serial experiments S. A. C
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イドの昇華 -Sablimatin of Id- Collective unconscious
この手の広がる所は
存在は記憶される。
家族や友人、通りすがりの通行人に。
存在は記録される。
写真や動画、情報端末機器に。
存在は改竄される。
ほんの少しの知識と技術があれば。
存在は遍在する。
それぞれの個人の中に。
それならば肉体が無い私はレインではないの?
ううん、それは違う。
誰しもが様々な仮面を着けているようにレインはlainを、私を意味している。
私はレイン。
私はlain。
私は、岩倉玲音。
「こんにちは。lain」
「こんにちは。あなたは……草薙素子さん、だったよね?」
「そうよ。あなたに少しお願いしたいことがあるの、いいかしら?」
「お願い?それって……ワイヤードを荒らすひどい人達にやったことをやめろってこと?」
「……そうよ。どうかしら?」
草薙素子さんは公安9課の人なんだけど、今はワイヤードにいた人達が死んでいく件の解決をしようとしている。
でも私は、彼らを許すことは出来ない。絶対に。
だから----存在を消した。
「ねえ、草薙素子さん。もしも許せない人達がいるとして、自分はその許せない人達を懲らしめる事が出来るとしたら、あなたはどうする?」
「……そうね。私も法や規則を全て守ってるわけではない。あなたが知っているように公安9課は真っ当な組織ではないし、それを変える必要もない」
そうだね。
公安9課はルールに縛られない活動が出来るというメリットの為に設立された。
それをいかしてこの間だって、自分の部下が傷つけられたからあんなに怒って敵にやり返した。
一時的な感情じゃない。
自分の大事な物をめちゃくちゃにされて怒らないなんて、そんなのはありえない!
「だからこそ私が、公安9課があなたに言うわ」
「あなたがやるべき事はそんなみみっちい事ではないでしょう?」
言葉が出なかった。
目障りな敵を消すことに力を入れていた自分を振り返る。
目障りな敵はもう、いない。
私が消したから。
私にはもう、邪魔する人なんていない。
「……そっか、そうだったね。ありがとう、草薙素子さん」
岩倉玲音の望むものは友達。
皆で楽しく過ごしたいという、ただ単にそれだけのことだった。
柊子さんが言っていたように学校に行ってみるのもいいかもしれない。
いろんな人に出会うためには行動することが必要だし。
「私はもう、人を消すような事はしない。」
くだらないものに目を向ける必要は無い。
くだらないものに耳を傾ける必要は無い。
くだらないものに手を上げる必要は無い。
つまりは、そういうこと。
もう存在しなくなったものに対しては私がどうすることもないし、他の人だってどうするわけにもいかない。
こうして、私のささやかな行動は終わってしまったのだった。
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