ソードアート・オンライン 瑠璃色を持つ者たち
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第十四話 見られたくないもの・聞かれたくないもの
前書き
はい、連投いっきまーす。
どうぞ!
その後、リュウヤは昨日見たのと同じタンクトップにネックレスをつけた姿になるとシリカを座るように促し、朝食を出してくれた。
ここまで来るとシリカも冷静さを取り戻し、朝食の礼と一緒にベッドを占領してしまったことを謝った。
そんなシリカにリュウヤは、
「気にすんな。シリカがゆっくり寝れたならそれでいい」
と言ってくれたが、
「あ、あとな、俺はお前に指一本触れてない!何もしてないから!ホントだから!お願いだ信じてくれっ!?」
土下座しながらそう言われ、浮き上がった心がどん底に落ちていくのを感じた。
後の発言がなければ、キザだけれど優しさのあるカッコイイ男性の感があったのに、これでは情けない大人にしか見えない。
それに、
少しくらい、なにかしてくれてもよかったのに……。
(い、いやいやっ。何考えてるのあたし!?)
リュウヤに見られないように顔を逸らしながらさっさと朝食を済ませ、シリカは装備の確認を始めた。
その間、リュウヤは窓の外を眺めながらネックレスをキュッと握りしめていた。
準備が終わり部屋を出るとなると、リュウヤもついさっき見たシャツとズボン姿に着替えた。
二人は明るくなった街並みの中を歩きながら転移門へと向かった。だが到着したところでシリカは気づいた。
「あ……、あたし、四十七層の主街区の名前知らないや……」
すぐに窓を開き名称を確認しようとするが、リュウヤに手で制される。
「俺が指定するから、ほら、手ぇ出し」
言われるがまま手を差し出すとリュウヤは柔らかくシリカの手を握った。
「転移!フローリア!」
リュウヤの声と同時に眩い光が視界に広がったかと思えば、瞬時にその光は四十七層の主街区《フローリア》の景色へと姿を変えた。
「うわぁ……!」
「すごいだろ。この層は通称《フラワーガーデン》って言われててな。見ての通り、花だらけだ」
シリカの歓声とともにリュウヤが解説を加える。そのリュウヤもどこか微笑ましそうだ。
シリカの目の前に広がる一面の花畑。そこかしこに花壇があり、花のアーチまであるほどだ。
噴水を中心にした円形の広場に十字路が貫く。その周辺では色彩の風が吹いている。
こんなにいいところならもっと早くに知っておけばよかったと思いつつ、シリカは近くにあった花壇の前にしゃがみ込んだ。
このSAOにおいて、プレイヤーが物や景色を見るとき《デティール・フォーカシング・システム》という仕組みが使われている。
要は当人が見たい物だけに焦点を合わせ、メインフレームの負荷を減らそうというものだ。
だがその話を聞いて以来、シリカはシステムに無用な負荷をかけているような強迫概念にとらわれて色んなものに興味を示そうとしなくなった。
しかし、今だけはそんなことは忘れて存分に花々を愛で続けた。
「おいおい、そんなとこだけで満足してたらもったいないぜ?」
そんなシリカをリュウヤは呆れながらも微笑みを浮かべながら声をかけた。
「街だけじゃなくて、層全体が花だらけなもんだからなぁ。北の端にある《巨大花の森》なんて相当すげえぞ」
ま、時間がねえから行けねえけどと肩を竦めるリュウヤにシリカは笑いかけ、「また今度にします」と告げる。
「そうだな、そん時は俺もついてってやるよ」
「ぜひお願いしたいです!」
そんな会話をしながらシリカはふと周囲を見回した。
花壇の間にある小道を歩く人影は二人一組ばかり。それはもちろん男女だ。どこを見ても男女のプレイヤーが寄り添って、花を愛でていたり、会話をしていたりと、見れば見るほどここがそういう場所なのだと理解させられる。
シリカは傍に立つリュウヤにそっと視線をやった。
あたしたちも、そんな風に見えてるのかな……?
