ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~
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喪失-ロスト-part2/ルイズの結婚
城の中は、夜になっているだけあって暗くなっていた。二つの月と壁に掛けられたランプによって薄暗く照らされていた。月を見る度に、本当に異世界に来てしまったのだとサイトは思わされた。さて、この異世界へと連れてきたルイズはどこへ行ったのだろうか。
「次の作戦で変装して敵の懐に潜り込むとか危険すぎるだろ!対象首一つ取ったくらいであいつらが止まるとは思えねえし、さすがにクロムウェルは出てこねえぞ。俺の見立てじゃ間違いなく、部下を前線に突き出してこそこそ隠れてやがるに違いねえぜ」
「真正面から立ち向かったところで、さすがに勝てるとは思えない。それに君の言う通り、たしかにクロムウェルは打って出ることはないだろう。なら、選抜したチームで直接が敵地に潜り込んで直接敵の大将を倒さなくてはならないんだ」
ふと、サイトの耳に、偶然か半ドアの状態の扉から誰かの声が聞こえてきた。聞き耳を立てるのはよくないことかもしれないが、もしかしたらワルドがルイズを見つけ、彼女と会話しているのかもしれない。
が、予想は外れた。話していたのはウェールズとグレンの二人だった。グレンの方は、空賊らしいボロボロで乱れた服装ではなく、晩餐会のために用意したサイズぴったりの紳士らしい礼装に着替えていた。
「僕らはまだ負けたわけではない。僕らは必ず、彼らと戦って勝たなくてはならないんだ。奴らがこうして執拗に僕たち王党派を追い詰める理由は他にもある」
「王家が代々守ってきたっつー『始祖の箱舟』のことか?」
(『始祖の箱舟』?)
さっきの会談の内容には含まれていなかった話だ。王族が直々に守っている上に始祖、と冠が付いている辺り、かなりの代物であることがうかがえるが、聞いたこともない。舟、と呼称されているから何かの船なのだろうか。
「伝承ではあの箱舟は始祖と彼と共にいた同胞たちが乗り、この世界から聖地へ降り立ったと言われているんだ。レコンキスタが狙う理由もわかる。我らは、それを決してレコンキスタに渡してはならないんだ。僕らが負けて、あれが奴らの手に渡ればきっと間違いなく悪用されてしまう。勝利の可能性を少しでも上げるためにも、僕は自ら戦場に向かうつもりだよ」
始祖ブリミルとは、地球で言うイエス・キリストに近いもの、または神のような存在だとサイトは認知していた。そんな神々しい存在が乗ってこの世界に現れた、それほどのものが実在していたと言うことが事実なら、自分のない頭では理解しきれないほどの代物であるに違いない。
「いや、ダメだ!やっぱお前さん次の戦では席を外した方がいいと思うぞ。連中は真っ先にお前の命を狙ってくるんだぜ。お前が死んじまったら元も子もなくなっちまうぞ」
一人用ソファに腰掛けて話している二人の会話は、どうも穏やかではなかった。
「グレン、もしこの作戦が失敗したら君たち炎の海賊団は逃げるんだ」
「人の話聞いてんのか!俺たちにとってダチほっといて逃げるなんざご法度なんだ」
「だからこそだ。君たちは元々無関係な立場にある。僕たちアルビオン貴族同士のいさかいのために、君たちの自由を奪う権利は僕らにはない。
