捕虜の食事
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第二章
「お互いに捕虜を取らなかったな」
「殆ど」
「捕虜にする前に殺していた」
「それも惨殺ばかりでしたね」
「しかもだ、私は国教会だ」
「私もです」
「イタリアは殆どカトリックだ」
何しろバチカンがある国だ、その宗教はほぼ全員がカトリックだ。イタリアにおけるカトリックの地盤は絶対だ。
「宗教が違う」
「まずいですかね」
「そうかもな、まあな」
「こうなったらイタリアさん任せですね」
「我々がここであれこれ言ってもだ」
オーストンはその青い目で正面を見つつ言った、テューダーの緑の目は俯いたままだ。二人共同じブラウンの髪だがどちらも乱れかけている。
「結局はだ」
「イタリアさん次第ってことですね」
「カンタレラをご馳走になることもな」
「やれやれですね」
「まあ最後に紅茶をお願いするか」
オーストンはまたジョークを出した。
「そうするか」
「一生の最後に口にするものは」
「それが出来ればいいな」
「そう思うべきですね」
「ああ、前向きにな」
「いつも前向きで礼節とユーモアを忘れるな」
「イギリス軍人らしくいこう」
こう話してだった、二人はこれからの自分達の運命を話した。そうしたことを話しながらだった。二人は時間を潰した。
その二人の獄の前にだ、牢獄を守っている兵士が来て言って来た。
「食事です」
「さて、ここでな」
「我々がどうなるかがわかりますね」
「一応言うか」
オーストンはこうテューダーに言ってだ、そのうえで。
兵士に対してだ、こう申し出た。少したどたどしいイタリア語で。
「最後の飲みものは紅茶を頼む」
「紅茶ですか」
「そうだ、いいか」
「コーヒーではなくですね」
「あれば頼む、あるか」
「はい、あります」
すぐにだ、兵士はオーストンに答えた。
「では紅茶を持って来ます」
「頼むな」
こうしてだ、最後の紅茶を頼んだが。
兵士が去ってからだ、オーストンはまたテューダーに言った。
「あっさり聞いてくれたな」
「そうでしたね」
「普通イタリアといえばコーヒーなのにな」
「ということはやっぱり」
「その紅茶にはカンタレラが入っている」
「ボルジア家秘伝のですね」
テューダーもこう返す。
「あれですね」
「カンタレラでないとメディチ秘伝の薬だ」
「メディチ家もそういう話が多いですね」
「そうだ、どちらがいい」
「苦しまない方がいいです」
これがテューダーの返事だった。
「そっちが」
「苦しまないならカンタレラでもいいか」
「はい」
「それもそうだな」
こうした話を二人でしてだった、そのうえで。
二人の食事が出て来た、それはというと。
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