月下に咲く薔薇
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月下に咲く薔薇 4.
指定された会議室のドアを開ける。
すると、クロウの目に最初に飛び込んできたのは、視界正面を占める明るい窓の横列だった。
「ここは窓有りか」と表現するロックオンの驚きは、如何にもソレスタルビーイングのガンダムマイスターらしい。窓を一切持たないトレミーやバトルキャンプ同様地上部分が氷山の一角というドラゴンズハイヴに慣れてしまうと、投影装置に頼らない空の堪能はある種の贅沢に思えてくる。
バトルキャンプで窓を設えている部屋は極限られていた。基地という性質上、外部からの視線に室内を晒し人員構成やブリーフィングの様子を知られてしまう訳にもいかない。結果として、機密保持を必要とする部屋からは窓という不用心極まりない要素が徹底的に取り除かれた。
その分、メンタル・ケアの観点から施設の一部には意図的に窓を採用している。食堂然り、この第4会議室も後者に分類される場所にあたる。
流石は21世紀警備保障。クラッシャー隊との関係も密なだけあって、クロウ達のまだ知らない部屋についても使用許可を取りつけるのはお手のものらしい。
「随分早くない?」女性社員の谷川が手を止め、突然現れた7人もの助っ人に目を丸くする。「乗り気なのは嬉しいんだけど、まだまだ準備の途中」そう言いながら、中原と共に綴じている最中の資料を1組取り上げ、皆の前でひらひらさせた。
「気にしないで。早めに来たのは、こっちの勝手なんだから」
琉菜が笑って、OL達を手伝おうと彼女達に歩み寄る。
その時、今こそと小さな人影が琉菜を追い抜き谷川達の間近に滑り込んだ。
「2人とも、これを…」見てくれ。クランは、右手のバラをちらつかせながら、クロウ達にしたものと同じ話を切り出そうとする。
しかし、それをミシェルが半ばで遮った。
「見てみろ、クラン。午前担当のパトロール隊が滑走路に出てきたぞ」
「え!? どれどれ!! 誰が出るのだ?」
出鼻を挫かれた悔しさなど一瞬の事、仲間達の機体を見た直後にクランの表情には輝きが宿る。色恋に夢中な年頃の女性とはいえ、そもそも彼女は戦闘種族ゼントラーディだ。実戦用の武装を施した機体を前に、血の滾りというものを呼び起こされたのだろう。
「おおおーっ!!」
窓に張りつくや、それぞれに動く仲間の機体を顔全体で追っている。既に心は、会議室、いやミシェルの隣からも離れ、巨大化した姿で赤いクァドラン・レアを駆り、共に行かんと滑走路へ並び立っているのかもしれない。
ミシェルに贈られた1輪のバラで大騒ぎをするのがクランなら、愛機で飛び立つ瞬間に心奪われ、不敵な笑みと共に戦友を見送るのもまたクランだ。
そして、そんな彼女の気質を心得、機体を乗りこなすように操縦…、いや誘導するミシェルも大したものだとクロウは思う。単なる幼馴染みという関係では説明のつかない理解度と呼吸を2人の間には感じてしまう。
実際、ミシェルは大した器だった。これで高校生というのだから、頼もしくもあり、一方では末恐ろしくもある。
「おーい!!」声を上げながらクランが窓越しに両手を大きく振ると、気づいたファのメタスが明色の右手をすっと挙げた。
通常、パトロール隊は5機で編成される。今回もその例に漏れず、このバトルキャンプの主であるタケル達クラッシャー隊の戦闘機コスモクラッシャーを筆頭に、桂のオーガス、カミーユのZガンダム、ファのメタス、そしてジェットスクランダーを装備したマジンガーZが加わっていた。
今朝は、龍牙島に帰らずバトルキャンプに拠点を移した最初の朝だ。三大国家受けの悪いガンダム顔の機体やゲッターロボ、ダンクーガノヴァは構成から外すのもやむなしといったところか。元々国連の旗を掲げている戦闘機を指揮官機に据え、機体サイズも様々な4機を率いらせているところは、様子見から始めたいスメラギ達指揮官の思考が反映された結果と思われる。
