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白鯨とクラーケン

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第一章

                       白鯨とクラーケン
 太平洋の船乗り達が口々に噂していた。
「馬鹿でかい鯨がいるらしいぞ」
「身体は真っ白で船よりも大きいらしい」
「それでこの広い海の王者になっているらしい」
「船なんか一飲みだ」
「海の化けものだ」
 そうした鯨がいるというのだ、しかも。
 噂は他にもあった、今度の噂はというと。
「巨大な烏賊もいるらしいぞ」
「こっちも船よりも大きいらしい」
「その十本の足はマストよりも太くてな」
「船を一撃で粉々にするらしいぞ」
 巨大な烏賊もいるというのだ、とかくだ。
 その鯨と烏賊は船乗り達の恐怖の的になっていた、それである捕鯨船の若い船乗りであるヘンリー=イシュメールもその話を聞いてだった。
 ハワイを出たところでだ、同僚のリチャード=ダグーという黒人の船乗りに尋ねた。
「太平洋に白い馬鹿でかい鯨とその鯨並に大きい烏賊がいるって?」
「ああ、そうらしいな」
 ダグーはこうイシュメールに返した。
「噂だけれどな」
「本当にいるのかね」
「さあな、俺はこの目で見ていないからな」 
 ダグーはイシュメールに素っ気なく返した、二人は今は船内にいて休憩を取っている、それでのんびりとして話しているのだ。
「どうとも言えないな」
「そうなんだな」
「まあいるんじゃないのか?」
 ダグーはイシュメールにやはり素っ気なく返した。
「噂になっている位だからな」
「いるのか」
「まあ見たらな」
 その時はとだ、ダグーが言うことはというと。
「本当にいたってことでな」
「何か素っ気ないな」
「だってな、この目で見ていないからな」
 ダグーの言うことは変わらない、暗くしかも硬い木の船内の中で。
「これといってな」
「言えないか」
「そうだよ、じゃあ当直の時間まで寝るか」
「そうだな、こうしてお喋りしてもな」
「寝て当直の時に頑張れないからな」
「じゃあ寝るか」
「ああ、ラムでも飲んでな」
 それを寝酒として、というのだ。こうしたことを話してだった。
 二人の若い船乗り達は酒を飲んでから寝た、捕鯨船は至って平和だった。だがその船の下ではというと。
 イルカ達がだ、自分達の言葉で海の中を泳ぎつつ話していた。
「またやるらしいぞ」
「そうか、またか」
「また勝負をするんだな」
「モビーディッグ様とクラーケン様は」
「そうされるんだな」
「何でも今度はな」
 イルカ達が話すことはというと。
「決着をつけられるらしいぞ」
「おいおい、本当か?」
「本当に決着つけられるのか?」
「前もそんなこと仰ってたよな、モビーディッグ様」
「そうだよな」
「けれど前も引き分けでな」
「その前もだっただろ」
 イルカ達はこうそれぞれ話すのだった。
「それじゃあな」
「今回もな」
「引き分けじゃないのか?」
「そうなるんじゃないのか?」
「かもな。どちらがお強いかというと」
 それはというと。 
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