領主様に下された天罰
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1部分:第一章
第一章
領主様に下された天罰
古い古い、私達のお爺さんやお婆さんが小さい頃に長老から聞かされた、それよりもまだずっと古い時代のドイツのお話です。
ドイツのある街にオットーというお殿様がおられました。お殿様はとても広いお屋敷と土地に大勢の召使い、それに兵隊さん達を持っているとても力のある人でした。皇帝陛下の側近でもあり国で逆らえる人はまずいませんでした。
そのせいでとても我儘でした。どれだけ我儘かというと何かというと御大層に物々しく大勢の人を着飾らせて外出して御飯もいつも食べきれない程の御馳走ばかりで広いお屋敷の他に別荘を幾つも持っていてそういったものを全て好き勝手に使っていたのです。服だってわざわざ注文して絹で作らせて少しでも気に入らないと怒鳴ってしまうのです。
「この役立たずが!」
これが領主様の決まり言葉でした。
「わしが何か言えば御主なぞこれだぞ」
こう言って首を切る動作をしてみせます。御飯だって美味しくないとすぐにテーブルを蹴飛ばしますし起きる時間も寝る時間も何処かへ到着する時間も全部お殿様の思い通りです。教会に行く時間もそうです。
本来は教会の行事には皆決まった時間に集まって決まった時間に行うのです。ところがお殿様の我儘でいつもお殿様が来てからやることになっています。
「わしが来るまで待っておれ」
これもまた我儘です。皆何があっても教会で待っていなければならないのです。暑くても寒くても。皆お殿様の我儘にはうんざりですがとても偉い人なのでどうすることもできませんでした。
「困ったことだ」
「本当に」
教会の神父様も領地の人達も頭を抱えていますが誰も何も言えません。言っても聞かないし言えばそれこそ何をされるかわかりません。だから言えないのです。
そんな我儘が続いたある日のこと。教会での行事で皆が集まっているのですが肝心のお殿様が来ないのです。皆それでいらいらするわ困るわで大変なことになっていました。
「困ったな、これから畑仕事の続きがあるのに」
「隣村に行った子供を迎えに行かないと」
皆それぞれ用事があるのです。しかしそれでもお殿様は来ません。たまりかねた神父様はここで遂に決心しました。行事を行うことにしたのです。
「はじめましょう」
「えっ、神父様」
「いいのですか?」
皆驚いて神父様に尋ねます。
「若しお殿様が来られたら」
「その時はどうなるか」
「来られない場合もあるからな」
今回もそうではないのかとも考えていたのです。とにかく我儘で気紛れなのですっぽかして遊ぶこともあったのです。本当に困った人だったのです。
「だから。やはりここは」
「では。はじめよう」
「左様ですか」
「ですが若し来られた時は」
「その時は私が引き受ける」
神父は言うのだった。
「責任を持つから。はじめよう」
「ですが若し来られたら」
「その時は」
「その方等は心配しなくていい」
若しお殿様が来られたその時はどうなるか、脅える村人達に対して彼等の心を安心させる為にとても優しく穏やかに話をしています。
「神にお仕えする私がいるからな」
「ですか」
「でしたら」
「うむ。それにもう我儘には付き合っておられん」
紛れもない本音でした。白く長い髭が目立つその顔を困ったものにさせての言葉です。
「お殿様のな。いい加減な」
「ですが逆らったら」
「これですし」
村人の中の一人が首を切る動作をします。お殿様が何かあると言うから皆わかっているのです。
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