ガル船長たちも、そのあたりについては君に同じことを言っていたんじゃないか?」
「それは…!!」
(……)
頑なに翌日の戦いの場から離れることを拒否するウェールズと、それに猛反論するグレン。グレンと二人で話しているときのウェールズの様子もまた、ルイズから亡命を勧められたときとは様子が違っていた。妙に、焦っているようにも見受けられた。
ふと、サイトが近くにいたためか、彼が隠れていた部屋のドアがギィイ…と音をたてた。
「誰だ!?」
その音に気が付いて、グレンとウェールズが警戒してドアの方に向き直った。
「す、すいません…俺です」
あまり不信に思われるような態度や行動はとるべきじゃないだろうと思い、サイトは自ら扉を開き素直に謝って頭を下げた。
「あんたは確か…あの大使の女の子の使い魔、だったよな?」
「あ、ああ…そうだけど。ごめんなさい。偶然聞こえてて…」
「いや、そんなに大したことは離していなかったから構わないさ。晩餐会は楽しんで…はいないみたいだね。栄えぬ顔をしているが、大丈夫かな?」
「あ、いや…その…」
浮かない顔をしているサイトを見て、ウェールズはふむ、と声を漏らす。
「気分転換に話でもしようか。君も入ってきたまえ」
空いている客間へと移り、テーブルに向かい合う形で三人はそれぞれ一人用のソファに座った。
「二人って、王族と空賊って間柄なのに、仲がいいんだな…」
グレンとウェールズを見て、改めてサイトは思った。最初に出会った時のルイズのように貴族というのはかなり高慢さばかりに磨きがかかった印象があったから、時に犯罪だってやるかもしれない空賊と、それを取り締まる貴族の中の貴族である王子が仲良しになるなんて、普通は想像できないだろう。
「炎の空賊がレコンキスタに反抗し、我ら王党派に味方をするようになってから、僕と彼は年代もほぼ同じでよく話すことが多かったんだ。これまでどんな場所を仲間の空賊たちと旅してきたのか、たくさんのことを聞かされてね。僕は王族だから本格的な旅には出かけられないからよく話を聞いていたんだ」
なるほど、話をしているうちに打ち解けて仲良くなったんだ…でもこれはこれで、故郷で平等性を重んじるよう教育されたサイトからすればいい傾向だと思う。身分の差に拘らない絆を紡ぐということは、身分にこだわっている間では決してできない新しい可能性を見出すこともできるし、身分差別から起こる問題も起こらなくなっていくかもしれない。
「おめえさん、やっぱ気にしてるだろ。ウェールズたちのこと」
グレンからそう言われ、サイトは迷わず頷いた。
「ああ…そうだ。王子様は、死ぬのが…怖くないんですか?」
「我々を案じてくれているのか。君は優しいな」
ウェールズはそんなサイトの心遣いに笑みを返した。ふう…と息を吐くと、彼は見栄を張らずに正直に言った。
「そうだね。君の言う通り死とは恐ろしいものだ。戦いにおいて死は必ず付きまとう者だ。だから晩餐会でも皆、明るくふるまって恐怖を吹き飛ばそうとしている。もし、今度の戦いで敗れたら我が軍は確実に滅ぶからね。しかし、守るべきものが恐怖を和らげてくれる」
貴族の守ろうとしているもの。かつてのルイズがそうだったように、やはりあんなものを守ろうとしているのか?
