閃の軌跡 ー辺境の復讐者ー
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第21話~白銀の狼~
前書き
呟きでも書かせて頂いたのですが、リアルでちょっとありまして。資格の取得等にバタバタしていたこともあって、夏季休暇中もなかなか執筆が進まない状況でした。なので、最終的に当初の予定の半分ぐらいの内容で投稿することにしました。これから少しずつ立て直していきたいと思っていますので、これからもどうか鮪を見捨てず、よろしくしてやって下さい。
七耀暦1204年 6月28日 (月)
ノルドで三日目の朝を迎え、平穏に終わるように思われた実習だったが、ある事件が起こった。ケインたちがウォーゼル家で朝餉を食べ終え、雪崩れ込んできたイヴン長老から聞いた話だ。今日の真夜中に帝国軍の監視塔及び、共和国軍の基地が同時攻撃を受けたとのこと。
ゼクス中将曰く、どうやら正面衝突は避けられない状況らしい。彼の許可を得ることに成功し、ガイウスを筆頭にして馬を走らせ、起こった事件の調査を行っていた。
まずは崩壊した監視塔に向かった。共和国の基地から出てくる数台の装甲車を確認し、焦燥感に駆られながらも攻撃に使われたと思しき砲弾の残骸を調べる。結果として分かったのは、砲撃に用いられていたのが帝国軍産の迫撃砲であり、ガイウスの風向きを読む力と、アリサが知る兵器のおおまかなスペックの知識を借り、エマとケインで砲台の位置を割り出すことができた。とはいえ、ケインの補佐などなくともエマ一人で出したようなものだが。
なにはともあれ、位置の通り、監視塔を攻撃した砲台は南のはずれにあった。
「エマ委員長、凄いな」
「ケインさんの補佐のおかげですよ」
「ああ、まあ・・・」
ケインの賞賛に答えるエマの言葉に歯切れの悪い返事をしつつも、クレア大尉であれば独力で演算しそうだなあと益体のないことを考えていた。
しかし、何かを察知したらしいガイウスの声でそれを中断し、ケイン達は空を見上げる。すると、バリアハートの実習でオーロックス砦に不法侵入したとされる白銀の傀儡に乗った少女の姿が。この状況下で行動しているのは、この件に何らかの関わりがあるからだと全員が判断して彼女を追った。
「そこまでd」
「リィン、そこまでだ!ちょっと待って!」
「え?!」
その少女を追い、北西の山の一角に到着する。頂上の奥には先ほどの少女がいた。事件の関係者とあっては看過できず、逃げられる前に拘束しようと動いたリィンに待ったをかけるケイン。肩透かしを食らったリィンが驚くが、ケインはそれを放置して少女に歩み寄った。
「あ、ケインだ!やっほ~!!」
「や、やっほ~」
「ふむ、ケインはこの子を知っているのか?」
「ガイウス落ち着こう。近いから。怖いから。話せば分かるから」
ケインを見るや否や屈託のない笑顔を見せ、彼に元気よく声をかける少女。しかし、彼女と知り合いであるということが露呈したケインへ訝しげな視線が集中している。ガイウスに至っては武力行使に入りそうな勢いだ。
「すまない。まずは彼女の話を聞いてやってくれないか?」
わざとらしく咳払いしたケインは、彼女に自己紹介を促す。ミリアム・オライオン。そう名乗った少女は、目的が今回の事件の犯人であるらしい武装集団を拘束したいと説明する。利害が一致しているため、メンバーの大半が彼女を訝ってはいるが共闘することになった。
「あ、あれは?!」
早速目的地である石切り場に向かおうとした時、エマが驚いたような声で一同の正面を指差す。騎士型の人形兵器が音もなく出現していた。黄金の甲冑に身を包むそれは、その巨体からは考えられないほど驚異的な速度でケインに巨剣を振り下ろしてくる。対する彼も目にも留まらぬ速さで背の鞘から抜いた引き抜いた黒剣で、攻撃の軌道を逸らす。空を切った騎士の剣で地面が軽く抉れた。最も近くにいたエマが短い悲鳴を上げる。
「リィン、君たちはミリアムを連れて一度集落に戻るんだ!」
「いいや一人じゃ危険だ。俺たちにも・・・」
「私も残ろう。だから、ここは任せてくれ」
「ッ!分かった!皆、行くぞ!」
仲間を置いていくことに苦悶の表情を示すリィンだが、襲撃事件を起こしたテロリストの存在だけでもイヴン長老たちやゼクス中将に伝える必要があるため、リィンは残りの一同とミリアムに呼びかけた。
馬が駆ける音を確認した後、右側を一瞥すると、紅き大剣を構えて地を焦がさん勢いで闘志を燃やしているアレスの姿があった。彼がいれば百人、いや千人力だ。それに、敵である騎士の力を考えると一人では手こずるかもしれない。襲撃事件を起こしたテロリスト戦のためにも、ここは迅速に片付ける必要がある。
「突然ですまないが、ここは任せてもらえないだろうか?」
「アレスがそう言うなら。けど、無茶だけはしないでくれ」
「承知した」
アレスが真剣な声音でそう言ったため、何か秘策があるのだろうと考えたケインはアレスに一任した。次の瞬間、ケインの耳元で風切り音が鳴ったかと思うと、眼前の騎士が数十メートル先まで後退していた。
(今、何が・・・アレス?)
