戦国異伝
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第二百二十六話 徳川家の異変その八
「おったら天下で話題になっておるわ」
「わざわざ明から来たとなりますと」
「そうじゃ、徳川家でも最初からな」
「しかしその様な医師はおりませぬ」
酒井も断言する。
「一人も」
「相手もおらずに密通とはのう」
「このことが面妖ですな」
「全く以てな、しかも小さい方の竹千代がか」
信康のことだ、家康と幼名が同じなので信長はこう呼んだのだ。
「侍女の口を裂いた、弓矢で射た」
「このこともですな」
「有り得ぬ、しかも父に謀反か」
「はい」
「それは余計にないわ」
ここでまただ、信長は笑い飛ばした。
「絶対にな」
「竹千代様が跡を継がれるので」
「徳川家のな」
「このことは決まっております」
「跡を継ぐ身が何故謀反を起こす、しかも政でいがみ合ってもおらぬ」
「それではですな」
「有り得ぬ、とてもな」
それもまたというのだ。
「まあ小さい竹千代が側室に入れあげたこと位か」
「この中で有り得るものは」
「築山殿が五徳をいじめたというのもな」
「駿府と岡崎で離れていますし」
「やはり有り得ぬ」
この噂もだ、信長は笑い飛ばした。
「殆ど全て根も葉もない噂じゃ」
「あの、では」
「特に徳川家自体の謀反のことじゃな」
「そのことは」
「竹千代はその様な者ではない」
家康に万全の信頼を向けている言葉だった。
「断じてな」
「そう仰って頂けますか」
「あ奴は天下の律儀者、そうしたことは絶対にせぬ」
「確かに兵糧や武器は駿府に蓄えていますが」
「全てわしの許しを得てどれだけ収めているかも申し出てな」
「検視も受けておりまする」
「駿府の隅から隅まで見させたうえでな」
信長も言う。
「だから全てわかっておるが」
「我等はです」
「うむ、謀反の心もない」
それも全く、とだ。信長は言い切った。
「このことはわしがよしとした、この噂全て根も葉もなきこと」
「さすれば当家は」
「うむ、既に行われておるが小さい竹千代は駿府に移ることじゃ」
そうせよというのだ。
「駿府と岡崎に別れておるから怪しい噂が起こるのじゃ」
「さすれば」
「それでじゃ」
信長は酒井にさらに言った。
「この噂、出所が気になるな」
「非常に」
「そうじゃな、最初に流した者が誰か」
「その者を探していますが」
「見付かることはない」
信長は酒井にまた言い切ってみせた。
「決してな」
「やはりそうですか」
「既に徳川の領地の外に逃げたか隠れた」
「だからですな」
「見付かることはない、しかしじゃ」
「探し出すことで」
「それで相手にこれ以上噂を流させぬことは出来る」
家康の狙い通りというのだ。
「竹千代もわかっておるな」
「ではこのことも」
「それでよい、しかしそのままでは噂は消えぬ」
信長はこのこともわかっていた、それでこうも言うのだった。
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