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ハイスクールD×D 新訳 更新停止

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第4章
停止教室のヴァンパイア
  第96話 和平

 
前書き
第4章最後の話です。 

 
「悪魔と天使、堕天使が共同作業とはな」
「和平が成立したって証拠なんじゃねーの」
眼前で三大勢力の兵達が先の戦闘の後始末を共同で行っていた。
少し前までは争っていた間柄だった事を考えると、本当に和平が成立したんだな。
「ヤッホー、イッ君、アス君」
『ん?』
眼前の光景を眺めながら、イッセーと適当な場所で休んでいると、誰かに声を掛けられた。
まあ、俺達をそう呼ぶ奴は一人しかいねえけどな。
「ああ、ユウナ」
「よう」
ユウナが俺達の所に駆け寄って来た。
「お疲れ様」
「お前もな」
「そう言えば、ライニーの奴は一緒じゃねえのか?」
「あぁ、ライ君はあそこ」
ユウナが指指す方向を見ると、大分離れた所で壁に背を預けているライニーがいた。
「私が二人の所に行こうとしたら付いて来なくなったの。と言うか、むしろ、離れちゃった…」
「ああぁ…」
和平が成立したと言っても、今まで持っていた悪魔に対する嫌悪感が無くなる訳じゃねえからな。
「それにしても、イッ君は大活躍だったね!」
「まあ。でも、結局逃げられちまったしなぁ。さんざんコケにされたってのに…」
「まあ、あの様子からお前の事は再評価したんじゃねえか」
「……でも、そうなるとあいつ、これからも俺の事を狙ってくるかもしれないって事だよな?」
「……そうなるだろうな」
そう言った瞬間、イッセーは項垂れてしまう。
まあ、あんな奴にこれからも狙われ続けるなんて考えればそうなるか。
「……お前の方は大丈夫なのかよ?その…」
「……あぁ…」
レイドゥンの事か…。
「……あん時は頭に血が登って冷静じゃなくなっていたが、今はちゃんと冷静だ」
「……それもだけど…」
「安心しろ。お前が心配している様な事にはならねえよ」
「……なら、良いけどよ…」
「ま、今はテロリスト共を撃退して、和平が成立したって状況なんだ。そんな辛気くせえ顔すんな」
「それもそうだな」
「フフ、和平が成立したから、イッ君達とはもう敵同士じゃなくなったしね!」
「ああ、そうなるな」
「だな」
「だったら、これからもよろしくね!」
「おう!こっちこそな!」
「フッ」
俺達は互いに握手をする。
「って、あ!」
突然、イッセーが何かを思い出した様な顔をする。
「なあ、今ならライニーの奴もお姉さんとなんのしがらみも無く会えるんじゃねえのか?」
とある上級悪魔に無理矢理眷属にされて生き分かれる事になったライニーの姉か。
「簡単には無理だろうな。それに無理矢理眷属にされたって言う事実もライニーの証言だけで証拠も何も無い訳だしな」
「それでも、会う事ぐらいはできるんじゃねえか?サーゼクス様にお願いしてみるとかは無理かな?」
「まあ、言うだけ言ってみても良いんじゃないか?今回のテロでも十分に活躍してたと思えるからな。……もっとも、当の本人があの様子だけどな…」
ライニーを見ると、とある場所をじっと見つめていた。
そこには、三大勢力のトップ達が何かを話していた。
そのトップ達を見つめながら、行動を起こそうかどうかを決めあぐねているって言う様子だった。
今までの悪魔に対する考え方や和平が成立しているとは言え、他勢力の一個人の願いを簡単に検討してくれるとは限らないなんて言う想いなんかが邪魔して、行動に移せないのだろう。
「……焦れったいな…!……ちょっと行ってくる…」
