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ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~

作者:ULLR
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アイングラッド編
紅き剣閃編
  Sardonyx―黒・白・紅





セルムブルグは61層にある美しい城塞都市だ。イスラーム建築のような尖塔を備える古城を中心に白亜の花崗岩を使った精緻な建物や賑やかな市場、清潔感溢れる街並み。

このゲームでは随一の美しさを持つこの街をホームタウンにと願うプレイヤーは多いのだが部屋がとんでもなく高価で、とてもじゃないがおいそれと買うことは出来ない。

そんな街にバカでかいギルドホームを買った「オ」から始まる某ギルドの皆さんはいったいどういう神経をしているのか是非知りたいものだ。一部金を貸し出したこっちとしては「つけといて!」ていう金額じゃねぇだろ、と暫く開いた口が塞がらなかったのだ。

「……そりゃそうと、本当に大丈夫なのか?さっきの……」
「…………」

キリトの言わんとしたことがわかったらしく、アスナは後ろを向くと、俯いてブーツの踵で地面をとんとん鳴らした。

「……わたし1人の時に嫌な出来事があったのは確かだけど、護衛なんて行き過ぎだわ。要らないって言ったんだけど……ギルドの方針だから、って参某職達に押し切られちゃって……」

その言葉に俺は思わずうめき、頭を押さえる。
俺の居た頃の(相当前の極短期間だが)血盟騎士団はヒースクリフが1人づつ声を掛けて作った小規模のギルドだった。

脱退してからは攻略会議で挨拶を交わす程度で内情には関心を払ってなかったが、どうやら今は参謀を名乗る連中までいるらしい。

「どうしたの、レイくん?」
「いや、ちょっと昔のことを思い出していただけだ。……現副団長のお前に言うのも変かもしれないが、嫌なら俺がヒースクリフにでも言ってやろうか?一応、OBだから」
「ううん、いいの。ありがとう。さっ、早く行きましょう。日が暮れちゃうわ」













アスナの住む部屋は小さいが、美しい造りのメゾネットの3階だった。もちろん来るのは始めて。というか、こっちの方向には来たことが無かった。

家に上がる直前に往生際悪く躊躇するキリトの背を押しながら入った家は、何というか……。

(何となくは思っていたが、育ちがいいんだな……)

過度に装飾はなく、実に居心地が良さそうだが、部屋の所々で凡人の感性ではない雰囲気が漂っている。

「なあ……これ、いくらかかってるの……?」
「んー、部屋と内装で4000kぐらいかな?着替えて来るからそこら辺に座ってて」

400万すか……。
確か、俺が住んでる(というかほぼ荷物置き場)家が100万ちょいだった気がするから……俺ん家4軒か。泣ける。

「キリト、気持ちは解るが取り合えず除装してどっか座ろうぜ」
「……そうだな」

やがて白い簡素な短衣と膝上丈のスカートに着替えたアスナが奥の部屋から現れた。

ちなみに、俺もキリトも剣と戦闘用の革コートを徐装した普通の格好だ。2人ともコートの下に着ているシャツは黒色なので、似通った格好だ。

キリトがウィンドウを開いて《ラグーラビットの肉》を実体化させている間、アスナはじーっと俺を凝視していた。

「……なんだよ」
「……レイくんって男だよね」
「……そうだが?」
「なんで……」

うん、まあ言いたいことはわかる。
俺が今着ているTシャツは身体にフィットとまではいかないが、沿うようなラインを出している。軽くて楽なので、現実ではもちろん、こっちに来てからもよく着ているタイプのものなのだが、この姿を見た人(特に女性)は口を揃えて言うのだ。

「なんでそんなスタイルいいの!?」
「知らんわ」

幼少の頃から鍛え上げた身体。世の中に溶け込むために過度に筋肉を付けない特殊な鍛え方をし、体格を変えずに余分な筋肉すら削ぎ落とした結果、キャリブレーションの時にどうやら「痩せている」と判断されたらしい。

「ネットゲーマーなんて皮と骨でできたそんなやつばっかさ」

イラッ。

「ほぉう?ではキリトくん。現実に戻った暁には一度手合わせしようじゃないか」
「……遠慮しとく」

そんなやり取りをする俺達をいつしか笑顔で見ていたアスナはキリトから受け取った食材を料理し始める。

肉は煮込みシチューにした。SAOの料理は簡略化されているため、他の付け合わせを作ってもものの5分ほどで豪華な食卓が整えられた。
それぞれ、席につきいただきますを言うのももどかしくスプーンでそのシチューを食べ始める。今まで食べたどんな肉より柔らかく、濃厚な味わいだった。
やがて、きれいに食い尽くされた皿と鍋を前に俺達はふぅー、とため息をついた。

「ああ……今までがんばって生き残ってよかった……」
「そうだな……」

俺は久々に満たされた気持ちで応える。
幾度となく危険な目にあったり、絶体絶命の時もあったが、結果としてなるようになった。


『デスゲームに囚われたプレイヤーを1人でも多く生還させる』


その使命を果たせている実感はない。だから、俺は常に最善であろう選択をしてきた。10を救うために1を捨てた。
100を救うために恨まれ役に甘んじた。
それらの選択が間違っていたのかはわからない。だが、それを考えるのは今ではない。

