グランバニアは概ね平和……(リュカ伝その3.5えくすとらバージョン)
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第36話:趣味を語る仲間が居るのは幸せ
(グランバニア城より南東の丘)
ウルフSIDE
仕事という拷問に一週間堪え、今日もグランバニア城から南東にある丘の上へとやってきた。
先週よりも早くに来たのだが、何時もの場所には既に先客が居り、俺の姿を確認すると笑顔で手を振り迎え入れてくれる。
「早いですねピクトルさん」
「はい。先週はあまり描けなかったので、今日は頑張ろうと思いまして……」
多分俺が邪魔だったんだろう……
それなのに嫌な顔せず、今週も作画作業を共にしてくれるなんて……良い娘だねぇ。
芸術に……特に絵画に興味がある俺には、本物の画家の作画作業に憧れ、無理を言って一緒に作画作業させてもらった。作り手としては無理でも、その臨場感を味わいたいです。
何より彼女の絵は素晴らしく、城の謁見の間に飾るに相応しい。
学校の課題と言ってたから、提出義務があり出来上がり次第買い取りは出来ないだろうけど、最優先で買い取り交渉は出来るはず。
「今日もスタジアム方面を描くんですか?」
「ん? まあね……それが仕事だから」
そう、それが俺の仕事……俺の腕前では後世への記録用に描き止めるのが精一杯。
とは言え、自分の技術向上の為に他の絵も描きたくなってるので、スタジアムの絵はチャチャッと仕上げるつもりだ。
つーか今日描く分は記憶しちゃったし、後はキャンバスに描き写すだけ。
チラリとピクトルさんを見たが一生懸命に自分の絵を描いている。
その姿は美しく、そして格好いい。
……だよなぁ、俺みたいに片手間で始めた作画とは訳が違うよなぁ。彼女にしてみれば絵を描く事こそが人生なのだろうから。
暫くの間二人とも何も喋らず作画に没頭した。
互いに意識してる事がヒシヒシと伝わってくる。
俺は彼女の絵の腕前の素晴らしさを欲し、彼女は俺の絵の腕前が如何に向上するのかを期待し……
その期待に応える為、記録絵の作業を早々に終え新たなキャンバスを用意する。
因みに出来上がった絵には色は入ってない。
油絵の具は乾きにくいから、色を入れてしまったら保管が面倒臭いのだ。
何より色なんて憶えちゃってるから、帰宅後でも問題ないのだ。
そんな事よりも俺は彼女の技術を盗ませてもらう為に、ほぼ同じ角度からのグランバニア城を描こうと思う。
ウルフSIDE END
(グランバニア城より南東の丘)
ピクトルSIDE
とんでもない早さで絵を描き上げたウルフさんは、着色作業に入らず新たなキャンバスを用意し、そして私と同じ方向に向き直りグランバニア城を描き始めた。
ちょ……私と同じ絵を!? 彼の絵と比較されたら恥ずかしいわ!
「ど、如何したんですか? 何で急に違う絵を……?」
「いえ……ピクトルさんの絵を見てたら触発されまして、俺も描きたくなったんですよグランバニア城を」
そう言うとウルフさんは既に描きだしており、その緻密なスケッチで私を唸らせる。
「正直言うと俺……あの城が好きじゃないんですよ。中は閑散としてるクセにムダにデカイ。中で働く人間の身にもねれっての(笑)」
「は、はぁ……」
何と言えば良いのか……
「陛下にね『閑散としてるから絵画とかを買え』って言うんですけど、何て言い返すと思います?」
「さ、さぁ……私には陛下のお心は……」
そんな雲の上の方の考えなんて解らないわよ!
「相当数の絵画や彫刻が無いと賑わう事ないのに『お前が描け』って言うんですよ。馬鹿なのかケチなのか……きっと馬鹿なんでしょうね、俺にそんな時間はねぇっつの(笑)」
「は……ははは……」
ウルフさんは笑いながら陛下の事を馬鹿という。私は引き攣りながら笑うしか……
「ん……どうかしましたか?」
戸惑ってる私が気になったのかウルフさんは顔を覗き込む様に話しかけてきた。
「い、いえ……その……陛下の事を悪く言うのは……その……如何かと……」
「あぁそうか! ごめんなさい、何時ものクセで」
「い、何時ものクセ!?」
普段から陛下に対して陰口を言ってるって事!?
