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ソードアート・オンライン 瑠璃色を持つ者たち

作者:はらずし
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第十六話 交わる剣と身体

 
前書き


どうも、はらずしです。

結構早く書き上げられた気がするのですがどうでしょう。

それは置いといて……
聞いてください!なんと、先日三連投した日のpv数が
400を超えていたんです!すっごくないですか!(友利風)
まあ一話に換算すると140程度なんですが……

それもこれも皆様が読んでいただけているからこそ
起こりえたことなんです。本当にありがとうございます!

他の作品の作者様には到底及ばない数字ではありますが
頑張っていきたいと思います。

さて、私事はこれくらいにしておきまして、
オリジナル回でございます。

どうぞ!




 

 






二〇二四年三月六日


第五十六層《パニ》
そこに集まる人々は、岩でできたテーブルを囲み、議論を交わしていた。
しかし全員にたいして発言するものではなく、ただザワザワと騒めいているのみ。その中には口を引き結び黙っているプレイヤーもいる。

攻略組によるフィールドボス攻略会議。

攻略組に名を連ねるギルド及びソロプレイヤーたちが一堂に会する会議だ。

フィールドボスを見つけたものの、その厄介さから立ち止まってしまっている。加えて打開策も出てこない。

そこに切り込みを入れたのは、テーブル前に立つ、赤と白を基調とした制服を身に包み、腰まで流麗に伸びた栗色の髪を持つ美少女。

バンッ、と大きな音を立ててテーブルを叩き、全員の視線を集めた。

「フィールドボスを村の中へ誘い込みます」

《血盟騎士団》副団長の《閃光》アスナ。

全員にどよめきが走るのを気にせず彼女は続けた。

「誘い込んだ所でNPCを囮にし、ボスが殺しに夢中になっている間に攻撃。殲滅します」

その提案に誰かが何かを言う前に、黒ずくめの男が割って入った。

「ちょっと待ってくれ、それじゃあ村の人々はどうなる!彼らはーーー」

「生きている、とでも?」

「ーーーッ!」

アスナの鋭い剣幕に《黒の剣士》キリトが小さく息を飲んだ。

「あれは単なるオブジェクトです。岩や木と同じ。たとえ殺されようと、またリポップするのだから」

「……俺はその考えには従えない。彼らは一人の人間として扱うべきだ」

「今回の作戦はわたし、《血盟騎士団》副団長のアスナが指揮を執ることになっています。わたしの言うことには従ってもらいます」

アスナの言い分にキリトが一瞬言い留まるが、それで終わることもなく二人の議論がヒートアップしていく。

これは絶対に終わることのない議論だ。なぜなら二人が言っているのは、突き詰めればNPCに人権があるのかないのかという、お偉いさん方がいくら話し合っても結論が出ない議題だ。

そんなものを、ただのゲーマーたる彼らが言い争ったところで、平行線のまま無意味に時間が過ぎるだけである。

時と場所さえ選べば議論を交わすことは有意義なんだが、と思っていたのは、

「いい加減にせい、頭冷やせっ」

ゴチーン、とキリトとアスナの頭を豪快に殴ったパーカー姿の男、リュウヤだった。

「「〜〜〜っ!」」

二人が頭を抱えてうずくまり悶絶しているのを見てリュウヤは呆れながら言った。

「あのなぁ、そんな話してる場合じゃないだろ。痴話ゲンカは他所でやんなさい」

「「痴話ゲンカじゃない!」

「はいはい分かった分かった……。そんなもんどうでもいいから話進めるぞ」

息のあった二人の反論と、アスナを殴ったことによって送られてくる周囲の殺意をまとめて無視してリュウヤはアスナのいた位置に立った。

「いいか、とりあえずさっきの策は無しだ。他の策を練る」

「ふ、ふざけないで!それを決めるのはわたしーーー」

「はい、お静かに」

「ひゃう!?」

リュウヤがしたのはひざカックン。不意を突かれたアスナは、立ち上がったひざをまた地につけてしまう。

「で、どうせ何の案が出ても揉めるんだ。ならそれをどう解決するか。ここにいるヤツなら、分かんだろ?」

ここにいるプレイヤーたちは皆《攻略組》だ。剣の実力がモノを言うこの世界において、それを証明してきたものが集う集団。

つまりリュウヤが言いたいこととは、

「《決闘》して勝ったやつの言い分に従えってこった」

再度どよめきが場を包み始める。
ある者は面白そうだと笑い、ある者は面倒だとため息をつく。

「そこで、だ。どうせならこの二人が《決闘》した方が面白くないか?」

な?と語りかけるリュウヤの目線の先にいるのは未だ頭を擦っているキリトとひざカックンから立ち直ったアスナ。

「この二人のどっちかが勝った方の案に従う。それで文句あるか?」

一瞬の静寂。
リュウヤがニヤリと笑みを刻んだその刹那。

ウオオオォォォォ!!!!