だが、その思考は昨日から思っていた疑問と衝突し打ち砕かれる。
今のリュウヤは、カーソルを確認しなければNPCとなんら変わらない格好をしているのだ。
なぜそんな格好をしているのかは、「戦闘用の服が窮屈だから」と説明を受けた今でも要領を得ない。
それに、今の格好より部屋にいた時の格好の方がいい気がする。その格好で今二人でいたら……。
「ん?どしたのシリカ。急に頭振って。なんかあった?」
「な、なんでもありません!さ、さあ、フィールドへレッツゴーです!」
主街区を抜け、南門まで歩いてきた二人の目の前に銀色の鉄で編まれ、つる性の植物が巻き付いた巨大なアーチがあった。
そこを出るともう圏外だ。シリカは気を引き締める。
「さって〜、こっからいよいよ冒険開始なわけだが……」
「は、はい」
「ほらこれ、一応持っとけ」
相変わらずの簡素なシャツ姿のリュウヤはポケットから青い結晶を取り出しシリカに手渡す。高価な転移結晶だ。シリカは思わずリュウヤと結晶へ視線を往復させる。
「あの、あたしも持ってますよ?転移結晶」
「いいからもらっとけ。そんで俺がやべえと思ったら指示するから、どこでもいいから跳んで逃げろ。分かったか?」
「え、えっと……」
「はいシリカさん、お返事は?」
有無を言わさなぬ眼。
「は、はい」
返事をするしかなかった。
ん、よろし、と言いながらリュウヤは窓を開き装備を変えた。昨日《迷いの森》で見たものと同じ、青いパーカーに龍を象ったピアス、リングネックレスをつけた格好。
「う〜し、ほんじゃ行きまっせ?」
「はい!」
軽い調子で門をくぐり抜けるリュウヤにシリカは隣に並んでついていく。
なにも言えなかった。返事をすること以外、なにも。彼のものを言わせぬ表情。口調はなんら変わらないはずなのに、普段との差が垣間見えた表情にはやりきれない何かが宿っていたように見えた。
だが、シリカにその感情を特定することはできない。ましてや彼にそのことを言えるはずもない。
だからシリカは密かに決意する。
昨日みたいにパニックに陥るような真似はしない。全力で挑むんだ、と。
ーーーしかし、
「ぎゃ、ぎゃあああああ!? なにこれーーー!? き、気持ちワルーーー!!」
それは一瞬にして崩れ去った。
門を抜け、数分歩いたところで早速モンスターとエンカウント。
「や、やあああ!! 来ないでーーー」
出現したソレは、シリカの想像の遥か上を行く。一言で表せば《歩く花》。
しかし、そんな奇異な物体がキレイに思えるわけもなく、キレイに作られているわけもない。
胴となる太い茎から緑色のツタが何本も生え、顔と思われる中央の花には牙を生やした大きな口がパックリと開いていて、その中に見える毒々しい赤をさらけ出している。
攻撃部位はツタに生えるトゲやツタそのものらしいが、シリカにそんな冷静な思考ができるはずもなく、それを分かっているのか人食い花はニタニタと醜悪な笑みを浮かべながらシリカに近づいていく。
先ほど、広場で見たシリカの興奮度合いを思えば嫌悪感を抱くのは当然だなとリュウヤは面白そうに後ろから見ている。
「やだってばーーー」
「あのなぁ、そんなメチャクチャに短剣振ってたってダメージなんか入んねえぞ〜?」
「だ、だって〜……」
「それにそんなので嫌々言ってたらこの先持たないよ、君。花がいくつもついてるやつとか、食虫植物みたいなやつとか、年齢制限的にアリなのかって疑うくらいヌルヌルの触手持ってるやつとか出てくるんだよ?」
「キエーーー!!」
見ることはおろか、聞くだけでもキツイシリカは、ついに耐えきれず目をつむりながらソードスキルを放つ。もちろん空振りに終わり硬直が身体を襲う。
その隙を狙ってツタがシリカの足元に這い寄り、シリカを持ち上げた。
「わ!?」
視界が反転、頭が下になり宙づりになったシリカは、仮想重力にいとも簡単に従う己のスカートを必死に守る。
「あれ、この……届かない!」
片手でスカートの裾を押さえ、片手でツタを斬ろうとするが、体勢がうまく取れず手の出しようがない。
シリカは真っ赤になりながらヘルプを叫ぶ。