「俺さ、あの人が国王だって知らない時から付き合いがあってさ……その当時から気さくに話をしてくれたし、何より俺に迷惑をかけてきたから、相当公の場でじゃない限り、こんな口調で会話してるんだよ。本当にトラブルメーカーだけど器の小さい人じゃないからね」
「そ、そうなんですか!?」
それって凄く信頼されてるって事よね。
じゃぁあの噂は本当なのかしら? ちょっと尋ねてみようかな……
「あの……ウルフさんって……リュリュ姫様と婚約関係にあるって本当ですか!?」
今巷の噂である二人の関係……
先週ウルフさんと出会った事を寮の友達に話したら、瞳を輝かせて教えてくれた噂だ。
「はぁ~……それね」
やっぱり悪い事を聞いたのかしら?
ガックリと肩を落とし力無く話し出すウルフさん。
「この間“シージャック事件”ってあったでしょ」
「……あぁ、あった様な気がします。詳しくは知らないんですけど……」
私はどちらかと言えば世の中の出来事に疎い。それでも“シージャック事件”の事は耳にしてる。
「あの時さ……運悪く俺、ジャックされた船に乗り合わせてたんだよね」
「えぇ!? そ、そんな危険な場所に居合わせて大丈夫だったんですか!?」
「う、うん。大丈夫だったからここに居るんだけど……」
「あぁそうか……」
「……でね、何かあった時用に陛下から通信装置を渡されてて、それを使って犯人達を罠に嵌めたんだ。その時に“俺はリュリュ姫のフィアンセ”って広言しちゃってさ……それが噂として広まってるんだよねぇ。アレは俺がVIPである事を犯人達に知らしめる為に言った事なんだ。そうすれば他の人質を解放しやすくなるでしょ」
「じゃ、じゃぁ……この噂はウソって事ですか?」
「まぁね……実際あの女は俺の事をこれっぽっちも意識してない、男として」
何だ……何か安心したわ。
ウルフさん格好いいし陛下から信用されてるから、てっきり姫様とお付き合いしてるんだと思っちゃったわ。
……でも何かしら、この安心感は?
「大体あの女は変態なんだよ。実父に恋慕してて、その事を隠そうともしない」
もしかして私……ウルフさんに……
いやいや、無理だから! 私とじゃ釣り合わない程ウルフさんは格好いいし、何よりエリート。
「早く男を見つけて落ち着いてほしいよ……」
でもやっぱり格好いいわ。
何かを喋ってるのだけど、その間もスラスラとグランバニア城の絵を仕上げて行く。
なんて上手いんだろう。
そう思い彼と彼の絵に見取れてると、ウルフさんは喋るのを突然止め丘の麓の方に視線を向ける。
私も釣られる様に視線を同じ方に移すと、そこには凄い美形のカップルが手を繋いで歩いてきてた。
こ、ここってデートスポットなの?