さて。バトルキャンプに移動したZEXISに注視する何者かの動きがあるか否か。早ければ1日2日で、その辺りのところが明らになる。
「慎重だな、スメラギさん達は。こういう気配りの光景に、どれだけの組織が熱視線を送ってるんだか」
「シンフォニーを含めて、だろ?」
語気に力の入るロックオンに、クロウは、肝心なものを足すつもりで言葉を添える。
「そういう事だ」
5機が、各機のスタイルで離陸を始めた。窓外の音量が一気に増し、轟音を残したかと思うと機体は既に空で、その機影が急速に小さくなり始める。
コスモクラッシャーは崖面に作られた離着陸口ではなく、岬の上面に用意された2本の滑走路を使用して飛び立った。聞いたところによると、長官の大塚が既存の離着陸口の拡張に乗り出したとかで、当面は外来機と同じ上面滑走路の使用を余儀なくされるのだという。
拡張が他のZEXIS機の為と考えれば、生まれかけた疑問は臓腑にまですんなり落ちる。それは、何が起きようともZEXISとエルガン代表と共にあろうとする大塚の決意の現れだった。
過去のソレスタルビーイングと黒の騎士団、ヒイロ達コロニーの工作員達の働きを自ら評価し、一度は地球圏の脅威と認定された者達の本格的な拠点を彼の人物は作ろうとしているのだ。勿論、ソレスタルビーイングや黒の騎士団の今後の行動次第で、彼らへの加担と解釈される行為は後々大塚の首を締める事になりかねない。
それでも信じと決めたのだろう。今、ゼロの中で荒れ狂っている嵐の原因が自分の中にあるものと大差はない筈だ、と考え。
クロウ達も信じている。ゼロは、黒の騎士団は、惨禍の痛手から必ずや立ち直って皆の前に現れる。その為に少しだけ背を押してやれたらと思い、谷川達も助っ人もこの会議室に集まっている。
見送りが済んでからロックオンがくるりと向き直り、「お嬢さん方、俺達に手伝える事はあるか?」と助力を申し出た。
谷川と眼鏡をした女性社員の中原は顔を見合わせ、谷川が「うーん、特にないかな」と人差し指を顎に当てながら天井を仰ぐ。「でも…、今のうちに自分の好きな飲み物とか持って来といたら?」
「じゃあ、私とエイジで取ってきてあげる」
不意に琉菜が志願し、しかもその言葉でエイジまでもをさっくりと巻き込んだ。話の流れから察するに、ここに居る者全員の分を用意するつもりでいる事は明らかだ。
「えーっ!? 何で俺まで!?」当然不服を唱え始める仲間に琉菜が無視を決め込んで、「ミシェルとクランは、ここにいて。2人共、何がいい?」と渦中の2人に問いかける。
「なーるほど。上手い手を思いついたな」
意図するところを察したデュオが、壁にもたれ掛かりながら腕組みをしにやりと笑った。もし、琉菜の提案通りに話が進むなら、クランはバラの贈り主を室外まで捜しに行く事ができず、ミシェルの監督下に置かれ続ける事になる。
「ありがとう。じゃあ、俺はコーヒーを。いつものようにブラックで」厚意に感謝し、ミシェルがさっそく琉菜に頼む。尤も、それだけで終わらないのがミハエル・ブランという男なのだが。「ここのコーヒーも悪くはないけど、琉菜、君の気配り程には俺を酔わせてはくれない。もし売り切れていたら、今の君が一番欲しいと思う物を俺にも頼むよ」
「あー、はいはい」歯が浮くような感謝の言葉に、かえって興ざめした琉菜が軽く流す。「じゃあ、納豆しるこ、にしておくわね。これからっていう大事な時に酔っ払いが出ても困るから」
「ありましたっけ、そんな飲み物…」
中原が首を傾げれば、「冗談よ」と速攻で返事が返ってくる。
「ふっふーん。バチが当たったな。ミシェル」
クランが横に長く白い歯列を見せ、さも勝ったと言わんばかりの得意げな顔をする。そして彼女も琉菜に礼を告げると、レモネードを頼んだ後、ミシェルと共に窓寄りの最前列に2人で並んで座った。
「ロックオン達はどうする?」エイジがクロウ達3人に希望を尋ねるので、ロックオンとデュオがコーヒー、クロウは水を頼んだ。
