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NARUTO 桃風伝小話集

作者:人魚
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その8

 
前書き
本編里の異変だってばよ4直後の話です。 

 
サスケ君は、おにぎりを食べ終わった後、安心したように眠ってしまった。
泣き出しそうなあどけない表情の寝顔に胸が突かれる。

私がここに来るまでほぼ一日。
収容された病院を抜け出して戻ってきた、この惨劇の場で、サスケ君は一体何を思っていたんだろう。
もしかしたら、眠る事もできなかったんじゃないだろうか。

そう思った私は、サスケ君が風邪をひかないように、サスケ君の部屋から毛布を取って来て、サスケ君にかけてあげる。

何度もここに遊びに来た。
だから、この家の中の造りと、ここにある物が誰の持ち物なのかなんとなく分かる。
なぜかそれがとても悲しい。

しばらくサスケ君の寝顔を見つめていた私は、ふとしなくてはならない事を思い出して、私は持ってきた荷物の中から一つの巻物を取り出した。
何かあったら、この巻物を使えって、私は自来也さんに渡されていた。
使い方は簡単。
巻物を開いて、血を付ければ良いらしい。

今がその時です。
もう遅いかもだけど。
それでも、ミコトさん達の遺体に何かしたら許さない。

どの位噛み切れば良いのか分からず、かなり深く親指を噛み切ってしまった。
ジンジンとした痛みはすぐに麻痺して消えて行く。
血が止まってしまわない内に、私は巻物を広げて血をなすりつけた。

「口寄せの術!」

上手く行くかどうかわからないですけど、お願いしたい事があるんです。
初めて使った簡易口寄せの巻物になすりつけた血液は、目的の人を呼び出して煙と共に消え去った。
結構、面白いです。
どういう原理でこうなっているんでしょうか。
消えてしまった巻物の血について、疑問と興味をそそられた私の耳に、訝しげな声が届いた。

「何じゃこの匂いは…?」
「こんにちは。自来也さん」

初めて使った口寄せは、上手く使う事が出来たらしい。
ちゃんと呼び出す事が出来た。
少しだけ誇らしい気持ちになる。

「ナルト。これはどういう事かのォ」

自来也さんが剣呑な眼差しで私に問う。
その視線に私の感情は逆撫でされた。
いつもなら諦めて否定してあげれるのに。

これを、私がやったと思ったんだね?

自来也さんの持ったその疑いに、我慢しきれない激烈な怒りが込み上げる。
九喇嘛が私の中で咆哮をあげ、私は眦を吊り上げた。

「私がコレをしたとでも?根を統括している誰かさんじゃあるまいし、無い物ねだりで浅ましい真似なんかしないですよ。そんな事するくらいなら、こんな所全部血の海に沈めてとっとと潰して終わりにしてやってる!!」

まだ私の中にはサスケ君にぶちまけた激情が燻ぶっている。
それを叩き付けるように、それでもどうにか押さえつけた感情的な声を自来也さんに吐き捨てた。
可能性だけど。
不確定な物だけど。
証拠がどこにも無くって、もう遅いかもしれないけど。
私が知ってる通りに手を出していたのならば、許さない。
許せない。
ユルサナイ!!

暴れる九喇嘛の声に合わせて、私の目も熱くなる。
お腹が痛くて千切れそう。
だけど、千切れるなら千切れればいい。
私は怒ってるんだ!
こんな所、潰してやったって、私は全然構わない!!

だけど、ヒナタとイルカ先生と、泣き疲れて私の後ろで眠っているサスケ君の存在が、鎖を引きちぎって暴れだしたい私の気持ちを押しとどめる。
理性を無くしてしまって、大事な人まで殺したくない。
激昂しかけた私は、僅かに冷静さを取り戻す。
そこへ、鋭く冷たい殺意が滲む声をかけられた。

「何があった。ワシに話せ」

冷静さをなくしかけていた私は、その声にはっとなった。
そう。
私は怒りに捕らわれているべきじゃない。
私はこの人に頼みたい事があるんだから。

「何があったのか、詳しい事は私にも分かりません。でも。里とうちはの間に諍いがあって、根のダンゾウさんがうちはの血族が持つ力を手に入れたくて仕方無さそうにしてたのは知ってます。こんな下らない人間共がいる里にしがみついて」

だけど、苛つき、ささくれ立つ心は全然落ち着かず、私の声と言葉を刺々しい物に変えてしまう。
それに、不確定な物だけど、私の記憶が囁く高確率な推測に憎悪と憎しみが溢れ出す。

