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女人画

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7部分:第七章


第七章

「このままじゃどうしようもないですよ」
「しかしだ」
「しかし?」
「攻略できない要塞はない」
 ここでこう言う間であった。
「決してな」
「といいますと」
「もう一つ言おうか」
「ええ、是非」
「中に入ることのできない要塞もない」
 こうも言うのであった。
「決してな」
「じゃあ入る方法はあるんですか」
「そうだ。一つ考えがある」
 語る間のその目が光っていた。
「まずはだ。モデルを探す」
「モデルを!?」
「そうだ。画伯は今も絵を描いているな」
「そうらしいですね」
 そうした話はもう確かめているのであった。敵を知り己を知らば百戦危うからずという。相模もそのことはよくわかっており事前に調べていたのである。
「相変わらず精力的に描いているようです」
「そのモデルを探すのだ」
 ここで間はまた言った。
「その女性をな」
「といいますと」
「そちらの調べももうついているな」
「はい」
 間のその言葉に対して頷いて答えてみせた。
「既に。何人かは」
「その中で最も画伯の屋敷に近いモデルのところに行く」
「彼女のところに行き?」
「後はいつも通りだ」
 そしてこう相模に告げた。
「後はな」
「ああ、そうですか」
 その言葉だけで全てがわかった相模であった。
「そうするんですね。いつも通りで」
「これでいいな」
「ええ。やっぱりいつも通りが一番ですね」
 言いながら酒を一杯飲む。奈良の酒だ。
「何だかんだ言っても」
「君にとってはそうか」
「やっぱり俺にはそれが一番性に合ってるんですよ」
 言いながらさらにまた一杯飲むのだった。飲んだ後で間の杯に気付く。そうしてそこにすぐに酒を入れるのだった。
「済まないな」
「いえいえ。とにかくですね」
「それでいいな」
 あらためて相模に問う間だった。
「今回も」
「そういうことで」
「よし。では話は終わりだ」
 間は打ち合わせが終わったと見てすぐに自分の杯を手に取った。今しがた相模が酒を入れたその杯である。赤い漆塗りの杯だ。彼はその杯を見てふと声をあげた。
「これは」
「どうしたんですか?」
「いや、いい漆だな」
 その杯の漆の塗り方をまじまじと見ての言葉である。
「これはまた」
「そんなにいいんですか」
「ああ。かなりいい」
 また言うのであった。
「そうか。これが奈良か」
「奈良ですか」
「歴史があるだけはある。ここまでの漆塗りが普通に出て来るとはな」
「?そうですか?」
 相模は漆塗りがいいと言われてもあまりよくわからない感じであった。間の今の言葉に首を傾げどうにもわからないといった顔にさえなっている。
「見たところあまり変わらないですけれどね」
「使っている漆が違う」
 だが間はまた言った。
「この黒さがな。それに」
「それに?」
「塗り方だ」
 今度はそれについて述べた。
「塗り方もな。やはり違うな」
「そうなんですか」
「丁寧に重ね塗りをしている。これがいい」
「重ね塗りですか」
「それはわからないか」
 一瞬だけ相模に目をやって問うた。
「君には。それは」
「正直漆とか陶器とかに興味ないんですよ」
 彼の返答は熱心な間と比べて実に素っ気無いものであった。
「それにわからないですし」
「残念なことだな」
「俺はそれよりも食べる方ですし」
 言いながら早速また食べだした。奈良の野菜料理をである。
「まあ奈良の野菜もそこそこいけますね」
「そうだな。それはな」
 それには間も同意はした。
「しかし。君は本当に」
「まあいいじゃないですか」
 ここからはもう言葉を遮ってきた。
「今は仕事を終わらせる。それですよね」
「そうだ。早いが明日早速仕掛けるぞ」
「明日にですか」
「これもいつも通りの筈だが」
 もう漆器を見てはいなかった。間に目を向けて問うてきた言葉である。
 
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