ホウエン地方LOVEな俺がゲームの中に吸い込まれちゃった
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予感と兆し
「いっけー!キノガッサ!」
「お願いします、ゲンガー」
「ガッサー!」
「ゲンガー!」
レストラン・ド・キワミでの戦いは予想以上に白熱していた。前菜から何からメチャクチャ美味しくて、戦いも手応えがある……まさに戦闘狂には天国だ。
ハルカにも徐々に笑顔が戻ってきたし、俺はと云えばこのレストランが予想以上のモノでテンションがMAXだ。
「キノガッサ、つるぎのまい!」
レストラン・ド・キワミは、料理ごとに決まっている『食べごろ』の時間通りにウェイターのポケモンを倒すというシンプルな内容となっている。
そのため先制技や【フェイント】、時間稼ぎの補助技等、【まもる】【みきり】で時間をずらしてくるウェイターのポケモンに有効打を持つキノガッサは最適というわけだ。
しかし、
少しうちのキノガッサは特殊だった。
「ガッサー(そんな技使わん)」
俺の指示はつるぎのまい。しかしキノガッサが繰り出したのはきあいパンチ。
「兄貴!指示を聞いてくれ!」
「ガッサ、ガーサッ(まどろっこしい技は嫌いだ)」
前にモンスターボールから出した時に、その性格を見た俺の第一印象は『兄貴』。
別に『やらないか』とか口走る変態的な意味ではなく、
己が道をゆくその精神がまさに『兄貴』と評するに相応しかったからだ。
ガッサ兄貴はその性格上、補助技を使いたがらない。まるでバトルパレスようだと思った諸君とはすごく話があうと思うが、これがいざリアルとなると普通のバトルにおいても有りうる話になるんだ。
結果としてきあいパンチは時間ピッタリに決まったが、初志貫徹という言葉が相応しい兄貴の生き様は、俺にとってかっこよく見えると同時に、指示の出し方が甘いとつくづく実感させられた。
「性格すら把握しきらなければいけないのか……」
どうやらサートシくんは余程頑張っていたらしい。性格とか何が好きかとか大体把握してるんじゃないか?
「はっ!」
これは……
「スキンシップが必要だ!!!」
***
「んあ……」
ハルカはゆっくりと目を開けた。視界は薄暗い。目を瞬かせると見えてきたのは鉄格子だった。どうやら牢屋の中に捕らえられてしまったようだ。
「アタシとしたことが……」
完全に油断していた。ポケモンバトルで勝ったからといって油断して良い相手ではないと、最初からわかっていたはずなのに。
ザッと確認するとモンスターボールもバッグもない。当たり前だが奴らに取られたらしい。
「あの人型カエンジシ……次あったら唯じゃ……」
「心外だな。カエンジシは好きだがそれで貶されるとは」
不意に牢屋の外から聞こえてきた声にびっくりして頭を打ち付けるハルカ。たんこぶができそうなほど強く打ち付け悶絶していると、声の主は軽く笑って話しかけてきた。
「はっはっは。国際警察が雇う程の実力者と聞いてどんな者が来るか構えていたが……どうやら中身は少し抜けているようだ」
「くっ……そういう貴方は私を閉じ込めて何をしたいの?フラダリ」
「もう呼び捨てか。まあ当然だが……そうだな、別に何かをしようという訳ではない」
ーーじゃあなんでなのよっ!