「リュウヤさん、助けて!お願いです!見ないで助けて!」
そんなシリカにリュウヤは、
「……これはこれで写真に収めるべきか。いや、さすがにこれはアウトじゃね?売れはするけど年齢制限的にも……。いやいやしかし、見ているだけでも十分……」
「な、なにを言ってるんですか〜!?」
ぶつぶつとなにやら呟いているようだが、それは絶対に自分のためにはならないとシリカは確信する。
それでもシリカから絶対に目を離さないということは、本当に危険になれば助けてくれるのではないか。……今は違う意味で危険だとは思うが。
「こ、このっ、いい加減にーーーしろっ!」
シリカはやむなくスカートから手を離し、体勢を立て直しツタを切断。
そのまま落下する勢いを上乗せして再度ソードスキルを発動。今度はしっかりと命中しポリゴンとなって四散する。
ポリゴンの雨を浴びながらストンと地面に着地。顔を赤らめながらシリカはリュウヤへと振り向くや訊ねる。
「……見ました?」
「純白ってさぁ、男の夢だと思うんだよねっ!ーーーちょ、ちょ待って!お願い短剣をこっちに向けないでってギャアァァァァ!?」
「リュウヤさんの、バカーーー!!」
五回ほど戦闘をこなしたところでシリカにもようやく慣れが出てきた。その調子で二人は快調に行程をこなしていった。
その間、リュウヤは戦闘へ介入することは一切なく、例外として複数のモンスターもしくはシリカが危険に晒された時だけ手を出しただけでなにもしようとはしなかった。
敵へのダメージ量に比例して経験値がもらえるこのSAOにおいて、ソロで、しかもいつもなら来るはずのない階層で戦っているのでたちまちレベルが1上がった。
しかし、ただレベルが上がったわけではない。
「そう、そうやって動かすんだ。もう一回やってみ」
「はい!」
モンスターとの戦闘中、リュウヤの指示に従って短剣を振るう。すると見事に敵を倒し、爆散して消えていく。
「中々筋がいいな。このままだと目標にもたどり着くんじゃないか?」
「そうだといいんですけどね」
あはは、と照れ笑いしながらシリカは答える。
なにをしているかと言うと、単純にプレイヤースキルの向上を図っている。
このままのようにレベルだけが上がっていきプレイヤースキルが疎かになると危険だとのリュウヤの注進から、彼の好意で訓練させてもらっている。
そもそも、そんな話になったのはレベルがどうこうというより、シリカのある話からだった。
「リュウヤさんは上層から来てるんですよね?」
ある程度確信を持ってリュウヤに訊ねる。十二も上の階層に上がってきているのに三十五層で見たあの余裕の態度は未だ崩れるところを見ていない。
「まあな。それがどうかしたか?」
「いえ、そうだったら、あの人のウワサも知ってるのかなと思って……」
「あの人?」
「はい!《白蛇》の通り名で知られてると思うんですけど……、リュウヤさん?どうかしました?」
見るとリュウヤはほほを引きつらせている。だがそれも一瞬、すぐに表情は元に戻った。
「なんでもない。……で、そいつがどうかしたのか?」
「その人、ソロで中層から攻略組に入った人なんですよ!しかもすっごく美人で!……でも、ある日を境にして攻略組から去ったって聞いて、もしかしたら上の階層の人で誰か知っている人がいないかと思って」
「はぁ……《白蛇》ねぇ。確かにいたよ、そんなヤツ。……なんだ、探してるのか、そいつを」
「必死になって探してるわけじゃないんですけどね。でも、その人は一度あたしを助けてくれた命の恩人なんです。あたしが短剣を使おうと思ったのもその人に憧れて、なんです」
シリカは目をキラキラさせながら遠いどこかを見つめている。そこには《白蛇》の名で通った美人が映し出されているんだろう。
「いつか、あの人みたいな短剣使いになれるのと、あの人と会うのが、今のあたしの夢です」
「そっか……」
隣で夢を語るシリカに、リュウヤは微笑みを浮かべる。
デスゲームと化したこの仮想世界で前向きに、ましてや夢を語る強さを持つものなどそうそう居はしない。
それを分かっているリュウヤは、小さく口角を上げた。
