剣の丘に花は咲く
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第十五章 忘却の夢迷宮
エピローグ 近くで遠い世界にて……
前書き
これでやっと十五章終了。
「これは……まいったわね…………」
溶鉱炉の前にいるかのような強烈な熱風に煽られる髪を押さえながら、凛は空の彼方に向けていた目を細めた。
先程見たばかりの光景を思い出し……。
空の彼方、巨大な炎の塊―――太陽といっても差支えがないほどの巨大な熱量の塊が突如現れ―――消えた。
それは、幻想的なまでの光景であった。
全てを飲み込み燃やし尽くす炎が地上へと迫る。
誰しもがただ空の太陽を前に、逃げる事さえ頭に浮かばずただ立ち尽くし見上げるだけ。
それが、太陽の眼前に突如新たな光が生まれたかと思った次の瞬間、強風に薙ぎ払われたかのように巨大な太陽が掻き消えてしまったのだ。
己の理解を超える現実が連続して発生したためか、地上の数万の兵たちは助かったと言うにもかかわらず、歓声を上げるでもなく誰もが呆けるようにただ空を見上げていた。
ただ、目から涙を流しながら。
誰もが理解はしていなかった。
一体何が起きたのか。
あの太陽は何だったのか。
太陽をかき消した光は何だったのか。
何もかもわからなかった。
だが、一つだけ、理性ではなく本能が気付いた。
自分たちは助かったのだ、と。
そして、太陽の眼前に現れた光が自分たちを救ってくれたのだと。
最初は、小さな囁き声のようなものであった。
しかしそれも僅かな時間。
それが次第に大きく、巨大に、大地をも揺らす大歓声に変わっていく。
誰もが興奮していた。
誰もが感動していた。
誰もが内からくる震えに耐えられなかった。
数万の軍勢。
ロマリアもガリアも関係なく、ただただ先程の光景に対する感情の昂ぶりを共感させ吠えるように声を上げている。
両手を振り上げ、身体を大きく逸らし声を上げる。
世界が揺れていた。
「士郎―――よね。でも、どうやって……一体何をしたっていうのよ」
自分の声さえ聞こえない程の大歓声の中、自問自答していた凛は顔を顰めながら空を見上げていた。
「……いや、考えられるのは一つしかないか」
誰しもが興奮と喜びの声を上げる中、ただ一人悲しげな顔をした凛は、空の向こう。数万の兵士を救ったであろう男の姿を想う。
「―――最後まで、信じさせてよね…………ばか士郎」
―――男が、顔を上げた。
乾いた、世界であった。
薄暗い空の下、乾いた大地に、乾いた風が吹いている。
そこに、男がいた。
墓標のように細長い何かが突き刺さった丘の上に一人立つ男は、何処か遠くを見るかのように細めていた目を閉じると、傍に控えていた女に言葉を掛けた。
男から何かを伝えられた女は、逡巡するかのように顔を俯かせる。しかし、男が何処からともなく取り出した一本の剣を差し出されるのを見ると、諦めたように小さく息を吐き、男に向き直り深々と頭を下げ差し出された剣を受け取った。
左手に剣を、右手に一本の旗を持った女は男に背中を向けるとゆっくりと歩き出し男のいる丘から去っていく。
去っていく女の背を見送ることなく、男は暗い空を見上げていた。
空には分厚い雲がいくつも漂っている。
時折覗く雲の隙間から見える光は黄昏に染まっていた。
その時、赤く染まった光が丘の上に一人残った男を照らし出した。
ふと、何か男の心を揺さぶる何かが心を過ぎったのか、男の口元にうっすらとした笑みが浮かんだ。
男は浮かんだ笑みを苦笑の形に変えると、改めて眼前の光景に向き直った。
そこは、荒野だった。
何も生まず、育たない荒れ果てた荒野。
それが、遥か彼方、荒野と空が重なるまで続いている。
まるで無限に広がっているかのような光景。
木々どころか草の一本すら生えていない荒野にしかし、無数に見える何かがあった。
それは墓標のように大地に突き刺さっていた。
目に見える荒野の全てに突き刺さったソレは、この無限に広がっているかのような荒野と同じく無限にあるかのように思われた。
ソレは、剣であった。
様々な形。
様々な時代。
様々な世界に存在する無数の剣が荒野に突き刺さっている。
誰もが驚嘆し、驚愕し、畏怖するかのような光景。
しかし、男の目にはそんな光景は映っていない。
男が見つめる先にあるのは唯一つ、巨大な樹であった。
否―――樹に見える何かであった。
白い、樹のような何かであった。
そして、巨大であった。
首が折れそうなほど見上げたとしても、その樹の頂上を見ることは出来ない程の大きさであった。
太さもまた、同様である。
数十階の高層ビルを遥かに超える高さと太さ。
もはやそれは樹というよりも山のようであった。
男はそれをじっと見つめていた。
不意に、男が顔を顰めた。
男の視界の先にある巨大な樹の表面から、小さな何かがこぼれ落ちていた。
巨大な樹から見れば余りにも小さなそれは、剣であった。
しかしその剣は、大の大人でも持ち上げるのが困難な程の巨大な剣でもあった。
それが、樹からボロボロと落ちていく。
樹に剣が突き刺さっていた?
違う。
そうではない。
樹が剣であったのだ。
正確には、樹は剣で出来ていた。
山の如く巨大な樹の正体は、無数の、それこそ億をも超える数の剣が集まって出来たものであった。
男は崩れていく樹に向け手を伸ばす。
すると、樹が小さく光り剣が落ちていくのが止まった。
男は小さく息を吐くと、瞼を閉じ笑みを浮かべた。
それは先程浮かべた笑みと同様のものであった。
「……三千年、か……随分と待たせてくれたものだな――――――衛宮……士郎」
後書き
この二人、次に登場するのは何時になるでしょうか?
答え―――わたくしにも分かりませんT(;_;)T
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