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《無限の翼》・・・ゲッターロボがインフィニットストラトスの世界で暴れるお話しです。

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序章・・・かなりシリアス展開しちゃいます。
  第1話 ISに拒絶された少女【姫子】

その男はそこにいた。

長身をそのボロボロのコートで覆うようにして、ただ、その巨大な物の上に立っていた...

男は腕を眼前に出すと、自分の硬く渇いた手を握りしめる...そこには、深く刻まれた痛々しいまでの傷痕が無数にあった。

そして、ゆっくりと天を仰いだ。どんよりと垂れ込める重たく厚い雲が、まるで生物のようにのたうっている...時折、雲が光る...稲妻...雲間から濃緑の何かが蠢くのが見える...

それを見つめる男の瞳は、静かに輝いた...





男はいつの間にか姿を消した。

ただ、風の音だけが地表を駈ける…

だが…そこに異変が生じた…

辺りの静寂を破るように、少しずつ、何か金属の擦れるような音が響き始める。そして...

...地震...

大地が振動を始めたかと思うと、巨大なそれは動き始めていた。

そう...まるで...人のように...









----------------






その日、私は織斑先生から呼び出され告げられた。

「橘、お前の退学は認められない。以上だ」

わたしはスカートの端をきつく握った。先生の冷徹なまでに落ち着いた声に心を乱される…前髪を留めている大きな髪留めが揺れるのを感じるほど、頭を振って先生に詰め寄った。

「な、何故ですか。ISを動かせない私がここにいる意味なんてないはずです。お願いです。わたしの退学を認めてください」

織斑先生は、腕を組んだまま黙ってわたしを見つめる。その沈黙は、決定を覆さない表れなのは、分かっていた。でも...

「わたしからもお願いします。姫子さんは、クラスで言われもない中傷を受けています。本来何も問題ないはずなのに、このままでは、あまりに可哀想です。」

クラスメイトで、わたしの姉代わりの早乙女ミユキさんが、わたしに代わってお願いしてくれる。でも、織斑先生の表情は変わらなかった。そして、少し間を置いてから話始めた。

「…いじめ…か。なるほどな…それで橘、お前はこの学園を辞めてどうするつもりだったのだ」

「わ、私は…普通科の学校に編入して…普通の高校生になるつもりです…」

「つまり逃げ出すと、いうことだな」

先生に断定的にそう言われると、私も言葉が続かなかった。私は逃げるという言葉の響きが屈辱的でとても嫌だった。
確かに私が学校を辞めるのは、やり直したかったからに他ならない。でも現状を切り捨てるということで考えれば「逃げる」と言われても仕方がないことだった。私は俯いて、唇を噛んでいた…

織斑先生はそんな私を見ながら…

「橘、早乙女、まあ聞け。本来なら特機事項だから、お前たちに話すことではないのだが…橘の今の置かれた状況を説明してやろう」

先生は、椅子に深く座りなおすと、足を組んで話始めた。

「橘、お前は『世界で唯一ISを動かせない女性』であり、そして『ISを暴走させた経験のある人物』だ。これがどういうことを意味するか分かっているだろう。お前には、政府の重要人物保護プログラムも適応されている。この学園を去ったからと言って、監視がなくなるわけではない。まあ、織斑一夏と同じ境遇だと思えばいい」

ミユキさんが私に代わって話す。

「…つまり、姫子さんはどこにいても、普通の生活は出来ない…と、いうことですか」

織斑先生は目を閉じたままで肯定も否定もしなかった。でも、その姿勢のまま話を続ける。

「この学園にいる間は、監視の目はない。例えISを動かすことが出来ないにしても、早乙女のようにエンジニアを目指して修練を積むのもよかろう。何にしても”普通の”という訳にはいかないかもしれないがな」

つまり、私にはここに残るしか選択肢がないということだった。織斑先生は、やれやれといった顔で私を見る。わたしとミユキさんは深くおじぎをして、その場を去った。





あれは、この学園に入学して間もなくのこと…私は初めてのIS起動試験に興奮していた。今まで何年もこの日を待っていた。
幼い日に目にした第1回IS世界大会(モンド・グロッソ)での織斑千冬の華麗に舞うようなあのISを目の当たりにしてから、私はISに乗ることだけを目標に生活してきた。そして、その夢が漸く叶う…

事前の適正レベルは「B」判定。可もなく不可もないが、間違いなく、ISは意のままに動かすことが出来る…はずだった。

「次っ!橘姫子!起動急げ!」

「はいっ」

目の前には、学園で教習用に使われているIS『打鉄』が自立している。私は、高揚する自分の感情を落ち着かせながら、ISに乗り込んだ。その瞬間…

ISから自分の脳にダイレクトに様々な情報が送り込まれてきた。ISスーツをインターフェースとしているため、情報は整合性を保ちながら、流れ込んでくる。いよいよ挙動開始だ…



