ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
過去-パスト-part2/復讐の宇宙忍者
それからしばらく経った日の事。
サイトが学校の授業の一環である職場体験のために、GUYSの基地『フェニックスネスト』を訪れたときのことだ。
ツルギはヒカリとなってからもメビウスやGUYSと結託することが多かった。だから、ツルギのことを知るには、GUYSと直接接触することが最も効率がいいと考えた。
職場体験当日、サイトは自分のすぐ目の前にそびえるフェニックスネストを、遠い目で見上げた。
あくまで体験だから、流石に企業秘密級のエリアまでは探索はできないし、迷ったり勝手な真似をさせないために引率の職員が来ることになるだろう。だが、両親を殺しておきながらのうのうとメビウスやGUYSと共に地球のために戦うウルトラマンヒカリ…ツルギの真意を確かめるためにもここで彼のことを知りたいと強く思っていた。もしあったら、言いたいことを躊躇い無くたくさんぶつけてやろうとも考えていた。
この日のために学校で配布されたGUYSのパンフレット、その写真に掲載されているヒカリを見たサイトの顔が、歪んだ。肉親を殺した癖にヒーロー気取りのウルトラマン。サイトにとってのヒカリへの印象は険悪だった。
これはサイトに限った話ではない。ヒカリがツルギだった頃の周囲を顧みない戦いによって被害を受けた人々は彼だけではないのだから。
サイトに思い切り握られたせいで、パンフレットはいつの間にかぐしゃぐしゃになっていた。ヒカリを掲載している写真を中心に。
「ツルギ…………」
先日は、かつてウルトラ兄弟を欺いたことで有名な『暗黒宇宙人ババルウ星人』がツルギの偽者に成りすまし、ヒカリの地球人からの信頼を失わせようとした事件が起こり、ヒカリは見事ババルウの企みを打ち砕くことでその信頼を取り戻したことがあったのだが…サイトだけはヒカリを信じ切れずにいた。憎しみの心は未だ彼の中に健在だった。
この時、サイトはその憎しみの心を、まさか地球侵略をもくろむ悪しき者に狙われるとは思いもしなかった。
「初めまして、僕は『ヒビノミライ』。君が今日職場体験に来た学生さんかな?」
GUYSクルーらしき若々しい青年が引率にやってきた。ヒビノミライ…後にサイトはこの男がある悪徳ジャーナリストによって正体を世間にぼろうされたウルトラマン…『メビウス』の地球人としての仮の姿である。
「は、はい。そうです」
目の前にいる青年が実はウルトラマンだなんて思いもせず、サイトは礼儀正しく頭を下げた。
「えっと…今日は、えっと…お忙しい中、ありがとうございます。その…よろしくお願いします」
サイトはあまり堅苦しいことが得意ではない。それはこの時から数年後の、アンリエッタとルイズが再会した時も同様なのだが、こういったことは生まれつき苦手なのだろう。
「いいよ、そんなに緊張しなくても。それに忙しくても、GUYSに興味を持ってくれることは嬉しいから」
青年はにこやかに笑みを見せると、フェニックスネスト内にサイトを案内した。メビウスと共に戦ってきたGUYSクルーたちはほとんどがライセンスを持っているだけの新人だらけだった。この日、GUYSのメンバーは他の任務や、元の職場に久しぶりに顔を見せに基地を空けた者がいたため、この日結果としてミライがサイトの引率役を買うことになったのである。
