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4部分:第四章


第四章

「そういえばこの村の人って皆」
「ええ、そうよね」
 恭子が須美の言葉に応える。
「お饅頭好きよね」
「恭子も好きよね」
「まあね」
 笑ってそれを認める恭子であった。
「少なくとも嫌いじゃないわ」
「何かっていうと出るし」
「じゃあ須美は嫌い?」
 逆に須美に問い返す恭子であった。笑いながら。
「お饅頭。どうなの?」
「はっきり言って好きよ」
 彼女もまた笑ってそれを認めるのであった。
「だって。甘いの好きだし」
「そうよね。やっぱり甘いのがね」
「アイスとかケーキも好きだけれど」
 流石に幾ら田舎でもこうした甘い菓子も存在している。幾ら何でもこういったものがない程辺鄙な場所ではないのである。一応は、であるが。
「やっぱり気軽さではお饅頭よね」
「そうね。そういえば紅白饅頭ってさ」
「何?」
「お祝いの品だけれどね」
 恭子は紅白饅頭について話をはじめた。須美はそれを聞いている。
「何かっていうと特別に思えるのよね」
「お祝いの品だから当然じゃないの?」
「それでもよ」
 首を傾げつつ須美に述べる。二人は今神社の境内のところにある石の上に二人並んで座って話をしているのだ。周りにもそれぞれ女の子達がいて話に興じている。話題はそれぞれであるが。
「お饅頭がそうじゃなくてね」
「赤と白って色がなのね」
「これがお祝いの色だっていうのはわかってるわ」
 それは恭子もよくわかっていることであった。
「けれどね。それでも」
「特別に思えるのね」
「何かとても重要なことがあった時に」
 そして言うのだった。
「節目節目で貰える感じがしてね」
「それでなのね」
「私の気のせいかしら」
 またここで首を傾げるのだった。
「それとも私も考え過ぎなのかしら。どうかしら」
「まあ考え過ぎっていったら考え過ぎじゃないの」
 須美も少しこう考えるのだった。
「ただ単にお祝いのものだって考えれば」
「お赤飯みたいなものかしら」
「そうそう」
 笑ってまた恭子に言うのであった。
「そんなのよ。だから特に気にすることはないわ」
「そうね」
「そうよ」
 笑いながらの言葉はまた続く。
「ただの御祝いだし。さてと」
「お饅頭楽しみなのね」
「粒餡かしら。こし餡かしら」
 須美が気にしているのはこのことであった。
「どっちかしらね」
「紅白饅頭だからこし餡じゃないの?」
 恭子はこう予想してきた。
「やっぱり。私はそう思うけれど」
「こし餡なのね」
「嫌なの?」
「ううん、別に」
 また笑ってそうではないと答える須美であった。
「それはないけれどね」
「だったらいいじゃない」
 恭子も笑って須美に告げた。
「それならそれでね」
「そうね。じゃあどっちが出ても」
「いいってことでね。それでね」
「ええ」
 ここで話を変える恭子であった。須美もそれに乗る。
「明日の授業何だったっけ」
「明日の授業?」
「明日加納先生お休みじゃない」
「ああ、そうだったわね」
 学校の授業の話になってきていた。
「明日は」
「それじゃあ明日の理科の授業は誰なの?」
 恭子はこう須美に尋ねた。
「加納先生お休みなら」
「中森先生じゃないの?」
 須美は首を少し捻ってから恭子に答えた。
「代打ってことでね」
「そういえば中森先生って理科の先生だったわね」
「あれっ、知らなかったの?」
「知ってることは知ってたわよ」
 このことは少しムキになって答える恭子であった。
「学年の副主任なのに。知らないわけないでしょ」
「そうよね。だからおかしいと思ったんだけれど」
「ただ授業を受けたことがないだけよ」
 それだけだったのだ。
「一年も二年も加納先生だったからね」
「そうだったの」
「須美は一年の理科の先生中森先生だったのね」
「ええ、そうよ」
 恭子の言葉に対して答える。
「だから知ってるんだけれどね」
「中森先生の授業どう?」
 次に恭子が気にしたのは授業についてだった。これの良し悪しで成績も大きく変わるから当然であった。恭子の問いはそれなりに切実であった。
「ほら、西田先生の授業なんか」
「ああ、ジャマイカね」
 ここで須美の顔が歪む。西田という名前を聞いてすぐに仇名を出した。随分と悪意のある仇名ではある。どうやら好かれている教師ではないらしい。
「全然わからないじゃない」
「あいつの授業はわからないので有名じゃない」
「まあね」
 須美のその嫌悪感丸出しの言葉に対して頷く恭子であった。
「これ先輩達も言ってたわよ」
「そんなに有名なの」
「あいつの授業は聞くな」
 須美はこうまで言う。
「そう言われていたのよ」
「確かに酷い授業だけれどね」
「まず言ってることが教科書を棒読みしているだけ」
 最初からかなり酷い授業であることがわかる言葉であった。
「黒板に向かってそれを言ってるだけじゃない、あいつの授業って」
「そうよね。本当にわからないから」
「だから。先輩から聞いたのよ」
 須美は先輩の言葉を恭子に対して話すのだった。何度も。
「あいつが数学の先生になったらもう授業は聞くなって」
「聞いちゃ駄目なのね」
「それより自分で勉強した方がいいってね。絶対にわからないからって」
「昔から駄目だったのね」
「そう、最悪だったらしいわ」
 所謂不適格教師である。我が国の教育界の恐ろしいところはこうした無能な教師や人格障害者の教師が全く淘汰されたり糾弾されることなく教壇に残り続けていることである。教育界の腐敗はこの村においても深刻なレベルで色濃く現われているのである。
「それよりも参考書読んだりして自分で勉強する方がね」
「いいのね」
「それか塾」
 須美は自分の話に塾も出した。
 
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