Fate/guardian of zero
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旅立ち。決意。そして、召喚。
「凛、私を頼む。知っての通り、頼りないやつだからな。君が、支えてやってくれ」
朝日を迎え、白く輝きだす丘を背に、赤い外套をなびかせた弓兵は、これが最期だ、と言わんばかりに言葉を目の前の少女に託す。
「アー、チャー……」
少女は俯き、目元の雫を拭いながら、託された言葉に応えた。
「うん……。わかってる。あたし、頑張るから…!」
顔を上げた少女の顔に雫は残っておらず、晴れやかな笑顔が広がる。
そして、今までの仕返しだ、とばかりに減らず口を叩いた。
「あんたみたいに捻くれた奴にならないように、頑張るから。きっとあいつが、自分を好きになれるように、頑張るから……!だからあんたも―――!!」
言いつのろうとする少女の言葉を半ばで遮り、
「答えは得た。……大丈夫だよ、遠坂」
いつかぶりに浮かべた、負の感情のない晴れやかな笑顔で、宣言する。
「俺もこれから、頑張っていくから…」
I am the bone of my sword.
―――――― 体は剣で出来ている。
Steel is my body, and fire is my blood.
血潮は鉄で 心は硝子。
I have created over a thousand blades.
幾たびの戦場を越えて不敗。
Unknown to Death.
ただの一度も敗走はなく、
Nor known to Life.
ただの一度も理解されない。
Have withstood pain to create many weapons.
彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う。
Yet, those hands will never hold anything.
故に、生涯に意味はなく。
So as I pray, unlimited blade works.
その体は、きっと剣で出来ていた。
男は、朝日を背に、体を霧に、溶かしていった。
――――ああ、戻っていくのだな。
霧に溶けた男、アーチャーこと、英霊 エミヤ シロウは、体が強力な磁石に引付けられていくような感覚を全身に受け、思考した。
いや、戻っていくわけじゃない。
決して、今までのように、戻っていくわけじゃない。
しかして、アーチャーは、シロウは数瞬前の自身の思考を否定した。
俺はこれから、前に進んでいくのだから。
決して、後ろ向きに、負の感情を背負い、運命に、この世界に引きずられていくだけの存在になど、もう、戻ってくことなど、ない。
奇妙であり、慣れてしまった感覚が抜け、座が、見えてくる。
無限に続く荒野に、いくつもの刀剣が身体を預け、空には無数の歯車が浮かんでいた。
アーチャーは、荒野の中、一部盛り上がった丘、その頂上にある岩に腰かけ、世界を見上げる。
その顔にいつもの悲壮、ましてや後悔などなく、どこまでも広がってゆく荒野とは対極に、彼の心は澄み渡っていた。
そして、いつくかの時が流れた。
それは、一瞬だったのかもしれない。いや、人が何十回と、生と死を繰り返したのかもわからない。
そんなとき、
「来たか……」
世界が、彼を呼んだ。否、彼に命じた。目の前の空間が風に揺れるカーテンのように歪み、彼を誘う。
そして彼は、前に進む決意を胸に、いつも通り、しかし、得た答えを胸に、腰を上げる。
だが、
「よぉ、英雄殿。どこかにお出かけかい?」
振り返った先に、ソレはいた。
「なんだ貴様……?」
まず目に飛び込んできたのは、むき出しになった黒色の上半身に所狭しと描かれた、刺青の数々である。
「俺が何者であるかなんて、そんなことはどうでもいいんだ。要は、あんたは今、言いなりになろうとしてる。この世界の、いいなりにな」
「何が言いたい?だから何だ。別に、同情などなら要らぬ世話だぞ?」
「そうじゃない。重要なのは、そこじゃあねぇ。お前が、世界にいいように使われて、世界がそれを当然だと思い込んでいるってことだ」
「だから、だから何だというのだ?用がなければ、私は行くぞ。待たせてるんだ」
言語は理解できるものの、全く話の通じていない男に、アーチャーは対話を諦め、次の世界へと飛ぼうと空間のゆがみへ一歩を踏み出した。
「まあ、そう焦んなって。要は――――」
だがしかし男は、それを是せず、アーチャーを、突き飛ばした。
否、突き飛ばそうとした。
「ッ!貴様何を!」
男の突進をサイドステップで躱すと、アーチャーは、彼に意図を尋ねる為、振り返ろうとしたが、
ズズズ……。
左腕に違和感を感じ、そちらを見ると、
「なんだこれは…!」
