リリカルなのは~優しき狂王~
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Vivid編
第三話~妹たち~
前書き
読者の皆様こんにちは
着々と評価と感想が減っている事に焦りを感じ始めている作者(笑)です。
とりあえず序盤なんでこれといって大きく事が動くわけでもなく、これといった事件が起きるわけでもない中で面白く書くと言うのは難しいと感じています。
では本編どうぞ
聖王協会本部・一室
Cの世界から帰還し、リハビリを開始してからはや一ヶ月。ライは今、自身の病室に集まる面々と顔を付き合わせていた。
この一ヶ月、基本的にはリハビリと知識の補填に時間をほとんど割いて来た。その為、後回しにしていた諸々――――具体的に言えば自分がこの次元世界で生活を続けるために、キチンとした戸籍の手続きやら何やらを本格的に始めようとしていた矢先、その問題は転がり込んできた。
「僕がどこに住むか?」
「「「うん」」」
異口同音の返事に苦笑が漏れそうになるのを堪えたライは、机を挟むようにして座る三人の女性――――なのは、フェイト、はやての三人に対してどのような返答をしようかと自問し始める。
いや、正確にはどこまで彼女たちに説明をすべきなのかを考えていた。
実はライの頭の中では既にどうするのかを、ある程度決めている。しかも、それはある程度下調べをした上で、手続きさえしてしまえば後はもう問題がないというところまで彼自身も把握している。
なら何故素直にそれを言わないのか。それは彼女たちに原因があった。
「「「…………」」」
どこか期待しているような目で自身を見てくる彼女たちに、ライは気付かないフリを続ける。暗に『自分たちを頼りにしてくれないかな?』というどこか期待の籠った目だ。
(…………気不味い)
ライにとっての予定――――それは彼にとって必要なことであるが、彼女たちの善意を無碍にするのはどこか躊躇われてしまうのだ。
数分の逡巡。頭の中で出来上がっていた予定表を再確認し、ライは彼女たちに甘える予定をねじ込んだ。
「新しく住みたいと思っている場所はあるけど、まだ確定してはいないからその間は誰かの家にお世話になってもいいかな?」
どこか切ってはったような物言いであったが、彼女たちにはそれで十分であったらしい。ライの言葉に喜色を浮かべ、ライがこれからどこに住むかの説明を始めた。
当初は三人の内の誰かの家だと思っていたライであったが、彼女たちがライに住んでもらうための部屋はもうなのはとフェイトの家と決めていたと聞き、すこし意外な思いをする。
理由を聞くとヴィヴィオがそれを望み、他の提供希望者の八神家やナカジマ家に強く言い張ったのだと言う。書類や血縁上の繋がりはなくとも、ある意味でライの娘である彼女の鶴の一声により、このことはある程度早い段階で決定していたのだ。
取り敢えず、必要な話を終えるとライはもう明日にでも退院できるように手続きをしておくことを伝える。そして彼女たちもそれ以外に特にようもないのか、座席から腰を上げた。
「あ、そう言えば」
退室の為、部屋の扉に手をかけたフェイトがどこか思わせぶるような声を上げる。
フェイト以外の三人、ライはもちろんなのはとはやても彼女のその言葉に疑問を持ち、首を傾げる。どうやら彼女たちもフェイトの言葉に心当たりはないらしい。
「母さんとお兄ちゃんがライに会いたいって。JS事件の事で聞きたいことがあるって」
ライに向き直ってフェイトがそう言うと、彼とはやての二人は目を細めた。
そこに浮かぶのは警戒と疑念。
今このタイミングで管理局高官である人物がライに接触を図ろうとするのは、何か意図があると邪推してしまうのは当然のことであった。
返答に一瞬詰まったライを見て、フェイトは彼の考えを察したのか慌てた様子で言葉を付け加えた。
「あ、えっと、JS事件の時に間接的とは言え、事件解決の為に動いてくれたことに対するお礼が言いたいってだけだから」
特に何かを意図したわけではないとアピールするようなフェイトの慌てる様子に、変に警戒していたライは毒気を抜かれた。
他人を疑ってかかるのは職業病なんだろうか?と内心で自問しながら、ライはフェイトの申し出に了承の意を返すのであった。
中庭
よく手入れのされた中庭の芝生。しかし、ここ最近は激しい運動が繰り返し行われているため、疎らにではあるが所々に茶色い土が見え隠れしている。
その芝生でそのまだら模様を量産している本人であるライが座禅を組んでいた。
ライは体を動かす訓練や大事な作業を行うときは、事前に禅などを行い、集中力を高めようとしている。たった数分程度のものであるが、それをする事で訓練時の集中力や持続時間、それにかなり鋭敏な感覚を養えるようになるのだ。
「――――」
座禅のために内側に向けていた自己の意識を、ゆっくりと外側に向けていく。
すると首の後ろ辺りに視線を感じた。だがそれは、ここ最近度々感じるもので、視線の主もライは既に把握している。
その二人とは、この世界で新たにできたライの妹であった。
伸びてから未だに切っていない長髪で隠すように、二人の方に視線を向ける。視線の先には協会の建物の影から頭を少しだけ覗かせ、こちらを伺うようにしている二人分の顔が見えた。
生憎と表情までは見えなかったが、彼女たちの心情もある程度理解はできる。ここ最近彼女たちはライを遠巻きから伺うことをよく行っている。それはどこか言いたいことがあるけど言い出しづらいと言った風で、彼女たちが一歩踏み込んでくるのをライは待っていたのだが、明日にでもここを退院してしまうため不本意ではあるが彼は彼女たちに切っ掛けを作ってやる。
