東方喪戦苦【狂】

あの事件は、殆どの誰もが気づくことなく、足早に片付いた。
幻想郷は守られた

しかし、その事件による『犠牲者』も少なくはない。

その一例として、『新月(しんげつ)狂夜(きょうや)』と言う男がいた。

彼は幻想郷と一人の少女を守るため、
幻想郷最大の組織『エイジス』の幹部として、
事件によって殺された彼の姉『新月(しんげつ)神那(かな)』の座を受け継ぎ、
事件解決と姉の敵討ちの為に『オーダー』を敵に回した

新月狂夜は事件の被害者とも言える転生者
『黒崎(くろさき)骸(むくろ)』と『白夜(びゃくや)』へ全てを託し
『世界の秩序』を治めると語る『オーダー』のボス『葉川裕海』との闘いで死亡。

そして『新月狂夜』は死に、地獄へと落ちる。

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「もう地獄はコンプリートか。」
骨と皮のみの屍のような人間が多数ぷかぷかと血の池に浮いている。

そんな中、一人の青年は頭にタオルを巻き、鼻歌を口ずさむ。
明らかに『血の池地獄』を満喫していた

「うーんもうちょい熱い方がいいかな？」
青年は軽く首を傾げてから唱えた。

「最強魔法(マスターマジック) 炎球(メラ)」

ブクブクと『最初から』沸騰していたお湯は、その炎球に触れ、さらに強く沸騰した。

「今のは 火炎球(メラゾーマ)ではない･･･ 炎球(メラ)だ。」
誰が聴いているわけでもないのに独り言を呟いた。




新月狂夜は地獄での生活を満喫していた。
地獄(じごく)とは、宗教的死生観において、複数の霊界（死後の世界）のうち、悪行を為した者の霊魂が死後に送られ罰を受けるとされる世界。
厳しい責め苦を受けるとされ、
素朴な世界観では地面のはるか下に位置することが多い。

また地獄には八大地獄という『階層』があり
想地獄
黒縄地獄
堆圧地獄
叫喚地獄
大叫喚地獄
焼炙地獄
大焼炙地獄
無間地獄

狂夜はこの七番目『大焼炙(だいしょうしゃ)』地獄にて生を謳歌している。(死んでいるのだが)

この男は『地獄へ来るべきではなかった人間』だった。
友を救い、世界の為に貢献し、姉の敵討ちを果たし、そして一人の少女を助けた。

この物語は、新月狂夜の地獄落ちの理由、
そして、あの事件の『悪夢の続き』だった。




「そろそろでるか。」
狂夜は血の池地獄から出て近くの岩岸に置いた、タオルで身体を拭き。
黒のジーパン、そして、黒のシャツの上に真っ黒なコートを羽織った。

「行くか」
しかし、彼は行くところなど決まっておらず。

適当にブラブラと大焼炙地獄から焼炙地獄へとどんどん上の階に登っていく、
稀に一番上の想地獄からまだ『狂っていない』亡者が現れ話し相手になるのだ。

そして、それを見た。

「····ろ?」
声を上げた自分の声が酷く掠れていた。
自分でも聞き取れないくらいに。


「·······く·····ろ?」
またもや、掠れてしまった。

『彼』とは違った。
何故かよく見えないが身長が高く、長い髪を縛っている。
しかし、確かに雰囲気は彼だった。

狂夜は意を決してはっきりと声を発声させる。


「骸か?」

やっと見えるようになった『彼』は涙を流し、言った。

「あ、貴方は…」

狂夜は『彼』を見た時、全てを悟った。
自分の犠牲も彼の姉、神那も無駄にはならなかった。

本当に終わらせてきたのだと。

狂夜は『彼』の頭に手を置き、言った
「やれやれ。何があったのかは知らんが」

「死んでしまうとは情けない。」
あの事件から五年の月日が流れたのは狂夜も知っていた。
彼は19歳。
狂夜は18歳。

身長差が大分近くなっていた。

狂夜は背を比べるように。
骸の目の前に立ち。

言った。
「話を聞こうか。…骸。
お前のことも、みんなのことも教えて欲しい。」