FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
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小さな拳
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
息を乱し、険しい表情のウェンディ。しかし、そんな状態であっても彼女はシェリアに提案された『降参』という選択肢を選ぶ様子はない。
「降参しないの・・・かな?」
苦しそうなウェンディを見てそう呟くシェリア。
「ウェンディ」
「もうフラフラじゃない」
ナツとルーシィが今のウェンディの姿を見てそう言う。
「ウェンディ・・・」
「すげぇ戦いだ」
エルザとグレイがそう言う。その4人の真ん中に位置しているウェンディの想い人シリルは岩の柵に肘をつき、両手を握り合わせて祈るように試合を見ている。
「頑張れ、ウェンディ」
誰にも聞こえないくらいの小さな声でそう呟くシリル。シリルか大きな声で声援を送ればウェンディは頑張れるかもしれない。しかし、それではせっかく自分の力で滅竜奥義を身に付け、自分よりも強い敵に挑もうとしているウェンディの気持ちを邪魔してしまう。シリルはそう考え、とにかく静かに見守り、心の中で応援することにしたのだ。
「ハァ、ハァ、ハァ」
今にも倒れ込みそうなウェンディ。シェリアはそんな彼女を腰に手を置き、黙って見つめている。
「あたし、戦うのは嫌いじゃないけど勝敗が見えている一方的な暴力は“愛”がないと思うの」
「くぅ・・・」
シェリアの言う通り、ボロボロのウェンディがシェリアを倒すことなど相当困難だということは分かりきっている。さらには自らの傷を回復させることのできるシェリアが相手ではとてもじゃないが勝ち目は薄い。
「降参してもいいよ?ね?」
シェリアが諭すようにそう言う。しかし・・・
「できません!!」
「!!」
ウェンディは表情を歪ませたまま、力を込めてそう返す。
それには対戦相手のシェリアのみならず、試合を見ているシリルやナツ、さらにはリオンやレオンも驚いた顔をする。
「私がここに立っているということは、私にもギルドのために戦う覚悟があるということです!!
情けはいりません。私が倒れて動けなくなるまで、全力で来てください!!お願いします!!」
ウェンディのあまりにも真っ直ぐな瞳。それを見てシェリアは思わず呆然とする。
「ウェンディ・・・」
最愛の人の健気な姿に見入るシリル。ウェンディのその言葉を聞き、会場にいる全ての人が押し黙る。
「うん!!それが礼儀だよね!!」
「はい!!」
正気を取り戻したシェリアは笑顔を浮かべ、試合を続けることを承諾する。ウェンディもそれを見て戦闘のために姿勢を整える。
「じゃあ、今度はあたしが大技出すよ!!」
シェリアはそう言うと両手に渦を巻いた黒風を纏っていく。
「この一撃で楽にしてあげるからね!!」
シェリアさんはそう言うと体を一回転させながら風にさらに力を与えていく。
「滅神奥義!!」
「よせ!!シェリア!!」
「それはいかん!!」
「バカたれが!!相手を殺すつもりかい!?」
大技を繰り出そうとするシェリアを見て叫ぶリオンとジュラとマスターオーバ。だがシェリアはその声が聞こえないのか、止める様子は一切ない。
「落ち着きなよ、リオンくん」
慌てている蛇姫の鱗の魔導士たち。しかし、レオンだけはなぜか冷静だ。
「レオン!!貴様が叫べばシェリアはやめるはずだぞ!!」
「やめさせる必要なんかないよ。リオンくんともあろう者が慌てすぎ」
なおも冷静さを取り戻せていないリオンにレオンは飄々とそう言う。それにより、リオンは落ち着きを取り戻していく。
「一体、なぜ大丈夫なのだ?」
「試合を見てればわかるはずだよ」
レオンにそう言われ、リオンは大人しくことの成り行きを見守ることにした。
「全力の気持ちには全力で答える!!それが“愛”!!」
黒い風はたくさんの羽となり、空へと上っていく。
「なんだこの魔力は!?」
「滅神奥義!?」
エルザとシリルが強大なシェリアの魔力に驚愕の表情を浮かべる。
「天ノ叢雲!!」
黒い羽が渦を巻き、ウェンディへと迫り来る。
「くっ!!」
ウェンディは腕でガードを作りながら頭を少し下げる。
シェリアの魔法、“天ノ叢雲”はそのわずか数十センチ上を通過していく。
「!?」
シェリアはそれを見て驚く。ウェンディはわずかにしか避けていないのに、なぜか滅神奥義がウェンディを捉えることはできなかった。
ウェンディは頭を上げ、自分の狙い通りにいったことに思わず笑みを浮かべる。
「避けた!?」
「いや・・・外れた?」