後退した騎士とそれに相対するケインの間に立っていたのは翡翠色の雷を纏う、白銀の狼だった。銀狼の雄叫びが大地に木霊し、騎士は大剣で防御体制を取る。今度は辛うじて見えたケインは、アレスが直進して正拳を叩き込んでいたことを知った。騎士は攻撃態勢に入るか入らないかの内に大剣を盾にしていた。剣を振りかぶる暇もないようだ。
「・・・来るがよかろう」
(普通にしゃべるのかよ)
騎士と一定の距離を取った狼男もといアレスは、普段と変わらない口調で挑発までし始める。尋常ではない姿をしているが理性は正常に働いているようだ。ケインは彼が喋ったことに脳内でツッコミを入れつつも、これだけの力を制御できていることに感心していた。
攻撃すらできない木偶の騎士へ目にも留まらぬ速さで東方の武術<<泰斗流>>を基盤とした格闘技を叩き込んでいく迅狼。右拳と左拳の殴打からサマーソルトキックで跳躍。そこから兜へ踵落としを入れ、宙返りして再び距離を取る。その一つ一つの流麗な動きに、ケインは完成度の高い映像を見ているような心地になった。
「コオォォ・・・ハアアッ!!」
狼による渾身の蹴り上げから、雷撃を伴った氣が放たれる。翡翠の閃光が騎士目がけて直進し、瞬く間にその姿を飲み込んで消えた。黄金の騎士と白銀の狼が対峙するという非常に幻想的な光景であったそれは、狼の勝利で呆気なく幕を閉じることとなった。
「美しい・・・フフ、君にとってはいささか満足のいかない結果だったようだが」
「・・・そうですね。まあ、お兄ちゃんはこれぐらいでは負けないでしょうけど」
「なるほど。少々物足りないが、今回はこのぐらいにしておくとしよう」
「はい。次は、必ず・・・!」
(?人の気配が・・・2人か?何もしてこないみたいだけど)
「ケイン、どうかしたのか?」
もとの姿に戻ったアレスを漠然と眺めながら、何者かの殺気を察知したケイン。しかし、それは一瞬のことで気配自体が消えてしまっていた。
「平気だよ・・・お疲れ。ひとまず俺たちもみんなと合流しようぜ」
「ああ、そうするとしよう」
そんな彼の様子を見かねてか、アレスに調子を尋ねられるが、ケインは何でもないように振舞う。様々な人間の思惑が交錯する高原の地で、彼らは再び馬を走らせるのだった。
後書き
鮪が投稿するのを待って下さっていた読者の方々、本当にすみません。書いてて思ってたのですが、アレス君、狼男化+泰斗流の達人=それどこの痩せ狼(ま、まあ彼は獣人化しないはずですし、どちらかと言えば一匹狼っぽいですけど)。とりあえず次回でノルド高原を完結させて、早くラウラを出したいと思っています・・・本音ダダ漏れですねハイ。それでは、See you again!
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