ところが…

ビービービー…

突然警告音が流れだし、私の顔の周囲に何重もの空間ディスプレイが現れる…そこにはただ…

『ERROR』

赤く映し出されたその表示を見た私は、どうなっているのか全く状況がつかめない。そして、突然『打鉄』は動き出した…

周囲の生徒は悲鳴を上げ、逃げ惑う。打鉄は狂ったようにその上体を振り回しながら暴れる。そして、打鉄は自らのその鋼鉄の腕を振り上げると、搭乗している私に向かって振り下ろした。

「きゃあああああああああ…」

わたしは体を捩り、その一撃は交わしたが、そのまま体を鷲掴みにされ、機体外に放り出された。私は地面を激しく転がった。そして、気を失う間際…わたしを放り出した打鉄が、静かに動きを止めるところを見た。



これが、わたしとISの最初で最後の邂逅だった。

その後、様々な検査を経て、何度かISの起動検査も行ったが、先日とは異なりインターフェースを通しての接触もまったくできず、ISが私に語り掛けることは一切なかった。
暴走事故を起こした機体は『プログラムミス』による事故として処理され、そして私は表向きに『IS操縦恐怖症』の病名をもらい、IS起動訓練に関しては全て休むこととなった。

その後の私が、クラスメイト達からどのような扱いを受けて来たのかは、言うまでもないと思う…





織斑先生と話した私たちは、自室に戻った。私は力が抜けてしまい、ベッドに倒れこんでいた。

「やっぱり駄目だったね…」

ミユキさんがそう話しかけた。

「分かってたことだけど…やっぱり、辛いな…ISに乗れないのに、ISのそばにいるなんて…」

「姫子はずっと乗りたがってたものね…その為にあんなに努力してきたのに…」

ミユキさんにそう言われて、私は急に悲しくなってしまった。泣くつもりはなかった。でも…頬を熱い滴が流れるのを自分でも感じた。

ミユキさんは、苗字は違うけど、わたしとは家族だ。ミユキさんの両親が亡くなって、3年前にうちの両親が後見人となった。それから私たちは同い年ということもあり、姉妹のように暮らしてきた。ミユキさんはとても大人っぽくて私にとっては良いお姉さんだった。だから、私がどんなにISに恋焦がれてきたか、良く分かってくれている。そして、今の絶望も…

急にミユキさんが明るい声で語りだす。

「こんな時は、ぱあーっと、楽しいことでもしようよ。ねえ、そうだ、遊びに行こう!今から」

「…私たちだけで…?」

ミユキさんはちょっと不機嫌そうな顔をして言った。

「わたしだけじゃ不満なの?じゃあ、誰が一緒ならいいの?」

わたしの頭に浮かんだのは一人だけ…でも、その人は決して私とは一緒に来てくれないだろう。その人の周りには素敵な女性がたくさんいるから…
そんな事を考えていたら、ミユキさんがニヤニヤしながら顔を近づけて来た。

「おやおや…随分赤い顔してますねぇ…ひょっとして、あの人の事でも考えてたのかな~?」

「やめてよ!そんなんじゃ…ないし…」

わたしは枕に顔を押し付けて顔を隠した。ミユキさんがため息をついたように感じた。





トントン





部屋の扉をノックする音が聞こえた。

「はーい」

ミユキさんが返事をすると、戸の外側から、

「橘さんいる?千冬ねえ…織斑先生から聞いてきたんだけど…」

と声が…

わたしは、ガバっとベッドから起き上がると、そのまま正座した。その様子をミユキさんがニヤニヤ横目で見てる。むうぅ、何、その目は…多分今の私の顔チョー真っ赤だ…
ミユキさんは扉を開けた。

「いらっしゃい、織斑君。姫子ならそこにいるよ」

部屋の入り口に織斑一夏君が立っている。何か照れた感じで、頭を掻きながら入ってきた。

「急にわりぃ、なんか橘が俺と同じような状況になって辛くなってるって聞いたから、ちょっと話そうと思ってきたんだ…急に来て悪かったな…」

「しょしょしょ…しょんなことないよ。す、すごく嬉しいよ…」

「お、おぉ…そうか…」

うわあ、恥ずかしい…わたしチョー噛みまくってるし…でも本当に嬉しい。わたしなんかの為にわざわざ来てくれるなんて…ミユキさん…もうそのニヤニヤやめて…もうこっち見ないで…