爆発するように興奮の雄叫びが空気を震わせる。仕方ないと言えるこの興奮。娯楽に飢えたこの世界で、しかも《閃光》と《黒の剣士》の一騎打ちが見られるとなれば盛り上がらないはずがなかった。

「お前さんらも、それでいいだろ?」

当の本人たちに視線を向けると、キリトは不敵な笑みを見せる。
アスナは不承不承といった(てい)で「いいでしょう」と言った。

だがしかしーーー

(ほぉ〜ん、なんか嬉しそうじゃん)

心情を機微に感じ取れるリュウヤから見たアスナは期待を寄せているようにも見えた。

それは、かつてタッグを組んでいたからなのか、はたまた強敵を相手にするからなのか、それとも別の感情があるのか……。

(ま、今はいっか)

自分のやることは他にあるのだから。
キリトとアスナを先頭にゾロゾロと広い空き地へと移動する攻略組のメンバーを傍目に、リュウヤは思考の闇へと深く潜っていった。





ザクザクと土を踏み鳴らし、剣戟が聞こえる場所へリュウヤは向かう。
人混みをかき分け、鋭い音楽を奏でる二人の顔を見たのは勝負が決まる数瞬前だった。

互いに最後の力を振り絞る決意を決めた顔。
距離を保ったのはほんの一瞬、キリトが前に出た。

迎えうつアスナは、しかし完全なスキを作ってしまう。それはキリトの不可解ながら本気を感じさせる『二本目の剣』を抜く動作のせいだ。

瞬間の判断が命を左右する戦場にて鍛え上げられた反射行動が仇となり、なにもない空間を、実際にあったのなら『二本目の剣』が来たであろう場所をその剣を弾くため、水平に薙いでしまった。

がらんどうとなった体を、キリトが見逃すハズもなく、一気にアスナのふところへと踏み込んだ。

回避行動も防御行動も取れない。ましてや攻撃すらできない速さで間合いを詰めたキリト。

皆がキリトの勝ちだと、確信したその時、思いがけない事態が起きた。

「……なんのマネ?」

「できれば降参してくれないか?女の子を斬るのは趣味じゃないんだ」

アスナがレイピアを動かせないかつ少しでも動いたら即座に斬れる絶妙の位置でキリトは己の剣先を止めていたのだ。

そのキザったらしい発言と行動に、観客から凄まじい歓声と野次が飛び交った。

「……分かったわ。降参よ」

アスナは手からレイピアを離し、不満そうに両手を挙げた。
アスナが降参の意を示したことで、決闘のウィナー表示が浮かび上がり、またしても歓声が上がった。

「ありがとう」

「…………ふんっ」

キリトが微笑みかけると、不機嫌そうにはなを鳴らしたアスナは踵を返し、その場をはなれていった。
その態度にキリトは苦笑をこぼす。

皆に背を向けて歩いていくアスナを止める者はおらず、賭けでもやっていたのか悔しがる連中もいた。

遠く離れていくアスナの背を、リュウヤはじっと見つめる。

先ほどの決闘、たった数秒しか見ていないが、どんな闘いをしていたのかはキリトとアスナの顔を見ればすぐに分かった。

二人とも、とても楽しそうに剣をぶつけ合っていたのだろう。なにせ攻略の鬼とまで言われたあのアスナが笑っていたのだから。

キリトは言わずもがな。あの戦闘狂(バトルジャンキー)が好敵手を見つけたかのように歓喜していたのだ。

だがアスナに関しては、闘うこと以前の問題もあるようだ。
去り際にチラリと見えた彼女の表情。
それを捉えたリュウヤは思わず口の端を歪めてしまった。

「ははっ、やっぱ女の子だなぁ」

空を仰ぎ、リュウヤは愉快そうに笑った。




問題のフィールドボス討伐は見事一人の犠牲者も出さずに成功を収めた。
キリト側につくプレイヤーたちが出した提案が予想以上に効果を発揮し、キリトが反対したアスナの案は使われる事はなかった。

フィールドボス討伐の終わり、報酬分配で盛り上がる攻略組の周囲にはしかし、リュウヤの姿はどこにもなかった。








フィールドボス討伐ののち、順調に進んだ迷宮攻略も終わり、無事五十六層を突破した翌日のこと。
リュウヤは五十七層の主街区《マーテン》を気ままにぶらぶらと散歩していた。