「何を守るって言うんだ。誇り?名誉?それを守るための死ぬなんて馬鹿げてる!」
そんなものは、人の命と比べたら足元にも及ばないモノじゃないか。努力さえすれば取り戻せる可能性がある。だが、命は一度失ったらもう二度と帰らないのが自然だ。この時点で、命と貴族の誇りや名誉の価値なんて天地の差であることが目に見えずともわかる。
ウェールズは遠くを見つめるようにして答えた。
「奴ら貴族派、レコン・キスタはブリミル教の悲願、エルフに奪われた『聖地』を取り戻すという理想を掲げハルケギニアを統一しようとしている。しかし奴らはその過程で流れる血の事をまるで考えていない。現に、奴らに攻め入られた町村は全て怪獣や敵軍に全て蹂躙しつくされ、跡形もなく消されたのだから。誰かが止めなければ、ハルケギニアは統一の代償に、全土が滅び去ったアルビオンの町村のようになるのは間違いない。そうなれば、元の大地に戻るには長いときを有する。その間にまた争いが起らないともいえない」
なるほど、単にカッコつけて死ぬ…なんてことをリアルにするつもりはないようだ。でも、相手は怪獣を操り、さらには人間の戦力でさえも王党派を凌駕している。いかに炎の空賊たちやグレンファイヤーと言う強い味方がいても、サイトは怪獣の脅威をその身を持って知っている。グレンに対応して、きっと一体だけじゃなく何体もの怪獣を呼び寄せる可能性が高い。つまり、勝ち目より負ける可能性の方が高い。
「俺、ルイズが言ってたように亡命した方がいいって思うんです。怪獣の脅威は、俺が一番わかってるつもりです!」
「怪獣のことを理解している?」
いかに怪獣の被害にあったといっても、トリスタニアに現れた個体しか今のところウェールズは知らない。にも拘らず、この少年は以前から怪獣の存在を知っていたかのような言い回しをしている。
「俺は、その…ハルケギニアから遠く離れた場所に故郷があります。これまで何度か怪獣の危険性を体感してきました。確かにグレンファイヤーは強いです。でも、きっと敵は今頃彼を倒すための算段をたてている。これまで、俺が知っている侵略者たちはずっとそうでした」
学校で配布された教科書でも、侵略目的で現れた宇宙人は数えきれないほどいた。地球を守護する防衛軍とウルトラマンを倒し、地球を我が物とするためにありとあらゆる手口を講じようとした。薄汚くずるがしこい手なんて当たり前だ。使ってこない方がおかしいくらいだ。
「話に合ったクロムウェルって男は、もしかしたら異星人かもしれないし、または星人に操られるだけの傀儡かもしれない。どちらにせよ、勝てる可能性は俺から見ても皆無に近いとしか思えない!」
やはり亡命をするべきだと主張するサイト。しかし、ウェールズはルイズに説得された時と同様に頑なに首を横に振った。
「それはできない。我らは勝てずとも勇気と名誉の片鱗を見せつけハルケギニアの王族が弱敵でないことを示さねばならぬ。国に最後まで残り、叛徒たちからこの国を取り戻すために戦う。それが、この内乱を防げなかった事への……王家に生まれた者の義務と責任だからだ」
なおも断る彼に、サイトは思わず立ち上がり、自分とウェールズの間に置いてある机に手をついて身を乗り出しながら強く言い放とうとした。
「なあ…ちょっと待てよウェールズ」
ふと、グレンはその時何かに気が付いたように、立ち上ってウェールズを見下ろした。
「あんた、まさか…真っ先に死ぬつもりじゃないだろうな?」
「!!」
サイトは、思わずその衝撃的な一言を言ったグレンを見た。グレンはじっと睨みつけながらウェールズを見下ろし続けていた。対してウェールズは無言を貫いている。つまり、その通りだったと言うのが目に見えていた。
「冗談じゃねえ!俺たちは勝つために一緒に頑張ってきたんだろうが!てめえ、気でも狂いやがったのか!!?」
グレンは激昂してウェールズの胸倉を掴みあげた。頭から炎を吹き出しそうなほど、その表情から怒りがにじみ出ていた。
「君だってもうわかっているのではないかな。僕の存在は貴族派がトリステインに攻め込むための格好の口実になりかねない。アンリエッタとゲルマニア皇帝の縁談において最大の邪魔者でもある。彼女に、国や国民を裏切らせろと言うのか?