GUYSの持つ代表的な戦闘兵器『ガンフェニックス』の格納庫の案内や体験整備、ブリーフィングルームへの案内と紹介、各隊員の役割などをそつなく教え、時間が過ぎて行った。
食堂前に着いたところで、ミライが立ち止まる。
「そろそろ昼食の時間だね」
一緒にご飯でも食べようか、とミライが誘おうとしたのだが、彼の隊員服の胸のポケットの通信端末『メモリーディスプレイ』から着信音が鳴り響いた。ごめん、と一言入れたミライが端末を起動させて、通信先の相手と話をする。それを終えると、サイトに両手を合わせて誤ってきた。
「ごめん、急用ができたみたい。すぐに終わる程度のものだけど…」
「あ、いえ…。構いません。食べ終わったらここで待ってますから」
GUYSは怪獣や星人への対策以外にも忙しいものだとはわかっていたので、サイトは気にしなかった。
「ごめんね。すぐ終わらせてくるからね」
ミライは最後まで申し訳なさそうにサイトに謝り続け、彼の元を後にした。彼が去りゆく姿を見送ると、入れ替わるようにサイトの背後から違う声が聞こえてきた。
「君、ちょっといいかな?」
「?」
誰かが自分に話しかけてきたようだ。サイトは振りかえってみるが、そこにいたのは見知らぬ男だった。サングラスに帽子を被っていて、その男の目はどうも胡散臭さばかりが漂っている。まるで、得物にありつくためならどんな手を使うこともいとわないハイエナのような…。
「俺はジャーナリストのヒルカワと言う者だけど」
「あの…俺に何か用ですか?」
あまり関わりたくない人種のようで、サイトはさっさとフェニックスネストに行きたかったのだが、ヒルカワは話を止めようとしなかった。
「いや、君がやたら、その青いウルトラマンの写真をくしゃくしゃにしてたのが、ちょっと気になってね」
ヒルカワは嫌らしい目でサイトの手によってくしゃくしゃになったパンフレットの写真のヒカリを指さして言った。
「せっかくだから、食堂で話さない?俺もGUYSには個人的に興味があってね」
ほぼ無理やりに近い形で、サイトは食堂に連れて行かれた。
食堂の空席に、互いに向き合う形で座ると、ヒルカワは早速メモ帳とシャープペンシルを出してサイトに尋ね始めた。
「さっきGUYSに興味があるっていってたよね?俺は、GUYSの職場体験に来た君と話をしたくて誘ったんだ」
机の上に鞄を置いて、何やら怪しげにそのかばんの中に手を突っ込んで何かとゴソゴソとしている。
「はあ…」
「早速だけど、君はどうしてここに?」
なんか厄介そうな人に絡まれたな…とサイトはため息を漏らしたくなったが、相手に不快を与えまいと堪えた。
「…GUYSに憧れてるからです。僕にとってGUYSとウルトラマンは、命の恩人でもあり、憧れのヒーローでもあるからです。僕は彼らのようにいつか人を守る仕事に就きたいと思ってます」
すぐ近くの席に次々とフェニックスネストに勤務する職員たちが座っていく中、サイトは淡々と答えた。
「でも、パンフを見たときの君の目は、憧れの存在を見る目じゃなかったな」
このヒルカワと言う男、話しかける直前までサイトのことを観察していたようだ。
「実のところ、もっと別の理由があってここに来たんじゃないのかな?」
鋭く心の中を射抜くようなその視線は、すでにサイトがここに来た真意を見抜いていた。このまま誤魔化したところでこの男はハイエナのようにしつこく追いまわってくると思い、サイトは俯いて本当のことを話した。
「…すいません、俺…嘘つきました。本当はそのために職場体験に来たわけじゃないんです」
それを聞いてヒルカワは反射的にペンとメモを構えた。