「それでな…橘…お前今、凄く辛いだろう…」

さっきまではすごく辛かったような気がするけど、今は全く、全然だよ…

「実は、俺も、このIS学園に入学したころはすごく辛かったんだ。周りは女の子ばかりだし、仲の良かった男友達とも連絡取れなくなったし、ISについてはズブの素人で全く分からなかったし…でもな、気が付いたら楽しくなってた。なんでだと思う?」

織斑君にそう聞かれて、でも私には分からなかった。織斑君を見たまま、首をぶんぶん横に振ると、織斑君は、

「出来ないと思ってたことがどんどん出来るようになってきて、そうしたら、友達にも認めてもらえる様になって、気が付いたら、頑張ることが楽しくなったんだ」

織斑君は本当に楽しそうに私に語り掛けてくれた。でも…

「…でも、私は…ISに乗れないから…頑張ろうにも、頑張れないから…」

織斑君は少し沈んだ顔をして、

「それ…聞いたよ…ゴメンな嫌なこと思い出させちゃって。でも、ISに乗るだけが大事じゃないって思うんだ。ほら、俺なんかISの中身なんてまだ全然だし、そんな俺の為にISの指導してくれるとか…あとは、そう、ISのメンテナンスとか…俺みたいなやつの為に、頑張ってもらえたら、嬉しいかな…って…」




オリムラクンノタメニガンバル…ウレシイウレシイウレシィ…




ボンっ!!

ぷきゅう~あれあれ…急に顔が熱くなって…ふらふらにぃぃぃ…


「お、おい…橘っ…だいじょうぶか…」

「ふふふ、織斑君大丈夫よ。姫子ちょっと疲れただけだから。それより、これから気分転換に姫子と街に遊びに行こうとしてたんだけど、一緒に行ってくれない?」

「おお!良いぞ!俺もちょっと出かけたかったんだ。3人で行こう」

「ほら、姫子、早く支度して」

そんな会話を遠くで聞きながらも、私はふわふわした気分で夢心地だった。




「おまたせ…」

モノレールを降りて、私は先に来ていた織斑君とミユキさんと合流した。二人は制服のままだったけど、私は…

「わあ、姫子可愛いよ。そのフレアスカート良く似合ってる」

ミユキさんが褒めてくれた。わたしは白のブラウスにフレアスカートをあわせて、さらに今日は頑張ってハイヒール。織斑君を見ると、ちょっと顔を赤らめて、私を見てくれてる。に、似合ってるのかな…何か言って欲しい…

あ、ハイヒールのおかげで織斑君の顔が近いや…この身長なら、キ…………………ななな…何を考えてるの、わたしは…

「じゃ、じゃあ、行こう」

わたしが声をかけて歩き出そうとすると、一歩。二歩と足を出すところで、よろめいてしまった。

「きゃあ」

「…っと、大丈夫?」

咄嗟に織斑君が抱きとめてくれた。うわ…う…わわわわわ…

「慣れてないなら、無理するなよ。ゆっくりでいいからな」

「う、うん。ありがとう」

織斑君は私の手を引いてくれた。

ああ…本当に嬉しい。織斑君とデート出来るなんて…ちらっとミユキさんのニヤニヤが見えたけど、今は無視。

「じゃあ、どこに行こうか…」

織斑君がそう言いかけた時…






ウーーーー ウーーーー ウーーーーー




「な、なんだ」

織斑君が焦った声を出す。

突然けたたましいサイレンが鳴り響いた。周りにいた人たちも何事かと不安気な顔をしている…そして、町中のスピーカーから一斉に放送が流れた。

『…非常事態警報発令…非常事態警報発令…住民の皆さんは直ちにシェルターに避難してください…繰り返します…』

非常事態…何が起きているのか…

織斑君を見ると、白式のコアネットワークを使って、何か話している。ミユキさんは近くの靴店に並んでいたスニーカーを一足手に持って、私のところに来た。

「姫子、すぐに履き替えて」

わたしは黙ったまま頷くと、ハイヒールを脱ぎ捨ててスニーカーを履いた。

織斑君が私たちのところに走ってきた。

「今、専用機持ちに特別待機命令が出た。多分、この近くで何かの事態が発生したんだ。もう、ここから3人では学園に戻れないし、とにかく近くのシェルターを目指そう」

織斑君は、私の手を引いて走り出した。ミユキさんも、不安そうな顔で、私たちの後に続く。

街の中は混乱が渦巻いていた。けたたましく鳴り響くサイレンに、人々は右に左に走って行く。さながら、パニック状態だった。

その時…


私たちの上を大きな影が横ぎった。見上げると、上空のビルの間に、大きな円盤のようなものが浮かんでいる…でも、それは異様な姿をしていた。円盤と思しき物体から、巨大な亀の首のようなものが生えていて、しかも生きているかのように蠢いている。