僕はアルビオンの王子として、この国を守らなくてはならないんだ。その代償が我が命であってもだ」
鬼の形相で睨んでくるグレンから、ウェールズは視線を背けたまま淡々と言った。その言い分が、貴族平民なんて境界を越えた…一人の男としてグレンは不満をぶちまける。
「なんだよそれ…惚れた女にとって自分は迷惑だから?馬鹿を言え!惚れた女を取られたから命を捨てるって言ってるようなもんだろ!!貴族以前に、男として情けないだろうが!!トリステインの姫さんのためにも、泥水啜ってでも、石にかじりついてでも生きろよ!親父さんからも生きろって言われただろ、ウェールズ!!」
「…僕だって…」
目元に影を作ったウェールズが、自分の胸倉を掴むグレンの腕を握り返してきた。
「僕だって、君や、あの時僕を救ってくれた銀色の巨人のように強くありたかったんだ…!!ずっと思っていたんだ。かつて、始祖がご健在だった時代にてアルビオン王家の祖先である『鏡の騎士』がそうであったように…!!」
「鏡の騎士?」
サイトが何のことだと疑問に思った。ウェールズには何か、特別な要素があるというのだろうか。それについて疑問に思ったサイトを察して、グレンが説明した。
「…ああ、アルビオン王家の男児には、あらゆる悪を滅する伝説の力が宿るって言われてるんだ。一説ではその力が、失われた系統『虚無』だとか言われてるけど、根拠のねえ迷信だ」
「…所詮伝説は伝説なんだ。僕に…いや、我々アルビオン王家には『鏡の騎士の力』はすでにないんだ。きっと元から幻だったか、存在していたことが真でも、もう何代も前に途絶えたのだよ。そんなものは」
ウェールズは力強く胸倉を掴んでくるグレンの腕を振り払うと、何もかもとかなぐり捨てるかのように喚き散らした。
「僕なんか…もう生きていても迷惑なんだ!!生きていたところで、僕の存在はアンリエッタのいるトリステインにとって厄介極まりない存在なんだ!!そんな状態の僕に、泥水を啜ってでも生きろ?…残酷だ…」
そこには、一国の王子としての姿はなかった。自分が大事に思っている姫の力になるどころか、存在さえも許されなくなり、ましてや叛徒たちの反乱と侵略を許してしまうほど惰弱な王子。もし自分に大きな力があったら、叛徒たちに後れを取らせることもなかったし、アンリエッタの隣にはゲルマニア皇帝などではなく、自分が立っていたかもしれない。
無力な自分とただただ嘆き続ける、ただ一人の人間の姿だった。
そうかよ…とグレンはウェールズから背を向けた。
「だったら、俺はありのままあなたの選んだ選択をトリステインの姫さんに伝えてくるさ」
それを聞いてウェールズはハッとなる。自ら死を選んだことを、アンリエッタに伝えると言うグレンの言葉に耳を疑った。
「ウェールズ皇太子は自ら死を選んだ。そのことを伝えたら、きっとアンリエッタ姫様は悲しむでしょうねえ」
「待ってくれ!そんな話をアンリエッタに…!!」
自分を愛していると言うアンリエッタの気持ちを知っているウェールズとしては、そんな話をアンリエッタには聞かせたくなかった。可憐な花のような彼女のその美貌をいらぬ心労で害してほしくはない。
「死ぬつもりなんだろ?死人に口なしって言うよな。死んだ人間にとって、死後の時代なんて無縁でしかねえ。見ることも触れることもできやしねえ。それに、死んだ人を大事に思う人は、もう二度と触れることさえも言葉を交わすこともできやしないんだ」
再びウェールズに向き直ると、グレンは彼の眼前に立って彼に向かって怒鳴りつけた。
「ウェールズ、てめえは姫さんや俺たちの気持ちをどんなに蔑にしたら気が済むんだ!これまでお前らのために戦ってきた俺たちの気持ちをわかってくれねえんだ!」
何もかも、グレンの言ってることは正しかった。死亡率の高い戦いの勝率を上げる、王族としての義務を果たす…それにかこつけて自ら死を選ぼうとした意図を読まれ、その理由を男として情けないと罵倒され、ウェールズは、すでに何も言い返せなくなっていた。
俯くウェールズを見て、サイトも一言申し上げることにした。