ロメオとマカロフもなぜあの魔法がウェンディを外れていったのかわからないといったような顔をしている。
「シェリアの魔法は自己回復ができるようだけど、それは傷の回復。体力の回復はできないみたいね」
「えぇ」
ミラジェーンがそう言い、ジュビアがうなずく。
「逆にウェンディの魔法は、自己回復はできないけど相手の体力を回復できる」
「なるほど」
シャルルの解説にハッピーが納得する。
「あれ?ということは~?」
その解説を受け、セシリーが何かに気づいた。
「敵の体力を回復させたってことか」
「そのせいで、シェリアの魔法に勢いがつきすぎた」
シリルとリオンがそう言う。本来ならウェンディに命中していたであろう攻撃。しかし、ウェンディが咄嗟の機転でシェリアの体力を回復させ、その分の力を計算できなかったシェリアは魔法に勢いをつけすぎてしまい、外してしまったのだった。
「外させた?敵の体力を増加させることで」
グレイがそう呟く。シェリアはウェンディの予想外な作戦にしばらく呆けてしまう。
「なんて戦法!?すごい!!」
シェリアは感心し、頬を緩める。ウェンディはそのシェリアにジャンプして接近する。
「天竜の・・・砕牙!!」
「くっ!!」
シェリアはウェンディの攻撃を腕でガードする。ウェンディの砕牙によりシェリアの腕に傷がつくが、それもシェリアの治癒魔法によりすぐに回復する。
「すごいよ!!ウェンディ!!」
ウェンディは素早く距離を取り、体を一回転させシェリアに蹴りを放つ。
「やぁぁ!!」
「とぉぉ!!」
それに負けじとシェリアも蹴りを繰り出す。
ドガッ
2人の蹴りはぶつかり合い、会場中に風が吹き荒れる。
風が止み、空中でぶつかり合っていた2人は闘技場へと降り立ち、互いに相手を見据える。
『これはすごい展開になってきた!!両者!!一歩も引かず!!』
距離を置いていた2人は互いに一気に走りだし、相手に向かって何度も何度も風を帯びた小さな拳を打ち込んでいく。
『ぶつかり合う小さな拳!!その拳はギルドのためか!?』
「「やぁぁぁぁ!!」」
懸命にギルドの仲間たちのために小さな体を目一杯に使い、激しい戦いを繰り広げるウェンディとシェリア。その姿に思わず見ているものたちは魅了されていく。
ドンッ
シェリアとウェンディの拳がぶつかり、魔力が弾ける。
グレイとリオンはそれを見て、ただただ何も言えず立ち尽くしている。
「はぁぁぁぁ!!」
ウェンディの鉄拳をシェリアはジャンプし回避する。
「「やぁぁぁぁ!!」」
互いに風を纏い、大きく足を振るって蹴りを放つ。
「いけ!!どっちも負けんな!!」
ナツが体の前で拳を握りしめ、両者に声援を送る。そこには敵味方など関係ない。
「ウェンディ・・・」
「ウェンディ~・・・」
セシリーとシャルルは小さいころから彼女を知っているため、仲間のために戦おうと頑張る彼女の姿に思わず込み上げてくるものを懸命に堪えている。
「すげぇ・・・」
セシリーとシャルルよりも昔からウェンディを知るシリル。彼もまた同様に、2人の熱い想いに応援することも忘れ、見入っている。
「・・・」
幼い頃からずっとシェリアと一緒にいた金髪の少年レオン。彼は無言で2人の戦いを見届ける。その表情は何も考えていないのか、無表情だった。
カンカンカンカンッ
鳴り響くコング。その音は2人の戦いの終了を意味していた。
『そして・・・ここで時間切れ!!』
大興奮の観客たち。ウェンディとシェリアは互いに力を出しきったのか、膝に手をつき、呼吸を乱している。
『試合終了!!この勝負引き分け!!両チームに5ポイントずつ入ります!!』
そう言う実況のチャパティ。
「すげぇ!!」
「ナイスファイト!!ウェンディ!!」
「よく頑張ったね!!ウェンディ!!」
ナツとシリルがそう叫び、ルーシィは目頭を押さえながらウェンディの健闘を褒め称えていた。
「両者共に見事」
「だな」
エルザとグレイも2人の小さな少女たちの激しい戦いにそう感想を漏らす。
「シェリアとウェンディもよくやった」
「すげぇの見ちまったな」
リオンとユウカも頑張った2人を見てそう言う。
「おおーん!!」
その2人の隣にいるトビーは感動しすぎて大号泣していた。
『この試合!!オジサン的にベストバウト決定!!』
チャパティも興奮冷めやらぬ様子で親指を立てそう言う。
「きゃーっ!!2人共すごいすごい!!」
試合前から興奮していた人魚の踵のソフィアはさらに盛り上がっており、カグラたちに押さえられていた。
「魔力だけで見たらシェリアの方がはるかに高いというのに」
ジュラは初めてウェンディと出会った時のことを思い出す。
何もないところで転んだり、自分に自信が持てておらずにオロオロとしていた少女。しかし今の姿はそんな面影など微塵も感じられなかった。
(あの時の少女がここまで大きくなったか)
