異世界を拳で頑張って救っていきます!!!
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遺跡出現までの10日間【2日目】 その6
その6
「グギョルエエェエエ!!」
「「「!?」」」
突然、頭上で奇妙な鳴き声が聞こえる。上を見るとオウムが頭上を徘徊していた。何をしているのかと思っていると嘴にさげてある布からポロポロと何か玉のようなものを周りに落とし始める。
「こ、これは!」
すると辺り一面が真っ白な煙に覆われ始める。こ、これは煙玉だ!
「ライトさん今のうちです! 行きましょう!!」
僕は自分のポーチに入っていた煙玉を取り出し、その場に投げつけながらライトさんに向かって叫ぶ。
「お、おう!」
ライトさんが二本の剣を背中に背負うのを視界の隅で確認しながら僕は背中に背負っていたリュックを前に背負い、その場から動かないマーヤさんを背中に背負うと大広間の出口に向かって駆け出す。
「うわぁ……こんなに……」
走りながら周りを見回すと4足歩行のロボットたちの単眼が煙の中で赤く光っているのが見える。オウムに助けられてなかったら今頃どうなっていたことか……。
4足歩行のロボットたちは煙のせいで僕たちを見つけられないらしい、見当違いの方向に言ったり仲間を攻撃したりするやつが現れる。こ、これはいける!! ナイスだぞオウム!!!
「ぐおっ!?」
「!?」
大広間の出口との距離が3mほどになったぐらいだろうか、突然背後で悲鳴が聞こえる。急いで後ろを振り返るとライトさんが自分の太ももを抑えていた。どうやら4足歩行のロボットの攻撃を運悪くくらってしまったらしい。
「ちっくしょう、しくった……ケント、俺はもう動けない。ローラを連れて逃げてくれ……」
ライトさんが顔に脂汗を浮かべながら僕に早くいけと手で合図してくる。くっ、部屋が広いせいで煙玉の効果がジョジョに薄れてきた………。
「何言ってるんですか! 大広間の出口は目の前で――――――――」
「馬鹿野郎!」
「!?」
ライトさんが僕に背負向けながら二本の片手剣を抜き放つ。
「こいつらはたぶん追ってくるぞ。この煙玉の効果も長くは続かない、恐らく手負いの俺を連れて逃げても追いつかれて全滅する」
「クッ………」
「俺はここで足止めするよ、それにこのまま逃げ帰れてもあいつらに顔向けできねえ……ローラ連れて早く行け」
「……………」
「行けよ! 早く行ってくれよ!! ケントオオオオオオオオオオ!!!」
ライトさんはこちらに顔を向けずに叫びあげる。
「……ちっくしょう!!!」
僕はぼやけてきた視界を擦るとローラさんを背負い直し出口の外に向かってがむしゃらに駆け出した。
☆ ☆ ☆
(行ったか…………)
ライトは入り口付近に仁王立ちしながら剣を構える。煙玉の効果が切れたらしく視界がだんだん開けてきた。沢山の視線が自分に注目しているのをピリピリと肌で感じる。
(こんな奴らみたことねぇ……恐らく強さ的には『マダー』の最下層クラス、それにこの数……いったいどこから湧いて出てきやがった……)
「ッ!!」
一番手前にいた4足歩行のロボットの攻撃を防いだことによって思考がいったん中断する。すぐに4本足の根元の部分を切り刻むが太ももに鋭い痛みが走り意識が持っていかれそうになる。するとその隙をついて3体もの4足歩行のロボットが一斉に攻めかかってきた。
「グアアアア!?」
かろうじて一匹の首を切り落とし戦闘不能にさせるが右太ももを怪我した状態ではすべてをさばききれない。右腕の肉を鎌のような前足で削ぎ落される。防具を貫通して腹にまで刃が食い込む。激痛で一瞬意識が飛ぶが気力だけで何とか持ちこたえたが、右腕は剣を握ることすらできない状態になっており使えるのは左腕一本だけとなる。
しかし彼は決して折れない。
「う……おおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
自分を攻撃したせいで起きたわずかな硬直時間を見逃さず2体の4足歩行のロボットに向けて斬撃を放つ。
「グフッ……」
口から大量の血が出る。頭がボーっとする。
(臓器を傷つけられたな……持って3分か……)
「おっと……」
自分を無視して後ろにある大広間の出口へ向かおうとした4足歩行のロボット一体を切り伏せた。
「悪いな……こっから先はしばらく通行止めだ」
すると数で押し切る作戦に出たのか4足歩行のロボットたちが一斉に接近してくる。
(ハハハ、こりゃ無理だわ)
次の瞬間、彼の意識はプッツリと途切れた。
☆ ☆ ☆
「ハアッ……ハアッ……ハアッ……」
もう……走れない……。一応来た道を戻ってみたけど……このままローラさんを背負ったままじゃ出口につくまでに僕の体力が尽きるよ……。
「ロ、ローラさ――――――――――――」
プシュウウウウ!