俺は立ち上がるなり、その場から離れて、ライニーの下に向かう。


「いつまでそうしてるつもりだ?」
声を掛けてみるが、ライニーは無視してそっぽを向いてしまう。
「はぁ…。そんなに姉の事を想ってるんなら、ゴチャゴチャ考えずに行動したらどうだ?」
「……お前には関係無いだろ…」
「ああ、関係はねえ。単純に見てて焦れったくなった。それに兄弟絡みの事だったから放っておけなかっただけだ」
「……兄弟絡み、か。そう言えば、お前ら兄弟もある意味兄弟で支え合って生きてきたって事になるのか?」
「どうだろうな。ほとんど兄貴やイッセーに支えられた様なもんで、俺自身は支えられてばっかりだったかもな。それでも、家族を失う事の辛い気持ちは分かるつもりだ。兄貴や姉貴、千秋の事でなら、なりふり構わず全力で行動するつもりだ。いや、絶対する!つまんねえ事で行動しなかったら絶対後悔するからな。だから、他人の兄弟絡みの問題でも見て見ぬふりはできねえし、それに…」
「それに?」
「ユウナとは大分親しい仲、友達と言っても良い仲になったからな。そのユウナが家族同然と想ってるお前の事も放っておく事もできねえ。お節介と言われようが、躊躇しねえよ。お前がその気なら、俺が行動するだけだ」
「……お節介にも程があるな」
「で、どうするんだ?自分で行動するか、俺に任せるか、どっちにする?」
俺の問い掛けにライニーは嘆息する。
「……俺は他人に借りを作るのはゴメンなんだよ」
どうやら、自分で行動する事にしたみたいだな。
ライニーは俺から離れる様にトップ達の下に速足で歩いていく。
俺はそんなライニーの後に付いて行くのだった。


ライニーの後に付いてトップ達の所に行くと、イッセーがアーシアとゼノヴィアを連れ、その三人の後にユウナが付いて来る構成でトップ達の下に来ていた。
「あ、明日夏とライニー。もしかして…」
「まあ、ようやく行動を起こしたってところだ。んで、お前はアーシアとゼノヴィアを連れて来てどうしたんだ?」
「ああ。実はミカエルさんにお願いがあって…」
「私にですか?」
「はい、一つだけ」
「私に可能な事であれば」
「アーシアとゼノヴィアが祈りを捧げる事をお許しいただけませんか?」
イッセーの申し出にミカエル様、アーシア、ゼノヴィアが驚きの表情を見せる。
ミカエル様はアーシアとゼノヴィアを見据えて言う。
「アーシア、ゼノヴィア」
『はい!』
「貴女方に問います。神は不在ですよ。それでも、祈りを捧げますか?」
ミカエル様の問い掛けに二人は頷く。
「はい。主がおられなくとも、私は祈りを捧げたいです」
「同じく、主への感謝と、ミカエル様への感謝を込めて」
「私からもお願いします、ミカエル様」
そこへ、イリナがやって来た。
「イリナ?」
「事情も知らず、貴女が勝手に裏切ったと思い込んでたわ。ゴメンなさい…」
謝るイリナにゼノヴィアが微笑む。
「……君が謝る事じゃないさ」
イリナは今度はアーシアの方を向む。
「アーシアさん、私、貴女にも酷い事を行っちゃったね…」
「いえ、あの、私は別に…」
「ホンット、ゴメン…」
「そんな!わ、私、本当に気にしてないですから!」
笑い合う三人をトップ達が興味深そうに見ていた。
「悪魔と神の信徒の友情かぁ」
「ミカエル殿、今回の和平を象徴していませんか?」
「ええ。祈りを捧げてもダメージを受けない悪魔が二人くらいいても良いでしょう」
「なんてご寛大なぁ!」
「わぁ!」
「感謝します!」
『主よ!』
三人でさっそく祈りを捧げるが、まだダメージを受けない様になっていないので、アーシアとゼノヴィアがダメージを受けていた。
「フフ、まずは本部に戻って、システムを操作しなければ」