「ウェンディ・・・」
「ううっ・・・」
一方妖精の尻尾の応援席ではハッピーとセシリーが涙を溢している。
「何泣いてんのよ」
2人にそう言うシャルル。だが彼女のその声は少し涙声になっていた。
ドサッ
戦いを終え、緊張の糸が切れたのか、ウェンディはその場に崩れ落ち空を仰ぐ。
「「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」」
闘技場に聞こえる少女たちの荒い息。シェリアはそれを整え、ウェンディに話しかける。
「痛かった?ゴメンね」
「いえ・・・そればっかりですね」
自分のことを心配するシェリアにそう返すウェンディ。2人の顔に自然と笑みが浮かぶ。
「楽しかったよ、ウェンディ」
シェリアはそう言いながらウェンディの前にしゃがむと傷だらけの彼女の体に治癒魔法を施していく。
「あ・・・傷が」
シェリアの治癒能力は非常に高く、ボロボロだったウェンディの体はみるみるうちに元通りになっていく。
「私も少しだけ楽しかったです」
ウェンディもシェリアとの戦いが楽しかったと伝えると、シェリアがある提案を彼女に持ちかける。
「ねぇ、友達になろ。ウェンディ」
「え?」
シェリアは同じ天空の滅系魔導士であるウェンディに、そして何よりギルドの仲間のために頑張れる彼女の人間性に惹かれ、そう言う。
「はい!私なんかでよければ・・・」
「違うよ。友達同士の返事」
「え?」
遠慮がちに言うウェンディにシェリアは笑顔で手を差し出す。
「友達になろ!!ウェンディ」
「うん!!シェリア」
ウェンディも笑顔でシェリアに返事をし、2人は立ち上がって握手を交わす。大魔闘演舞というギルド同士の戦いの中で生まれた他のギルドの者との友情。その姿は美しく、見るものすべてを感動に包み込んだ。
『なんと感動的なラスト!!オジサン的にはこれで大会終了!!』
『これこれ、3日目終了じゃ』
あまりの感動にチャパティが大魔闘演舞の幕を下ろそうとしたがヤジマが冷静にそう突っ込みをいれる。
『皆さん、ありがとうございました!!』
チャパティも冷静さを取り戻し、3日目の終了を会場にいる観客に伝える。
熱い友情の握手を交わすシェリアとウェンディ。それを蛇姫の鱗のこの少年は羨ましそうに見つめていた。
「いいなぁ・・・シェリアは」
ボサボサに伸びた金髪ヘアの少年レオン。そう呟くレオンの頭に、いとこであるリオンが手を置く。
「羨ましいか?レオン」
「ちょっとね」
リオンの問いに闘技場を見つめたまま答えるレオン。リオンはそれを見て、「フッ」と笑みをこぼし言葉を続ける。
「だったらお前も、この大会で誰かと戦って、互いに分かり合える者を作るんだな」
「え?」
「仕事先で以前会ったタクトにせよソフィアにせよ、大会前に偶然会ったシリルにせよ・・・はたまた別の誰かでもいい。拳を交えたからこそ相手のことが分かり、強い絆が生まれることもある。
かつての俺のようにな」
リオンは7年前、零帝と名乗り不死身の悪魔『デリオラ』を復活させ、倒そうとしていたことがあった。
全ては昔自らの命と引き換えにデリオラを封じ込めた師匠ウルを超えるため。夢の続きを見るために。
しかしそれは偶然仕事の依頼を受けてやってきた自身の弟弟子であるグレイの活躍により阻止されてしまった。
師匠ウルのことで仲違いしていた兄弟子と弟弟子。しかし偶然が重なり再会を果たした2人は自分の想いのためにぶつかり合い、結果として互いを認め、現在も良好・・・といえるかは分からないが深い絆で結ばれている。
「そういうんじゃないんだけどな・・・」ボソッ
「ん?何か言ったか?」
「いや・・・別に・・・」
レオンは思わず苦笑いする。確かに互いに認め合い生まれた固い絆は羨ましい。レオンにはそのような互いを分かり合い、笑顔で話せる友人などいない。
よく勘違いされるがタクトもソフィア偶然仕事であった話ができる若手魔導士でしかない。シリルに至っても偶然道に迷った彼が自分に道を尋ね、それで年齢が近いことが発覚し話すようになっただけ・・・それはまだ友人の手前・・・知人のような関係でしかないと彼は思っている。
だが彼がシェリアを羨ましいと思ったのはもっと別の理由である。しかしリオンには自分のそんな気持ちはわかるはずがないと分かっているレオンは、あえて黙っていることにした。
(でも確かにそうだな。どこかで戦える機会があれば戦いたいもんだな)
レオンは天馬の長身のイケメン魔導士と人魚のレズっ子、そして闘技場の藍髪の少女を笑顔で見つめている妖精の男の娘を見る。
(この大会で誰かと当たることができれば・・・の話だけどな)
レオンはそう思い、静かに闘技場に視線を戻した。
シリルside
『これにて大魔闘演舞3日目終了!!