気になったところすべてに赴き、いろんな店をひやかしてはのんきに遊んでいた。
五十七層開通初日とあって観光客であふれていたが、そんなことを気にする事もなく、むしろ人々に見える楽しそうな表情を見て微笑ましげな気分になっていた。

食べ歩きしながら街を回っていたら、やがて日の光も薄くなっていき、街には昼とは違った盛り上がりが見られた。

今日の攻略から帰ってきたプレイヤーたちが酒場で一日の功を称えて飲んでは食べてを繰り返しているのだ。
街を歩く人々には昼とは違う夜の表情が咲き並んでいる。

それを目の端で見ながらリュウヤは転移門に立ちとある階層へと跳んだ。
そこは最前線より十五も階下にある四十二層。
広がる景色になんの感慨も持たず、リュウヤは主街区を立ち去った。
その顔には昼のマヌケ面などどこにも見当たらなかった。






主街区より南西に位置する深い霧のかかった森の中、リュウヤはパーカーのポケットに手をつっこみフードを被っててくてくと歩いていた。

聞こえてくるのは不快な森のざわめきとガサガサと草木を揺らす風の音。遠くからはモンスターの遠吠えが鼓膜を響かせる。

何かが化けて出てきそうな雰囲気を気にする事もなく歩き続けるリュウヤは、突然ため息をもらした。

草を踏み鳴らす音が止まり、彼の目が背後へと向けられる。

「お前、なにしてんの?」

かけられた声に反応する気配はない。
しかし目星のついている一か所を見据えていると一人のプレイヤーが姿を現した。

この森の中で到底馴染みそうにない明色である赤と白の制服を身にまとう少女は、栗色の長い髪を払いながら険しい顔を見せた。

「よくわかりましたね」

「あのな、そんなカッコしてたら隠蔽の効果なんてあってないようなもんです」

「別にずっとハイディングしている気はなかったので、これでいいかと思って」

「それでよくストーカーしようと思ったな」

「ストーカーじゃありません」

「かわいくねえなぁ。前は憤慨してまで否定してたのに」

「いつの話をしているんですか」

「あぁ、神よ、人はこんなにも変わってしまうものなのでしょうか……」

芝居がかった仕草で両手を組み嘆くリュウヤにアスナはピクリとも反応しない。
その態度に面白くないとため息をはいたリュウヤは態度を改めた。

「で、血盟騎士団副団長こと《閃光》のアスナ様がこんなところになんのご用ですかな?」

「ここに用はないわ。用があるのはあなたよ、リュウヤさん」

「は?俺?なんで?」

「理由がわからないのかしら」

「う〜ん…………ああ、そうかそうか、分かったよ。あれか、俺に惚れたか?」

「…………違います」

「まあ仕方ない。俺ってば自分でも思うくらいイケメンだからさ。アスナが惚れるのもムリねえよ、うんうん」

「……違いますってば」

「けど残念。こんなイケメンな俺でもアスナとは釣り合わないのさ……。ごめんな、その気持ちは胸の奥にしまっといてくれ」

「違います」

「でも、君の気持ちだけは受け取っておくよ。それで勘弁してくれないか?」

「もうっ!違うって言ってるでしょう!?」

なんども否定しているにもかかわらず勝手に進むリュウヤの話についに耐えきれずアスナは声を張り上げてしまった。

ハッとして口元を押さえたがもう遅い。
リュウヤがしたり顔でアスナを見ていた。

「そうそう、それくらいの勢いがないとつまんねえよ」

「あなたね……」

「はっはっは、呆れるなんて今更だろ」

変わらないリュウヤの開き直ったような態度に頭を抱えたくなるアスナ。だがそんなことで挫けてはいられない。

元々リュウヤ相手にすぐ話が通じるとは思っていなかった。気を取り直してアスナはぐっと背筋を伸ばした。

「アスナさんや、そんな気を張り続けるこたぁねえよ。疲れないの?」

けれど、そんなアスナに先んじてリュウヤが口を開いしまった。

彼の話に付き合う義理はないし、そんなことをしに来た訳ではない。
だから一々反応してはいけないと分かっている。

だが、なぜだろう。
話をしようとする自分の口が、動かない。

「まあなんか気が変わるようなことでもあったんだろ。お兄さんに話してみそ。聞いてやるから」

あくまで人の話を聞こうとしないリュウヤ。

けれど彼が持ち出した話を、アスナは無視することができなかった。
なぜなら、それはアスナの本心を捉えた一言だったから。

核心を突かれたアスナは、もはや反射とも言える反応で重い口が開いた。

「あなたには関係ないっ!攻略しないで遊んでるようなあなたにはっ!」