「オットー、ディード。出ておいで」
大声ではないが、離れている彼女たちに聞こえる程度に声を張り上げる。
ライからの呼びかけに二つの頭が大きく揺れた。その反応がどこかおかしくて笑いをこぼしそうになるが、何か台無しになりそうな気がしたためこらえる。
観念したように出てきた二人はライに近くまで来ると、顔を伏せるようにしてライに目を合わせようとしなかった。
数字の名前を持つこの二人――――オットーとディードはかつてJS事件の際、主犯であるスカリエッティによって生み出された『ナンバーズ』と呼ばれる戦闘機人であった。
JS事件後、彼女たちナンバーズは二つの選択肢があった。それは幽閉か奉仕活動を行うことによる社会復帰かである。
そして彼女たちは後者を選んだ内の二人だ。
社会復帰を望んだ内、この二人は同時期に生み出されたことで双子の姉妹のような認識を受けており、二人揃って聖王協会の方に所属していた。
髪型と服装以外はそっくりな二人の前に立ち上がったライは歩を進める。
一歩、また一歩と近付いてくるライに怯えるように二人の肩は震える。
彼女たち『ナンバーズ』からすれば、ライは兄であると同時に彼からヴィヴィオを誘拐し、更に事件に巻き込んだ一団の一味だ。恨まれこそすれ仲良くできる要素などないのだ。
そして事件を起こした側として他人から誹謗中傷を受ける覚悟も一応はあるのだが、義理――――と言えるかどうかも分からないが、一応兄であるライに正面から罵倒されるのを進んで受けることができる程、今の二人にその度胸はなかった。
「「「…………」」」
圧倒的な沈黙。
鳥の泣き声がどこかから聞こえてきたような気がしたが、それはどこまでも遠くいっそ空耳だったのか?と自身の聴覚を疑うほどだ。
「……ん」
そんな静粛をやぶったのはライであった。
彼は徐ろに右手を持ち上げる。俯いていた二人にもライの手は見えていたため、一瞬殴られるのか?と考えて目を勢いよく瞑ってしまう。
「僕の寝ている間――――」
頭に降ってくると思われた衝撃はこない。それどころか、どこか耳に心地よい声が彼女たちの耳に入り込んでくる。
恐る恐る顔を持ち上げると、右手で運動の為に三つ編みに結い上げられた銀の髪を弄ぶライの姿があった。
「髪の手入れをしてくれていたって聞いた……ありがとう」
そう言い切ると、ライは短髪であるオットーの頭をくしゃりと髪をかき混ぜるように撫でてやる。
一瞬ポカンとした二人であったが、やはり気になってしまったのかディードの方がおずおずと切り出した。
「あの、お兄様はそれで…………あの……」
最後まで言い切ることができず、尻すぼみになっているのは、やはり罪悪感が強いためか、それとも単純に怖いのか、それとも両方か。
本人ですら定かでない気持ちを察することは流石にできない為、今のライには素直な気持ちを伝えてやることしかできない。
「僕は君たちを許す気はないよ」
その言葉に息を呑む。
彼女たちにとって先程までとは打って変わって冷水を浴びせられた気分だ。しかもそれを笑顔で言われたのだから、二人にとっては生きた心地がしなかった。
だからだろう、次にライが言った言葉をすぐに理解することができなかったのは。
「僕ができるのは間違って、苦しんで、それでも進もうとする妹たちを支えるか、一緒に背負ってやることしかできない。だから、その気持ちを――――今、罪の意識を持つ妹たちが勝手に離れていくことなんて絶対に許さない」
ライにとって自身はあの事件に置いて被害者であるという認識はない。
例え、巻き込まれ、利用され、奪われたとしてもその相手を傷つけたのであれば、それはもう当事者でこそあれ、被害者などではありえない。そう言った考えを持っているからこそ、ライは形だけの妹たちだとしても共に歩む形を望む。
じわじわと水が乾燥した砂に伝わっていくように、ライの言葉が二人の頭に浸透していく。その意味を理解し、ライに笑顔を向けられた二人はそのままポロポロと涙をこぼし始めた。
流石に妹の泣き顔を直視することは避けたかったライは、二人の肩をそれぞれ持つと軽く引き寄せてやる。すると、二人はそれぞれライの腕に齧り付くように顔を寄せてきた。
「さっきは怖がっていたけど、今も怖い?」
二人に尋ねると、顔を隠したまま首を左右に振る二人。その反応が嬉しくてライの頬は自然と緩む。
「怖かったのは、ライっていう人間の事をよく知らなかったから?」
この質問には即答されなかった。
少しだけ間があり、どこか遠慮がちに頷く二人。妹に酷いことを聞いたかと考える一方で、家族になりきれていない自分と妹たちに一抹の寂しさを感じるライであった。
(他の妹たちとも、一度キチンと話し合うべきなのかな?)
取り敢えず、二人が泣き止むまでは動けないライは、内心でそんなことを思っていた。
そして彼の視線は、先程から自分たちを覗いていると思われる気配のする『何もない壁』に固定されていた。
後書き
てな感じでした。
Sts編で投げっぱなしであった点その一、ナンバーズでした。……といっても二人(?)だけしか出ていませんが…………
次回はライがある人と対談します。まぁ、そんなに綺麗な内容ではないかもしれませんが……
取り敢えず評価云々は別としてこれからも頑張っていきたいと思います。
ご意見・ご感想を心待ちにしています。
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