「俺の両親は、ツルギに殺されたんです」
「ほほぅ」
非常に興味深そうに、そして狙い通りだったのかそれを聞いたヒルカワはにやっと笑った。それからサイトはいつどこで両親が死んだのか、両親の死によって自分は孤独に落ち、ツルギを憎むようになったと告白した。
「ウルトラマンに家族を殺された少年…か。これは興味深いな」
そう呟いたときのヒルカワの声は、明らかに悪巧みを目論んでいる悪者そのものだった。
知っている人がいるかもしれないがこのヒルカワ、サイトの世界の地球では有名だった。それも…『悪い意味』で。彼はゴシップ記事の記者で、ネタを集めるためならどんなに汚い手段もいとわない。一度目は元保育士のGUYSクルーの幼馴染と接触し、彼を利用してGUYSクルーたちに暴力事件を起こさせようとして記事を掲載しようとしたと言う悪事を働いていたのだ。それが失敗すると、今度は別の隊員のスキャンダルを記事にしようとするわ、挙句の果てにエンペラ星人が地球に手を下してきた際に『ウルトラマンメビウス』の引き渡しを地球人に要求してきた際、彼の正体がGUYSクルーの一人だということを暴露するという、恩知らずも甚だしい行為を取ったのだ。ヒルカワは、地球ではウルトラマンが来る以前に『古代怪獣ゴメス』をはじめとした怪獣が出現していたというのに、ウルトラマンがいるから怪獣や侵略者が来るのだとそんな身勝手で根拠のない考えを持っていたため、ウルトラマンを貶めることに何の疑問も抱いていなかったのだ。こうして、ウルトラマンヒカリのゴシップ記事のネタを手に入れいるためにサイトを取材しているのもそのためである。
「ここに来れば、ツルギのことをもっと知ることができるって思ったんです。親の仇であるツルギを…」
「親の仇…?」
声の質からして信じられないと言っているような声が聞こえてきた。その声が聞こえた方を向くと、急用を済ませてサイトを探しに来たミライが、席に座っている自分たちを驚愕した眼差しで見下ろしていた。
ミライを見ると、ヒルカワはそそくさに荷物をまとめて退散していった。ミライに顔を見られるのが不味いとでも思ったのだろうか。ミライは去っていく男にあ、と声を漏らしながらも引き留めようとしたが、それ以上にサイトが言った言葉の方も無視できなかった。
「ツルギが親の仇って…それって、ヒカリを貶めようとしたババルウ星人のことだよね?」
ミライ=ウルトラマンメビウスは純粋すぎる青年だ。以前ヒルカワとつるんだ、GUYSクルーの仲間の一人『アマガイ・コノミ』の幼馴染の男が彼女を騙した時は、守るべき相手である人間であることも忘れて殴り飛ばしたくてしょうがないほどの怒りに駆られたこともある。相手を罵倒する言葉がもし自分に降りかかってくるとその分だけ真に受けてひどく傷ついてしまう。今のサイトの言葉にも、その次に言った彼の言葉にも非常にショックを受けることとなる。
「…違います。みんながウルトラマンヒカリって呼んでいる…正真正銘本物のツルギが俺の親の仇なんです」
「そんな…!!でも、ヒカリは心を入れ替えて、君たちを守ってくれるようになったじゃないか!ババルウ星人が化けた偽のツルギのときだって…」
ミライにとって、ツルギ=ウルトラマンヒカリは当初こそ衝突があったものの、今では誇るべき戦友の一人。悪く言われたりすると決していい気分ではない。
だが、こうしてただ自分の意見を拒否されるようなことを言われ、サイトもいい気分ではなかった。
