古城の狼
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16部分:第十六章
第十六章
「・・・・・・恐ろしい妖気ですね」
神父は城の中を歩き回りながら言った。
「そんなに凄いですか」
僕は尋ねた。
「はい。ここまで凄いのは今まで数える程しかありません」
「数える程、ですか」
どうやらこの神父はかなりの修羅場をくぐって来たようだ。言葉がそれを物語っていた。
「人狼は女の方が力が強いと言いましたが間違いありませんね。これは女の人狼の気です」
「女の、ですか」
すぐに感づいた。あの奥方だ。
「もうすぐ夜にあります。奴等が来ますよ」
見れば目の前からメイドが一人やって来る。
「あ・・・・・・」
彼女は僕と神父の姿を見て思わず声をあげた。
「ムッ」
神父は彼女の姿を認めてすぐに動いた。前へ突進し懐に持っていた聖水をかけた。
「ギャッ」
それを浴びた彼女は思わず声をあげた。そして全身が溶けていく。
「これは・・・・・・」
僕は溶けたその姿を見て思わず絶句した。それは生きた人のものではなかった。
「・・・・・・クグツです」
神父はその溶けた屍骸を見下ろして言った。
「強力な魔力を持つ者が死せし者を操る術です。死せる者をね」
「ブードゥー教のゾンビみたいなものですか?」
「似ていますがね」
彼は答えた。
「しかしこれは少し違います。生きている者にそのまま術をかけ死者として自らのクグツとするものなのです」
「・・・・・・・・・」
僕はそれを聞いて言葉を失った。生きている者をそのまま死者とし自分の操り人形にしてしまうとは。何と怖ろしい術なのであろうか。
「おそらくこの城にいる殆どの者がそれです。安心してはいkませんよ」
「・・・・・・はい」
僕はようやくこの城にいる人達のおかしさが理解できた。彼等は生きている者ではなかったのである。だからこそ動きも何処かぎこちなく生気が感じられなかったのだ。
廊下を歩いて行く。メイドがまたやって来た。
「あっ!」
そのメイドは思わず叫び声をあげた。神父は聖水をかけた。
全身が溶ける。だが遅かった。その声は城全体に響いてしまった。
「・・・・・・まずいですね」
僕は神父に対して言った。
「いえ、構いませんよ」
神父は言った。
「探す手間が省けるだけです」
その顔はあくまで強い表情だった。彼は窮地にいるとは思ってはいないようだった。
「・・・・・・そうですか」
僕はその表情を見て少し安心した。僕も動揺してはいけない。そう思った。
すぐに来た。前後から僕達を取り囲む様にやって来た。
「いけませんな、騒がれては」
執事が前に出て来て言った。やはり生気の無い眼だった。
「奥様が帰って来られるまで静かにして頂かないと」
彼は音も無く前に出て来た。そして腕を突き出してきた。
「ムッ」
腕が僕の首にかかった。凄まじい力で締めてくる。
「糞っ」
このままでは殺られる、そう直感した。手にする短剣を振るった。
「グッ」
短剣が執事の腕を切った。すると瘴気を出して溶けた。彼は溶けた手を押さえて怯む。
「どうやら銀に弱いというのは本当だな」
僕はそれを見て言った。
「だから言ったでしょう。魔物は銀に弱いと」
背中合わせに神父が言った。彼は背中に背負っていた銀の剣を抜いていた。
彼は剣を振るった。そしてクグツ達を次々に倒していく。
僕は執事を相手にしていた。彼はその力を頼んで僕に襲い掛かって来る。
「だがっ」
僕は短剣でその腕を切った。すると腕が落ちた。
腕を落とされた執事は怯んだ。僕はそこで前に出た。
「それっ」
僕は短剣を心臓に突き刺した。それを受けた執事は溶けていった。
「これで終わりか」
執事を倒した僕は廊下を見回しながら言った。
「はい。まだ残っていますか?」
神父は廊下に転がる屍を見下ろしながら僕に問うた。
「そうですね・・・・・・」
元々この城には人はあまりいない。使用人は執事の他はメイドも数人程しかいなかった。
「後はこの城の主人だけですね」
あの生気の無い主人だ。彼もおそらくクグツなのだろう。
「そうですか。そして彼は何処に?」
「それは・・・・・・」
「私はここです」
不意に後ろから声がした。
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