「砂糖水じゃなくて、水なんだな? それって、ただの水の事だよな」
砂糖の有無。その差の部分を強調し、エイジがしつこく確認を求める。
「ああ。日本の水は旨い。ウォーター・サーバーので十分だ」
満面の笑みで、クロウも肯定した。これで、クロウの割り当て分から飲み物の代金が引き落とされる心配はなくなった。どうしてそれを喜ばずにいられよう。
「あー、守銭奴が何かに浸ってる」
巧みに思考を読んだ谷川の揶揄も、今は心地よい。
ZEXIS所属のメンバーは、この多元世界に職を持つ者と持たない者が混在する為、全員が人として生きてゆく上での最低条件を満たす事ができるよう可能な限りの食事を支給し、多少の買い物はできるようにと決済可能なカードを渡されている。全てのメンバーは、割り当てられた額の中で服や備品を揃えたりできるのだが、中にはクロウのようにその割り当て分を後々現金で支給してもらおうと使わずに生活する者もいた。
勿論それはクロウが勝手に現金化の夢を抱いているにすぎず、実際に可能であるかは保証の限りでない。
琉菜とエイジが一旦会議室を出ると、谷川と中原が再び資料綴じを進め、次には2列ある2人がけの机に前から順に向きを整え置いて回った。
中原が、谷川が、ちらりちらりとクランの手元を見る。
切羽詰まった様子で会議室を出ようとしたクランの様子から、2人共あのバラに何か重大な意味があると察してはいるのだろう。手慣れた様子で最前列から資料を置きつつも、不意に顔の向きが変わるので関心事の中にバラが入っているのは傍観者からよくわかる。
とうとう、クロウは2人と目が合った。それはロックオンも同じで、1輪の花にどう触れたらよいものかを視線で尋ねてくる。押し殺した無音の中には、好奇心と困惑がほぼ半々の状態でぎっしりと詰め込まれていた。
クランの勢いを冒頭で削いだその様子から、ミシェルがバラの件には誰一人触れて欲しくないと考えている事は間違いない。その防壁を突破したいクランとは微妙な駆け引きの真っ最中で、窓側の最前列からは美花のオーラの他に静かな火花が垣間見えた。
バラの贈り主を探さんとするクランは今も諦めてはおらず、ミシェルは、彼女が再び立ち上がろうとすれば制止するつもりでいる。張りつめた緊張感は次第に会議室全体へと広がってゆき、その中心には、たった1本の切り花があった。
見かねたデュオが意味もなく会議室の中を歩き始め、谷川、中原の2人とすれ違いざまにぽそりと何がしかを囁いて聞かせる。直後、2人はやや驚き、そして改めてミシェルとクラン、そしてバラの3者を見比べた。
「お前達でもないのだな…」
事情を知った2人を候補から除外し、クランがさもつまらなそうに椅子の背に上体を預ける。
「まだ気にしているのか?」やむを得ないという思い半分、更には呆心半分で、ミシェルが遠回しに「もう忘れろよ」と釘を刺す。
「だって…」
「もしかしたらこのバラは、『これから始める事が上手くゆくように応援しています』くらいの意味しかないかもしれないじゃないか。花に込めるメッセージなんて、恋愛感情ばかりとは限らないだろう? 無言のメッセージを深読みし始めたら、いずれ全く別の可能性に着地するぞ」
「それなら…」椅子から腰を浮かせ、クランがバラをミシェルの眼前に突きつける。「みんなが使う場所にこれを飾るのはどうだ? 折角の美しい花なのだ。きっとカレンやゼロ達の心が和むぞ」
「ん…!」
自分個人に贈られた物が衆目に晒される。それはミシェルにとって、歓迎したくなるアイディアではなかった。「それで構わないぜ」に近い寛容な言葉は出てくる気配がなく、かといって自分がクランの背を押した手前「ダメだ」と拒絶する訳にもゆかない。顔色を失った色男は高速のシミュレーションを繰り返しながら上手い答えを探し、情けない事にとうとう沈黙してしまった。
「おっと、どうした…?」煮え切らないミシェルの態度に閉口し、ロックオンが顔をしかめる。