二人の光景にミカエル様が微笑む中、ライニーがサーゼクス様に語り掛ける。
「……サーゼクス・ルシファー殿、俺はライニー・ディランディ。貴方に尋ねたい事があります」
「……ディランディ…?私に何を尋ねたいのだね?」
「……エイミー・ディランディと言う名をご存知ですか?」
「ッ!君は彼女の…」
「ッ!弟です…!」
「……そうか」
「無礼を承知で頼みます!姉、エイミー・ディランディと会わせてください!」
ライニーは深々と頭を下げて懇願する。
「……すまないが、それはできない」
「ッ!?」
「そんな!?サーゼクス様、俺からもお願いします!」
イッセーも必死に懇願しだす。
「落ち着くんだ、イッセー君。会わせる事ができないのは、彼女、エイミー・ディランディが行方知れずだからだ」
「……行方‥‥知れず‥‥?」
「っ!?」
「どう言う事ですか?」
俺が尋ねると、サーゼクス様はライニーの姉、エイミー・ディランディについて話し始めた。
「数年前、彼女の主が自身の眷属の謀反にあって死亡したのだ。そして、彼の眷属達は主が亡くなると同時に逃亡をしたのだ」
「逃亡って、どうしてそんな事に…?」
「うむ、どうにも彼は自身の眷属に対して非道な扱いをしていた事が彼の従者からの証言で判明した。おそらく、その事が原因で…」
そいつの眷属の謀反も逃亡も主への不満から起こしたものと言う訳か。
もしかしたら、悪魔そのものにも嫌悪感ができたのかもしれないな。
「……あの、サーゼクス様。主を裏切ったり、逃亡したって事は……ライニーのお姉さんは、その…」
「うむ、はぐれ悪魔として認定されている。だが、安心したまえ、イッセー君、ライニー・ディランディ君。はぐれだからと言って、必ずしも討伐するとは限らない」
「え?」
「っ!」
「はぐれの中には今言った様な主の方に問題があるケースも少なくはない。その場合、説得による捕縛が施行される様になっているのだ」
はぐれだからと必ずしも討伐するとは限らず、主側の方に問題がある場合は環境の改善を提供する訳か。
それでも、悪魔への嫌悪感などからその説得に応じない場合もあるかもしれない。
その場合は力ある存在をヘタに放置できないとやむを得ないって事でもあるのか。
「彼女の行方は不明だが、死んだと言う報告は来ていない為、どこかで生き延びている可能性はあるはずだ。もし、君が彼女を保護したいと言うなら、彼女の情報が入ったら真っ先に君の下へ向かう様にしよう。だが、もし彼女が我々三勢力の害となるならば…」
「その時は……俺が姉さんを殺します…」
ライニーは覚悟を秘めた目で告げる。
「……分かった。では、情報が入ったらミカエル殿を通して君に伝えよう。よろしいですかな、ミカエル殿?」
「はい、喜んで」
「……ありがとうございます」
「君は今回の戦闘で十二分に戦ってくれた。これくらいは容易い事だし、それに、悪魔側の方にも問題があった訳だからね」
ライニーは頭を深々と下げるとこの場から去ろうとする。
「良かったな、ライニー!安心はできないけど、お姉さんの事、なんとかなりそうで!」
「……なんで赤の他人である俺の事をお前が我が事の様に喜んでるんだよ…。ましてや、お前は俺に対しては嫌悪感を感じる様な存在だろうが?」
「いや、あの事はもう気にしてないし。それに、一緒に戦った中なんだから、赤の他人って事は無いだろ?もしお姉さんの事、俺の方で何か分かったらさ、すぐ伝えるからな!もし、手伝える事があったら、手伝いもするし!」
「……なんでそこまでする!?義理なんて無いだろうが…!」
「そうだけど、なんか放っておけねえし、それにユウナとは家族みたいなモンなんだろ?だったら、尚更放っておけねえよ!」
イッセーの言葉を聞いて、ライニーは盛大に溜息を吐いた。