「皇太子様、迷惑だろうがなんだろうが、ここにいるみんなは、あなたを必要としているんです。アルビオンの王子としてじゃなくって、ただ一人の人間として。トリステインの姫様も、ただ愛する人としてのあなたを必要としているんです」
「…僕は、生きてていいのか?」
「そう言ってんだろうが。俺たちは、迷惑になんか思っちゃいない。なんなら、俺たちのクルーになるかい?大歓迎だぜ」
怒りの表情から、まるで炎が鎮火したように穏やかな笑みを見せるグレンに、ウェールズは薄く笑みを浮かべた。
「はは…演技ならまだしも、やめておくよ。父上たちに怒られてしまう」
ピリピリとした空気が、なんとか二人の仲直りで収まってくれたようだ。それを見てサイトもまた安心した。
同時に、サイト自身も二人のやり取りを見て、本当はこの世界には必要ないかもしれない自分と存在が政略的に厄介なものとされたウェールズを照らし合わせ、そのウェールズが気力を吹き返したのを見て元気を取り戻した。そうだ、俺だってまで頑張れるんだ。ゼロが当てにならないからって決して無力なわけじゃない。
この世界にはもう一人のウルトラマンとかグレンファイヤーのような頼もしい戦士がいるから自分は必要とか不必要とか、そんなの考える必要なんかない。それよりも今自分に何ができるかを考えなくては。
「明日の戦いのことは、ヴァリエール嬢とワルド子爵の結婚式後にでも考えるよ。僕も、君たちも生き残って勝つための作戦をね」
それを聞いて、サイトはハッとなる。
(そうだ…ルイズとワルドは結婚するんだよな。王軍の必勝祈願もかねて…)
正直、どうしてか思い出したくもなかったことなのだが…。
ルイズとワルドの結婚のことを思い出して、サイトはウェールズたちと別れた直後に彼女を探しに行った。
しばらく歩いていると、廊下に設置されたロビーのソファに、月明かりに照らされたルイズが座っているのを見つけた。
「サイト…」
自分の使い魔の姿を見た途端、ルイズはサイトの胸に飛び込んできた。いきなり抱きつかれたことに激しき動揺したサイトだったが、すぐに彼女がそうしてきた理由を理解した。なにせ、ルイズの口から漏れ出ていた声が涙声になっていたのだから。
「どうして…?姫様は間違いなく皇太子さまに逃げてって手紙で仰ってたわ。なのに、どうしてここに残って戦おうとするの?」
「それは…」
ついさっき、ウェールズは死ぬために戦いに臨もうとしていた。でも、きっとさっきのグレンの説得で立ち直ってくれたのだと思う。サイトは、もしこの国を出た後にグレンと機会があったら、ぜひ友達になりたいとも思った。
「大切なものを守るためだって言ってた」
「なにそれ?愛する人より大切なものがあるっていうの?」
ルイズの頬を涙がつたった。サイトはルイズの小さな体をぎこちなく抱きしめた。今のルイズはわからないだろう。その愛する人のためにウェールズは戦おうとしている。
「俺さ、トリステインに戻ったら、お姫様に頼んで、もう一度ここに行こうって思う」
「どうして…?」
「俺は、怪獣や星人の攻撃を受けてきた地球の人間だから、俺の知っている限りの知識とか少しでも役に立たせたいんだ。お前からもらったガンダールヴのルーンもあるし、皇太子様たちを助けたいんだ」
そうだ。これこそが自分にできることなんだ。ゼロに頼らなくてもできる…いや、この異世界では俺にしかできないことだと思う。他の誰でもない、俺にしかできないこと。
「俺の見立てだと、多分レコンキスタって奴らの裏では、異星人が絡んでいると思う」
「イセイジン?」
なんだそれは、とルイズは顔を上げてサイトを見る。
「まあ、簡単に言えばこの世界から見れば俺みたいな、違う世界の人間…なのかな?でも姿かたちは人間とはまるで違う奴らが多いし、ウルトラマン以外のそいつらって、侵略目的で来る奴ばっかだったからな」
「じゃあ…もしかして、レコンキスタは…!」
「星人に操られているか、利用しあっているのか…なんにせよ手を組んでいるって思う。そうでないと、怪獣なんて人知を超えた奴らを人間が戦争に使えるわけがないよ」
