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釜の音

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3部分:第三章


第三章

「これです」
 そこは玄室のようで。奥には釜が置かれていたという。話では。
「この釜ですね」
「はい」
 若松さんは雨宮さんの問いに頷いてみせたとのことだ。
「これです」
「この釜で。どうやって」
「それはですね」
 その占い師が述べてきた。
「この釜の中にこれを入れます」
「石ですか」
「はい」
 出してきたのは一つの小さな白い石だったという。僕はそれを見ていないのではっきりとは言えないが若松さんの話では白い奇麗な丸い石だったという。
「これを釜に入れます。そして」
「そして?」
「鳴らなければよし。ただし鳴れば」
「駄目というわけですね」
「そういうことです。宜しいでしょうか」
「はい」
 雨宮さんは頷いたという。それで全てを決めるつもりだった。少なくとも雨宮さんはそう決めていたのだ。
「それで御願いします」
「わかりました。それでは」
 占い師は石を釜の中に入れた。すると奇妙なことに釜が一人でに動きだしたのだという。思えばそうした奇怪なものであるから人の未来がわかるのだろう。
 釜の中の石も動く。そうして。
 鳴った。雨宮さんはそれを見て頷いたという。
「そういうことですか」
「はい」
 占い師は雨宮さんに対して答えたらしい。
「駄目なようですね」
「そうですね。それでは」
「あの」
 それを受けて若松さんは娘さんに声をかけたらしい。
「残念ですがこの結婚は」
「いえ」
 ところが。ここであってはならないことになってしまたっとのことだ。
「それでも私は」
「馬鹿な。そんなことをしたら」
 若松さんはその時心から焦ったと。僕に話してくれた。その時はこれまでになく焦られたと話された。それも無理はないことだと僕は思った。
「貴女は」
「占いの結果がそうでも」
 多分この奥さんは最初からそのつもりだったのだろう。占いを信じる人もいればそうでない人もいる。またどんな結果が出ても自分の想いを貫きたい人もいる。この辺りが非常に難しいのだと思う。どうにもならないこともどうしても出て来てしまうからだ。
「私があの人と一緒にいたいです」
「しかし」
 雨宮さんはそれを聞いて困惑されたとのことだ。実際に何とか奥さんを止めようとされたらしい。
「占いの結果は」
「変えてみせます」
 その時の奥さんの言葉だという。
「何があっても」
「いいのですね」
 この時若松さんは諦められたという。どうなるかわかっていたそうだ。だがそれでも奥さんの心が強いのを見て止めるのを諦められたとのことだ。
「それで」
「はい」
「わかりました。それでは」
 奥さんの言葉に頷いたうえで雨宮さんに顔を向けられたとのことだ。
「ここは。奥さんのお気持ちを尊重致しましょう」
「占いの結果がどうであれ。ですか」
「ええ。仕方がありません」
 こう言うしかなかった。若松さんが今それを語っても実に辛い顔になってしまっている。
「それでいいですね」
「そうですね」
 雨宮さんも遂に頷かれた。この人にも結果はわかっていたが。どうしようもないとわかったからだそうだ。雨宮さんは占いの結果を心配していた。その道筋は違うが結果は若松さんと同じものを見ていたのである。
「それでは」
 雨宮さんまで諦めた顔で頷いたことにより全ては決まった。奥さんは御主人と籍を入れられて二人で一軒家に移られた。暫くは平穏に暮らしていたという。
 だが。若松さんが知っておられるように御主人は浮気者であった。暫くして愛人を他所に作り女遊びをはじめられたという。若松産も雨宮さんもそれを見てやはりと思われたそうだ。
 またそれを見てすぐに奥さんのところに行った。休日だが御主人はいなかったという。その日何処にいたのかはもう考えることさえ愚問であった。
 御二人は離縁を勧められた。これは当然だと思う。しかし奥さんはそれを聞き入れられなかたっという。これも予想されることだった。僕も話を聞いていてこうなるなと思った。
「どうしてもですか」
「はい」
 寂しく人の気配もまるでない家の居間で御二人は奥さんに話されたという。奥さんはかなりやつれていたがそれでも御二人に答えられたとのことだ。
 
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