探すの大変で」
「おい」
「なんでしょう?」
「オマエのソレが自滅だってわかってるか」
「え?」
「俺は1%の可能性にかけてたんだ。初っ端からへし折ってくれちゃって……」
「だから何を……」
「《ハルカ》はゴーストタイプを使わない」
「……」
「後ろにいるゲンガーお前んだろ」
「……そうです、が」
「ご丁寧に準備万端で来るとはな……」
「このゲンガーは何かあった時の為にボールから出して、」
「おいたんじゃねえだろ?俺を『さいみんじゅつ』にでもかけるためだ」
「ちがっ」
「違わない。ついでに言うと《ハルカ》は野生児だ。父親がポケモン博士やっててなぁ。研究を手伝っていつも土埃で服を汚して帰って来るような、そんなやつだ。オマエみたいに着飾ったりしない」
「でも……私は」
「《ハルカ》の一人称はあたしだ」
「…………で、でも」
「1%の可能性ってのはな。お前が来ないことだったんだよ」
「え……」
「俺のこの数日が全て虚構でゲンガーのさいみんじゅつによるものだったってな。夢オチってのもありだった」
「……それじゃあ」
「ああ。どっちみちオマエは黒だった」
「……そんな」
「そもそも俺の知る《ハルカ》と合致する点が一つもない時点で気づくべきなんだよなぁ」
「……それでも」
「もう論じ合う必要が無いまでに俺ん中で結論付いてる。確たるものと言えば俺がユウレイに遭遇した時だ」
「……」
「俺の影」
「…………それが」
「気づいてたさ。俺の影にオマエのゲンガーが入り込んでたのはな」
「……」
「ポケモン図鑑にゲンガーはこうある。
《夜中人の陰に潜りこみ少しずつ体温を奪う。ねらわれると寒気が止まらない》
《命を奪おうと決めた獲物の影に潜り込み、じっとチャンスをねらっている》
……ってね」
「そんな……こと」
「俺が動けなかったのはゲンガーが影の中に入っていたから。俺が空気を生暖かいと感じたのはゲンガーが影に入ると体温が下がるから。あのユウレイはゲンガーが作り出した幻影……つまり全てがゲンガーの仕業だったってことだ」
「何故……気づいたんです」
「それ認めたってことでいいんだよね。まあ、気づいた理由ってのは単純。俺の身体がすごいんだ。キノガッサがボールから出てゲンガーの拘束が緩まった瞬間、影から飛び出したゲンガーを眼で捉えるくらいにはな」
「……」
「俺は今、」
オマエを倒して進まなくちゃいけないくらいには焦ってる。
このお嬢様な雰囲気のダレカとは違う。
「本物のハルカが危ないんだ」
「え……?」
「オマエじゃない、正真正銘本物のハルカが今悪い奴に捕まってるって連絡があった」
「な……」
「まあその時点でオマエが偽物ってことはしれてた訳だけど、今俺は急いでるってことはわかんだろ。これ以上何かしようってんなら情け容赦なく叩き潰すとこだが、」
「…………」
「オマエの目的を知りたい。わざわざオマエに俺が話したのは、早急にオマエの目的を説明して欲しかったからだ」
***
その話を聞いてまず初めに脳裏を掠めたのは昨日の夢だ。
ーーーー
ーーー
ーー
ー
公園で女の子が追いかけられていた。
「いや!離して!」
赤い服を着た男に女の子は取り押さえられる。多少の抵抗があり、苛立った男は女の子を殴って気絶させた。爪が当たったのか女の子の右耳の後ろが切れ、血が公園の遊具に飛び散った。男は女の子を一瞥したのちに抱え、その場を後にする。
男が向かった先は何処かのビルの二階だった。エレベーターで上がり、部屋に入った男は女の子を乱暴に床に投げ捨てた。
「ここで待ってろ」
そう言って男は女の子をガムテープとロープで拘束し部屋を出て行った。
女の子が目覚めたのは数時間後。気がついたら電気もついていない部屋で身体を拘束されている……その恐怖が女の子の全身を震え上がらせた。
男が帰ってきたのは二日後だった。女の子は窶れ、意識は既に朦朧としていた。
「ーーーーさま。こいつが例の娘です」
「……取り敢えずアジトまで連れていけ」
男と一緒に入ってきたもう一人の男が何かの指示をだす。男はその男に素直に従い女の子を担ぎ移動を始めた。
女の子が気が付いたのは男の背中から丁度降ろされる瞬間だった。反抗しようとしたが身体に力が入らない。ずっと監禁されていたのだからしょうがないだろう。男はその様子を近くにいた先程と同じ男に伝えた。どうやらもう一人の男の方が目上の存在らしく男は忠誠の証として片膝を地面につけ首をたれた。
女の子はそれから更に二日後、ろくに食事も与えられずに弱りきった身体のまま外に連れ出された。しかし最早抵抗する余力は残されていない。監禁されていた施設を出てすぐ、女の子は男に砂丘の蟻地獄に放り込まれた。
薄れた意識の中、最後女の子は男を睨みつけ……
砂に飲み込まれ完全に息を引き取った。
ーーーー
ーーー
ーー
ー
話は大方この夢通りだ。
なんだろうな。正夢か?