このような事は経験上難しく考えすぎてドツボにはまる。

「不思議ね……。なんだか、この世界で生まれて今までずっと暮らしてきたみたいな、そんな気がする」
「……俺も最近、あっちの世界をまるで思い出さない日がある。俺だけじゃないな……この頃はクリアだ脱出だって血眼になるやつが少なくなった」
「……馴染んで来ているんだな。この世界に」
「そうね。攻略のペースも落ちてきてるわ。今最前線で戦っているプレイヤーなんて500人いるかどうかじゃない」

攻略のペースが落ち込んでいる原因には、難易度とモンスターのアルゴリズムにイレギュラー性が増してきていることにもある。

そのせいで極まれに攻略組でもマッピング中に死者を出してしまうことがある。
俺はせめてソロプレイヤーの危険を減らそうと攻略中、キリトとは一定距離以上開けていない。もちろん、出来る限りだが。

「でも、わたしは帰りたい……だって、あっちでやり残したこて、いっぱいあるから」
「そうだな。俺達が頑張らなきゃ、サポートしてくれる職人クラスの連中に申し訳が立たないもんな……」
「俺も、まだやるべきことが残ってる。それを終わらせなきゃ死ねないな」

そう、まだ俺にはこの世界でもむこうでもやることが残っている。それらはとても大切なこと。俺にこの何かを『守る』という気持ちを教えてくれたこいつらに、人のことを『想う』気持ちを教えてくれたあいつらに報いる。それが俺の成さなければならないことだ。

「ねぇ、2人とも。君たちはギルドには入る気はないの?」
「え……」
「…………」
「ベータ出身者が集団に馴染まないのはわかってる。でもね「アスナ」なに?」

俺は彼女の言葉を遮り、それ以上言わせるのを阻止する。

「心配なのはわかる。だが、その議論はすでに決着がついてることだろう?……ベータ出身者がギルドに入って成功したケースはほとんどない。大半が脱退、追放されている。……俺はベータ出身者ではないが、ギルドのノルマをクリアしている時間はないし、俺の場合パーティメンバーが危険なんだ」

「それって、どういう……」

その時、キリトがギンッとおとがしそうな眼でこっちを睨んできた。『余計なこと言って、俺を巻き込むな!!』と、言っているようだ。

「まあ、とにかくだ。俺達に付いて来ようなんて考えるな」
「あら」

ちかっ、と目の前を銀色の閃光がよぎった。
細剣スキルの基本技《リアニー》だ。それがキリトの鼻先に突きつけられている。

そこでキリトに絡むのは何でだ?

「……はぁ。わかった、悪かった。じゃあ……明日朝9時、74層のゲートに集合な。キリトも」
「おいっ!?……はぁ……」











用事があると言って先にアスナの部屋を出た俺はその足で反対側の住宅地に来ていた。
転移門に程近いそこには巨大な城が建っていた。正面には音符に剣を2本クロスさせた絵が描かれている旗が垂らしてある。
現在、総メンバー45人を抱えるギルド、オラトリオ・オーケストラのギルドホーム、通称『旋律の城』。

門番をしているプレイヤーに用件を言い、中へ入る。

勝手知ったる廊下や階段を歩いていき、最奥の部屋にたどり着いた。

「よっ、来たな」
「お久しぶりです、レイさん」
「おそーい!」
「……ホルン姉。時間前だよ?」
「……アード、どうせ言ってみたいだけだから気にしなくていいよ」
「ぐっ……」

円卓の机が置かれた部屋に馴染みの5人が居た。
オラトリオ・オーケストラの幹部にして、ギルド創設メンバー+1。俺の最も古い友人達だ。

「……漫才はいいから、調査結果だけ聞かせてくれ。明日は早起きしなきゃいけないんだ」
「ん。じゃあ俺から行くぞ。現在、ラフコフの逃げた残党は目立った騒ぎを起こしてない。カルマ回復クエストでグリーンになったやつらもいる。更正した訳じゃないだろうが、今のところ驚異無しだな。引き続き、監視はする」
「はーい、次あたしね。ここ一週間中層で目立った事件なし。死者もゼロだよ~。危なっかしいやつはいたけど」

「そうか。まあ、それなら暫く最前線で戦っても大丈夫だろう……で、こっからが本題だが?」
「……PoHに動きがあった。グリーンになってたけど、あちこちで悪巧みしてる。レイがさっき知らせてくれた、クラディール。そいつは接近されてた」
「……ついに攻略組にちょっかい出してきたか……」
「……煩わしいわね」
「仕方ない。俺の方で対処しとくよ……アスナの護衛だし、そいつ」

がたん、と音をたててカイトが立ち上がった。

「レイ。今すぐそいつをぶった斬りに行く。そいつは今何処に居やがんだ!?」
「落ち着け。やつはまだグリーンだ。安心しろ明日から俺とキリトでアスナと組むことになった。モンスター以外は絡んでこないよ」
「なら、俺も一緒に……」
「却下。仕事しろ……と言いたいとこだが、まあいいや、2人の邪魔しない範囲で」
「…………はい」

うん、お前はヒジョーに複雑だろうが我慢しろ。そう決めただろ?

「さて、最後になるが『あの件』に関して、俺が出した結論だ」

全員の目がこちらを見た。そこにはまるで戦闘時のような真剣な光があった。

「――は―――に於いて決行する。……参加するかどうかはお前達次第だ」

全てを終わらせるために決行する最終作戦。そのための布石はもう揃った。これ以上の惨劇を防ぐために行う『聖戦』だ。








ゲームの終焉は近い―――
 
 

 
後書き
来週はUPできない可能性があるので、できたら明日か明後日にUPします。 
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