現在1位は10ポイント追加の34ポイント!!剣咬の虎!!』
3日目終了時点での順位をチャパティさんが発表していく。
ちなに大鴉の尻尾は失格のため順位からは除外されている。
『2位も10ポイント追加!!32ポイントで人魚の踵!!』
2位は1日目こそ6位と出遅れたものの、昨日の競技パートから着実にポイントを加算している人魚の踵が入っている。現在の順位の立役者であるソフィアさんとミリアーナさんは待機場所の最前列で手を振っていた。
『3位は5ポイント追加!!蛇姫の鱗で31ポイント!!ここまでがベスト3となっています!!』
3位には競技パートのMPFで個人記録としては2位と3位の記録を出したジュラさんとレオンのいる蛇姫の鱗。さっきのシェリアさんとウェンディの戦いで引き分けだったため5ポイントということになっている。
『4位には妖精の尻尾Bチーム!!5位に妖精の尻尾A.チーム!!そして6位に青い天馬と続きます!!』
30ポイントでワンランクアップの妖精の尻尾Bチームと27ポイントで5位の我らが妖精の尻尾Aチーム。
そして18ポイントの青い天馬が6位、四つ首の仔犬が14ポイントで7位となっている。
『さぁ明日はどんな展開が待ってるのか!?オジサン的にはもう一度ウェンディたんとシェリアたんが見たいぞ!!』
『はいはい』
チャパティさんのロリコンぶりにヤジマさんが適当に返し、会場からは大爆笑が巻き起こる。こうして大会3日目が幕を閉じた。
「ただいま戻りました」
しばらくするとシェリアさんと友達になったウェンディが帰ってくる。その表情は新しい友達ができて嬉しいのか、頬が緩みっぱなしだ。
「お帰り、ウェンディ」
「すげぇバトルだったぞ!!ウェンディ」
「あたし感動しちゃった!!」
俺とナツさん、ルーシィさんがウェンディを褒めるとウェンディは頬を赤くし恥ずかしいような嬉しいような表情をする。
「よく頑張ったな、ウェンディ」
「いいもん見せてもらったぜ。」
エルザさんとグレイさんもウェンディの健闘を称える。
「さーてそれじゃ!宿に帰るとするか!!」
「だな」
「うん!!」
ナツさんがエルザさんの方を振り返りながらそう言い、グレイさんとルーシィさんが賛同する。
「あの・・・一応ウェンディに傷とか残ってないか見てから戻りたいので俺とウェンディ、医務室に寄ってきてもいいですか?先に帰ってもらってていいので」
俺はシェリアさんとの戦いでボロボロだったウェンディが心配でそう言う。シェリアさんの治癒魔法で見た目的には傷が残ってないように見えるけど、ポーリュシカさんに見てもらった方がいい気がする。
ポーリュシカさんに「なんで見せに来なかったんだい!!」とか言われるのも目に見えてるし。
「おう!!わかった!!」
「ウェンディをよろしくね!!シリル」
「はい!!」
「よろしくね、シリル」
ナツさんとルーシィさんに返事をする俺と俺に手を合わせるウェンディ。
「夜までには戻ってこいよ。たぶん今日も宴会だから」
「うちはいつでもそうでしょ?」
「まぁいいではないか」
グレイさんとルーシィさんとエルザさんがそう言い、足早にドムス・フラウから出ていく。
「じゃあ行こっか、ウェンディ」
「うん!!」
俺とウェンディは手を繋ぐと医務室に向かって歩いていく。その時ドムス・フラウの観客たちの入り乱れる出入り口で一騒動あったらしいが、俺たちはそれに気づくことはなかった。
後書き
いかがだったでしょうか?
ウェンディ対シェリアも無事?に終了しました。
あえて言わせてください。
「俺の文章能力じゃ2人の可愛らしさを表しきれねえ!!」
はい、というわけで次は祝勝会です。
次回もよろしくお願いします。
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