異世界を拳で頑張って救っていきます!!!
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この世界に来て 【3】
【3】
「総員戦闘態せええええええええええええええええええええええええええええい!!!!」
ガバランさんの怒鳴り声が聞こえたかと思うとうおおおおおおおおおおおおおおおおおおという喧騒と共に今までくつろいでいたエルフさんたちが一斉に立ち上がり槍やら剣やら弓やら杖やらを持ってガバランさんのもとに集まっていく。死んだ巨大トカゲの素材を運んでいたエルフさんたちも一斉に剣を携えるとガバランさんのもとに集まっていった。
「あ、あれが……ゴブリン……」
視界に小さく映る黄緑色の小さい鬼を見ながら僕はポツリとつぶやく。
「ケントはゴブリンを見たことないの?」
アリスも屈伸運動をして臨戦態勢に入りながら僕に聞いてくる。
「は、はい……」
豚のような動物にまたがったゴブリンたちがこちらに凄いスピードで書けてくるのを見て少し腰が引けてくる。
「そんなにおびえなくても大丈夫ですよ」
僕がおびえているのを悟ったのかハンスがメガネをキラリと光らせて言った。
「おそらく数は300前後でしょう。それくらいの数僕一人でもやれますから」
ハンスは茶色のローブの中にしまっていたのか国語辞典サイズの本と40cmぐらいの長さの木で作られた杖を取り出す。
「だよねぇ、あいつら少しも頭使わないから突っ込んでくるだけなんだよぉ。今回はだんちょーや皆もいるし楽勝楽勝!」
アリスも余裕の表情だ。
「全員とつげえええええええええええええええええええええき!!!!」
「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」」」
すると僕たちを除く全員が集まったのかガバランさんが雄たけびをあげゴブリン達が向かってくる方向に向かって突撃していく。他のエルフさんたちも団長の後ろにしっかりとついてきている。
「頭使わないのはアリスも同じなんですけどね………。ケントはそこで見ていてください、ここはちょうど見晴らしもよさそうですし」
それをジッと見つめながらハンスが言った。
「は、はい」
とりあえずあの戦いにはとてもじゃないけど参加する気になれない僕はすぐにうなずく。
「アリスはケントの護衛を」
「はいはーい!」
アリスに僕の護衛をしろと指示を出すとハンスは何やら小さく口の中で呪文を唱え始める。
「おぉ……すごい……」
次の瞬間ハンスがふわりと宙に浮いた。
「では、行ってきます」
淵なし眼鏡をキラリと光らすと団長たちの方へすごいスピードで向かっていった。あのスピードならおそらくすぐに追いつくだろう……。
「いってらー!」
アリスは手を振りながらハンスを笑顔で見送ると
「もしかしてその顏、魔法を見るのも初めてなの?」
アリスが僕の顔を覗き込むようにして聞いてくる。あ、あれが魔法なのか……。
「は、はい。僕のいたところでは魔法は空想上のものとされてました……」
僕はポカンと口を開けて遠ざかっていくハンスを見つめていた。
「へぇ……そうなんだ、じゃあ少し説明しよう! ハンスが使っている魔法はね、風魔法の中級技なんだ。移動するときにかなり便利なんだよぉー、まあ私は使わないけどね!」
か、風魔法? 中級?? だめだ、わからない単語がありすぎる。
「そ、そうなんですか……」
とりあえず相槌を打っておく。
「お、始まるよ!」
ゴブリンたちと団長さんたちの距離が残り50mを切ったところでアリスが言った。
すると、団長が自分の大剣を背中から抜くとぐるぐると回転する。そして――――――――――
「うおりゃああああああああああああああああああああああ!!!」
ここからでも聞こえるくらいの大きな声で叫びながら大剣から手を放す。
「ぐぎゃあああ」
「ぶびいいぃい」
大剣は回転しながら先陣を切っていたゴブリンたちを真横に切り裂いていき生えていた太い木の幹に突き刺さる。
「うわぁ………」
ゴブリンたちが真っ二つになるのを見てちょっと気分が悪くなった僕は視線をそらして深呼吸する。
「団長! 何剣投げちゃってるんですか!! ケント君が見てるからって調子に乗らないでください!!!」