「そんじゃ、その夢、このお兄さんが少し手伝ってやろう」
「え?」
「なぁに、心配すんなって。短剣の扱いなら俺の守備範囲内だ。任せろ」
ぽんぽん、と頭を撫でるリュウヤの手はどこか、シリカにはいるはずもない兄のような手をしているような気がした。
結果からして、リュウヤの短剣の手解きはシリカのプレイヤースキルを遥かに向上させていた。
その証拠は、《思い出の丘》に入ったところから敵のエンカウント率が高くなり、前までのシリカならすぐにばてていたであろう戦闘数も楽にこなせていたことから伺える。
それはひとえにリュウヤの教えのおかげである。最小限の動きで攻撃、防御、回避のやり方を教わり、それを教えるのも上手い。
実際に一度手本を示してくれるのでやり方も想像がつきやすかった。
別れ道の無い一本道を歩き、襲ってくるモンスターたちを退け続け、小高い丘を登っていく。高く繁った木立の連なりをくぐるとーーーそこが丘の頂上だった。
「うわあ……!」
この層に来て二度目の衝撃。思わず歓声が口から飛び出す。
木々の連なりの中にぽっかりと開いた空間。そこに広がる花々が幻想的な感覚を思い起こさせる。
空中に浮かぶ花畑。頭の中でそんな言葉が浮かんだ。
「ご到着ですね、お嬢さん」
腰に手をあて、力を抜くようにふっと笑うリュウヤ。
「ここに……その、花が……」
「えっとな〜、確か真ん中の白い岩の上に……こらこら、話は最後まで聞きなさいな」
リュウヤの注意はもうシリカの耳には届かない。リュウヤが言い切る前にシリカは走り出していた。それを特段咎めるつもりもないリュウヤは苦笑しながらシリカの後を追う。
はやる気持ちが抑えきれず、駆け出したシリカは言われた岩の上をのぞき込む。
「……ない、ないよ。ないよリュウヤさん!」
だが、そこには背の低い糸のような草が生えているだけで、それらしき花はどこにもなかった。
シリカはどうしようもなく叫ぶ。振り向いた先にいたリュウヤの姿がぼやける。じわりと涙が目に滲んでいる。
「んなわけ……おいおい、あるじゃん。よく見てみ」
寄ってきてのぞき込もうとしたリュウヤはその動作を止め、シリカの涙を拭ってやる。
言われてもう一度見ると、そこには神秘的な光景があった。
普通ではありえないスピードで成長する一本の植物。
双葉をつけた芽は徐々に背丈を伸ばしていき、蕾をつける。膨らんだ蕾は薄白く発光し、次第に開いていく。
ほころびながら開く様は美しく、つい見とれてしまう。そして咲いた花はしゃらん、と鈴のような音色を奏で、八枚の白い花弁をつけ神々しさを見せつける。
その様子を少しの間二人は息もせず見守っていた。
これを取っていいのかな、と思ってしまうシリカは隣にいるリュウヤへ確認するような目線を送った。
そのリュウヤは口角を上げ黙ってうなずいた。
壊れ物を扱うかのようにそっと花に触れる。それだけで茎の中程から下が砕け、シリカの手に光をともす花だけが残った。
音もなく、ネームウインドウが開く。
アイテム名ーーー《プネウマの花》
「その花に溜まってる雫を心アイテムにかけてやれば、ピナは生き返る。けど、ここらはモンスターが強いからな。帰ってからにしな」
「はい……、ハイ……!」
ようやく、ピナを生き返らせることができる。そう思うと自然と笑みがこぼれた。
メインウインドウを開き、花をアイテム欄に格納させる。確認を終えた後、それを閉じた。
正直、転移結晶を使いさっさと街に戻りたい。しかし、大変高価である結晶は緊急時のみに使用するべきアイテムだ。我慢して歩いて帰る他ない。
リュウヤと連れだって帰り道を歩く際中、モンスターが出現することはあまりなかった。あったとしても一体で襲いかかってくる程度。
行きよりはるかに早いペースで帰る道のりで、ピナが生き返るという確信を持ったからか、今まで深く考えなかったことに思考が回る。
例えばーーー
「あの、リュウヤさん。聞きたいことがあるんですけど」
「ん〜?なになに?」
「そのリングネックレスって、いったいどんなものなんですか?」
戦闘用の装備では窮屈だと言った彼は、そのネックレスだけは圏内でも身につけていた。