「つまり、どこぞの研究施設に捕られた挙句オマエは砂漠に捨てられたと」
「はい」
だがそれなら、
何故俺について来た。
何故初めにあった時オマエは砂漠のあんな場所にいた。
何故あそこにはフライゴンがいて、しかもりゅうせいぐんを覚えていた。
ユウキの優秀な脳が回転し始める。事実を配慮しながら結論を導く。
「それを話すには《私》が何なのか説明しなければいけません」
「何って……」
聞きたくはなかった。
だが、この身体が、経験が、俺のこの世界の外側の知識とユウキの経験がピッタリと嵌り、疑いようが無いまでに完璧な推理……いや、『答え』を導き出してしまっている。
続く彼女の言葉は予想通り。導き出した『答え』と全く同じ内容だった。
「私死んでるんです」
***
私は砂漠に捨てられました。
どうして捕まったのかもわからないし、どうして捨てられたのかもわかりません。ただ息が吸えず頭が真っ白になる中で、私に芽生えたのは一つの復讐心でした。だって理不尽じゃないですか。捕まえられて酷い仕打ちを受け、こうして苦しんでいる。どう考えたって憎むのは当然です。
復讐からは復讐しか生まれない。
どこかのアニメでこんなことを言っていました。でも平凡に日々を送っていた私が理不尽にも殺されて、醜くても復讐心を抱かない方がおかしい。良いじゃないですか最後くらい。私を殺したあいつらを精一杯恨んだって。どうせ、死ぬんだから……
走馬灯の代わりに世の中の理不尽を嘆くと、私の意識はそこで途切れました。
気づいたのは、私の感覚でそのあとすぐです。身体がフワフワと軽く開放感に満ちていました。私はその感じでああ死んだなと判断。とすると此処は天国か何かなのでしょうか。間違っても地獄とか言わないで欲しいです。
ゆっくりと目を開けてみます。するとそこには……
私の身体がありました。
幽体離脱とでも言うのでしょうか。私の身体を私自身で見る。とても不思議な気分だったのを覚えています。
しかも私自身は宙に浮いている。軽く動いてみます。感覚としては手足を動かすような自然な感じです。しかし岩や地面を触ることが出来ません。完全に幽霊です。人間は死ぬと魂だけが天に召されると言いますが、その途中でアクシデントでも起きてしまったのでしょうか?