「あ、あれは…なに?」

わたしが声を上げてミユキさんを振り返ると、ミユキさんは真っ青な顔をしてへたり込んでしまっていた。

上空のそれは、突然、下部に穴が開き、そこから、何か人のような形のものが次々と飛び出してきた。

「来い!白式!」

織斑君の掛け声に呼応して、純白の鎧が彼を包んだ。


【挿絵表示】


「橘、早乙女を連れて、早くシェルターに入るんだ」

「分かった」

わたしはミユキさんの腕を掴むと思い切り引っ張った。でも、ミユキさんは腰が抜けてしまっているのか、なかなか動いてくれない。

「どうしたの…ミユキ…しっかりして…」

わたしが声をかけると…

「…終わりよ…」

「えっ?」

「もう…終わりなのよ…なにもかも…」

ミユキは、顔をくしゃくしゃにして泣きながら叫んだ。いつもの冷静なミユキじゃない。

「危ない!」

急に織斑君の声が聞こえた。彼は私とミユキの前に立った…見ると、彼の剣が何かに突き立っている。

何か…

「グ、グエェェ」

その何かは白式の剣に体を裂かれて倒れこんだ。

「きゃ…」

わたしは思わず叫んだ。それは異様な光景だった。人ほどの大きさはあるのだろう、緑色のそれは、まるでカメレオンのような顔をしている。そして、両腕は、まるでハサミのように鋭くとがった爪が何本も並んでいた。それにもまして奇怪なのは、それが身に着けているもの。鉄の鎧とでも言えばいいのか…様々な機械がまるで体に埋め込まれているようだった。

…これは…なに…

その疑問の答えを探す暇はなかった。織斑君の白式は、私たちの周りに群がるその何かに向かって、次々と攻撃を加えて行った。

「ミユキ…早く!」

わたしは力を込めてミユキに声をかけ、彼女の手を引いて、近くのビルを目指す…しかし…

「…姫子ぉ!危ない!」

わたしは突然の衝撃に、胸から地面に転倒した。後ろから誰かに突き飛ばされたのだ。そして、ミユキの悲鳴を聞いた。

「み、ミユキ…」

振り返ると、背中から鮮血を吹き出して倒れるミユキが見えた。その後ろにはあの化け物がいる。

「ミユキ、ミユキ…」

わたしは夢中で、ミユキに這いより彼女に覆いかぶさった。どのくらいの時間だったのだろう…わたしはもう死ぬのだなと心の中で感じていた。不思議とあまり怖くはなかった。ミユキがすぐそばにいたから…でも、できることなら、きちんと恋愛したかったな…私は、ミユキを抱き続けた…




「ぐわああああああああああっ」

突然の織斑君の悲鳴で私は我に返った。ふと、振り向くと、私たちの後ろにいたはずのあの化け物はいなくなっている。…どうして…

「ぐはああああっ」

また彼の悲鳴だ。

わたしは目の前の光景に愕然となった。



巨大な一本角の怪獣が、片手で織斑君を白式ごと握りしめている。絶対防御が備わっているはずのISなのに、その装甲はまるで紙細工のように潰されてしまっている。


「織斑くん!織斑くん!…」


わたしは、叫んだ、叫ぶことしかできなかった。





誰か…誰か…助けて…





それは、一瞬の出来事だった。

ビルよりも巨大な斧が、空中から突然飛来した。そしてその怪獣を真っ二つに引裂いて地面に突き刺さる。凄まじい衝撃波が私たちに襲い掛かり、私とミユキは、近くの茂みまで吹き飛ばされた。
そして、巨大な…本当に巨大な影が、ビルに手を掛けて斧に近づくと、それを引き抜き、今度は上空の亀のような物体に向かって飛び上がると、一瞬でそれを粉々に切断した。

あたりには、空中から様々なものが降り注ぐ。そして破壊された街のあちらこちらから火の手が上がる…

その燃え盛る炎の向こうに、あの、赤いロボットが立っていた。

「…う、うぅ…」

ミユキの意識が少し戻る。

「ミユキ!ミユキ!しっかりして」

わたしがそう声をかけると、彼女はあの炎の中の赤いロボットを見つめて、

「…ゲッター…ロボ…………り、リョウ…く…ん」

それだけ呟いて、また意識を失った…



わたしはミユキを抱きしめた。炎の中の『ゲッターロボ』を見つめながら…






 
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