「う……、すまんハンス」
杖から子供の頭ぐらいの大きさの火の球を出し、ゴブリン達に放ちながらハンスが団長を窘めるとガバラン団長はシュンとうなだれ木の幹に刺さった大剣に向かって走り出す。
「グルギャアア! イカセルカァ!!」
途中何人ものゴブリンが行く手を遮ぎろうとするが団長はタックルで全部蹴散らすと剣を木の幹引き抜き暴れだす。周りのエルフたちもハンスや団長に負けない活躍をしている。槍で突く者、剣で斬る者、魔法を唱えるもの、弓で射る者。
うわぁ……なんか映画みたいだ………。僕は思わず心の中でつぶやく。
ん……あれ? さっきまでと周りの草の色が変わってる気が……する……。ふとした不安が頭をよぎる。
「ね、ねえアリス……」
団長たちの戦いに夢中になっているアリスに声をかける。
「ん? なに?」
一応反応してはくれるがアリスは団長たちの戦いから目を離さない。
「な、なんか先ほどまでとは草の色が違―――――――」
プスッ
何ともいえない音を立てて小さな矢がアリスの首にプスリと突き刺さる。
「あっ………………」
バタリとアリスはその場に倒れこむ。痙攣しているところを見ると恐らく麻痺毒が塗ってあるみたいだ。矢が刺さったところから赤色の液体で作られた玉がプクリと浮ぶ。
「グへへへへへ、いっちょあがりだぜ!」
「ナイスですぜお頭! でもなんで男の方を狙わなかったんで?」
「グへへへへ、この嬢ちゃんなかなかのトカゲ退治っぷりを見せてくれたからな。この腰が引けてる坊主なんかより百驚異度はかなり上って判断したまでよ」
「!?」
気づけば周りをぐるりとゴブリンたちに囲まれていた。どんどん草むらから湧き出るようにしてゴブリン達が出現しているらしく数はどんどん増えていきあっという間に50体ぐらいになった。
周りのゴブリンたちよりも一回り大きい親分っぽい雰囲気が出ているゴブリンが右手に吹き矢で武装していた。恐らくこいつがアリスを狙ったやつだ……。
周りの連中、恐らく子分だろう、吹き矢を持っているそいつより一回り小さいゴブリン達はこん棒や錆びたカットラスなどで武装していた。
「そ、そんな……これは隠ぺい魔法……!? ゴブリンたちは魔法が使えないはずなのに……」
口だけはどうにか動くらしいアリスがか細い声で言葉を吐き出す。隠ぺい魔法!? そんな物があるのか……。くっ……どうすれば―――――――――――
「グヒャヒャヒャヒャ! 死ね!! 小僧!!!」
一人のゴブリンが錆びたカットラスで僕に切りかかってきた。
「う、うわあああああああああああ!!!」
頭の中が真っ白になった僕は、咄嗟にゴブリンのがら空きになっていた脇腹に回し蹴りを行い、思いっ切り靴のつま先をめり込ませる。
「ぐぼっ!?」
僕を殺そうとしたゴブリンはその場に倒れこみ悶絶する。これは……僕の攻撃が効いてる……? 急所は人間と同じなのか……?
……そうか! そうだ!! そうだよ!!! 簡単なことじゃないか!!!
「ケント、私のことはいいから逃げて……」
アリスが僕を見上げながら逃げろと促す。
「これ……借りるね……」
「ぇ………」
僕はアリスが両手につけていたガントレットを手際よく取り外すと自分の両手に装着する。
僕はスウッと息を吸い、左足を半歩前に出すと前の世界で何回も……何回も何回も何回も繰り返し構えてきた構えをとる。
両手小指から順番に曲げ猫の手を作り人差し指から折り曲げて最後に親指をそっと乗せ拳を作る
視線は敵のから離さない
右手は自分の顎を守るように拳を握る
左手は相手の方をしっかりと向け肘をしっかりと自分の急所、前三枚と言われる横腹にひっつける。
両足のつま先は相手の方を向け大股開きにならない
左前中段構え……僕が一番使ってきた構え、前居た世界で何度も何度も何度も何度も繰り返してきた構え。
頭がだんだん冷えてきた、自分が今するべきことがわかってきた。視界が、思考回路が、先ほどまでとは比べ物にならないぐらい広くなってきた。
そうだよ
僕の拳で倒せばいいんだ
僕の拳で守ればいいんだ。
「さあ、かかってきな」
僕はこの世界に来て初めて心の底から笑みを出した。
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