古城の狼
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14部分:第十四章
第十四章
食事を終え僕は城を出た。そして神父のいる教会に向かった。
「そうですか、夜明け頃にですか」
彼は僕の話を聞き頷いた。
「確かに妙ですね」
彼の目が光った。
「それはかなり怪しいですね」
「やはり」
僕はその言葉に頷いた。
「はい。貴方が昨日森に行かれなかったのを口惜しがっていたというのも気にかかります」
彼は言葉を続けた。
「人狼は森を住処とするもの。そして夜にその真の力を出します」
それは知っていた。映画等で満月の夜に変身する姿をよく見たからだ。
しかし夜にだけ変身するかというとそうではないらしい。吸血鬼も昼にも出て来るし人狼も同様だという。だから一昨日あの森での事件があったのだろう。
「私の予想が正しければおそらく彼女は・・・・・・」
最後まで言わずともよくわかった。そうならば彼女がその整った姿の端に見せるあの怖ろしい顔が説明出来るからだ。
「貴方は昨日森に行かれなくて正解でした」
「といいますと」
僕は尋ねた。
「おそらく彼女は昨日森で貴方を待っていたのでしょう」
「・・・・・・・・・」
僕はそれを聞いて沈黙してしまった。それが何を意味するのか嫌でもよくわかった。
「貴方は異邦人です。消えても誰も不思議には思いません」
「はい・・・・・・」
それはよくわかった。おそらく日本から来た旅行客が行方不明になった、それで終わりだろう。運がよければ死体か骨が発見されるだろうが。
「古来からそうだったのです。吸血鬼や人狼に狙われるのは異邦人達でした」
「そうだったのですか」
吸血鬼と聞いて僕は心を凍らせた。人狼は吸血鬼と関係が深いと何かの本で読んだことがあるからだ。
「貴方はもう城に戻ってはいけませんね」
「はい」
僕はその言葉に頷いた。おそらく戻れば餌食にされるであろう。
「暫くここに留まったほうがよろしいかと。おそらく向こうも探していますよ」
「神父様さえよろしければ」
こうして僕は神父のいる教会に留まることになった。城の方には電話を入れておいた。
「そして今何処におられます?」
電話に出て来た執事が尋ねて来た。
「それは・・・・・・」
僕は話しながら考えていた。おそらく追って来るつもりなのだろう。
「ミュンヘンの方へ向かっているところです。ヒッチハイクでもしようかな、と思っています」
「そうですか」
彼は残念そうな声で電話を切った。
「・・・・・・どう思われます?」
僕は側にいた神父の方に顔を向けて尋ねた。
「おそらく信じてはいないでしょうね」
彼は言った。
「すぐにでもこの辺りを探し回ることでしょう。使い魔等を使って」
「使い魔ですか」
僕はふと黒猫や蝙蝠を思い出した。
「使い魔は何も黒猫や蝙蝠だけではありませんよ」
「おっと、そうでしたね」
僕はその言葉を聞いて思い出した。使い魔は鼠や梟、蛇等が使われることもある。一概には言えないのだ。
「気をつけたほうがよろしいですね」
彼はそう言うと窓のカーテンを閉めた。
「彼等はその力が弱い為教会には入って来れませんが目と耳、そして鼻が利きます。それこそ網の目のようにね」
「網の目ですか」
「ええ。それが魔性の者達の目であり耳なのです」
かって魔女達は自らの使い魔を使い情報を集めていたという。それは人狼にも言えることである。
「おそらくこの教会にもすぐに来るでしょう。気を緩めてはなりませんよ」
「はい」
それから数日僕は神父の教会に身を潜めた。
昼は部屋に閉じ篭もっていた。窓にはカーテンをかけじっと息を潜める。
そして夜になると眠る。こうして使い魔達をやり過ごしていた。
「しかしこうしてばかりもいられないでしょう」
夕食の席で僕は神父に対して言った。
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