「あんたに…あんたに何がわかるんだよ!俺たち地球人を守ってくれるはずのウルトラマンに裏切られて、家族を殺された俺の気持ちが、あんたみたいに幸せそうでへらへら笑っているだけのあんたに!!」
「…!」
「あんたがそれで気が済んだとしても!たとえツルギがババルウ星人を倒したことで地球の皆の信頼を勝ち取っても…俺の両親は、父さんと母さんは二度と帰ってこないんだ…!!」
ミライは、剣幕を散らすサイトにどう言い返せばいいのかわからなくなっていた。ずっと地球を守り続けてきた立場の自分の同胞が、こうして守ってきたはずの地球人から恨まれている。同じウルトラマンとして…地球を守護する者同士として複雑な心境にならざるを得なかった。ヒカリに倒されたババルウ星人は、目の前のサイトがそうであるように地球人のヒカリに対する恐怖や、怒りと悲しみを利用したその卑怯な手口がどれほど効果を表していたのかを改めて痛感した。
「教えてくれよ…あなたはツルギがどこにいるのか知ってるんだろ!!あいつに話をさせろよ!!」
ミライに怒鳴りながら、サイトは彼の胸倉を掴んで無理強いする。
周囲から、いつの間にかミライとサイトの鬼気迫る空気を察した視線が集められていた。
「…それはできない」
ミライは感情を押し殺しながら静かにそう言った。
サイトは感情的になりすぎて正常な判断を鈍らせていたが、この時のウルトラマンヒカリは地球を狙う敵の動きを探るために独自に宇宙へ旅立って行ったのだ。そもそも無理な要求で、子供の我儘も同然の話だった。それに、ミライ自身は次にもう一つ、ツルギとサイトを引き合わせることのメリットの無さを語った。
「もし僕が彼と君を引き合わせることができたとしても、君が彼に言う言葉なんて決まっている」
「…!!」
さっきまでの温和な好青年らしい笑顔は、そこにはなかった。鋭い、戦場に立つ戦士として相応しい顔つきと眼光はサイトを貫いた。
「…もう、今日は帰ります」
「待ってくれ!」
居づらくなったサイトは、ミライから露骨に視線を反らして言うと、鞄を背負って食堂から、そしてミライの声にも耳を傾けずフェニックスネストからも去って行った。
「くそ…」
帰り道、サイトは本当の目的を、親を失ってから願ってきたことが結局叶わない状況がこの先も続くことに苛立ちを募らせていた。
一歩歩く度に、背後にそびえるフェニックスネストが小さくなっていく。すると、サイトの前に人影が立ちはだかる。またしてもヒルカワだった。今度はサングラスと帽子を脱いでいた。ウルトラマンを憎む少年とは、ヒルカワにとって貴重なスクープの材料、絶対に逃がしたくはない逸材だった。
「あのさぁ、平賀君。もう一度だけでいいんだ。取材料だって弾むし、もう一度だけ話を聞かせてくれよ。もっと詳しい話を君の口から聞いておきたいんだ」
嫌らしい笑みを浮かべ続けながらヒルカワはしつこくサイトに付きまとい続けた。サイトは今、誰とも話をしたくなかった。ましてや、こんな腐った匂いを漂わせている男と話なんてまっぴらだ。とっととどこかで退散しようと思っていたのだが、ヒルカワはなおもしつこく追い回し続けた。
「なあ頼むよ~。一度だけでいいんだ。な?ウルトラマンに家族を奪われた時の気持ちとか、とりあえずカメラに記録しておきたくてさ」
人目の少ない裏通りを通ったところで、これで数度目になるのか、ヒルカワはうざったらしく取材の要求をしてくる。サイトもいい加減この男に対して堪忍袋の尾が切れようとしていた。
(このおっさんいい加減しつけえな…いっそ殴り飛ばしたほうがいいか…?)