ピクトルSIDE END
(グランバニア城より南東の丘)
リュカSIDE
グランバニア城から周囲を見渡してたら、丘の上の一本杉でウルフが絵を描いてるのが見えた。
俺がスタジアムの建設経過を記録させる為に描く様言い付けたのだけど、今日は何時もと様子が違う。
何が違うって……
何か隣に女の子が居る。
しかもスタジアムを描かないで、城を描いてる様子だ。
思わず一緒に景色を楽しんでたビアンカに、ウルフが不倫してると言ったよ(笑)
でもね、距離がありすぎてビアンカには見えなかったみたい。
だから直接ウルフの居る場所に行こうって事になって、城をダッシュで出てきた。
何かビアンカの横顔が可愛くて、彼女の手を握って丘を登る俺。
ある程度丘を登るとウルフ達の姿が見えてくる。
冷やかしに声をかけようと思ったが、ウルフの方が先に気付き俺達に視線を向けてくる。
それに釣られて女性の方もこちらに視線を向けた。
「何の用だよ!? 急用だったらMH鳴らせよ」
「別にぃ~……僕達はデートしてるだけだしぃ」
女性は俺達の姿にキョトンとしてたが、ウルフが気さくに話しかけたので、視線で誰だかを尋ねてる。
「あぁアレは俺の上司とその奥方。良いよシカトしてて……絵を描くのに邪魔でしょ」
「え……じょ、上司って?」
「は~い、上司のリュカで~す」
「その妻、ビアンカで~す」
「……おい、気が散るから帰れよ馬鹿! こっちはアンタに言われて休日に絵を描いてんだから」
「ね、ねぇ……上司って国のお偉いさんよね!?」
女の子の方は俺等の登場に少しビビってるみたい(笑)
「大して偉くないよ……只の国王だから。なんちゃって国王だから」
「こ、こ、こ……」
ニワトリか?
「国王って、一番偉い人じゃないですか!? あ、あの……は、初めまして……わ、私、ピクトル・クンストと申します! えっと……芸術高等学校で絵画の勉強をしてまして……その、えっと……何を言えば良いんでしょうか、私!?」
凄ーテンパってる(笑)
「うん。じゃぁスリーサイズは?」
「は、はい。う、上から85・55・88です!」
言っちゃったよ(笑) テンパりすぎてて聞かれた事に素直に答えちゃった。
「じゃぁ出身は?」
「は、はいぃ。ノーザスレーンです、王妃様!」
ビアンカも面白がって質問した。そして同じ様にテンパりまくった答え方で質問に応じる。
「ノーザスレーンかぁ……良いところだよね。あそこの海鮮料理は美味しかった」
「行った事あるのリュカ? 私はないのに、リュカは一人で行ったの? 妻を除け者にしてリュカだけが海鮮料理を堪能してきたの?」
おや、地雷か? 俺は妻の地雷を踏んだか?
「仕事で行ったんだよぉ……国王として国内の全ての場所に行ける様にしておいた方が好都合だと思って、大分前に魔法の絨毯で国内全ての土地に行ったんだよぉ」
「仕事? 嘘吐け! どうせサボる為にルーラで行ける場所を増やしただけだろ」
「どっちでも良いけど、私を連れて行かなかったのは何故よ?」
妻同伴じゃナンパしづらいからで~す……なんて言えないよね、流石に。
「本当に海鮮料理を堪能しただけか? 別の喰い者を堪能したんじゃねーのか?」
愚問だろウルフ。
「何だ何だ……哀れなイケメンを苛めて楽しいのか?」
「哀れじゃないイケメンが、自らの失言で哀れになっただけだろ。苛めてもないし、たのしんでもない。これ以上攻められたくなかったら、さっさと帰れ馬鹿」
相変わらず言うねウルフは(笑)
ただ……ウルフ的には不倫してるつもりはなさそうだなぁ。
コイツ最近自分の絵に自信持ててなかったみたいだし、本物の画家(のタマゴだけど)の絵を見て、芸術魂が触発されたのだろう。
最初は『娘二人と婚約関係にあるのに、別の女と関係を持つのか?』て苛めようと思ってここに来たけど、ウルフ的には全然そんな事ないみたいなので、今日は帰ろうと思うよ。
まぁただ……彼女の方はウルフに気がありそうだから、二人の仲がもっと進展したら苛めちゃおう……うん、そうしよう!
「ふ~んだ、言われなくても帰るよバ~カ! 憶えてろよ、僕を苛めると後が怖いんだゾ!」
悔し紛れっぽく捨て台詞を吐き、ビアンカの手を取って二人の前から立ち去る。
でも「私の話は終わりじゃないわよ」と妻が……
リュカSIDE END
後書き
因みにリュカの部下で胃薬を使用してないのはウルフだけです(笑)
それも終わりかな……?
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