「……そいつと言い、お前と言い、お節介な奴らだ」
ライニーは再び歩き出そうとするが、止めて、俺達に語り掛けた。
「おい、士騎明日夏、兵藤一誠、一つ借りておく!そんなのゴメンだから、絶対にさっさと返す!」
そう言って、今度こそその場から立ち去って行った。
「え〜と、なんか貸し作る様な事したっけ?」
「さあな」
イッセーが俺に聞いてくるが、正直俺も貸しを作った記憶は無いんだが。
「アハハ、あれはライ君なりのお礼なんだ」
ユウナがそう言うが、どんだけ捻くれた礼だよ。
「ありがとうね、イッ君、アス君!」
ユウナは自分の事の様に満面の笑顔で俺達に感謝の言葉を告げた。
「私、ライ君を追い掛けるね。一人にすると何するか分かんないし」
「ああ、またな、ユウナ」
「あ、二人共、せっかくだから、私の事はユウって呼んでよ。仲良くなった人からはそう呼んでもらってるから!」
「ああ、分かったよ、ユウ」
「じゃあな、ユウ」
俺とイッセーがそう呼ぶと、ユウナ…ユウは再び満面の笑顔を作って、手を振りながら、ライニーの後を追っていった。
「フフフ、これもまた、和平を象徴していますね」
俺達のやり取りを見てミカエル様は再び微笑む。
「ミカエルさん、俺の願いを聞いていただいて、本当にありがとうございました!」
イッセーが深々と頭を下げた。
「貴方は此度の功労者です。この程度の事では報奨にもなりませんが…」
「いえ、そんな…」
イッセーとミカエル様が話している中、木場がアルミヤさんをと一緒に俺達の下までやって来た。
「ミカエル様、例の件、お願いします」
「貴方から進言のあった聖剣研究の事も今後犠牲者を出さぬ様にすると、貴方から頂いた聖魔剣に誓いましょう。アルミヤ、その件の事は任せましたよ」
「了解です、ミカエル様」
木場の奴、いつの間にかそんな事を天界側に進言してたのか。
「私は天界に戻り、和平の件の報告を。渦の団(カオス・ブリゲード)についての対策も講じなくては」
そう言い、ミカエル様は天使の兵達を引き連れてこの場から立ち去って行った。
「イッセーさん」
「あ、良かったな、アーシア!」
「イッセーさん!」
アーシアが目元を潤ませながらイッセーに抱き付き、イッセーはアーシアを優しく抱いていた。
「あ、ゼノヴィア!」
「?」
「ゼノヴィアもこれから存分に祈れるぞ!」
「あ、ああ。……その…」
「ん?」
「ああ、いや……ぁぁ……ありがとう…」
ゼノヴィアは頬赤く染めながら、消え入りそうな声でイッセーに礼を言う。
どうやら、照れてるみたいだな。
「俺はしばらくここに滞在する事にしたからな」
「え?」
「言ったろ、俺にしかできない事をしてやるとな」
「それって、どう言う…」
「俺は疲れたぁ。帰るぞ」
有無を言わせず、アザゼルは堕天使の兵達を連れて、この場から去って行った。
俺達は後にアザゼルが言っていた事の意味を知る事になる。


「大丈夫かよ、姉貴?」
俺は学園の一角で座っている姉貴に話し掛けた。
「平気平気、お姉ちゃん、こう見えて頑丈だから♪」
姉貴はいつもの様に飄々と応じた。
「体の方はそこまで心配しちゃいねえよ。ただ…」
「?」
「心の方は大丈夫なのか?」
「ッ!?」
俺がそう尋ねると、一瞬だけ目を見開いてすぐさまいつもの飄々とした態度になる。
「にゃははぁ、心はどうかって、お姉ちゃんは心身共に健康体だよ♪」
「……だったら、なんで一瞬動揺すんだよ?俺が見逃すと思ったのか?」
「弟がいきなり変な事聞くから、驚いただけだよ」
笑いながら言っちゃいるが、ぶっちゃけ、かなり動揺してやがる。
「姉貴」
「ん?何…」
「イッセーから聞いたぞ」
「っ!?」
