戦国異伝
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第二百二十六話 徳川家の異変その十
「父子で離れた城におるとな」
「確かに。家中に二つの派が出来ますな」
「跡継ぎ様が別の城におられては」
「そして謀反だのという噂も起こりやすくなる」
「そうなりますな」
「それで何者かがそこに付け込んだのじゃ」
闇にいる彼等がというのだ。
「あのまま放っておけばな」
「徳川家は危ういことになっていましたか」
「そして竹千代殿もですか」
「上様としても断を下されねばならなかったかも知れぬ」
「左様ですか」
「事実無根の噂でもそれが家を腐らせることもある」
信長は噂を軽く見てはいなかった、時としてそうした事態にまで至ることもあるというのである。それで言うのだ。
「徳川家を滅ぼさぬことを考えれば」
「竹千代殿も」
「腹を切らせたりせねばならなかった」
「そのことも考えられましたか」
「あのまま進めば」
「そうじゃった、しかしじゃ」
それでもというのだ。
「竹千代はよくやってくれた」
「徳川殿も」
「そうだったというのですな」
「まず竹千代殿を駿府に呼ばれ」
「そして噂を出した者を探された」
「そしてですな」
そのうえでだったのだ。
「上様に伺いを立てられた」
「すぐにそこまで動かれたからこそ」
「無事にことを収められた」
「左様ですな」
「そういうことじゃ、これで徳川家の難は去った」
それはというのだ。
「わしにとってもよいことじゃった、しかしな」
「はい、敵の策を潰しましたし」
「このことをですな」
「相手はどう思うか」
「それが問題ですな」
「策を破られ探られもしておる」
信長はこの状況を冷静に述べた。
「では相手はどうするか」
「焦りますな」
丹羽が冷静に述べた。
「これまで以上に」
「そうじゃ、そしてじゃ」
「さらに動きますか」
「おそらく今既にじゃ」
「動いていますか」
「裏でな、それをはじめておるわ」
既にというのだ。
「しかも仕掛けるのは」
「今度は」
「当家じゃ」
織田家そのものだというのだ。
「枝ではなく幹を狙ってくるわ」
「そうしてきますか」
「わしはそう見る、そうじゃな」
ここでだ、信長は家臣達を見回した。そしてだった。
荒木を見てだ、こう彼に言った。
「御主、乗るか」
「それがしですか」
「そうじゃ、詳しい話はな」
それはというと。
「後じゃ」
「では」
「この場は終わりじゃ」
皆集まっての話はというのだ。
「よいな」
「さすれば」
「我等はここで」
他の家臣達は応えてだ、そしてだった。
荒木は信長と安土城内の茶室で二人だけになった、そこでだ。
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