心情の吐露、暴言であって癇癪に見えさえするアスナの行動をリュウヤは腕を組んで黙って見ていた。

久しぶりに本心を吐き出したアスナは体に力が入らなくなりそうになるのを我慢した。
ここで倒れていたら何をしに来たのか分からなくなってしまう。

閉じられた言葉の門の前で、森は静かにそれを見守っているように見えた。いっそ不気味なほどに。

リュウヤを相手にする時はいつだってそう、自分の心が揺さぶられる。
作られたポーカーフェイスは意味もなく崩され本心を暴かれる。

だから、彼を前に取り繕うのはムダなのだ。
こちらの動揺は隠せない。ならばもうそれはそれでいい。それを知られてもなおやらなければならないことがある。

アスナは気持ちを切り替え、浅く息を吸って揺れる門を開いた。

「これで気が済んだでしょ。だからこちらの用件を済まさせてもらいます」

己の右手は左腰に吊るされた相棒に触れる。
柄を握り、夜の暗さに負けない鉄の輝きを放つレイピアを抜剣。

その切っ先をーーーリュウヤに向けた。

「これで、分かりましたか?」

「お前の用件とやらか」

切っ先を向けられてなおリュウヤから一切の動揺を感じられない。
それは彼の異名にも関係するのだろうか。はたまた彼の地なのか。
そんな思考が出てくるのを阻止し、アスナは言った。

「そうです。わたしは、あなたを捕まえに来ました」

「ほ〜ん、なんの容疑で?」

「ずっと前から、中層や下層で高レベルプレイヤーが現れるとの報告がありました。それだけなら特に動く必要もないと思ってましたけど、あんな話を聞けば動かずには入られませんでした」

一旦言葉を切って、アスナは続けた。

「ダンジョンに赴くプレイヤーたちを排除し、その場を荒らして帰るという輩がいると。その人の特徴があなたと一致しているのです」

「そんなこと、どこでも起きてるような案件だろ。なぜにお前が、しかも一人で出てきた?」

うっ、とアスナは言葉に詰まった。
この事に関して一番聞かれたくないことを聞かれてしまった。

確かにそういう話はたびたび聞こえてくる話ではある。けれど攻略組はそれを一つずつ対処するほど善良な集団ではないのだ。

それにその手の話は基本、嫉妬や妬みからくる話であり、加えて攻略組のプレイヤーがそれに関与しているということはまずない。
そんなことをしているヒマがあるのなら迷宮に潜ってレベリングでもするのが攻略組である。

だから初め、アスナも気にしなかったが、目撃情報の人物の特徴を見ていると、一人の顔が浮かんで来た。

こんな事件、ギルドの団員を動かせるハズもないし、動かそうとも思わなかった。
その理由を、アスナは少々いじけたように吐露した。

「……あなたの知り合いとして、見逃すわけには行きませんから」

「…………!」

少なからず驚きを見せたリュウヤにアスナも内心驚いてしまう。
そんなに意外だったのだろうか。自分がそういった感情を持っていることが。

とりあえずその考えは頭の隅に追いやり気を取り直してアスナはもう一度警告した。

「だから、捕まっていただきます。おとなしくしていてください」

言ってリュウヤに近づこうとしたアスナはしかし、リュウヤの表情を見て固まってしまった。

険しいなんて表現が甘く思えるほどの鋭い視線。
その目だけで人が殺せるのではないかと思える表情にアスナの体は完全に動かなくなっていた。

そしてリュウヤは組んでいた腕を解き、いつの間にか手にしていた武器をーーー投擲した。

それは一瞬の出来事。
ライトエフェクトをまとう武器はそれがソードスキルであることを意味していた。

彼我の距離など意に介さず、一気に飛んだ武器はやがてアスナを捉えーーー


グサッッ!


「…………え?」

アスナの声が振動するか否か。

投擲された武器が、ポリゴンの身体を貫いた。



























 
 

 
後書き


はい、いかがでしたでしょうか。

今回から数話続くであろうオリジナルエピソードに
キリトとアスナの決闘を書いています。

稚拙な文章なのでいかんせん戦闘シーンがうまく描写
されてないと思いますが、ごめんなさい。
だからと言って日常シーンが上手いワケではないんですけどね!(泣)

さて、次回の告知と行きましょう。
次は……そうですね、ようやく『アレ』が出てくるのでは
と思ってます。まだなにも書いてませんw
もしかするとあと二話オリジナルが続くかもです。

ではまたお会いしましょう
See you!

 
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