俺がそう言うと、姉貴は普段からは想像もつかない程の驚愕の表情を浮かべると、思いっきり項垂れてしまう。
「……はぁぁ…イッセー、喋ったのかぁ…」
ここにはイッセーと一緒に来たんだが、途中で外してもらった。
その時にイッセーから俺達が知らない姉貴の事を聞いた。
「……自分の弱味を無理して隠しながら姉として振る舞っていたとはな…」
「……………」
イッセーから聞いたのは、姉貴が自分の弱味を無理しながらひた隠し、俺達の前で無理して明るく姉として振る舞ってたと言う事実だった。
「………明日夏と千秋には言うなって言ったのに……」
「……俺が問い質したんだ。気付いてたか?姉貴、遠目に見ただけでも大分参ってた姿に見えたぞ」
その時、俺は大分驚いてたが、イッセーは驚くどころか、その姿を知ってる様な様子をしていた。
それを見た俺はイッセーを問い質して聞いたのが姉貴が無理をしていた事だった。
「……はぁ、そんなに参ってたのかぁ…」
「しかしまさか、イッセーにだけは弱味を見せてたとはな?」
そう尋ねると、姉貴は天を仰ぎ見ながら言う。
「……イッセーにも見せる気は無かったんだけどなぁ…。うっかり、見られちゃって…」
「見られた?」
「四年前、あんたらが中学に入ってしばらくした頃かな。父さんと母さんの墓の前で泣いてる所を見られたんだ…」
「それも聞いた。帰って来る度に二人の墓の前で辛さから泣いていた事もな…」
「……はは……その時は本当に大分参っててねぇ……気にしなくて良いって言ったんだけど、私の弱味を受け止めるって言うイッセーの言葉を聞いて、千秋の事もあったせいか結局甘えちゃったんだ…」
「そうか」
「そっからはもう、ズルズルだよ。ま、おかげで、あんたや千秋には弱味がバレずに済んだけど。まあ、たった今、あんたにはバレたけど」
そんな事があったのか。
やれやれ、俺と言い、千秋と言い、姉貴と言い、兄弟揃ってあいつの世話になってるな。
特に千秋や姉貴至っては心の支えか。
「一つ聞いて良いか?」
「何?」
「姉の振る舞い、父さんと母さんが死ぬ前からやってたのか?」
俺の記憶が確かなら、物心が付く前から姉貴は今みたいな振る舞いをしていた。
「まあ、お姉ちゃんだからね。でも、演技って訳でもないよ。元々ああ言う性分だったんだろうね」
「だが、大分俺達に遠慮してた所があるんじゃねえのか?」
「まあね。私、実は千秋みたいな甘えん坊だったんだよね。実は父さんと母さんにべったりだったり。まあ、千秋に存分に甘えさせてあげちゃったけどね」
「……兄弟なのに遠慮し過ぎだろうが…」
「そこはほら、お姉ちゃんの意地ってやつ?男が意地張る様に女も張りたいの」
「これからも続けるのか?」
「続けるよ」
「はぁ、言っても聞かねえんだろうな」
「冬夜に賞金稼ぎ(バウンティーハンター)になる事を言ってたあんた達みたいにね」
「分かったよ。もう、何も言わねえ。ただ…」
「ん?」
「弱味なんて、いつでも見せてもいいからな。姉弟なんだからよ」
「はいはい」
その返事を聞いた後、俺はその場から離れ、離れた場所にいたイッセーと合流する。
「……話は終わったのか?」
「……まあな。後は頼む。お前にしか弱味は見せたくないようだ」
「ああ」
「……姉貴の事、サンキューな」
礼を言いながらイッセーの肩を軽く叩いて、その場から立ち去る。
はぁ、ライニーに偉そうな事を言っときながら、俺も他力本願だな。


「ってな訳で、今日から俺がこのオカルト研究部の顧問となる事になった」
会談の日の翌日、着崩したスーツを着たアザゼルが部長の席でそんな事を宣っていた。
「……どう言う事かしら?」
部長が低い声音で聞く。
「いやなに、サーゼクスに頼んだら、セラフォルーの妹に言えと言うんでね」
会長が?