左腕が、青白く発行する魔法陣に、呑まれていた。
何とかそれを振り払おうとアーチャーはもがく。
だが、英霊の膂力を用いても、左腕は魔法陣から抜けるどころか、じわりじわりと、アーチャーの身体を呑み込んでゆく。
「まあ、あれだ、つまりはな。―――俺が世界を嫌っていて、その世界に意地悪をしたかったってワケだよ!」
ケラケラと笑う。
実に愉快にそうに。
まるで、嫌いな子のおもちゃを盗み、盗まれた子が慌てふためくのを眺める悪戯っ子のように。
何なんだ貴様は!を叫ぼうとするが、既に身体の大半を魔法陣に呑まれ――――
ところ変わって、ハルケギニア大陸の、王立トリステイン魔法学院。
メイジと呼ばれる、所謂魔法使いの養成学校である。
石造りの荘厳な容貌と、歴史を感じさせるその佇まいの校舎、そして青々と芝生が茂るその庭に、二年生に進級した生徒の全員が集められ、教師が口を開くのを今か今かと待ちわびていた。
そして、
「いよいよ今日は、召喚の儀子であります。これは、二年生に進級した君たちの、最初の試験でもあり、貴族として、一生を共にする使い魔を召喚する神聖な日でもあります―――」
頭頂部を刈り上げ、眼鏡をかけた中年の教師が、生徒たちが心待ちにしていた言葉を発した。
その言葉を聞いた生徒たちは、そわそわと、そしてわくわくと、心を踊らせていた。
そんな中、ピンクの髪と勝ち気な瞳をたたえた小柄な少女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。ルイズは、緊張と後悔の入り混じった心境で、場を見つめていた。
すると、
「楽しみだわ~あなたがどんなにすごい使い魔を呼び出すか♪」
赤い髪と小麦色の肌を持つ少女とは思えない妖艶な体つきをした少女、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。キュルケは、挑発的に、かつ嫌みったらしくルイズの耳元でささやいた。
ルイズは、学院で魔法を学びはしているものの、基本的な魔法以外、成功した魔法は未だ、ゼロ。
ただ不発なだけであれば、そこまで揶揄されるいわれはないのだが、発動した魔法が全て爆発してしまうので、他の生徒にはやっかみと皮肉を込めて、『ゼロのルイズ』などと不名誉な二つ名を頂戴している。
そして、昨日そんな二つ名で罵られ、ついカッとなり、きってしまったのだ。
「私、召喚魔法、サモンサーヴァントだけは自信があるの!!」
などという啖呵を。
だがしかし、いけすかないツェルプストー家の女の前で、惨めな格好だけは見せられないと、ルイズは虚勢を張った。
「ほっといて」
その後、順調に儀式は進み、ついにルイズの番と相成った。
「ゼロのルイズかよ」
「何呼び出すんだ?」
「馬鹿、どうせ爆発して終わりに決まってるだろ」
ヒソヒソ、ザワザワと、自身の陰口を堂々と叩かれるルイズ。
だが、憮然とした態度で、ルイズは準備を進める。
「大見得切った以上、この子より凄いのを召喚できるのよね?」
先に召喚し、火蜥蜴という大戦果をあげたキュルケが、皮肉っぽく言った。
「当然でしょ……!」
言葉では虚勢ははれても、心まではそうはいかず、杖を持つ手が震え、緊張で頬が強張る。
(お願い…!!)
ルイズは心中で祈りを捧げながら、杖を頭上高くに振りかざす。
「宇宙のどこかにいる、私の僕よ!」
?と、その場に集められたルイズを除く全員の生徒が、怪訝に首を傾げた。
「神聖で、美しく、そして強力な使い魔よ!私は心より求め、訴えるわ!!我が導きに、答えなさい!!」
そう締めくくると、頭上に掲げた杖で小さく円を描き、そのまま振り下ろした。
そして――――
チュドーーーンッ!!
いつものごとく、爆発した。
被害を被った生徒たちは、
「やっぱこうなったか!」
「ルイズはどこまでいってもゼロのルイズってことだ!」
ふざけんなーと、口汚く罵る生徒たち。
そしてその爆発によって吹き上げられた土煙の中、金色髪を立てロールにした女生徒、モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。
モンモランシーを、天然パーマのこれまた金髪の少年、ギーシュ・ド・グラモン。ギーシュが、やけに芝居がかった所作で、呼びかける。
「大丈夫かい、モンモランシー?って、どうしたんだい?」
そんな煙幕の中、呆然と正面を眺めるモンモランシーに、ギーシュは心配と同時に疑問を覚え、尋ねた。
すると、モンモランシーは何も言わず、黙って前方、爆発したその原因となった場所を指さした。
「うん?」
するとそこには、
「に、人間?」
赤い外套を羽織り、浅黒い肌に、白い髪の、男が倒れていた。
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