その空気に危機感を感じたのだろう。咄嗟の機転で決定打を放ったのは、女性寄りに立つ中原の言葉だった。
「あの…、こんなに綺麗なバラ。眺めてあげないとかわいそうです。今日からここに飾って、みんなが集まる度に見てあげる。というのはどうでしょう?」
中原らしい優しい折衷案だ。そういう案が出てきたのなら、とクロウも助け船を出す。
「そうか。さしずめ、このバレンタイン企画のシンボルってところだな」
「はい」
もしバラの扱いに不満があるのなら、贈り主は今度こそ自主的に姿を現すかもしれない。その時は、ミシェルとその女性2人の個人的な問題として謹んで外へと押し出す事ができる。動きが無ければ、何人かで毎日眺めてやるうちにやがては散って応援の役割を終えてくれる。
「私はそれでいいぞ」クランも、中原が出した良案に賛成票を投じた。花の贈り主を意識しているクランとしては、捜索を諦めずに済むというところが良いに違いない。
これでミシェルさえ納得してくれれば、この恋愛沙汰に一応の区切りがつく。さぁ、うんと言え。言ってくれ、とクロウは祈りたくなる気持ちになった。
「まぁ…その辺りが妥協のしどころかもしれないな」未だ2人きりの逢瀬に未練のあるミシェルが、何とかこの案を了承した。「OK。それでいこう。やっぱり君はなかなか聡明だね、中原さん」
「はぁ!? ミシェル!! 琉菜に中原。今朝はどれだけの女を口説いたら気が済むのだ!!」
激高するクランに、「バラを贈られたのは俺なんだぜ」とミシェルが声高に突っかかる。「本来なら俺個人の問題として、何一つ妥協する必要はない筈だろう? こんな騒ぎになった分、一応の譲歩はしたんだ。癒しの一つも欲しくなるさ」
「い…、癒し! 癒しだと!?」
ミシェルの隣で反射的に立ち上がるクランを、「はーい、そこまで」とロックオンが制止する。もしここで仲裁が入らなければ、ミシェルは更に1歩踏み込んだ言葉を幼馴染みに投げつけ火に油を注いでしまったかもしれない。
引き際をよくわきまえたミシェルが、余りやらない失態だった。発した少年もロックオンに割って入られた事で我に返り、曇った表情で口を押さえる。
頃合いも良くちょうどドアが開いて、トレーを持った琉菜とエイジが戻って来た。空気の変化を察した琉菜が「どうしたの?」と問うので、ミシェルが「いや、大した事じゃない。…ありがとう、ロックオン」と強く目を瞑りながら琉菜と隻眼のスナイパーの両方にそっと右手を挙げた。
ミシェルの眼前で眼鏡が光る。口端の下がった表情を隠す縁の無い眼鏡が。
「珍しいな、ミシェルにしては」おどけた口調のデュオが、立ち会っていた者達全員の感想を意図的に伝えた。「折角楽しい企画が始まるんだ。こっちは当てにしてるんだぜ、あんたのいつもの冷静さを。スマイルスマイル! だろ?」
殊更「いつもの」という響きを強調するデュオの言葉選びが上手い。それは、皆がミシェルに伝えたい事を柔らかく、しかし余すところなく含ませていた。
ふぅと息をついたミシェルが微かに呟く。
「何てこった…。そのバラは魔性だな。貴婦人のように男の前に立って、人外の力で有無を言わさず跪かせる力を持ってる」
本人はいたって真面目な畏怖を語っているつもりなのだろうが、途端にあちこちで男女が一斉に吹き出した。
「そりゃ人外でしょ。花なんだから」谷川が笑い飛ばせば、腰に手を当てロックオンも「随分と大袈裟だな」と色男の苦しい言い訳として受け取る。
「そうそう。世はバレンタイン・シーズン真っ盛り。刺激的な贈り物に男として舞い上がっちまう気持ちもわからなくなはいが、折角隣に可憐な花が咲いてるんだ。あんまりよそ見してたら、横からかっさわれちまうぞ」
デュオがクランを立てつつ、未だいつもの彼らしくないミシェルを脅した。
「これは表現を間違えたか」一拍置いて、座ったままのミシェルが少々渋い顔をする。「いや…、言い訳はやめておこう。琉菜。そのコーヒー、暖かいうちに貰っていいかな」
