ドラゴンクエストⅤ〜イレギュラーな冒険譚〜
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第四十七話 新たなる戦いへ 前編
前書き
今回は前編、後編と2つに分かれております。
大広間の扉を開けると、そこは戦場と化していた。
翼を持つ剣を構えた悪魔やメイジキメラがパーティの参加客を襲っていた。
今しがた一人を襲おうとした魔物に私はメラミを唱えた。
魔物は一抱えもある炎の塊に包まれて、黒い塊になり無に溶ける。
「ミレイ殿、助太刀ありがたい!」
私の姿を見たピエールが言った。
私は近くに寄っていた魔物をグリンガムの鞭の一撃で倒すと、ピエールに言った。
「この魔物達、どこから入ってきたの?」
「それが大広間の窓を破壊して入ってきました。我々は武器を持っていなかった事もあり、突然の事に混乱してしまいその事が劣勢につながりました」
「アベルとビアンカは?」
「戦いを我々に任せて、レックス王子とタバサ王女の様子を見に行きました」
「わかった」
話を聞き終えると新たに入ってきた魔物にイオラを唱え、吹き飛ばす。誰かを襲おうとしていた魔物の背中にドルクマを浴びせ、怪我をしていた人にはホイミで治療し、戦っている仲間には援護をする。
「ミレイ殿、全部を倒そうとしていてはきりがありません!」
「わかってるよ、ピエール!でも……」
圧倒的に数が多い。
今こうして戦っている間にも魔物はドンドン増え続けているし、魔法の攻撃で倒すのも、マヌーサやメダパニで同士討ちさせるのにも限界がある。
でも、ここで戦わなきゃ私はまた全てを失う。
自分が神によって引き起こされた交通事故で殺されたと知った時よりもずっと深い絶望に落とされる。
私だけではない、他のグランバニアの人々も辛い思いをする。
そんな悲劇を作らない為にも私はこうして戦っているんだ。
「例えきりがなくても、倒しきれなくても、私はここで戦わなきゃいけないんだ!」
そう叫んだ時、私の胸の内に何かが湧き上がる感覚がした。
この感覚は前にも経験した事がある。これは一年ほど前に死の火山で感じたのと同じ感覚。
私は心に湧き上がったその呪文に持てるだけの全ての魔力を込め、唱えた。
「ライデイン!」
その呪文の名前を叫んだ瞬間、私の手から青い光が放たれ大広間の全てを包み込んだ。
青い光はどんどんその輝きを強くしていって、眼が開けていられなくなるほど強い輝きとなった時……『それ』は放たれる。
轟音を立て、魔を滅する裁きの雷が魔物達を一瞬にして灼き尽くした。
煙と光が止んだ時に、その場に残っていた生き物は私達以外に存在していなかった。
「今のはライデイン……。裁きの雷を召喚し魔なるもの全てを灼き尽くす、限られた者にしか行使できないと謳われた魔法……」
私がライデインを使ったのを見たマーリンが眼を大きく見開いて、そう呟いていた。
「ありがとうございました、ミレイ殿。しかし、ミレイ殿がそのような呪文まで使えるのは思ってもなかったです。流石はミレイ殿。魔法の天才というだけのことはありますな」
ピエールが素直に賞賛しているのを聞いて、私はちょっと罪悪感を抱いた。元々私の魔法の力は『特典』のおかげで使えているものなんだから……。
「今のライデインのおかげで魔物の気配はもうこの大広間にありませんし、後はアベル殿とビアンカ殿の元に向かいましょう」
「うん」
私は仲間と共に歩き出した。
『首尾はどうだ?』
深い、深い闇。その闇の中に声が響いた。
「ええ、順調です。×××様……」
一人の男が震えながら、その声に応じる。
男の眼下には、魔物の襲撃を受け、傷付いたグランバニア城の姿があった。
それを見ると、男の胸に冷たく、不快な何かがゆっくりと纏わりつく。
ーーついにやってしまった。
ーーついに自分はもう戻れないところまで来てしまった。
ーー生まれ、育ったこの場所を自分の手で穢してしまったのだ……。
『ならいい。さぁ、残りは我が忠実な部下がやってくれる。お前はデモンズタワーに戻れ』
「はい……。畏まりました……」
男は瞳の端に涙を浮かべると、背を向けた。
「直ちに向かいます……。ジャミ様……」
そう言い残して、男は夜空へと消えていった。
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