「え…………………………………」
頭にものすごい量の血がかかる。両手がだらんと下がったせいで前に背負っていたリュック―――――ローラさんから買ってもらったリュックがずり落ちる。
思考が停止する。頭の中が真っ白になる。目の前が真っ暗になる。
ウソ………ダロ………
僕はしばらくの間彼女だったものを見ていた。そう、首の取れた彼女の体を。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
頭を抱える。なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでナン―――――――――
「!?」
目の前に先ほど短剣使いのエルフさんとやり使いのエルフさんを殺したロボットと同じ型のロボットが現れる、いや先ほどのロボットより腕が細く両手にまるでSF映画に出てくるような黒い刀身の日本刀を持っている。刀からは血が滴っていた、ローラさんの首から出ている色と同じイロノ。
「オ前がやったのカ……」
先ほどのロボットの時に感じた恐怖はない、あるのは、この感情は―――――――
「……………………」
「答えロヨオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
ソう、憎オ。
「グルアッ!」
まるで獣のようなうなり声を上げながら奴に詰め寄る。左フックを放つ。いつもの自分より明らかに速くなっている。
ガキンッ
右手に持った日本刀一本で防いできた。ハハハ――――――――――――――
「ナメンナヨ」
自分でもぞっとするぐらい奇怪な声が出る。
右手のナックルで黒い日本刀の刃じゃない部分――――――腹を殴りながらしゃがみ地面にたたきつける。ロボットの手を離れた黒い刀身の日本刀がポッキリと折れる。
ロボットの癖に焦ったのか奴は僕の左フックを防いだ刀を僕の首に向かって振り下ろす。
「シッ!」
しゃがんで地面をしっかりと踏んだ二本の足で跳躍しながら左拳でのアッパーで奴の日本刀を正面から受ける。
バキンッ
もう一本の日本刀も凄い音を立てて折れる。
「ナマクラカヨ」
ピンと張った右手を腰だめに構える。足首、腰、上半身、肩、腕全ての関節をフル動員、この一撃にすべてを注ぎ込む。
「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
卵型の顔に一つだけあるやつの目に指をブチ込む。ピキリとレンズが割れる音がする4本の指が半分のめり込むがまだ右手は止めない。――――――――――――そのまま、ぶち抜く。
「グルアアアアアアアアアアアア!!!」
足を払うとあっさりと倒れた。そのまま馬乗りになる。まだだ、こんなもんじゃ許せない―――――――――――――ユルサナイ
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」
ひたすら、ただひたすら殴り続ける。ガントレットと奴の胸や顔面の金属がぶつかる。
顔が、表情が歪む――――――――いやこれは…………………………ワラッテ………ル?
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
薄暗い部屋にバキンバキンと金属同士がぶつかる音と奇怪な笑い声が響き渡った。
☆ ☆ ☆
「ッ!?」
気づいたら馬鹿でかい木、第一遺跡『マダー』が目の前にあった。
あれ………僕はどうやって外に……。
痛む体を無理やり起こすと僕の周りには沢山のエルフたちがいた。所属しているギルドが全く違うであろうエルフたち。しかし皆、泣いていた。服が血で汚れていない者はいない。片腕を失っている者や目を潰されている者など負傷している人たちもたくさんいた。
「グギョ………」
心配そうな鳴き声を出しながらオウムがこちらへ近づいてきた。
「生きてたのか……」
僕は何故かホッとしてオウムの頭をなでる。しかしあの記憶が脳裏に浮かんできた。ギルドの皆、ライトさん、ローラさん……………………。
「ううぅ………」
ふいに視界が歪む、胸が苦しくなる。胸が強烈な痛みを発する。
「ウッ……グ……ァァ……」
胸にある痛みを少しでも和らげようと叫ぼうとするが……声が出ない。嗚咽が止まらない。
僕は、泣いていた。
この世界に来て、始めて泣いていた。
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