と叫びたかったが、危害を加えるつもりならとっくにやられていた筈だ。おとなしく次の言葉を待った。
「まあ敷いていえば……囮だな」
「囮……?」
「国際警察は君から連絡が途絶えれば直ぐに動き出すだろう。これからの計画に彼らは邪魔だ。集まってきたところを一網打尽にしてやろうということだよ」
「で、でもポケモンだって向こうの方が……」
「強い……とは言い切れんだろう。何せ切羽詰まってポケモンバトルが強いだけの一般人を巻き込んでいるのだからな」
悔しいが言い返せなかった。
現にこうして捕まっているのだ。ポケモンバトルだけが取り柄というのもあながち間違っていない。
「…………」
「それに……私達は組織だ。国際警察の力を侮っている訳ではないが、数では単独行動の多い国際警察を上回っている」
フラダリの自信はしっかりと勝算があってのことだった。
だが、そんな時ハルカは気づいた。
ーーそうだ。こんな状況で私をいつも助けてくれる人が近くにいるじゃないか。
アクア団やマグマ団の時だってそうだ。巨大な事件に巻き込まれた時はいつもアイツと一緒だった。
「フフフ……そうだ! いつもあの朴念仁はこういう時だけは鋭くなるんだった!」
突然笑い出したハルカを見て、フラダリは怪訝な表情を浮かべる。
「意外と……国際警察より厄介なのが先に来るかも……」
「…………」
何か確信めいたものを感じハルカの暗い気持ちが物色される。
……と、同時にフラダリもハルカの変化に気づく。
「なるほど……では注意しておくとしよう」
「……信じるの?」
「ああ、信じるさ」
フラダリは仮にも組織を束ねる者。人を見る目はあるし、実力を認めた者は敵でも……いや敵だからこそ信じるのだ。
「ならば私も本気のパーティーで挑むとしよう。どうやら君より強者であるようだからな。私も全力で相対させて貰う」
では……
フラダリはそう言って牢屋から出て行った。
「あれは……やっぱり全力じゃなかったか」
ハルカはそっと呟いて目線を虚空にやった。
***
「いやー美味しかったー。バトルも楽しかったし一石二鳥とはこのことだね」
「…………」
「……ハルカ?」
どうやらまだ思うところがあるらしい。
やはりまだ遊びたりぬか……!!!
と、俺が思っていると唐突にハルカが話しかけてきた。
「あの……昨日言った私の知っているところに行きませんか?」
「んー、ああいや、全然良いんだけどそこって宿屋なんじゃないの?」
「まあ……着けばわかります」
なるほど。そりゃそうだ。
しかも折角のハルカからの提案だ。それを無碍にすることはできない。
「おっし、じゃあ行こうか。案内お願い」
「はい、わかりました」
会話はそれっきりだった。なにやらハルカも考えこんでいるようでお互い無言で歩き続けた。
ものの数分で目的地に着く。どうやらなんの変哲もないただのビルのようだ。
こんなところに何の用だろう……そう思っているとハルカはスタスタビルの中に入ってしまった。あとを追いかけると中もやはり普通のエントランスだった。
聞いてもハルカはゴモゴモしそうなので受付の人にこのビルのことを聞いて見ることにする。
「あの……」
「はい、どうかされましたか?」
「このビルって何をするところなんです?」
女性は一瞬、え?というような顔をした。というかこっちが、え?なんだけど。
「あの……わたくしイッシュ地方の田舎からでてきたばかりで、こちらのビルが何のビルかまだわかっていないんです」
「あっはい、すいません。ありがとうございました」
ーーおいおい、ますます訳がわからんぞ。
俺がそんなことをしている間にも、ハルカは歩みを止めなかった。エレベーターに向かっている辺り、目的地はどうやら上の階らしい。
ハルカはエレベーターに入ってすぐ二階のボタンを押した。同乗者はおらず、二人きりの少々気まずい沈黙に包まれる。少しの浮遊感のあとリンゴーン!と音がしてエレベーターが止まった。
「ん?誰も……いない?」
フロア全体が異様な静けさに包まれていた。デザイン自体はシンプルなのだが、無音ここに極まれりという状態の所為か逆に不気味に見える。
「こりゃー、手を抜きおったな」
ミアレシティは見た感じ、そうとう容量を喰っているのでこんな感じの場所もあるにはあるのだろう。
「あ……でもハルカ。こんなとこに何のようなん…だ……」
次の瞬間だった。
バチンッと一斉にフロアの電気がおちる。
「なんだ?停電……!!!!」
違和感に気づいたのはその時。
「身体が……うご……か…ない……」
金縛り……というより世界からのシステム的拘束を感じて俺はハルカの方を振り返ることが出来なくなっていた。
「お、おい……ハル…カ!……大丈夫……か!」
しかし返事はない。
だが、
ーー返事の代わりに後ろから何かが迫ってくる気配がした。
どうやらユウキの身体は相当優秀らしく、かなり危ない《気配》というものを背中からビンビンに感じ取っていた。それはもう尋常ではない。殺意とかそんな生易しいものじゃない。言うなら遺伝子的恐怖だ。
……全く冗談がキツイ。
流石にもうポケモン廃人なら誰だって理解するだろう。自分の置かれている状況。そしてこれがどういった系統のイベントなのかを。
即ちこれが、これこそが……
ーー毎度お馴染みホラーイベントだ。
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