「あぁ……ま、気になるわな。言ってることとやってること違うし」
リュウヤの表情に困惑や驚きといったものは感じ取れない。いつかは訊かれると思っていたのか、それともシリカが分からないだけか。
「ん〜、お気に入りって言っても納得してもらえないよな、たぶん」
実際お気に入りではあるけどな、とリュウヤはニカっと笑う。
「簡単に言えば……そうだな、『首輪』かな?」
「く、首輪?」
「そう、飼い犬とかにつけるアレな」
予想外すぎる答えにシリカはつい聞き返してしまった。
もっとこう、プレゼントされたものとか、そういう類のものだと言われるのかと思っていたのだ。
それこそ先ほどリュウヤ自身が言った「お気に入り」と断言され、一蹴される方が幾分マシだったと思う。
「はっはっは。そんな予想外だったか?」
リュウヤはシリカの反応をおかしそうに笑う。
「そ、そりゃあいきなり首輪なんて言われたら誰だって驚きますよ」
「まあそうだろうな。けど、コレを一言で表すとそうとしか言えないんだよなぁ」
俺の語彙力の問題かもしれんが、と笑いながらリュウヤは続ける。
「コレは、俺が俺であるためのもんだ。俺っつう存在を忘れさせないためにある。存在意義ってやつだよ」
チャリ、と片手で二つのリングが通されたネックレスをリュウヤは宙に浮かせる。
そして手のひらにのせて、リング部分を握った。
「だから『首輪』だ。飼い犬だって、首輪つけてっから飼い犬だって分かるだろ?それと一緒さ」
特に感情を乗せることもなく淡々とシリカの問いに答えたリュウヤは、その目を空へと向けていた。
その姿は、昨日の夜レストランで見た彼の強張った表情と雰囲気を彷彿させるものだった。
シリカはキュッ、と自身の胸を握った。
きっと、もっと違うなにかがある。けど、それがなにかは分からない。
「シリカには、ちょっと早い話だったかな」
空へと向けていた視線はシリカへと変わり、リュウヤはシリカの頭を優しく撫でた。
「ま、そのうち分かるようになるさ」
そう微笑む彼は、どことなく哀愁が漂っているように見え、大人なんだと思わさせられた。
少ししてリュウヤはシリカの頭から自分の手を離した。それを皮切りにもう一つの疑問をぶつけた。
「あと一つ、聞いてもいいですか?」
「ああ、いいけど、どしたの、なんか積極的だな。もしかして惚れた?」
「ち、違います!」
「そんな全力で否定せんでも……」
不意打ちの発言に思わず大きな声で否定してしまい、リュウヤががっくりとこうべを垂れた。
が、それで落ち込んでいくような人間ではない。すぐに上体を起こしてケロっとした顔を見せる。
「あれか、ツンデレってやつか。全く……最近の子はめんどうだねぇ」
「だから違いますってば!」
「ほらほら、そんなに顔赤くしてたら説得力皆無だぞ〜」
「ほ、ほっといてくださいっ」
ふんっ、とそっぽを向くシリカに、リュウヤはかぁわいいねぇ、とケラケラ笑いながらからかう。
「とまぁ、冗談はここまでにして……。なにが聞きたかったの?」
「もういいですっ」
怒ったように言うシリカだが、言わない理由は二つある。
一つは、未だに火照りが引かない顔をリュウヤに見せたくないからだ。怒ったように言うのもカモフラージュ的要素が多分に含まれている。
もう一つは、先の質問より聞くことが憚られたからだ。
聞きたかったのは、ドランクエイプを一撃で屠ったり、この層でも余裕でいられる程強いのに、なぜあんなところにいたのか、ということ。
聞いてしまえば、自分がどう思っていても責めているような質問になりそうなのだ。彼を相手にそんなことはしたくなかった。
とはいえ、一つ目の理由が聞かなかった理由の九割を占めるのだが。
そんなシリカへ、リュウヤは苦笑とともに告げた。
「ま、その疑問についてはすぐに分かるさ」
後書き
う〜ん、前回に引き続きリュウヤのセクハラが続いてるんですけど、
大丈夫でしょうか……、年齢差的に(ちょっとネタバレ?)
ま、捕まったら捕まったですよね!w
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