「…私も行く。姫様の大切な想い人だもの。死なせたくない…姫様と皇太子様を引き裂く貴族派を許せない…!!」
サイトの話を聞いて、ルイズはギュッと手を握った。ルイズにとって、アンリエッタは忠誠を誓うべき相手というだけではない。やはり幼き頃に互いに育んできた友情を今もなお抱いているからこそ、戦場へ向かうウェールズを助けたいと思う。
(やっぱ優しい所あるんだな)
最初に会った時の高慢で偉そうなだけの見栄っ張りは、ルイズの本来の姿じゃない。意地っ張りで恥ずかしがりで怖がりで優しい…それがルイズと言う少女なのだ。
「ねえサイト…」
「ん?」
「どうしてこんな時に…ウルトラマンは来ないのかしら?」
ギュッとサイトの服を掴んでくるルイズ。ああ、そうだな…とサイトはルイズの気持ちを理解できた。確かに、助けたい人を助けたい…こういう時こそウルトラマンには来てほしいと願いたくなる。サイト自身もそうだった。メビウスが地球を守っていた頃から、ずっとそうだった。でも…。
「…あんたの言うウルトラマンって、こういう時こそくるもんじゃないの?」
サイトは目を閉じて、何時ぞや覚えたある言葉を口にした。
「『地球は我々人類、自らの力で守り抜かなくてはならない』」
「何それ…?」
フーケ事件の時もそうだが、サイトからまた妙な言葉を口にされ、ルイズは首を傾げた。
「昔の地球防衛軍のとある隊長が、ウルトラマンと共に戦う際に言った言葉だ。ウルトラマンは人間にとって都合のいいだけの存在じゃない。精一杯頑張って平和を勝ち取ろうとする人たちがどうしようもない時に力を貸してくれるヒーローなんだ。
戦争で、どちらか片方の勢力に手を貸して、敵軍の人間を殺すなんて真似は、ウルトラマンたちにとって最大のタブーなんだ」
そうだ、これまでのウルトラマンが地球を守るために戦ってきたのは『人類の手に負えない力』が現れたときだけだ。この世界の存在じゃない何者かが絡んでいることを見いだせない限り、ウルトラマンはきっとレコンキスタと王党派の戦いの場に現れない。まだ星人のように、強力な知性を持つ存在がはっきりしていない以上、人間同士の戦争にウルトラマンは介入することができないのだ。
人類の主権を侵害することはできない。人間同士の戦争でどちらかに肩入れすることは、決して許してはいけない。宇宙人たちの中では常識だ。
「俺たちは、たとえウルトラマンがいなくても未来を切り開くことができるように、努力しないといけないんだ」
そうだ、この身にたとえゼロがどうかしていなかったとしても、自分はルイズや仲間たちのためにまずは頑張って行かないといけないのだ。手に入れた力におんぶにだっこじゃいざと言うときに何もできなくなったりするかもしれないし…。
…いや、違う。俺はただ、あいつに…『ゼロ』に頼りなくないだけなんだ。あいつのせいで、本当は助かるかもしれなかったラ・ロシェールの人たちが犠牲になってしまった。もしかしたらその前のディノゾールとの戦いの場となったトリスタニアの街の人たちもそうなっていたのかもしれない。そう考えると、ゼロに頼ることなんかもっての外だ。
「わからないわよ…レコンキスタはいくら同じ人間でも、平和を乱す侵略者じゃない…」
敬愛する姫、アンリエッタとウェールズを引き離し、怪獣さえも操ってアルビオンの大地を地で汚し続ける。ルイズにとってレコンキスタは憎むべき敵でしかなかった。
今感情がすっかり高ぶっているルイズにこれ以上言っても納得したりはしないだろう。サイトは話の話題を変えることにした。
「そういや、お前…結婚するんだよな」
自分に抱きついたままのルイズの頭を撫でながら、サイトは言った。
「…おめでとう、ルイズ」
ルイズはきっと幸せになるだろう。所詮使い魔でいつか地球に帰る自分が守るよりも、ワルドと共にいて守ってもらう方が幸せだ。
「…あんたは…いいの?」
気が付くと、ルイズは目元に影絵を作って俯いていた。その声は、何かを押し殺しているようにどこか震えていた。
「私がワルドと結婚しても…」
「な、何言ってんだよ?俺はあくまでお前の使い魔で、ワルドはお前の婚約者だろ」
バシィイイイイン!!!
