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木の葉詰め合わせ=IF=

作者:半月
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偽装結婚と初めての夜

 
前書き
リクエストは2人の初夜でした。 

 

 煌々とした純白の満月が下界を照らす中、橙色の灯火だけが薄暗い室内に彩りを与えていた。
 密やかな空気が室内に充満している中、乾いた澄んだ音だけが不規則に室内に木霊する。

 ――パチ、パチリ。

 真新しい将棋盤を挟む形で、夜着に身を包んだ二人の人影。
 橙色の燈火に照らされ、二人分の影が室内を横断していた。

「――……さて、これが約束の物だ」
「そうか」

 微かな衣擦れの音と共に、前へと押し出されたのは決して小さくはない葛籠。
 紺の飾り紐を躊躇う事無く解き葛籠を受け取った側の男が中身の確認のため、ざっと視線を走らせる。

「写輪眼開眼における眼球疲労へよく効く医療忍術の術式の書かれた書と、須佐能乎使用による身体の負担を軽減させる術式はおまけだ」
「……余計な真似を。貴様があの日に提示した条件の分だけの術式で充分だった」
「そういうと思ったけど、どうしてもね」

 困った様に将棋盤の向かい側に座していたその人は頬を掻いた。
 そうしてすっと瞳を伏せる。

「――あの子の目を貰ったとはいえ、それ以前の戦闘において須佐能乎を使用した際の体にかかる負担は決して軽くはない。それに戦国の世が落ち着いたとはいえ、世は安寧とは言い難い。オレは戦国の世に再び戻す気はないが、それでも……」
「――――貴様がイズナの事を口にするな」

 強い拒絶を込めた言葉に、その人は緑の輝きを帯びた黒い眼差しで、真紅に変じた男の両眼をひたと見据える。

「……あの子を殺したのは、お前じゃないよ」
「――黙れ」
「あの子は最後まで、お前の事を恨む様な事を言ってなどいない。一部の口さがない者達は、お前の事を弟の目を奪う様な冷酷非道な兄だと言っているが、本当にそうだったのであれば……あの子はあんなに安らかに逝きはしない」

 囁く様に呟かれた言の葉に、男は駒を進めていた手を止める。
 不思議な文様の浮かぶ赤い目が見開かれ、静かな表情で男を見つめていた相手の顔を見返した。

「イズナの死を、お前が看取ったのか……?」
「……私という存在の、敵と成れた事が誇らしいと――そう言っていた」
「オレの事は……、何か言っていたか」

 ――ふ、と静かな吐息が室内に落とされる。

「もう一度言おうか、マダラ。あの子はお前の事を怨んでなどいなかった」
「……そうか」

 互いに口を閉ざしたまま、黙々と駒を進める。
 乾いた木が盤を打つ音と時折灯火が明かりに誘われてやって来た虫を焦げ尽くす音だけが二人の耳に届く。
 静まり返った室内の雰囲気を払拭する様に、敢えて明るい口調でその人は口を開いた。

「……お前がこの申し出を受けてくれて、本当に助かったよ」
「――別に。オレとて一族の者達が持って来る縁談には辟易していたからな。それに彼の有名な千手柱間が作り上げた新術を結納金代わりに付けられたら、こちらとしても文句は無い」
「――ははっ。是非とも有効活用してくれ」

 苦笑すると、その人はゆったりとした動きで両腕を組んだ。

「――マダラ」
「なんだ」
「済まないな、オレの問題にお前を巻き込んでしまって。正直、お前の優しさにつけ込んでしまった感が拭えない」
「……そんな気色の悪い事を言うのは貴様だけだ」
「そう言うなって。……ま、オレも出来るだけ早くお前を解放できる様に頑張るとするか」
「何を言っている? それよりいいのか? ――王手だが」
「え? あーっ!?」

 自軍の、逃げ場の無い王将の姿に気付いて、がっくりと肩を落とす。

「ま、負けた……」
「ふん」

 落とした肩を持ち上げると、その人は側に畳んでおいてあった羽織を広げる。
 そうしてから庭に面している側の障子を大きく開いて、素足のままに地面へと降り立った。

「あー、もう。負けた方が庭で寝るなんてそんな賭けを持ち込まなきゃ良かった」
「敵陣の真ん中で寝るよりもマシだろう」
「まあ、そうだな――おやすみ」

 
 

 
後書き
……甘くなんて、なるはずが無い。 
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