みんなの視線が後ろにいる会長に集まる。
「……でないと、姉が代わりに学園に来ると脅さ…いえ、せがまれまして…」
「要するにオカ研を売った訳ね」
「では、後はよろしく」
「ちょっと、ソーナ!?」
部長の指摘を聞くなり、会長はそそくさと副会長を連れて退室してしまった。
図星って訳か。
「ところで総督さん、その腕は?話を聞いた限りでは、失ったって聞きましたよ?」
毎度毎度、何故か部室にいる兄貴がアザゼルにそう聞いた。
確かに、カテレア・レヴィアタンとの戦いで左腕を失っていたはずだったんだが、今の奴にはちゃんと左腕があった。
「ああ、神器(セイクリッド・ギア)研究のついでで作った万能アームさ!一度こう言うのを装備したかったんだ!フフン!」
言うや否や、アザゼルの左手が変形してツールになったり、ドリルになったり、終いには腕がロケットと化して、部室内を縦横無尽に飛ばし始めやがった!
「ロケットパンチとはロマンですねぇ!」
「機械仕掛けの義手ってのもいい感じだなぁ!」
兄貴と姉貴に至っては目を輝かせていた。
二人共そう言うの好きだからな。
「あ、ただし、俺がこの学園に滞在するのにサーゼクスから条件を課せられた」
アザゼルは飛ばした腕を装着しながらそんな事を言い出した。
「お前達の未成熟な神器(セイクリッド・ギア)を正しく成長させる事だ。フフフフ。未知の進化を秘めた赤龍帝の篭手(ブーステッド・ギア)、聖魔剣、停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)。俺の研究成果を叩き込んで、独自の進化を模索してやる。良いな、これから俺をアザゼル先生と呼べ!じゃ、そう言う事でよろしくな♪」
「ちょ!?よろしくって、私はまだ納得していない…」
「そうだ、おい、士騎明日夏、士騎千秋、お前らはどうする?」
『ッ!』
「あのレイドゥンとか言う奴と戦うってんなら、今のお前らじゃあ勝てねえぜ。お前らの幻龍の緋衣(アグレッシブネス・スカーレット)怒涛の疾風(ブラスト・ストライカー)も面倒見てやっても良いぜ?」
俺と千秋は互いに視線を合わせる。
「ああ、頼む」
千秋も無言で頭を下げる。
「二人をお願いしますね、総督さん」
兄貴もアザゼルに頭を下げる。
「おお、任せとけ♪」
嫌らしい笑顔で応じるアザゼル。
……大丈夫なのか…?