ジロッとヒルカワを睨み付けたが、所詮相手が子供だからと言う理由もあってか、全然気にも留めず澄ましている。
しかし、サイトを追い回していたのは、ヒルカワだけではなかった。
「興味深いな」
「「!」」
スーツを着込んだ、見た目は普通なのに奇怪な雰囲気を漂わせる男が二人の前を通りかかった。
「ウルトラの一族に恨みを持つ子…利用価値があるな」
ほくそ笑むその男は、じっとサイトを見た。獲物を狙う狩人の目をしている。ただ、ヒルカワとはまた別格の異常なオーラを持っていた。
「なんだよあんた。俺と同様にこのガキから特ダネをもらう魂胆か?悪いけどこいつは俺がとっくに…ぎゃあ!!?」
ヒルカワは自分と同じジャーナリストで、そのためにツルギを憎むサイトを狙ってきたのだと思った。せっかく独占できると思っていたネタを他人に渡すわけにはいかない。とっとと追い返してやろうと思ったのだが、その瞬間彼の意識は飛んだ。
男はヒルカワを、「はっ!」と掛け声をかけて平手を突き出しただけで吹っ飛ばし、ごみ溜めに突っ込ませた。
「…!?」
サイトは男に対して恐怖した。どう考えても今のは人間がなせる業ではない。つまり、この男は人間ではないのだ。
男はヒルカワが持っていたカバンを拾い上げ、その中に入っていた、サイトを取材した際に取っていたメモやカメラを確認する。サイトはその隙を見て逃げ出そうとした。だが、駆け出した途端に立ち止まってしまう。すでに自分の目の前に…いや、彼の周囲に、彼の世界でなら誰もが知っている悪名高い星人が彼を取り囲んでいた。
「40年…地球人以上に寿命の長い我々にとって些細な時間であるその時間も、実に長く感じた。今度こそ…我らの悲願を叶えるために、君を利用させてもらうぞ!」
「な、何をすんだ…」
男はサイトに一歩一歩近づき、サイトはその度に一歩後ずさるが、周囲を取り囲まれた今、もう逃げ場はない。
「『宇宙忍者』の二つ名を持つ我ら、『バルタン星人』の悲願のために!!」
「うあああああああ!!!」
バルタンに憑依され、サイトは人が変わったようになった。学校には普段通り通い、新たな自宅となったアンヌの家にも戻りはしている。だが、時折奇怪な動きを見せるようになった。若き頃の勘なのか、アンヌはサイトの身に何かあったのだろうかと思っていたのだが、ついにある日、サイトが夜な夜な家を出ていくのを目撃した。
(こんな時間にどこへ行くのかしら?)
真夜中、サイトが家を出るのを目撃したアンヌは彼を追って行った。
まだ会って間もないが、どんな人間も寝間着姿で外をうろつくなんて…ましてやこの時のサイトのように操り人形のように外を出歩くだなんてありえない。怪しいと思ったアンヌはサイトを追って行った。
アンヌにとって、サイトは確かに養子…血は繋がっていないが我が子だ。それに出会ってそんなに長い時を過ごしていない。しかし親である以上我が子の成長を見届けなくてはならない。アンヌはサイトと出会った時、すぐにこの少年がすべてを失って途方に暮れている、そして悲しみのあまり本来の明るさを失ってしまったのだと気付いた。
かつて、アンヌは若い頃にある想い人と永遠ともいえるかもしれない別れを告げた。だが、彼はどこかで生きている、遠い宇宙から自分たちを見守り続け、元気な姿で帰ってくる。そう信じて疑わなかった。そして、現に彼は神戸で復活したと言う『異次元人ヤプール』との戦いで帰ってきてくれていたことをニュースで知り、歓喜にあふれた。だがサイトの場合、二度と戻ってくることはない。死んだことがはっきりしているのだから。ならば、新たに誰かがサイトを、巣立つその時まで支えてあげなくてはならない。この少年が自身の痛みを乗り越えて未来に生きる力とするために。何より、彼女の元来の優しさが、サイトが大切な肉親を失って悲しみに打ちひしがれたままであることが許せなかった。自ら母となることでサイトを立ち上がらせてあげたいと決意した。
