異人
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4部分:第四章
第四章
「絶対に出て欲しくないけれど」
「皆そうだよ。けれど暫くは」
「用心しないとね」
「何しろ化け物だからね」
そのことが念頭にある。だからこそ雄吾も警戒しているのである。
「だからムースを持ってね」
「そうね。これさえあれば安心よね」
二人だけでなく皆まだ警戒していた。しかし異人の噂はこの頃から急激に消えていき何時しか話はなくなった。皆ムースを持たないようになり集団登下校もなくなった。とりあえず騒動は収まったのであった。
「終わったかな」
「そのようですね」
教頭先生は校長先生の言葉に応えている。場所はやはり校長室であった。
「どうやらこうやら」
「異人は本当に殺されたのかな」
校長先生も異人が殺されたという噂は聞いていた。だからここでそれを出したのである。
「さて、それはわかりません」
「真相は不明か」
「そもそも異人ですらいたのかどうかわかりません」
「若しくはまだいるかさえもな」
「そうです。何もかもが謎のままなのです」
教頭先生はここではあえてこう述べるのであった。
「話が大きくなっていましたし」
「それと共に姿を変えてもいたな」
「そうですね」
校長先生の言葉に頷く。
「自然と。誰かがそれを言えば広まったのでしょうか」
「それと共に姿が変わる」
校長先生も言う。
「不思議な話だな」
「全く以ってです。ただ」
「ただ。何だ?」
「それを考えますとやはりいたということになります」
教頭先生は目を険しくさせ考える顔で校長先生に述べてきた。
「異人はか」
「はい、私達の言葉と共に経歴や数や行動が変わっています」
それも的確にだ。誰かが三人いると言えば三人になり斧を持っていると言えば斧を持つ。ムースが嫌いと言うと本当にムースを怖れる。これは。
「つまりこれは」
「我々の心の中にいるというのだな」
「私はそう考えます」
これが教頭先生の考えであった。話している本人もまだ首を捻ってはいるがそれでもあえて言葉に出してみたのである。彼なりに思うところがあり。
「それが実際に世の中に出て来る、それが妖怪やその類なのかと」
「こうした都市伝説もか」
「全く同じです」
そうしてまた言う。
「こうした話は昔からあったでしょうし」
「そうだな。妖怪の類は全てそうだな」
校長先生も教頭先生の言葉に頷いた。
「考えていけば。そうなる」
「はい。だからこそ」
教頭先生はまた述べた。
「異人もまた存在しているのです。そしてまた出ます」
「出るか」
「私達が彼を思い出せば」
あえて彼と表現する。
「出て来ます。必ず」
「そういうことか」
「はい。口裂け女にしろ人面犬にしろ」
そうした類と同じものだとされる。だがそれはあながち外れてはいなかった。少なくとも校長先生も教頭先生もそう考えだしていた。
「出て来るでしょう」
「それが妖怪なのだな」
「そうです、それが妖怪です」
教頭先生の言葉が強くなった。
「私達が考え、それが世の中に出て動く」
また言う。
「そうした存在ことが妖怪なのです。つまりそれは」
「我々の心の鏡なのだな」
「そういうことです」
これ以降異人の話は消え去った。だがそれは一時的なものなのかも知れない。何故かと言うと。誰かが異人を思い出せば異人はまた出て来るかも知れないからである。彼が妖怪であるならば。その時を待っているだけなのである。誰かが思い出すその時を。
異人 完
2007・12・3
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