「確証のある話じゃないです。こんなに誰彼構わず殺したいって思うのは初めて何です。だからお願いがあるんです」

ひたり、と自来也さんの瞳を見据えて、頼み込む。

「もう遅いかもしれないけど。うちはの人達の遺体を根から取り返すのを手伝って下さい。遺体だけじゃない。うちはに伝わる秘術や巻物なんかもだ!!絶対に横取りしてやがるにきまってるんだ!あいつは性根の腐った浅ましいこの里なんかを守ろうなんて考えてる屑なんだ!イタチさんを追い詰めた奴の一人なんだ!!そんなの絶対許さない!!絶対絶対殺してやる!!あれはサスケの物だ!サスケとイタチさんのものだ!木の葉の里の物なんかじゃないんだ!うちは以外が手にしていい物じゃない!!!!」

頼んでいたはずなのに、私は結局また怒鳴り散らし始めていた。
煮えたぎるような殺意が止まらない。
お腹が熱くて、全身が熱い。

「落ち着け、ナルト!何が何だかワシには分からん!ワシにも分かるように話せ!」
「鈍いよ!だから惚れた女一人振り向かせられなくて、誰一人自分の側に引き止められないんだ!!」

私に詰まった悪意が自来也さんの声に反応して弾け飛ぶ。
口から飛び出てしまった言葉と、サスケ君がむずかる声が聞こえてきてそちらを振り返った私は、頭に登った血が少し下がってきた。

怒りが収まると、冷静さが戻って来て、落ち着いて判断出来るようになった。
だけど、冷えた頭は私に堪えきれない悲しみを突き付ける。
我慢する間もなく私はぼろぼろと泣き出した。

「な!?なんじゃ!!何があった。何故お前はそんなに荒れてるんじゃ」
「じ、自来也さん」

私も自分がとっても情緒不安定なのは分かってる。
だけど、どうしても今じゃなきゃ駄目なんだ。
早めに手を打たなきゃ駄目なんだ。
だって、相手は手段を選んでない相手何だから。

「サスケを助けて。サスケの大事な物護るの手伝って。木の葉の里から」

何とか一番言いたい事を伝えると、自来也さんの気配が変わった。

「里は、どうして私の大事な物ばっかり奪って壊すの?どうして誰かを犠牲にしなくちゃ気が済まないの?そんなもの、壊してやる!!絶対絶対壊してやるんだから!絶対無駄死にさせて、意味なくしてやるんだからぁあああ!!!!」

泣き喚く私に困惑しながら、自来也さんは私を抱き寄せ、宥め始めてきた。

「落ち着け、分かった。お前の気持ちは分かった。里がこれをしたんだな?」

それはそうであると言えるし、そうじゃないとも言える。
だから、何もする事が出来ずもどかしい。
必死に、私は自分の気持ちを自来也さんに伝える為に首を振った。

「わ、分かんない。証拠、無いの。でも、証拠ないだけなの。根拠はあるの。だけど、証拠も裏付けも、根拠を裏付ける何かを探る事も出来ないの。だけど私は知ってるの!イタチさんを追い詰めた内の一人は絶対木の葉の里の根のダンゾウだと暁のうちはマダラを名乗る奴だ!!あいつはお父さん達の仇だし、この里の敵なんだ!私がこんな目に合うことになったきっかけ作った奴なんだ!絶対許してなんかやらないんだから!ダンゾウも絶対許してなんかやらないんだから!一番大事な物を私もいつか奪ってやる!!許さない!許さない!許さない!許さない!!!!」

だけどすぐに私の訴えは激情に流されて呪詛に変わる。

「取り敢えず、これはお前のした事ではないのじゃな?」

自来也さんに抱きかかえられて問われた私はしゃくり上げながら頷いた。

「ここはどこかのォ?」

自来也さんの声が優しい物に代わる。
なんとなく、ヒルゼンさんを思い出した私は、大人しくその問いに答えた。

「サスケの家」
「サスケ?サスケ…。うちはなのか?」

尋ねられた私は自来也さんに頷いて、もう一つ打ち明けた。

「ミコトさんのお家」
「ミコト……。そうか。フガクの息子か。そうか。仲良くしておるのか?」

問いかけられた私は素直に頷く。
私にとって、サスケ君は友達だし、ミコトさん達は大切な人だった。
過去形にしなくちゃいけない事がまた悲しくなっていく。

「この血は、誰の物だ?まさか…」
「ミコトさんとフガクさん。やらされたのはイタチさん。やらせたのはこの里か、暁か、うちはマダラを名乗って、私が生まれた時に九尾を引きずり出してこの里を襲わせた人。でもそれもきっとこの里のせいだよ。里のやり方が間違ってるから何度もこうなるんだ!間違ってなかったらこんな事おきないもん!同じ事繰り返し続けるなんて馬鹿なの?なんでそんな奴が生きてるの?邪魔だよ!馬鹿はいらない!だってまた馬鹿は馬鹿な事して私から大切な物壊して奪うんだから!こんな所嫌い!嫌い!嫌い!嫌い!だいっ嫌い!ミコトさんを返して!!ミコトさん達返して!返してよ」

私は自来也さんの胸の中で感情的に泣き喚き、何かに憤り、罵りながら、いつの間にか眠りに着いていた。
 
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