そんなことを賢くもない頭で考えていると、
「フラッ!フライゴォオオン!」
何かの拍子でモンスターボールの開閉スイッチが押されたのでしょうか。可愛がっていた手持ちのフライゴンが私の身体に向かって鳴いています。涙を溢れさせるフライゴンを見て、私もこみ上げるものがありました。しかし涙は出ません。肉体が無いのだから当然とも言えます。そんな時、脇にもう一匹ポケモンがいることに気がつきます。
ゲンガーです。
私の2匹しかいない手持ちのもう一人。そのゲンガーは何故か私の身体ではなく『私』を見ています。魂だけになったこの『私』を見ているんです。
ゆっくりと、私はゲンガーの前に降りて行きました。
『私が……わかるの?』
「ゲンガー……!」
その瞳は何か言いたげで、悲しんでくれているようにも見えます。
ゆっくりとゲンガーへ手を伸ばすもさわれません。物に触れることが出来ないのです。少し期待をしていましたがダメでした。涙が溢れそうになります。
でも何故ゲンガーには私が見えるのでしょう。ゴーストタイプだからでしょうか。
まあ、いいか。どうせもう死んだ身。ゲンガーに最後に挨拶出来て良かったと、それだけで十分です。この後、私は遅れて天国にでも召されるのでしょう。その手土産としては最高です。
しかし待てど暮らせどそんな気配はありませんでした。
一日、一週間、一カ月。
経てども、代わり映えなく巡っていく時間。
そんな中、私はふと思い立ちました。
『復讐をしよう』
最初は小さな野望で留まっていました。
しかし時が過ぎるうち、それは私の中で膨れ上がり真っ黒な感情が私の全てを染めていったのです。
それから私はゲンガーと色々な場所をまわりました。
最初の公園、砂漠、マンション……。
そんな毎日を数年間。しかし私を殺した奴らの手がかりは見つかっていませんでした。
***
「そんな時でした。貴方がナックラーの群れの長になったフライゴンと戦っているのを見たときは」
「あーやっぱあのフライゴンはお前のだったのか……」
「でも……私が私の身体を動かせるようになったのはその時からなんです」
ん?どういうことだ?ゲンガーと回ってたんだろ?
「それは幽体のままです」
は?じゃあなんで?
「理由はある程度、察しついてるんです」
ほう。
「私……貴方に惚れてしまったんです」
へえ。
……は?
「あの見事なポケモンバトルの腕。その容姿。表情……そういうの全部ひっくるめて大好きなんです!」
───コノ子ハ何ヲ言ッテイルノカネ。
「一目惚れってやつですね……あぁもう貴方を見ているだけで私もうドキドキしてしまって……」
お、おっと……。
「私、町中で倒れたでしょう?その時、見間違いだと思うんですけど私を殺した人らしき人影を見たんです」
……。
「でもその後、普通に接して励ましてくれた……もうアレでコロっといっちゃいました私。惚れたからこそ自分の身体に入れて貴方と共に過ごせたんだと思います」
……え、えっとこれ、何?どう反応すればいいの?
「復讐心なんかその時ぶっ飛んでしまいまして、」
ちょ、ちょっと待って……。何か様子がおかしいよ?
さっきの幽霊モードとは違うけど、黒い?いやピンク?そんなオーラが見えてるよ?心なしか俺を見る目もぞわぞわするし……。
「貴方のことを考えるともう堪らないんです。あ"あ"……」
そ、その恍惚の表情はな、ななな何だ。
「もう貴方の全部が欲しい」
き、気のせいかな……目のハイライトが消えていってる気がするんだが。
「貴方の……」
「力」
「心」
「腕」
「足」
「瞳」
「全てが愛おしい……♡」
お、おい……。今語尾にハートマークが見えたぞ。あとよだれ。そんでもって頰に手を当ててもう片方の手で自分の身体弄るのもやめてくれ。いやマジで。百円あげるから。
「だから、私に全てをください♡」
す、全て……?
「文字通り貴方の臓物から◯◯、脳みそに眼球。ぜーんぶです♡」
そう言ってソイツはゲンガーを呼んだ。どうやらバトルでもするらしい。てか今更だけどなにこれ。前半悲しい感じのお話だったよね。下手くそが書いた二次創作並に急激に流れ変わってるんだけど……。
「貴方と◯◯したいですし、息が覚束なくなるくらいのキスもしたいですし、◯◯に◯◯が◯◯◯◯ですし、髪の毛一本一本から足の爪の垢まで全部口で味わいきったあと……」
これ以上奴の口を開かせるとR18タグをつけなくてはならない。
そんな無限に湧いてくる蛆虫が這い上がってくるような、熱烈なアプローチに、俺はこう思った。
(気持ちわるっ!!!!!!)
正直言っていい?全然嬉しくない。
「まあセーブだセーブ」
ボス戦前と伝説級ポケモンの前ではみんなレポート書くよな。そうレポート。今日の出来事を書いてセーブしておくんだ。
状況を整理することは大事だぞー!レポートは簡潔にまとめよう。
こうだ!
*レポート*
この子ヤンデレでしたまる
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