巧みに切り替えるミシェルに、何かやらかしたなという目つきをした琉菜が近づいた。そして、「はい。ブラック、あったわよ」と紙コップ入りのコーヒーをミシェルの前にそっと置く。
「ありがとう」
いつもの冷静な口調に戻ったその様子を見、クロウ達も一様に安堵した。中でも、子供のように顔面を崩壊させながら再び着席するクランの心中は察して余りあるものがある。
「はい。クランにはレモネード。『今日の1割増量対象品』になってたから、ちょっと多めよ」
「ありがとう、琉菜!」
柑橘系の香りを上げる暖かな飲み物で暖を取るクランに、「良かったな」とミシェルが目を細めた。
「で、ロックオンとデュオがコーヒーのミルク・砂糖入り。クロウがただの水、と」
エイジが順に飲み物を渡して回り、「これは、谷川さんと中原さんに」と言ってバナナの香りがするココアを2つ置いた。
「あら、気を遣わせちゃったわね」
谷川が資料を配り終えてからカップを取り上げる。
「ありがとう」
会釈した中原も、一仕事終えてから、湯気の立つ暖かな飲み物で人心地ついた。
クロウは水の入ったコップを取るや、「おっ! 俺の水も増量セールだったか? 沢山入ってるぞ」と皆から見えるように透明なコップを目の高さまで持ち上げる。
「そりゃ水だからな。量くらいなくっちゃ、取りに行った俺が惨めになる」
「ありがとう、エイジ。旨い水だ」
腕を交差してポーズを決め、クロウはエイジに礼を告げた。
「それは、水の味じゃなくて、無料の有り難さだろ?」
「勿論!」
仲間達がどっと笑う。そして、空気はようやく爽快さ取り戻した。
更に間が良く、ここで大山が会議室のドアを開ける。
「もしかしたら私が最後なの?」
既に着席しているミシェルとクラン、飲み物に口をつけなが寛いでいるロックオンやクロウ達を見回し、大山は余りの集まりの良さに驚いて立ち止まった。
「他にやる事がないから来ただけさ。気にしないでくれ」
ロックオンがこちらの事情をそのまま告げ、大山をくすりと笑わせる。
「じゃあ、手を借りていいのね。ここにいるみんなの」
発起人がぐるりを見回し、順にクロウ達の顔つきを確かめる。それぞれの意志と意欲は、それだけで彼女に伝わった。
「わかったわ」そう頷くと、皆に席につくよう大山が手で促す。
「私、大山さんの飲み物を買って来ますね」
中原が会議室の外に行く間、琉菜とエイジはクラン達の後ろの列に座った。最前列とはいえ、ドア寄りを陣取ったのはデュオだ。クロウはロックオンと共にその後ろにつく。
ただ待っているのも暇なので、クロウは既に置かれている資料に目を通そうとする。
しかし、読み始める直前にドアが開いた。
「ただいま戻りました。あの…」何故か、続きを話す事を中原が躊躇う。
「はぁ!?」
更にエイジが中原の背後を指さし、場にそぐわない素っ頓狂な声を上げた。
クロウも、突然現れた気配の乱れに首を傾げる。おそらく、中原の後ろに立っているのは1人や2人ではない。
そのクロウの推理を裏付けるつもりなのか、姿は見えないながらも「はぁ~い」と大人びた艶のある女性の声がした。耳を掠めるハスキー・ボイスは、グランナイツの女性パイロット、ミヅキではないのか。
「どうして俺達を外すんスか?」と抗議する声の主は、間違いなく赤木だ。
「理由があるからに決まってるじゃない…」
デュオの後ろで、谷川が両肘を机に突き両手に顔を埋める。
「なんかこう…、『ビックリハウスへご一同様をご案内~』って流れになってないか?」
表情を強ばらせ会議室の入り口から逃避するデュオへ、モニターを背にした大山はただ張りついた笑顔を返すのみだった。
- 5.に続く -
後書き
(2013年5月18日に脱稿したものを2015年8月6日に加筆修正しpixivにアップ)
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