……なんか不安になってきた…。
「それじゃあ、僕達はもう行くね」
「もう行くのか?」
「いろいろと報告なり、する事がいっぱいできちゃったからね」
兄貴達が行っていたレイドゥンによって集められたはぐれ賞金稼ぎ(バウンティーハンター)の掃討作戦では、特に被害も無く、制圧できたらしい。
一番重要なのは、災禍の盟主(カラミティ・ギング)の正体であるレイドゥンの事か。
レイドゥンが父さんと母さんにした事は既に兄貴の耳には入っている。
俺達と違い、兄貴は普段通りだ。
そう、普段通り。
それがかえって不気味だったがな。
「イッセー」
ふと、姉貴がイッセーに手招きをする。
「えっと、なんですか、千春さん?」
「あの時の礼がまだだったからね。助けてくれて、サンクス♪」
「いえ、そん…」
唐突に姉貴がイッセーの口を自分の口で塞いでしまった。
要はキスした。
『なっ!?』
俺と兄貴、アザゼル以外の全員がその光景を見て驚愕していた。
兄貴やアザゼルはともかく、俺が特に驚いてないのは、なんとなく予想出来ていたからだ。
姉貴がイッセーに惚れているんじゃないかって。
姉貴が普段からイッセーに対して過剰なスキンシップをするのも、惚れた男であり、支えであるイッセーに対する甘えからなんだろう。
ただ、おそらく、妹である千秋に遠慮している所があるがな。
大分長めキスを終えて、口を離した姉貴は悪戯を成功させた様な顔をする。
「お・れ・い♪ちなみにファーストキス♪」
頬を少し染めながらも満面の笑顔で言う姉貴に対して、イッセーは大分顔が真っ赤になっていた。
それでも、鼻の下を伸ばしてはいたがな。
「じゃあ♪」
姉貴は手を振りながら、部室から退室していった。
「じゃ、僕も行くね」
兄貴もニヤニヤしながら、部室から退室していった。
「……イッセー、これはどう言う事かしら?」
「ヒッ!?」
部長の低い声音にイッセーは顔面蒼白になる。
見ると、イッセーラヴァーズのみんなが不機嫌になっていた。
副部長に至っては笑顔だ。
「おっと、サーゼクスから伝言を頼まれてたんだった」
「……お兄様から?」
不機嫌な表情のまま、部長がアザゼルの方を向く。
「以前、赤龍帝の家に泊まった時、眷属のスキンシップの重要性を知ったそうだ。特に赤龍帝、お前の力にとっては必要不可欠の様だからな」
「えっと……全然言ってる意味が…」
イッセーの疑問をよそにアザゼルはサーゼクス様の言葉を高々と告げる。
「「魔王サーゼクス・ルシファーの名に於いて命ずる。オカルト研究部女子部員は全員、兵藤一誠と生活を共にする」だとさ♪」


「イッセー君、朱乃、ただいま貴方の下へ到着しました!」
「イッセーさん、よろしくおねがいします♪」
「えっと……お向かいなのに変な感じだけど……よろしくおねがいします、イッセー兄」
「私はアーシアと同じ部屋で良いのかな?」
「……イッセー先輩、部屋を覗いたり、下着を盗んだら許しません」
アザゼルから告げられたイッセーとオカ研女子部員の同居宣言の翌日の休日、元からイッセーの家にいた部長、アーシア、鶇、燕以外のメンバーがそれぞれの反応をしながらイッセーの家にやって来た。
もっとも、千秋と神楽は向かいの俺の家から数十秒だけどな。
ちなみに俺は千秋と神楽の荷物運びを名乗り出た。
まあ、向かいなんであっさり終わったが。
しかし、千秋に関しては向かいなので意味無い様な気もするが、まあ、ひとつ屋根の下と言うのが重要なんだろうな。
兄貴達に報告したら、ものスゲーテンションを上げていた。
ちなみにおじさんもおばさんも同居人が増える事には反対してない(って言うかむしろ喜んでた)。
それにしても、こんな一軒家でこんな人数入り切るのか?
「決めたわ!お兄様に頼んで、この家を増築しましょう!」
どうやら、問題は解決しそうだった。
後は本人達に任せて、俺は外に出て、空を見る。
そして、笑顔のレイドゥンの顔が浮かぶ。
俺は空に手を伸ばし、手で浮かんだレイドゥンの顔をギュッと握り潰す。
「お前が俺達の日常に再び手を出すんなら…!」
握った手に血が滲む。
「再び壊すってんなら…!」
俺の脳裏にレイドゥンの事で心配するイッセーの顔が浮かぶ。
安心しろ、イッセー。
今はまだだ…。 
 

 
後書き
次回からの5章ですが、アニメを基準にします(まあ、元からアニメ基準だけど)。
 
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