しばらくサイトを追い続けたアンヌだったが、サイトの姿は忽然と消えていた。どこへ行ってしまったのだろう、彼女は引き続きサイトを探しに行ったのだが、一行にサイトの姿は見つからなかった。警察に連絡を入れ、もしかしたら宇宙人が絡んでいるのでは?とも考え、GUYSにも通報した。GUYSは子供一人の捜索のためにクルーを動かすことはできないと渋っていたのだが、これに名乗りを上げてきたのはあのミライだった。自分と同じウルトラマンを憎む少年の身に何かが起きた、と聞いて立ち止まってはいられなくなっていた。
結果としてミライが現地での捜索に参加し、フェニックスネストから怪獣に詳しい『クゼ・テッペイ』と元保育士の隊員『アマガイ・コノミ』がサポートすると言う配分になった。他の隊員はまだ現地の危険度が謀れていないこともあり、緊急事態に備えてブリーフィングルームで待機となった。
「本当に、こんな時間に一人で出かけたんですか?」
直接アンヌと会って話を聞いたミライは、サイトのことを聞いて目を丸くしていた。
「暮らすようになってから見てきましたが、夜更かしは珍しいことではなかったんです。でも、少なくとも夜に出かけるような子ではありません」
それに、あの時のあの子は何かに操られていたかのように上の空で、若い頃、ウルトラ警備隊に勤めていた際は侵略者に操られた人間を幾度か見たことのある、同時に襲われたこともあるアンヌとしてはどうもただ事だとはどうしても思えなかったと語った。
「…」
ミライの表情が険しくなった。サイトのことは忘れたことはない。自分がこれまで守ってきた…会ってきた地球人の中で珍しくウルトラマンを憎む少年。もしかしたら、何者かが彼を利用したのではと勘ぐった。実際その通りだが、今のところは何の確証もない上、肝心のサイトがいないためなんとも言えない。
ともあれ、周囲でサイトを探し回っている警官たちと共同でサイトを探そうと駆けだそうとしたとき、ミライのメモリーディスプレイから着信音が鳴りだした。燃えるような炎のエンブレム『ファイヤーシンボル』を刻み込んだそのメモリーディスプレイを手に取ったミライは通信に出る。
「こちらミラ!…イ…?」
ミライはディスプレイ画面を見たとき、驚愕を隠せなかった。その画面に映っていたのは、ミライもよく知っている宇宙種族の姿だった。
『ヒビノミライ、我々はお前と話を話をしたい。指定した座標へ一人で来るのだ』
そう、ウルトラマンとはもっとも因縁の深い宇宙人、バルタン星人である。メモリーディスプレイ画面が強制的に一体の地図に切り替わり、一点の地点に赤く明滅するポイントを表示した。
『言っておくが、このことは他言無用にせよ。さもなくば…』
「…サイト君のことだな?」
明らかに脅しをかけてきたバルタンに対し、ミライが普段の穏やかさが嘘のようにも思わせる怒りの形相で睨み付けてきた。
『その通り。あの少年は我々が預かっている。約束を拒めばどうなるかわかっているな?』
バルタンからの通信はそこで途切れた。
「…あなたはここにいてください」
苦々しい表情を浮かべたまま、ミライはやむなく指定したポイントへ向かうことにした。
話はアンヌも聞いていた。若い頃…ウルトラ警備隊の隊員だった時の事を思い出す。自分も幾度か星人に襲撃され、命の危機に瀕してきた。その過酷さは引退した現在も身に染みて理解しているつもりだ。ミライだけを使命し、決して他人に明かすなと言われた。恐らく自分も口を閉ざさなくてはサイトの身が危ないということだ。だがここでじっとしていてもサイトが星人の手に落ちたままだし、かといって迂闊にバルタンに向かってもそれこそサイトが危ないということだ。
「…元とはいえ、あたしもウルトラ警備隊なんですからね」
このまま侵略者の掌に踊らされるのは癪に障るし、自分が愛し面倒を見ると決めた子供が危機に陥っているのだ。ここ立ち止まるなどあってはならない。なんとか確実な手であの子を救わなくては。
「二人とも、少し待ってくれ」
すると、アンヌの前に、ミライとは入れ替わるような形で一人の男性が姿を現した。男からはその身にまとうオーラが、いくつもの修羅場をくぐってきたことを物語らせていた。
「あなたは…?」
「怪しく見えるかもしれないが、俺は敵ではない」
男はアンヌの方へ向くと、丁寧にあいさつした。
「初めまして。元ウルトラ警備隊、友里アンヌ『先輩』。俺は…」
ページ上へ戻る