その瞬間、サイトはルイズに顔をひっぱたかれた。
「いきなり何すんだ!?」
サイトにとって予想もできなかったことに、彼はルイズを睨み付けた。だが、すぐに呆然とした表情に一変した。
「馬鹿!!!サイトの馬鹿!!あんたなんか、大っ嫌い!!!」
彼女の目からは、涙がぼろぼろと溢れ出ていた。涙ながらにサイトに暴言を吐いて、ルイズはサイトに背を向けどこかへ駆け出して行った。
「………」
どうしてルイズは自分にあんな問意を投げかけてきたのか、どうして自分をぶっ叩いてきたのか、その理由がわからないまま暗い廊下にて遠ざかるその背を、サイトはただ見てるしかなかった。
一方で、アルビオンのサウスゴータ地方にある森の中の、ウエストウッド村。
「やけど、まだ治らない?」
部屋のベッドに乗り出して尋ねてくるエマに、シュウはいつも通りの涼しげな態度で言った。
「まだ痛むが、順調に回復している。大丈夫だ」
テファは、シュウの新しい包帯を巻いて看病に当たっていた。酷いやけどだ。マチルダの話によると、街の火事からその燃え盛る家から人を助けるためにこの怪我を負ったのだと言っていたが、何となくそうとは思えなかった。もっとなにか、別の恐ろしい出来事に直面してこうなったのではないのかと思えてならなかった。
ふと、彼の顔を見た刹那、あの日の朝に見た悪夢の光景が一瞬、テファの脳裏をよぎった。
「…どうした?」
「え?あ、ううん。なんでもないわ。すぐごはんの仕度するね」
自分をじっと見てくるテファに、シュウは何か用でもあるのかと思って首を傾げたが、テファは首を横に振った。
シュウは、これまでひと月以上の期間をこの村で過ごした。
ティファニアはとても優しい少女だ。悪い言い方をすれば甘ったるいともいえるくらいに。何者も殺さず、何者も脅かさない。存在自体が平和を体現しているように彼女は見た目からして美しく性格も穏かだ。
一応自分はそんな彼女の使い魔として呼び出され、今日もまた使い魔と言うか、子供たちのお守りをしながら家事に勤しんでいる。子供は本当は厄介で苦手なのだが、別に嫌いと言うわけではない。この子たちやテファ、マチルダを守ることに光の力を使うことに躊躇いはなにもない。
シュウは脳裏に、これまでの人生で積み重ねてきた過去の記憶を思い返す。TLTに拾われ、ナイトレイダーに入隊する以前、どれもこれもろくでもない記憶ばかりがぎっしりだ。どんな内容かだなんて、思い出したくもない。悪い記憶じゃないのは、憐たちと共に遊園地でアルバイトをさせられていた時くらい。
そして…そんな悪いものじゃない記憶の中に、一人の少女の姿が浮かび上がる。そして彼女の姿が、自分を召還した少女ティファニアとダブった。
(…………!!!)
サマンサがせっせと部屋を掃除してくれる一方で、シュウは無表情から一転して、己への自己嫌悪で歪みきった表情を浮かべながら自身の右手首を左手で掴んでいた。
――――光の力。それは、自分に与えられた『罰』そのものなのだ、と。
だから、シュウは逆に一つの憂いを抱く。
俺は…彼女たちの傍にいていいのだろうか?
