夕鶴
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3部分:第三章
第三章
「しかしこんないい絹他にはないよな」
「織り方も凄いよな」
「だから言っただろ。つうは凄いんだって」
「ああ、全くだ」
「どうしてこんなのが織れるんだか」
「不思議だよ」
誰かが不意にこう言いました。
「どうやったらこんなのができるんだ?」
「あっ、そういえばそうだな」
「そうだろ」
話は自然とよひょうの望まない方向にいきました。彼はそれを前にして嫌な顔になりました。それでもそれがどうしてかは決して言わないのでした。
「なあよひょう」
「これはどうやって織っているんだ?」
怪訝な顔でよひょうに尋ねます。よひょうは彼等に対して顔を曇らせます。それでもこの場は何とか取り繕うことにしたのでした。
「いや、おらは知らないよ」
「知らないのか」
「だから。織り方がいいんだよ」
そういうことにしました。知っていることを言うわけにはいきませんからです。そんなことをすればつうが困る、だからここは彼があえて嘘をついたのです。
「だからだよ」
「それでか」
「ああ、それでだよ。それでな」
話を変えることにしました。
「金があるし酒でも買おう」
「酒か」
「それで楽しもう。なっ」
それで誤魔化すことにしました。これ以上嘘を言うのも心苦しくそれを選択したのです。正直な彼は嘘をついたりすることが苦手だったのです。
「じゃあそういうことでな」
「わかったよ」
「それじゃあな」
皆もそれに乗ることにしました。それでよひょうの奢るお酒を楽しみました。そうしたことが何度かあってもそれでもよひょうは本当のことを決して言いません。けれどその一部始終がつうの耳にも入っていました。つうはそのことで心を痛めていました。それでもよひょうは家ではいつもつうに優しくにこにことしていました。けれどある日のこと。二人で晩御飯を食べていると不意につうが彼に言ってきたのです。
「あの、よひょう」
「どうした、つう」
急に箸を止め俯きだしたつうに対して問い掛けます。
「今まで黙ってきたけれど実は」
「どうしたんだ?」
「私の反物はあれは」
「ああ、いいさ」
けれどよひょうはここでつうが何を言うか察して。彼女が言う前にこう言ったのです。自分から。
「そっから先は言わなくていいさ」
「いいの」
「言って。どうにもならないだろ」
御飯を食べながらこう告げるのでした。
「そうじゃないのか?」
「それはそうだけれど」
「言ったら。駄目だよ」
これまでと変わらない優しい声でした。
「言ったら。ここにいられなくなるだろ」
「よひょう、、あんたひょっとして」
「だからさ。言わないんだよ」
「そうなの」
「言わないでいたらおらと一緒にいられるよね」
「ええ」
よひょうの言葉にこくりと頷きます。
「そうよ」
「だったらずっと言わないでよ。それでおらと一緒にいて」
「一緒に」
「そう、ずっとだよ」
つうを包み込む言葉でした。
「ずっとね」
「わかったわ。ぞれじゃあ」
また頷きます。そのうえでの言葉でした。
「言わないわ。ずっとね」
「そう、ずっと一緒だよ」
笑顔でつうに告げた言葉。この言葉はつうの言葉に残りました。それでずっとずっと。何時までもよひょうとつうは一緒に幸せに暮らしたのでした。そのことだけは言わずにお互いに優しく。そうして暮らしていったのでした。二人一緒に。
夕鶴 完
2008・4・11
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