むしろ、不幸にしかねないのではないだろうか。
己が身に課せられた罰から、永遠に逃げることができなくなった俺が…。
テファは厨房へ向かい、調理に取り掛かると、ほんの少しの間を置いたとき彼女はベッドに座っているシュウのいる部屋をじっと見た。夢の中で見た街、そしてその街を笑いながら破壊する悪魔。そして、チキュウと言う世界のニホンという国から呼び出されてここにいるシュウ。
一見他人を近寄らせたがらない雰囲気を出しているくせに、自分以外の人間の事をちゃんと見ていてくれている。
テファはこれまで同年代の男と接したことはないのだが、だからこそなのか、それとも彼がハルケギニアの人間じゃないからなのか、それともまた別の理由からなのかシュウのことを不思議に思った。
不思議に思う理由は、他にもあった。一日を共に長く過ごすようにもなったから、彼の様子を必然的によく見ることになる。その時、彼の表情が時折悲しく見える時があった。
(どうしてあんな顔を浮かべたんだろう…)
気になった。テファにとって、シュウはまだずっと憧れてきた『お友達』というには距離がある。もっと仲良くなるためにも彼女はシュウのことを知りたいと思った。
でも、テファはそれを尋ねなかった。尋ねたら尋ねたらで、シュウに要らない心労をかけることになりそうだし、シュウ本人も聞かれたがりそうになかったからだ。尋ねるか、尋ねないべきか…ちょっとしたループ状態に陥りそうになる。
すると、彼らのいるテファの家の玄関から、盗賊稼業からひと稼ぎしてきたマチルダが皆の下へ帰ってきた。
「よ、ただいま~」
「マチルダ姉さん、お帰りなさい。今日は早かったのね」
「マチルダ姉ちゃんお帰り!!」
テファや子供たちが一斉に駆け寄ってマチルダを出迎えてきた。
「今回も稼いできたよ。ほら」
手に取った袋に入ったハルケギニアの紙幣を見せてニカッと笑うマチルダ。盗賊稼業については好調のようだ。
しかし今回、その一方でマチルダは皆に言わねばならないニュースを伝えることとなった。
「戦争、かなりやばくなったみたいだよ。今日、レコンキスタがサウスゴータに陣とっていた王軍を壊滅させたって話だ」
その一言に、テファは少し顔をうつむかせ、表情を暗くする。
「せんそー?」
まだ幼い子供の一人、ジャックが首を傾げる。ここに預けられる孤児と言う身とはいえ、あまり戦争とかその類を理解しきれるほどの成長まではしていないようだ。
この時期、アルビオンの反王政と共和制を掲げるレコンキスタ、通称貴族派の軍がついに王党派軍の力を上回った時だった。
「しっかし、レコンキスタ共は共和制なんて聞こえのいい理想を掲げてる割にやり方が物騒極まりないよ。憎たらしいけど、王政の方がずっとマシさ。
なんたって…あんな化け物どもまで使ってくるなんてさ。ありゃ戦争なんて生易しいもんじゃないよ。ただの…虐殺だったね」
マチルダも、レコンキスタが怪獣を使ってアルビオンから勢力を拡大するべく動いていたことを知ったのだ。
「姉さん…」
テファがあまりに憂い顔の姉の姿を見て、不安げに尋ねる。
「ま、今更王家がどうなろうと、あたしは知ったことじゃないけどね…」
テファは心ここにあらずと言った感じで語る姉を見つめていた。
その頃、次の王軍はサウスゴータにて、炎の空賊たちの助力を活用しつつ、策を弄することで逆転を狙うつもりでいた。
だが、その進軍先である『サウスゴータの王軍』が壊滅した…と間違いなくマチルダは言っていた。
この時から、王党派の運命は悲劇的なものへと確定してしまっていた。
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